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Report
増える門内薬局
日経DI2014年11月号

2014/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

 東京都薬剤師会は2014年7月30日、関東信越厚生局に対し、「薬局の保険指定に関する取扱いについて」と題した文書を送付した(写真1)。7月1日に開局した薬局の保険指定を見直すよう求める文書で、都道府県薬剤師会からこの種の申し入れがなされるのは極めて異例だ。

写真1 東京都薬剤師会が関東信越厚生局に保険指定の再検討を申し入れた書面

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 なぜ薬剤師会が、保険指定の再検討を求めたのか。それは当該薬局が、病院の敷地内もしくは隣接地にある「門内薬局」だからだ(写真2)。日本薬剤師会常務理事で医薬分業担当の笠井秀一氏は「医療機関と一体に見えるような薬局が増えれば、医師による診療と薬剤師による調剤が同じ施設で行われていると国民に誤解され、せっかく定着しつつある医薬分業制度を揺るがしかねない。黙っていては認めたことになる」と話す。今後、個別の案件には都道府県薬が対応し、日薬も厚生労働省に申し入れを行っていくという。

写真2 花と森の東京病院の門内に開局した薬局

国立印刷局東京病院を引き継ぎ、2013年4月に開院した花と森の東京病院(東京都北区)が敷地内に施設を建て、あさひ調剤薬局西ヶ原店がテナントとして入居、14年7月に開局した。

背景に病院の経営難

 健康保険法の規定により、薬局が保険指定を受けるためには、医療機関から構造的、機能的、経済的に独立していなければならない。この3要件に関し、厚労省からは繰り返し解釈を明確にする通知が出されてきた(表1)。医薬分業の黎明期である75年には、院外処方箋の受け皿として、上記3要件に留意しつつ「調剤専門薬局」の整備を推奨する通知が出され、大学病院などの敷地内に「第二薬局」と呼ばれる門内薬局が設置されることにつながった。だが、82年の通知以降、「医療機関に従属し、医療機関の調剤所と同様とみられる」薬局の保険指定が見直され、第二薬局は姿を消した。

表1 保険薬局に医療機関からの独立性を求める法的根拠

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 現在、門内薬局は各地に増えつつあり、それらは2000年の通知に「保険医療機関と一体的な構造」として例示された構造を回避している。すなわち、薬局と医療機関の土地・建物は分離しており、公道または公道に準ずる通路を通らなければ患者が行き来できない構造になっている。

 例えば、足利赤十字病院(栃木県足利市)(一般500床、精神40床、結核15床、1日平均外来患者数1032人[12年実績])の新設移転に伴い、門内に11年7月に開局した薬局は、病院裏手の公園の駐車場へと続く公道に面する(図1)。また、09年9月に開設した東京リバーサイド病院(東京都荒川区)(一般133床、1日平均外来患者数267人[13年実績])には、病院内部との行き来ができないテナント施設が併設。入居する薬局の入り口は公道に面し、病院側からは公道を通らずに薬局に入れないようフェンスが設けられている(図2)。

図1 足利赤十字病院の門内薬局

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図2 東京リバーサイド病院の門内薬局

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 こうした門内薬局は、病院の新設移転や経営移譲などを機に設置される傾向にある。病院側が薬局用地の売却益やテナント入居料を薬局から得ることには、薬局の収益の多くが健康保険料から来ていることから「保険料ビジネスではないか」との批判もある。だが、医療経済実態調査(11年6月実施)によると、国公立病院の49.7%、民間病院の33.4%が赤字。経営改善に資する妙手として、門内薬局の設置に活路を見いだす事例は無くなりそうにない。

構造的独立性は緩く解釈

 この情勢に拍車を掛けそうな判例もある。13年6月に東京高裁が、病院と同じ建物内に設置された薬局の保険指定を行うよう、国に命じる判決を下したのだ(下部色付記事参照)。判決の中で高裁は、医療機関に対する経営上の独立性が十分に確保されていれば、構造上の独立性は緩やかに解してよいとの判断を示している。

経営上独立しているなら「構造上の独立性は緩やかに解すべき」
東京高裁、病院と同一建物内の保険薬局設置を容認

 病院が入居する複合施設に開設した薬局の保険指定を巡り、薬局の運営会社が国を訴えた裁判の控訴審で、東京高等裁判所は2013年6月26日、国に対して保険薬局の指定を行うよう命じる判決を下した。この裁判は、福島県や東京都、愛知県など1都2府12県に約70店舗の薬局を展開するアポロメディカルホールディングス(東京都豊島区)が起こしたもの。判決の確定を受け、同社は13年9月2日、保険薬局としてアイランド薬局陣屋店(福島県郡山市)を開局している。

 裁判の舞台となった建物は、福島県の郡山駅近隣の再開発地域に建つ複合施設、フロンティアタワー郡山。地下1階から11階には寿泉堂綜合病院(一般305床、1日平均外来患者数548.8人[13年実績])が入居し、上層階は分譲マンションなどが占める。1階に入居する薬局と病院の出入口は隣接しており、薬局出入口と公道との間の敷地を公道に準ずるものとみなせるかが争点の一つになった。

 東京高裁は、薬局と病院が建物内で相互に通行できないことに加え、薬局出入口と公道の間の敷地には公園が整備され不特定多数の人が利用できるようになっていることなどから、「公道に準ずる道路に面していると評価するのが相当である」と判断。構造的な独立性が不十分であるとして保険指定を行わなかったのは違法であるとした。

 注目すべきなのは、薬局の保険指定の条件となる構造的な独立性に関して、東京高裁が「医薬分業の目的達成という見地からすると、より間接的な要件といえるから、当該事案において、経営上の独立性が十分に確保されている場合には、構造上の独立性に関する規定は緩やかに解するのが相当である」との判断を示していること。裁判でこうした判断が下されたのは初めてで、今後の法律的な判断に大きな影響を与えそうだ。

 「健康保険法が規定する、保険医療機関と保険薬局との独立性について、裁判所が判断を示したのは私の知る限りでは初めて」。こう話すのは、中外合同法律事務所(東京都千代田区)の弁護士で薬剤師資格を持つ赤羽根秀宜氏。「判決では、フェンスなどの設置により構造的な独立性を形式的に整えることだけで判断するのではなく、より本質的な面からの判断が行われている。行政官ならば当然、この判決は認知しており、薬局の保険指定について審査する地方厚生局の行政官にも何らかの影響を及ぼすと考えられる」と続ける。

 また、「公道を通らずに医療機関と薬局を行き来できないようフェンスを設ける」という、現状よく行われている行政指導についても、総務省が開催する有識者会議の行政苦情救済推進会議で審議され、14年3月に見直すべきとの結論が出されている(下部色付記事参照)。

保険薬局と保険医療機関を区切るフェンスの必要性が議題に
行政苦情会議、「構造面の独立性」の規制緩和求める

 総務省が年4回開催している行政苦情救済推進会議(座長:東京大学名誉教授の大森彌氏)は、13年12月と14年3月の2回にわたり、「保険薬局と保険医療機関との一体的な構造を規制する規定の見直し」について審議。経営面での独立性が確保されている場合は、構造面の独立性を高めるため保険医療機関と保険薬局の間にフェンスなどを設けるといった指導は見直すべきと結論した。

 この審議案件は、総務大臣からの委託により市町村に設置される行政相談委員から提出されたもの。保険薬局と保険医療機関が隣接する場合に、フェンスなどで区切るよう指導される現状について「フェンスなどがあろうがなかろうが、患者の保険薬局を選択する動向は変わらず、また、他の保険薬局を選択することもできる状況にある」と指摘。さらに、「隣接する保険薬局に行く意思のある患者にとっては、敷地境界にあるフェンスなどを横目に、いったん公道に出てから保険薬局に行かなければならず不便である」として、フェンスなどの設置指導を改めるよう厚生行政に要望している。

 審議では、同会議のメンバーから「医薬分業を推進し始めた頃ならばともかく、現在では薬局で薬を受け取ることが当たり前であり、フェンスの設置は実質的な意味を失っている」「車いすの利用者には不便をかけているだけの規制だ」などの意見が出された。さらに、13年6月に病院と同一建物内の薬局の保険指定を認めた判例(上部色付記事)もあることから、構造面の独立性確保のためにフェンス設置などを求める規制は見直すべきとした。

 総務省は今後、同会議の検討結果を踏まえ、厚生労働省に対して規制の見直しなどを求めるあっせんを行う予定。同会議の議事概要や付議資料などについては、総務省のウェブサイト(URL)で閲覧できる。

 こうした情勢を踏まえると、「医療機関と一体的な構造に見える」という外観のみを取り上げ、門内薬局の保険薬局としての適格性を見直すよう求める言い分が通用するだろうか。医薬分業制度の目的に沿った薬局か否かを論点にしなければ、門内薬局に反対する日薬の姿勢は、患者の目には薬局同士が内輪もめをしているようにしか映らない。門前薬局が隆盛を極める現状を差し置いて門内薬局を責めるのでは、理屈が通らないのだ。

患者を守る機能を果たせ

 保険薬局としての適格性を判断する3要素の中で、最も重要なのは機能的な独立性であることは論を待たない。長年にわたり医療安全の確保に取り組んできた国際医療福祉大学薬学部特任教授の土屋文人氏は「構造的あるいは経済的な従属性があれば、機能的な独立性に対する阻害要因となることは確か。その意味で、医療機関と距離的に近い門内薬局や門前薬局が『望ましくない』とは言える」としながらも、「医薬分業の本質は、医師と薬剤師が独立しつつ協働して適正な薬物療法を確保することにある。従って院内・院外や医療機関との距離を問わず、医師の処方内容に疑義がある場合はきちんと照会するという、薬剤師法第24条に規定された責務を果たすことが第一義。この責務を果たすことが、薬剤師が機能的な独立性を備えている証左になる」と論じる。保険薬局としての適格性は、個々の薬局が疑義照会という機能を果たし、患者の安全を守っているかという点で判断すべきなのだ。

 国民はこれまで薬局を、主として医療機関からの距離的な利便性で評価してきた。だが、薬局の機能が周知されれば、「この薬局は自分を守ってくれるか」という観点からの評価もなされるようになる。また、病院の外来部門が縮小の一途をたどる中、病院に近接して調剤専門薬局を設け、効率よく多くの処方箋を集めるというビジネスモデルはいずれ成り立たなくなる。ならば、門内薬局に目くじらを立てるより、患者を守る機能を果たせる薬局づくりに今は力を注ぐべきではないだろうか。

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