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副作用症状のメカニズム
「ものすごく疲れる」
日経DI2014年11月号

2014/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 70歳女性。高血圧で20年ほど前からカルシウム拮抗薬を服用。昨年から変形性関節症で整形外科医院を受診しておりロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名ロキソニン他)を服用していた。さらに先月から骨粗鬆症治療のためにアルファカルシドール(アルファロール、ワンアルファ他)を服用。薬局で「すごく疲れて、食欲もない」と訴えた。

 疲労・倦怠の正体は何であろうか。年がいもなく子どもの運動会で走った翌日などに、起きられないほどの疲労感を覚えることがある。また、仕事などでストレスがたまると、十分寝たはずでも疲れが取れないと感じることがある。インフルエンザなどの感染症にかかったときには、それらとは違った疲労・倦怠感がある。「だるい」「しんどい」「おっくう」「やる気が出ない」など、その表現も様々である。今回は、それらの疲労・倦怠について取り上げる。ただし、「脱力」や「筋力低下」に伴う疲労感は、本連載第13回で解説したため除く。

 疲労・倦怠は、生体の防御アラームであり、痛みや発熱と共に、三大生体アラームの一つとされている。さらに疲労・倦怠は、全ての病に通じるものとされている。

疲労・倦怠のメカニズム

 疲労・倦怠は、筋肉細胞や神経細胞、さらに免疫細胞の過活動による生体酸化の結果と考えられている1)。運動すると、細胞内では多量のエネルギー(ATP)産生と消費が行われる。生体は、エネルギー産生に必要な酸素を供給するために呼吸をするが、このとき活性酸素が産生される。通常活性酸素は生体還元系で解消されるが、オーバーワークになりエネルギー不足になると、還元処理が間に合わず活性酸素が過剰となり、蛋白質や脂質などの重要な物質を酸化する。この酸化により細胞そのものや細胞の中の小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞内小器官が傷害される。これを免疫系細胞が感知し、サイトカインを放出して脳神経系や内分泌系に信号を送り、修復しようとする。しかし、修復に必要なエネルギーが不足していると、修復されず、イオンや物質の輸送機能の低下、細胞活動の低下につながる。これが疲労・倦怠の原因と考えられている。

 インフルエンザなど感染症に罹患したときにも疲労感が生じる。エイズは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によるものと分かるまでは、原因不明の疲労・倦怠を伴う疾患と考えられていた。感染によって免疫細胞が強い反応を起こし過活動となり、前述の反応が生じて強い疲労感が起こる2)。疲労・倦怠を脳へ伝える物質としては、インターフェロン、トランスフォーミング成長因子(TGF)β、腫瘍壊死因子(TNF)α、インターロイキン(IL)1β、IL6などの炎症性サイトカインが知られている。

 また、疲れたときにヘルペス性口内炎が起こることがある。単純ヘルペスウイルス1(HSV1)は、初感染時にウイルスが増殖した後、増殖を停止しウイルス遺伝子が生涯保持される潜伏感染状態となる2)。宿主(ヒト)が過度に疲れると、HSV1は宿主の生命の危機と感じて、他の安全な宿主に乗り換えるために自ら再活性化して増殖する。以前は、疲労によって免疫が落ちてヘルペスウイルスが再活性化すると理解されていたが、現在では先に疲労・倦怠による炎症性サイトカインの産生が生じ、それが引き金となってウイルスの再活性化が起こり、疲労・倦怠による免疫の低下によって増殖しやすくなると考えられている。

 筋肉が疲れると乳酸が増加する。それについても以前は、乳酸が疲労原因物質だと考えられていた。しかし現在では、乳酸は、急激な活動で神経細胞が緊急にエネルギーを必要としたときに使用される物質であることが分かってきた3)。さらに乳酸は、末梢においては、筋肉疲労を抑制する働きを有していることも分かってきている。

疲労・倦怠が起こる疾患とは

 さて、疲労・倦怠が起こる特徴的な疾患を見てみよう4、5)

(1)酸素不足になりやすい疾患
 呼吸器疾患(COPD、間質性肺炎、喘息など)や心疾患、貧血が挙げられる。呼吸器疾患では、酸素を十分に取り込むことができず、心疾患や貧血では酸素を十分に全身に供給できないために疲労が生じる。酸素不足はエネルギー不足に直結し、エネルギー不足は活性酸素の処理不足につながり、蛋白質や脂質の酸化を起こす。酸化によって傷害された細胞を再生するには、さらなるエネルギーが必要になる。傷害された細胞は、免疫細胞に関知され、サイトカインが放出されて……と悪循環が起こり、疲労感が持続する。

(2)栄養不足に陥りやすい疾患
 飢餓や肝障害の進行などにより蛋白合成ができなくなると栄養が不足する。また消化管に疾患があると、栄養の消化吸収障害が起こる。栄養不足はエネルギー不足となり、前述と同様のサイクルによって疲労・倦怠が起こる。

(3)老廃物が排泄できない疾患
 肝疾患や腎疾患が挙げられる。アミノ酸は分解されるとアンモニアになる。アンモニアは脂溶性で毒性が強く、代謝されないと全身の細胞機能を障害する。そのため通常、アンモニアは水溶性の高い尿素に変換され、尿中に排泄される。肝臓は、アミノ酸を代謝する重要な役割を有しているが、肝臓の機能が低下すると、アンモニアによって細胞が傷害される。傷害された細胞の修復が進まないと疲労・倦怠が起こる。腎臓も同様で、尿中への老廃物(尿毒素)の排泄ができないと、尿毒素が他の臓器を傷害してしまう。

(4)感染症
 感染症では、生体と細菌やウイルスとの戦いが起こり、絶えず組織が破壊され、免疫細胞が活動しサイトカインが分泌され、組織の修復のためにエネルギーを消費する。インフルエンザやHIV感染などでは細胞の傷害が大きいため、激しい倦怠感が起こる。また、結核は、慢性的な疲労感がある。

(5)悪性腫瘍
 癌細胞は大量の栄養と酸素を必要とするため、疲労・倦怠は癌患者にとって最も一般的な自覚症状である。

(6)内分泌障害
 生命活動の維持に不可欠な代謝をつかさどっているのはホルモンである。内分泌臓器に異常が起こるとホルモン分泌が影響を受け、物質代謝が障害される。特に、甲状腺機能低下症、糖尿病、副腎不全などでは、全身倦怠感が表れやすい。

 甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの分泌量が低下する。甲状腺ホルモンは、栄養素をエネルギーに変換するなどの役割を有し、不足するとエネルギー不足が起こる。甲状腺機能低下症の発症原因には自己免疫が関与していると考えられている。

 副腎不全によるコルチゾール分泌量の減少でもエネルギー産出が低下する。また免疫低下も起こる。副腎不全も、自己免疫が関与している場合がある。全身倦怠感の訴えや、血圧が低く、徐脈や意識障害などが見られるケースでは、急性副腎不全の可能性があり、至急受診する必要がある5)

 更年期障害は、主にエストロゲンの低下に伴う自律神経症状が主体であるが、これらの内分泌の変化は、神経伝達物質にも影響し、精神的なストレスとも相まって、疲労・倦怠が起こると考えられる。

(7)高カルシウム血症
 癌や副甲状腺機能異常があると高カルシウム血症が起こりやすい。高カルシウム血症でも疲労・倦怠が起こる。高カルシウム血症になると、腎臓の尿細管の一部であるヘンレ係蹄での塩化ナトリウム(NaCl)の再吸収が抑制され多尿が起こる。急激に起こると脱水となり、さらに高カルシウム血症を悪化させることになる。また脱水による循環血液量の減少で、酸素が十分に補給できずにエネルギー不足となる。脱水と高カルシウム血症は、腎血管を収縮させ、急性腎不全を起こすが、それも疲労・倦怠の原因となる。

(8)神経筋疾患
 脳血管障害、パーキンソン症候群、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィーなど神経や筋肉の疾患では、神経や筋肉細胞の傷害が想定され、疲労・倦怠が起こることが理解できる。

(9)免疫疾患
 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群なども、免疫細胞とサイトカインが主な病因であり、免疫細胞の過活動が想定され、疲労・倦怠が起こることが理解できる。

(10)精神疾患、睡眠障害
 うつ病や不安症なども、神経細胞の傷害や過活動が想定される。睡眠時無呼吸症候群や不眠症などによっても疲労は起こる。睡眠には多くのサイトカインが関与しており、覚醒にはノルアドレナリンやヒスタミン、プロスタグランジンが関与している。これらのバランスが崩れると疲労・倦怠や睡眠障害の発生に結び付く。また、眠ることと神経栄養因子の働きやシナプスの可塑性のメカニズムとの関連が研究されており、「疲労回復の一番の策は眠ること」という誰もが知る事実が、科学的にも明らかになりつつある3)

副作用による疲労・倦怠とは

 副作用による疲労・倦怠は、前述の(1)~(10)が薬によって発症、悪化、合併することで生じると考えられる。しかし、神経の活動性を抑える薬の投与による眠気やだるさが、疲労・倦怠と捉えられている場合も多い。睡眠薬、抗うつ薬、精神安定薬、筋弛緩薬、降圧薬、鎮咳薬、オピオイド製剤、抗ヒスタミン薬などの服用で、疲労・倦怠を訴えることがある。

 また、免疫抑制剤や抗癌剤による免疫抑制によって(4)の感染症が起こる場合などが考えられる。

 (6)の内分泌障害を起こす薬剤として、アミオダロン塩酸塩(アンカロン他)、リチウム製剤、インターフェロン製剤、分子標的薬などの甲状腺機能低下を起こしやすい薬剤がある。分子標的薬では、ソラフェニブトシル酸塩(ネクサバール)やスニチニブリンゴ酸塩(スーテント)、レゴラフェニブ水和物(スチバーガ)などで報告が多い6)

 これらは、甲状腺機能低下の可能性ばかりでなく、サイトカインに影響を与えるため、当然といえる。急性副腎不全は、ステロイドの急な減量や中止を行った場合の退薬症候群として起こることがある。

 (7)の高カルシウム血症は、活性型ビタミンD3製剤、カルシウム製剤の服用、腎からのカルシウム排泄を抑制するサイアザイド系利尿薬の服用によって起こりやすい。特に高齢者や、腎機能障害があって消化管からのカルシウム吸収が過剰な状態にある人は起こしやすいので注意が必要だ。


 最初の症例を見てみよう。患者は70歳で、20年来の高血圧により、慢性的な腎機能障害があり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与によって、腎機能が悪化していたと考えられる。そこへ活性型ビタミンD3製剤が投与され、高カルシウム血症を来たし、脱水と急性腎不全が進行し、疲労・倦怠が生じたと考えられる。

図 副作用による疲労・倦怠

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参考文献
1)渡辺恭良、日本生物学的精神医学会雑誌 2013;24:200-10.
2)近藤一博、アンチエイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌 2010;6:343-7.
3)渡辺恭良、医学のあゆみ 2009;228:598-604.
4)岡田忍、Nursing College 2005;3:11-3.
5)平松里佳子、レジデントノート 2008;10:220-5.
6)中村将人、消化器外科NURSING 2014;19:74-7.

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