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五感で実践! トリアージ
トリアージに必要な“直感”を磨く方法
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

佐仲 雅樹
(城西国際大学薬学部 臨床医学研究室教授
東邦大学医療センター大森病院 総合診療科非常勤講師)

 前回と前々回で、全身状態を把握する際に、自律神経反応、炎症に伴う生体反応、意識障害の確認が重要であることを解説した。ショックや全身性炎症反応症候群(SIRS)、意識障害の診断基準なども、トリアージ上参考になるため紹介した。今回はこれらを踏まえ、五感アセスメントの真骨頂ともいうべき、直感的な全身状態の捉え方について解説する。


 「ちょっかん」の表記には「直感」と「直観」とがある。前者は感覚的ニュアンスで、後者は認知心理学的ニュアンスで用いられることが多い。厳密な使い分けにこだわる研究者もいるが、ここではより一般的な「直感」を用いる。直感とは、蓄積された経験に基づく推論である。推論である以上、直感は本来合理的なものである。しかし、推論が瞬時で行われるため、自分がどのように推論したか思い出すのが難しい。このため「直感は当てずっぽうだ」と誤解されてしまう。

 トリアージに限ったことではなく、例えば日常生活も直感に頼った判断の連続である。日々の全ての判断を意識的に行うことは不可能だろう。人間には直感という「迅速で合理的な判断力」が備わっているため、特に意識することなく効率的な判断が可能となり、スムーズに日常生活を送ることができている。

「全体」から直感し、「部分」を見て検証

 さて、医師が「この患者は全身状態が悪そうだ」と直感するとき、その直感は患者の「全体的イメージ」から湧き上がってくる。「全体」に基づくからこそ、直感的推論は瞬間的なのである。患者の隅々を細かく観察しようとすると、経験上かえって「全体」のイメージが崩れ、直感の精度が低くなる。「全体」から自然に湧き上がる直感を素直に受け入れることが大切である。

 もちろん、直感的判断が間違いであることも少なくない。従って、「本当に全身状態が悪いのか」「全身状態が悪化する前触れはないか」と自問しなければならない。ここで初めて「部分」に注意を払い、重要な情報を集めて分析し、直感の真偽を検証するのである。これが「振り返り」である。

 われわれは、慎重な分析的判断こそ、あるべき正しい推論と考えがちである。対象となる「全体」を「部分」に分け、それらの情報を細かく分析・評価し、全体にまとめ上げて真偽を判断するやり方のことである。なるほどそれは一面で正しい。しかし、全身状態の把握には当てはまらない。一気に「全体」を鷲づかみにするごとく直感し、一旦「正しい判断」として受け入れ、その後に「部分」に目を向けて「正しさの証拠」を探すのが、全身状態の把握における推論の正しいあり方である。

全身状態悪化の全体的イメージとは?

 全身状態とはホメオスタシスの安定性である。生体は強い有害刺激(侵襲)に対して、生命の根本であるホメオスタシスを安定させるために、自律神経反応や炎症反応を使い、あるいは呼吸を促進して抵抗する。全身状態が悪化すれば、最終的に酸素と二酸化炭素のホメオスタシス(ガス交換サイクル)が不安定化し、ショックや呼吸不全を起こして死に至る。また、ガス交換サイクルの不安定化には、強い炎症が関与していることが多い。

 全身状態が悪化するにつれて意識障害も悪化する。初期は「目は覚めているが、何となくはっきりしない」程度であるが、最後は「強く刺激しても目を覚まさない」状態となる。前回も述べたが、意識とは、ホメオスタシスという内の状態を外に向かって映し出す、全身状態の「窓」である。

 直感の引き金となるのは、「ガス交換サイクルを安定維持するために、身体がどれくらい抵抗しているか」というイメージである。このようなイメージは、多くの重症患者に接して臨床経験を積むうちに、各人それぞれが形成していく。もっとも、経験を積むしかないのでは取り付く島もないので、以下に全身状態悪化のプロトタイプ(原型)となるイメージを提示する。これを基に、各人が経験を積んでイメージを形成してほしい。

 全身状態が悪化するにつれて、患者のイメージは「活気がない」「ぐったり」「ざわめく」「苦しそう」「脱力」と変化する(図1)。これが筆者の考えるプロトタイプ・イメージである。何ともファジーな表現であるが、言葉で説明し過ぎると、かえってイメージの本質がぼやけてしまう。

図1 患者の全体的イメージと全身状態

ガス交換サイクルが不安定化するにつれて、患者の全体的イメージは変化する(それぞれ重なる部分もある)。ガス交換サイクル不安定化の前触れとして、「ざわめく」「ぐったり」「活気がない」イメージに注意する。

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 急性疾患において全身状態が悪化するプロセスには、「急速進行パターン(あっという間に悪化する)」「仮安定パターン(悪化後いったん持ち直すが、放置すれば再び急速に悪化する)」「緩急進行パターン(初期は緩やかに悪化するが、途中から急加速して悪化する)」の3つがある。こうした全身状態悪化のパターンと関連付けながら、各プロトタイプ・イメージについて解説する。

「脱力」と「苦しそう」のイメージ

 「脱力」も「苦しそう」も、ガス交換サイクルが不安定化した状態、つまりショックと呼吸不全のイメージであり、重症度は極めて高い状態といえる。

 「脱力」とは文字通り全身に力が入らない様子を表し、患者は立っておられずしゃがみこんでしまう、姿勢が保てないため座っていられない、というような状態である。これは脳への酸素供給が減少して、全身の筋肉が緊張を保つことが困難になっていることを示す。当然ながら、脳の酸欠は明らかな意識障害を起こす(意識障害をI[軽度]~III[重度]の3段階で評価するジャパン・コーマ・スケール[JCS]のII以上)。

 なお、「脱力」と「ぐったり」は似て非なるものである。「脱力」は急激に起き、急に全身から力が抜けていく様子である。言い換えれば「急速進行パターン」における非代償性ショック(もはや抵抗しきれない)や、「仮安定パターン」にみられる代償性ショック(ギリギリで抵抗している)を反映するイメージとなる。一方、「ぐったり」とは重症炎症に典型的であり、「緩急進行パターン」の初期によく見られる様子といえる。ある程度の時間を経て全身が消耗し、「疲れ果てる(懸命に抵抗している)」イメージである。

 「苦しそう」とは呼吸に労力を要する様子であり、「一生懸命に呼吸している」「呼吸がつらそう」というイメージである。具体的には、「肩で息をする」「浅い呼吸をせわしなく繰り返す」「普通の呼吸の中に、時々ため息のような深い呼吸が混じる」などと表現できる。ショックや呼吸不全による酸素不足を補うために、呼吸の促進によって身体が抵抗しているのである。

「ざわめく」のイメージ

 「ざわめく」は、ガス交換サイクルが不安定化しつつあるときに、身体が自律神経反応や呼吸の促進で抵抗しているイメージである。「脱力」に近い状態となるため、表情や四肢など身体の動きは少ない。一方で、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったり、全身に冷や汗をかいたり、顔色が悪くなったり、嘔吐したりする。つまり、身体の動きという外側は静かだが、身体の内側、すなわち内臓が「ざわめく」ように動揺しているイメージだ。

 「ざわめく」という言葉の本来の意味は、「自然発生的に多くの声や音が生じて静かさがなくなる」(小学館「類語例解辞典」)である。身体の内側で自然発生的に抵抗力が活発化するため、全身としての静かさがなくなる様子といえる。

 「ざわめく」のイメージは、主に「仮安定パターン」にみられる代償性ショックが相当する。全身が自律神経反応を使って、ギリギリで抵抗している状態である。「目を覚ましているが、何となくはっきりしない」程度の軽い意識障害を伴うことが多い(JCSのI程度)。

 また、「緩急進行パターン」における全身の炎症も「ざわめく」イメージとなり得る。全身の炎症、すなわち全身性炎症反応症候群(SIRS)は、外から見れば「ぐったり」して身体は静かに見えるが、炎症反応による抵抗のため、高熱、頻脈、呼吸数増加を呈する。これが内側のざわめきをイメージさせる。

「ぐったり」と「活気がない」のイメージ

 先に述べたように、「ぐったり」とは、SIRSのような強い炎症によって全身が消耗したイメージである。血中の炎症促進物質(サイトカイン)が増加して脳に作用し、食欲低下、倦怠感、無気力感、無関心、身体活動性の低下、集中力の低下を引き起こす。こうした意欲や行動の抑制を、急性炎症が引き起こす行動変化(ASB:acute sickness behavior)と呼ぶ。身体面に着目すれば「ぐったり」であり、精神状態に着目すれば「活気がない」となる。患者はよどんだ、重苦しい雰囲気を醸し出す。

 感冒などの軽症疾患によるASBでも、「ぐったり」し「活気がない」状態となる。しかし、重症疾患によるASBは、より徹底的に「ぐったり」して「活気がない」ことが明らかな状態となる。

 軽症のASBは数日のうちに発現し、意欲と行動の抑制は意志によって修正できることが多い。つまり、「身体はだるいけど、今日は忙しいから出勤しよう」とか、「食欲がないけど、身体に悪いから少しは食べよう」などと意欲で行動をコントロールする。一方、重症のASBは半日~1日で急速に進展し、自分の意思ではどうにもならないくらいに意欲が低下し、かつ動けない状態となる。つまり、「仕事を休めない日なのに、身体がだるくて出勤できない」とか、「食欲はないし、食べ物を体が受け付けない」となる。

直感後の「振り返り」が重要

 さて、実際の薬局業務に当てはめて考えてみよう。例えば、かぜ薬を求めて来局した患者と相対し、「具合(全身状態)が悪そうだ」と直感した場合を考える。この段階では、直感が当たっているかどうかは定かではない。この直感を受け入れて、その後に自律神経反応、炎症に伴うASB、意識の状態、呼吸の状態といった重要な「部分」をチェックする。「顔色は悪くないか」「額に冷や汗はないか」「呼吸は荒くないか」「言葉はスムーズで途切れないか」「呼び掛けに素早く反応するか」「意志でコントロールできないくらいの倦怠感、食欲低下、身体活動の減少はないか」などを確認し、いずれかが該当すれば、全身状態が悪いと判断し、医療機関への受診を勧める。

 臨床経験が浅い薬剤師は、先に挙げたプロトタイプ・イメージを活用するといい。つまり、患者に対面したときに、全体として「脱力」「苦しそう」「ざわめく」「ぐったり」「活気がない」のどれかに当てはまるかどうかを見る。いずれかが該当すれば「具合が悪い」とみなして、細かく「振り返り」を行うのである。これを繰り返して行くうちに独自のイメージが形成され、全身状態を直感できるようになる。

今回のまとめ

◯直感によって全身状態を把握する際、身体の部分にとらわれることなく、一気に全体的イメージをわしづかみにして捉える。
◯「脱力」「苦しそう」「ざわめく」「ぐったり」「活気がない」といった全体的イメージを得たら、全身状態の悪化を疑う。
◯「脱力」と「苦しそう」のイメージは、ショックや呼吸不全を反映している。
◯「ざわめく」イメージは、代償性ショックや全身の強い炎症を反映している。
◯「ぐったり」と「活気がない」イメージは、全身の強い炎症を反映している。

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