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薬理のコトバ
非定型抗精神病薬
日経DI2014年11月号

2014/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

講師:枝川 義邦
早稲田大学研究戦略センター教授。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学環境医学研究所助手、日本大学薬学部助手、早稲田大学高等研究所准教授、帝京平成大学薬学部教授などを経て、14年3月より現職。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 秋の夜長に打ってつけなのが読書。名作を著した作家の中には、思いのほか精神疾患に苦しんだ人が多いという。だが今や、精神疾患には、薬物治療によりある程度の対処ができるようになりつつある。今回は、精神疾患の中でも罹患率が高い統合失調症の治療薬、すなわち抗精神病薬についてまとめることにしよう。

定型薬には2つの不具合

 統合失調症は、幻覚や妄想などの精神機能障害を生じる疾患。人種や性別に関係なく、発症頻度は約1%、つまり100人に1人が罹患する可能性があるとされる。症状には陽性症状と陰性症状があり、前者は幻覚、妄想、興奮など、後者は意欲の低下、感情鈍麻、感情的引きこもりなどを指す。

 原因は、脳内での神経伝達物質による情報のバランスが崩れること。特に中脳-辺縁系および中脳-大脳皮質の神経ネットワークにおける異常が、統合失調症を引き起こすと考えられている。中脳から辺縁系に伸びるドパミン神経系が働き過ぎるとドパミン量が多くなって陽性症状を呈し、大脳皮質へのドパミン系の機能が低下すると陰性症状につながるという。

 薬物治療では、主としてドパミン受容体の阻害薬を用いてきたので、ターゲットは陽性症状になる。現に、抗精神病薬には、総じてドパミンD2受容体の遮断作用がある。この抗精神病薬が、定型と非定型に分類されているのはご存じのことと思う。分類の違いは、開発年代(世代)の違いでもあり、メカニズムの違いでもあるのだ。

 定型薬は、クロルプロマジン製剤(商品名ウインタミン、コントミン他)に代表される、ドパミンD2受容体の遮断薬。1950年代に開発された最古の定型薬であるクロルプロマジンは、今でも抗精神病薬の基準とされ、力価の“ものさし”となっている。

 ただし、定型薬には2つの不具合がある。一つは、陰性症状の改善作用があまり期待できないこと。もう一つは、副作用として錐体外路症状を生じやすいことだ。錐体外路症状は、脳の大脳基底核と呼ばれる領域、特に黒質から線条体に伸びるドパミンを多く含む神経細胞の機能が障害されることより生じる。この領域は、パーキンソン病患者で障害されている領域と重なっており、症状も類似する。すなわち、固縮や無動といった運動障害や、逆に運動過多となり、振戦、舞踏運動などの不随意運動を来しやすい。

 これら第一世代の定型薬が持つ不具合を生じにくくさせたものが第二世代の薬剤、すなわち非定型薬。こちらは、統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状にも奏功する。おまけに第一世代の定型薬で問題となりがちな錐体外路症状も生じにくいので、投薬期間中も患者の生活の質(QOL)が保たれやすいという利点がある。

非定型薬は5HT2にも作用

 非定型薬は、作用機序の違いから(1)D2受容体・5HT2受容体遮断薬(SDA)、(2)多元受容体標的化抗精神病薬(MARTA)、(3)ドパミン・システム・スタビライザー(DSS)─の3つに分類されている。これらに共通するのが、ドパミンD2受容体に加えて、セロトニン5HT2受容体の遮断作用を有することだ。

 セロトニンは、ドパミンを放出する神経に作用してブレーキをかける役目を担っている。5HT2A受容体を遮断することで、脳の黒質にあるドパミン系神経細胞のブレーキが外れて活動性が高まり、線条体でのドパミン量が増えていく。これで錐体外路症状を抑制するわけだ。また統合失調症では、前頭前野のドパミン系がうまく働かなくなっていることから、陰性症状や認知障害を生じていると考えられている。これに対しても5HT2受容体遮断がセロトニンのブレーキを外して前頭前野のドパミン系を活性化し、陰性症状を改善するという図式が成立するという。

 SDAに分類される非定型抗精神病薬にはリスペリドン(リスパダール他)などがある。MARTAは、ドパミンD2受容体群(D2、D3、D4)や5HT2受容体だけでなく、アドレナリンα1受容体、ヒスタミンH1受容体など、多様な受容体を遮断する作用を持つ非定型薬。オランザピン(ジプレキサ)やクエチアピンフマル酸塩(セロクエル他)が属する。

 そしてDSSに分類されるのが、アリピプラゾール(エビリファイ)。ドパミンD2受容体に対して部分作動薬として作用するユニークな薬剤だ。

 部分作動薬とは、標的となる受容体をある程度は活性化し、ある程度は阻害するという性質を持つ薬剤。ドパミン系の神経活動の高低により作動薬となり遮断薬となることで、ドパミン系の神経活動をバランスよく保つことができる。おまけに、ドパミンの情報を受け取るシナプス後細胞のD2受容体だけでなく、情報を伝える側のシナプス前細胞にあるD3受容体に対しても部分作動薬として働き、ドパミンの放出量を調整するという。まさにドパミン系の活動を安定化させる薬剤なのだ。

 心強い味方がいるだけでも、心和やかでいられるものだ。ゆったりとした気分で、読書でも楽しもうではないか。

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