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早川教授の薬歴添削教室
要介護5で寝たきりの胃瘻患者にどう対応するか
日経DI2014年11月号

2014/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

 今回は、慢性期病院から退院して在宅療養を開始するに当たり、山路薬局彦根店で居宅療養管理指導を担当することになった66歳男性、古賀滋彦さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。古賀さんは、半年前の脳出血により全失語の寝たきり状態となり、要介護5と認定されています。胃瘻を造設し、朝夕は経管栄養、昼はデイサービスなどの支援も受けながら経口摂取を試みています。主たる介護者である奥様から薬剤や病状について困っていることをどう聞き取り、訪問時の対応と医師などへの報告書にどのように結び付けていくといいかを考えながら読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A、症例検討会での発言者が薬剤師B~Eです。(収録は2014年7月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『薬剤師の視点を連携に生かす「在宅アセスメント」虎の巻』(日経BP、2013)など。

今回の薬局
山路薬局彦根店(滋賀県彦根市)

 山路薬局彦根店は、大阪府、和歌山県、滋賀県、京都府に6店舗を展開する山路薬局が、2008年6月に開局した。備蓄品目数は約1700品目、応需処方箋枚数は月に約3000枚で、内科、皮膚科、小児科、婦人科など幅広い診療科から応需している。

 彦根店に勤務する薬剤師は常勤が3人、非常勤が6人。在宅にも積極的に取り組んでおり、現在13件の訪問服薬指導を行っている。薬歴は電子薬歴で、SOAP形式により記述している。なお、山路薬局グループは京都市内に漢方専門薬局を経営していて、彦根店でも、東洋医学の考えを取り入れた健康相談や薬膳茶の販売を実施している。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず、この患者が在宅療養を開始するに至った経緯を見ていきましょう。訪問に先立ち、ケアマネジャーから「居宅サービス計画書」と「サービス担当者会議の議事録の要点」を受け取っているのですね。サービス担当者会議には薬局からも誰か参加していますか。

A いいえ。ケアマネジャーによっては声を掛けてくれることもあるのですが、この患者では参加していません。

早川 なるほど。すると事前に分かる情報は、計画書と議事録に書かれたものだけと。その中から、Aさんが重要だと思う患者の情報を抜き出して、薬歴の表書きに記載していますね(【1】)。表書きに患者の状況をまとめておくと、他の担当者も効率よく把握できます。この点はとても良いと思います。

 Aさん以外の方に伺います。薬歴の表書きに、自分ならどんな情報を追加しておきたいと思いますか。

B 血圧が分かるとよいのですが。脳内出血とのことなので。

早川 サービス計画書や議事録には、血圧については書かれていません。訪問時に確認したい事項となりますね。

C 介護する側の、情報。

早川 今回の場合は、奥様ということですか。介護者の意向などが、一言でも表書きに書かれているといいと。それは大事な視点ですね。

 それでは次に、患者をこれから訪問服薬指導するに当たっての「薬剤師としての初期計画」を考えていきましょう。計画書や議事録を見た段階で、薬剤師から見た課題や気になること、きちんと押さえておきたいことがあると思います。それを「初期プロブレム」としてリストアップしていきませんか。どの辺が気になるでしょうか。

B 胃瘻から薬を注入していること。

早川 胃瘻があるので、そこから薬をどう投与しているのかが気になるということですか。

B はい。

C 介護者が、どれだけ理解して薬を管理しているのかも気になります。

D 薬の調整や経管投与などは、どれくらい負担になっているんでしょう。負担を減らしてあげたいです。

早川 なるほどね。今、具体的にケアしていきたいポイントが、幾つか出てきました。初期プロブレムに「胃瘻と薬」として抽出しておきましょう(【2】)。他に気になる点は。

C これから経口摂取量を増やしていこうとしていますが、嚥下の状態が改善する可能性はあるのか。寝たきりの人が食べられるかどうかというのは、一番のポイントかなと。

早川 なるほど。その「経口摂取」というのは、書面のどこに書かれていますか。

C 居宅サービス計画書に、ご家族の意向として、「昼は口から食べてもらいたい、食べさせてあげてほしい」とあります(【2】)。

早川 ご家族として、口から食べさせてあげてほしいという意向がある。ここは注目したいですね。初期プロブレムを抽出する上で、家族や利用者の意向を押さえておくことは大事です。

 経口摂取について、議事録の方にはどのように書かれていますか。

A 昼食で500kcal程度、軟飯と刻み食で摂取していると。糖尿病があるので、カロリー不足で低血糖にならないよう、注意が必要だと書かれています(【2】)。

早川 食べられないようなら経口で半消化態栄養剤のエンシュア・Hを使うと。栄養管理、そして糖尿病に起因する低血糖。ここに、「できる限り経口摂取させたい」というご家族の意向が絡んでくる。この点も、初期プロブレムとして挙げておきましょう。

 他はどうでしょう。サービス担当者会議で検討された事項の中で、薬学的に検討しておきたい、薬剤師として課題に挙げたいことはありませんか。

D 議事録の「おむつ交換」のところに、排便は週2回で、便秘になることもあると書かれています(【2】)。また、「食事・薬」のところには睡眠薬を注入していると書かれていますので(【2】)、不眠もあるようです。

 ですので、排泄や睡眠に影響を及ぼす薬はないか、検討しておく必要があると思います。

早川 今、いっぺんに2つ、挙げてもらいました。排泄コントロールと睡眠。どちらについても、薬の影響を含めて評価することを初期プロブレムとしておきましょう。それから、先にBさんが指摘した血圧も、訪問時に確認しておきたい事項ですね。

 ここまでに挙げた5点を初期プロブレムとして認識した上で、実際の薬歴を見ていきましょう。

介護者の要望に対応

早川 初回の訪問は8月26日です。在宅医療を担当するN医院からの処方です。介護者である配偶者に、確認や服薬説明を行いました。患者が入院していた慢性期病院のT病院で出されていた処方内容と同じである、つまり継続処方であることを確認しています(【3】)。

 胃瘻に投与する薬剤の調製は、簡易懸濁法で行っていることも確認しています。介護者にどのような手技で行っているかを確認して、問題なくできるとアセスメントし(【3】)、医師への報告書に記載したのですね。

A はい。

早川 「問題がない」ということをアセスメントして、報告する。当たり前のことのようですが、こうした基本事項の確認と報告をきちんと行っている点は素晴らしいと思います。

 報告書には「次回より一包化を希望されています」と書かれていますが(【3】)、一包化という言葉を介護者がおっしゃったのですか。

A いいえ。初回は特に指示がなかったのでPTPシートのまま薬を持っていったのですが、薬を間違えそうで心配という話が出たんです。それで、一包化について説明したら、そうしたいとおっしゃるので、先生にこちらから連絡しておきますねと。

早川 なるほど。その結果、8月31日の処方からは一包化の指示(【3】)が記載されるようになりました。介護者の要望を聞き取って医師に伝え、それが次回の処方に反映された点は、とても良い流れだと思います。

 8月31日は、ご自宅への訪問ではなく薬局での対応ですね。

A はい。奥様がN医院に行った帰りに処方箋を持って来局しました。

早川 この日は、降圧薬のノルバスク(アムロジピンベシル酸塩)が後発品に変更された上で減量されています。さらに酪酸菌製剤のミヤBMと経腸成分栄養剤のツインラインNFが追加されています。S情報に「血圧は低め」とあり、O情報にミヤBMは軟便のための追加で、ツインラインNFは初めて使用することが記載されています(【4】)。処方変更の理由などを介護者に確認した上で説明していることが、よく分かる薬歴になっていますね。

 8月の2回分の薬歴を見て、何か気になる点はありますか。

B 2回目に降圧薬が減量になっていますが、血圧値は。

A 奥様は数字は把握していない様子だったので、あえて聞きませんでした。

D 入院中はエンシュア・Hを飲んでいたと議事録に書いてありましたが、N医院からはツインラインNFが処方された。これはどうしてなのでしょう。

A 理由は確認できていません。ツインラインNFは初めてとのことで、使い方の説明はしたんですけれども。

早川 ツインラインNFとエンシュア・Hは、どんな点が違いますか。

B ツインラインNFは消化態で、エンシュア・Hは半消化態です。

早川 そうすると、何か消化というか、食べるということでの変化があったと見ることはできるかもしれないですね。

A 患者の摂取カロリーや栄養状態など、この時に確認できていればよかったのですが。

早川 栄養管理は初期プロブレムの一つです。初期プロブレムとして挙げた事項は、できるだけ早い段階で確認していくことが大事ですね。

 9月には、グラマリール(チアプリド塩酸塩)が中止され、便秘薬が追加されました(【5】)。この点も含め、初期プロブレムのアセスメントをここで行っておきましょう。

睡眠や排便への影響は

早川 グラマリールが中止された点は、初期プロブレムの「睡眠」に関係がありそうですね。Aさん、実際にはどうでしたか。

A 9月19日にグラマリールが処方から外れていたので、病状はどうなのかと訪問した時に奥様に聞きました。そうしたら、以前は夜にちょっと暴れたりしていたのが、このところ落ち着いてきたとのことでした。

早川 夜中の不穏な状態とかがあって、それまではグラマリールが出ていた。それが中止になった。ということは睡眠も落ち着いてきたのかなというようにアセスメントできそうですね。

 グラマリールに関して、別の観点から気になることはありますか。

C グラマリールには、嚥下障害の副作用があります。主治医が、できるだけ口から食べさせたいという介護者の意向を考慮して、グラマリールを中止した可能性はないでしょうか。

早川 なるほど。グラマリールを中止した後に、食物の飲み込みや食べる量に良い変化があれば、これまではグラマリールが悪影響を及ぼしていたとアセスメントできる。「栄養管理」という初期プロブレムに対する、薬剤師の視点からのアセスメントになりますね。

 「排便」についてはどうでしょう。

A サービス担当者会議の議事録には、便秘になることがあると書かれていました。

D でも、8月31日には軟便だからとミヤBMが処方されましたよね。その時に栄養剤がツインラインNFに変更されている。栄養剤を変更した影響で、軟便だったのが便秘になった可能性はないでしょうか。

早川 そういう見方もできるかもしれませんね。この時点で、グラマリールの摂食への影響や、ミヤBMやツインラインNFの排便への影響に関するアセスメント結果を、医師やケアマネジャー宛の報告書に盛り込んでおくことができそうです。

他職種への報告や提案を

早川 薬歴から見ると、10月は体調面に大きな変化はなかったようですね。しかし11月に入ると再び便秘の問題が起こって、グリセリン浣腸やラキソベロン(ピコスルファートナトリウム水和物)が処方されています(【6】)。この経過についてはどうですか。

B やはり、ミヤBMやツインラインNFなどが便秘の原因になっていないか、きちんと評価する必要があるのでは。

D 食事など、薬以外の要因についてもアセスメントが必要です。

A 水分。水分ですね。私、水分の摂取量を確認していなかったので、改めて思ったんですけど。

早川 薬、食事、水分。他には?

C 運動。サービス担当者会議の議事録に、1時間ほどは座位を保てるとありました(【6】)。それが退院後もできているのか。

E 秋になって寒くなってきたことも影響しているかも。水分摂取量は減るし、動くのもおっくうになります。

早川 運動、寒さ。色々出てきましたね。これらの点を薬剤師としてアセスメントしたからには、何らかの対応をしたくありませんか。

B 医師に、ミヤBMなどの中止や変更を提案する。もし便秘の原因なのだとしたら。排便状況を見ながら。

D ホームヘルパーに、座位の保持や体位変換をお願いする。

A デイサービスでの昼食の内容を検討してもらう。

早川 そういう提案を、報告書に書くとか、サービス担当者会議で発言していくことでも、薬剤師として問題の解決に寄与することができますね。

 12月の薬歴ですが、11日に、介護者が「ツインラインを減らせたらいいな」と言っていますね(【7】)。

A この頃になると奥様も大分、いろんなことを話してくれるようになったんです。訪問が夕食後のタイミングだったのですが、「口からご飯食べたよ」って。薬も、簡易懸濁したものを飲んだそうです(【7】)。

早川 それで12月25日にはツインラインNFはなく、「錠剤を潰してもいいなら口から飲ませたい」と(【7】)。この経過で気になることはありますか。

D 患者には、糖尿病がありますよね。食事を口から食べる量が増えると、血糖値の変化が大きくなりそうですし、摂取量不足による低血糖も心配です。

早川 これまでは経口摂取量が少なかったから、相対的に優先度が低かった「糖尿病の管理」について、総合的にアセスメントするタイミングになったともいえますね。経口摂取量を増やしたいという介護者の意向も踏まえた上で、どんな評価や提案ができるかを考えていきましょう。

山路薬局彦根店でのオーディットの様子

参加者の感想

岡村 祐子氏

 今回の患者さん宅には私が主として訪問していて、奥様の状況も一番理解しているつもりでしたが、皆で話し合ってみると分かっていなかったことがたくさんありました。在宅患者さんを複数の薬剤師で担当するのは現実には難しいのですが、ケアの質を上げるために検討すべきかもしれないと思いました。

田口のぞみ氏

 普段の業務では、処方に間違いがないか、禁忌がないかなどをチェックすることに終始してしまっていましたが、今回のオーディットを通じ、患者さんの背景などをもっと想像力を豊かにして考え、自分のできる範囲で色々な提案をしていける薬剤師になりたいと思いました。

全体を通して

早川 達氏

 薬剤の追加・変更後などのモニタリングポイントを逃さずに確認し、しっかりと記載しており、継続的に見ていこうという姿勢がよく表れている良い薬歴です。医師や、誌面には示しませんでしたがケアマネジャーへの報告書にも薬剤師としてのアセスメントをきちんと記しており、素晴らしいと思います。皆でディスカッションする中で、医師やケアマネジャーに報告・提案するという姿勢からの発言が出てきたのは、今回のオーディットの大きな収穫でした。居宅サービス計画書やサービス担当者会議の議事録を読み解くところからオーディットを始めたことで、われわれの視点が定まったのがプラスに働いたと思います。

 介護保険法では、居宅療養管理指導の実施時には初期計画を立てるよう定められています。訪問服薬指導における初期計画は、現実には形式的なものにとどまりがちなのですが、事前アセスメントに基づく計画を念頭に対応することが患者・利用者への貢献につながるという点を忘れてはなりません。居宅サービス計画書、あるいは訪問を依頼された時の情報提供書を読み込むことから業務を始めるという流れを作る、どのプロブレムに焦点を絞って対応するのかを考える─という2点を大事にしてください。

 今回、「できるだけ口から食べさせてあげたい」という介護者の意向に着目した発言が、早い段階で出たのはとても良かったと思います。この意向を踏まえ、薬剤や栄養剤、排便、食事、血糖値などに薬剤師がどう関わっていけるかを医師やケアマネジャーなどに報告・提案し、サービス計画書に薬剤師のアセスメントを反映していくことを目指しましょう。

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