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CaseStudy
仙北調剤薬局(秋田県大仙市)
日経DI2014年11月号

2014/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

 「お体の具合はいかがですか。おなかが緩くなったりしていませんか」─。

 そう患者に問い掛けるのは、仙北調剤薬局(秋田県大仙市)に勤務する薬剤師の伊藤麻紀氏。相手は肺癌の経口治療薬であるイレッサ(一般名ゲフィチニブ)を服用中の患者だ。体調の変化を聞き取りながら、手元のシートに内容を記載していく(写真1)。

写真1 抗癌剤服用患者から聞き出した情報を共有する「報告書」

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 シートには、服薬コンプライアンスのほか、抗癌剤の副作用として生じる下痢、呼吸苦、皮膚症状、爪症状の有無を記入する。薬局で副作用モニタリングを行っているわけだ。そして、服薬指導内容を記載した後、「報告書」として病院薬剤部に情報提供する仕組みとなっている。「このような形の薬薬連携を始めたことで、癌患者に関する病院との情報交換がスムーズになり、服薬指導もしやすくなった」と伊藤氏は話す。

副作用の状況を病院へ提供

 仙北調剤薬局は、地域がん診療連携拠点病院である大曲厚生医療センターの門前に位置する。1日当たり約200枚の処方箋を応需する中で、癌患者の処方箋を1日に10枚前後応需している。

 同センター薬剤部と報告書を介した薬薬連携を始めたのは2011年のこと。それまで院内処方されていた抗癌剤が、院外処方に切り替わり始めたのがきっかけだった。処方箋以外の情報がなく癌告知の有無も不明だったため、薬局では「薬の飲み方は先生から聞いておられますね」という程度の会話しかできなかったという。

 そこで、病院と連携する方法を作った。その一つが写真1の報告書。呼吸器外科の医師が薬局との連携に協力的だったため、肺癌治療に用いる4種の薬剤(イレッサ、タルセバ[エルロチニブ塩酸塩]、ユーエフティ[テガフール・ウラシル]、ティーエスワン[テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム])の服用患者を対象にした。

 報告書には(1)服薬コンプライアンス(2)副作用の状況(3)服薬指導内容─の3点を記載する。(2)の副作用には、前述の通り、イレッサやタルセバで見られる間質性肺炎や爪周囲炎、4剤ともに比較的共通して見られる下痢、皮膚障害に関する症状をピックアップし、モニタリングしている。

 症例1には、服薬指導時のやりとりがどのように報告書に反映されるかを示した。この患者は、タルセバを服用中によく見られる重い皮膚症状や爪周囲炎を発症した。薬剤師は患者が訴える症状のつらさについて詳細に記している。服薬指導については、処方されたヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質)やステロイド軟膏の使用方法、OTC薬の使用や生活指導の内容などを、細かく報告書に記載している。

症例1 タルセバを服用中の肺癌患者の薬歴と報告書

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 この患者はこの日、皮膚科だけを受診して来局したため、そのままでは症状の具体的な訴えや薬局での服薬指導内容が呼吸器外科の主治医に伝わりにくいが、報告書は病院薬剤部でスキャンして電子カルテに登録するため、主治医にもきちんと伝わる。

 伊藤氏は「副作用が出た場合、症状に応じた診療科を受診する患者は多く、薬局で記載した報告書が病院内での情報共有にも役立つ」と話す。

“連携メモ”で問い合わせ

 薬局から病院への情報提供は報告書を介して行われるが、一方で病院薬剤部からの情報提供の方法は現段階では定まっておらず、必要な情報は薬局から能動的に取得している。

 電話などで問い合わせることもあるが、よく活用しているのはメモ用紙での質問(写真2)。薬剤や患者情報など、聞きたい情報をメモ用紙に書き、病院薬剤部に報告書を持ち込む際に一緒に渡す。すると、薬剤部から回答を記した付箋をメモ用紙に貼付するなどの形で返信が来る。

写真2 メモ用紙を使った病院薬剤部への問い合わせ例

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 写真2は、非小細胞肺癌治療薬のザーコリ(クリゾチニブ)を、病院が新たに院外処方することを決めたため、薬局から薬剤部に問い合わせた際の内容。病院からの回答で必要な備蓄量や服薬指導時の留意点が把握できた。また、ザーコリは肺癌に用いる5つ目の薬剤として、前述の報告書を用いた副作用モニタリングを開始することになったという。

お薬手帳に服薬スケジュール

 服薬スケジュール表(写真3)をお薬手帳に貼付する取り組みも始めた。スケジュール表は、乳癌治療薬のゼローダ(カペシタビン)とタイケルブ(ラパチニブトシル酸塩水和物)の併用療法に関し、病院と相談して作成した。

写真3 お薬手帳に貼付した服薬スケジュール表

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 スケジュール表には服薬の有無や服薬錠数を患者が記録する仕組みで、服薬コンプライアンスの向上に役立つ。また、医師が患者の服薬状況を確認できるほか、患者がスケジュールを忘れた場合に確認したり、家族が薬の管理をするのにも活用できる。

 特にゼローダには休薬期間があるほか、タイケルブとともに副作用の発現状況によって用量の調節も必要となるため、その記録が医師にとって重要な情報となる。「ゼローダとタイケルブを服用中の患者で、副作用症状のために服用量を減らした人がいた。その患者がスケジュール表を活用し、何日に何錠服用できたかを記録していたため、医師がその内容を確認できた」(伊藤氏)という。

 今回の仙北調剤薬局の薬薬連携では、報告書を介したやりとりを、今のところ肺癌の治療で使われる4種類の薬剤に関してのみ実施しているため、他種の癌患者に対する連携についてはこれからの課題だ。

 また、同様の取り組みを地域の他の薬局に広げていく必要もある。地区薬剤師会からは、仙北調剤薬局が構築した連携体制を、他の薬局が活用できる形にするよう求められている。その場合、現段階でまだ定まっていない病院からの情報提供のスキームを、付箋の貼付や電話などではなく文書で行うように変更し、薬局間でも情報共有していかなければならない。各薬局が個別に問い合わせていては、病院の業務が煩雑になってしまうためだ。

 伊藤氏は、「一薬局と病院の関係を、面で展開していくのが次の段階。地域連携クリニカルパスに薬局の役割を加えてもらい、情報共有の仕組みが構築できたら」と話している。(野村 和博)

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