DI Onlineのロゴ画像

特集:
電子お薬手帳のこれから
日経DI2014年10月号

2014/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年10月号 No.204

 2011年後半から薬局サービスとしての運用が始まった電子お薬手帳は現在普及の途上にあり、少なくとも数十種類が林立している。電子お薬手帳は、患者の調剤データの保管場所により大きく2種類に分類できる。一つは、調剤データを本人のスマートフォンに保存するもの(スマホ型)。もう一つは、データをサーバーに保存して、パソコンやスマホなどの端末で閲覧するもの(サーバー型)だ。サーバー型は、本人認証を専用のカード型キーで行うもの(図2の(3)、(6))と、専用アプリをインストールしたスマホで行うもの(図2の(1)、(4)、(5))に分かれる。

図2 現在利用されている主な電子お薬手帳の分類

画像のタップで拡大表示

電子お薬手帳として使用可能なアプリやシステムは数十に上るが、主要なもの、最近話題に上ったもの6種を選んで示した。「多機能・サーバー型」と「シンプル・スマホ型」の2つに大別できる。

競争激化の電子お薬手帳

 電子お薬手帳の開発主体は様々だ。現時点で利用者が多いのは、スマホ型では大阪府薬剤師会の「e-お薬手帳」、サーバー型では日本保険薬局協会(NPhA)の「健康情報貯金箱/お薬情報玉手箱」と見られる。薬剤師・薬局の団体が中心になって開発されたシステムが先頭を走っているわけだ。

写真3 「e-お薬手帳」のステッカーとパンフレット

画像のタップで拡大表示

大阪府薬剤師会が作成したステッカーとパンフレット。どの薬局でも使える汎用性を強調。

 薬局チェーンではアイセイ薬局(東京都千代田区)、アインファーマシーズ(札幌市)、日本調剤(東京都千代田区)などが独自のスマホアプリを公開している。この他、ソニーやパナソニックヘルスケアといった大手企業からIT系ベンチャー企業まで、多くの企業がお薬手帳システムを発表しており、競争は激しくなっている。

 スマホ型の利点は、災害時などネットに接続できない環境下でも自分の調剤データを閲覧できること。e-お薬手帳を開発した大阪府薬理事の堀越博一氏は「スマホさえあれば、いつでもどこでも自分が使用している薬を見られることを念頭において開発した」と話す。弱点は、データを保管しているスマホを無くしたり、データ復旧不可能なまで破損すると、記録が失われることだ。

「e-おくすり手帳は、シンプルな形で広く使ってもらうことを目指した」と話す大阪府薬剤師会理事の堀越博一氏。

 サーバー型の長所は、本人認証を行うカードやスマホを患者が紛失しても、過去のデータは残されること。弱点は、薬局が患者のデータを閲覧するには、サービス提供会社と個別の契約が必要なことなどだ。

QRコードへの対応は必須

 スマホ型、あるいはスマホによるデータ入力に対応している電子お薬手帳では、保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の電子版お薬手帳データフォーマットに準拠したQRコードを読み取ることで、データを記入できるようになっている。薬局で必須なのは、調剤情報のQRコードをプリントアウトして患者に手渡せる体制だ。これはレセコンの設定を変えることで実現できるため、実施はさほど困難ではない。

 問題は患者のデータの閲覧だ。現状ではサーバー型の利用者が、併用薬のチェックなどのために服薬歴を薬剤師に見てもらおうとすると、自分が使っている電子お薬手帳のサービス提供会社と契約している薬局を探さなければならない。

 現在でも地域を限定すれば、多くの薬局が同じサーバー型の手帳を導入している事例はあり、地域内での患者の利便性はある程度保たれていると見られる。例えば、13年10月にNphAの電子お薬手帳システムの運用を開始したピノキオ薬局グループは、全37店舗が同時にシステムを導入。同グループが店舗を展開する栃木県内では現在、70以上の薬局がNphAの手帳を使っている。また川崎市薬剤師会とソニーが13年11月に川崎市全域で試験運用を開始した「harmo」も、14年6月から横浜市の一部を対象に加え、利用可能な地域を拡大している。

 もっとも、患者が旅行先で受診したりするケースを考えると、患者の調剤情報などの共有は地域の中だけでは不十分だろう。また将来、サーバー型の電子お薬手帳が全国展開に成功しても、複数が林立しているために、患者が複数の手帳を使い分ける必要に迫られたのでは本末転倒だ。利用地域の拡大と併せて、データを共有できるような標準化を図っておくべきだろう。

患者の役に立つ機能追加を

 現在の電子お薬手帳システムの基本的な機能は、薬情へのリンク、飲み忘れを防ぐ服薬アラーム、検診・検査記録や服薬記録などだ。激しい競争の中、電子お薬手帳は機能の拡張を続けている。これらの機能が、本当に患者が便利だと感じる“役立つもの”であれば、利用者数は増えるだろう。

 ただし、役に立つと実感してもらうためには、それらの機能が電子お薬手帳にあることを伝え、患者が実際に使えるように、薬剤師が働き掛ける必要がある。ピノキオ薬局グループでは、電子お薬手帳のカード型キーを渡すと同時に、ログインの仕方や使用法を、資料を用いて患者に説明している(Case7)。

Case7

カウンターでの利用法説明を手厚く ピノキオ薬局グループ(栃木県)
 13年10月にグループの全37店舗でNPhAの電子お薬手帳システムを導入。ポスターを見て興味を持った患者には専用の資料で詳しい説明をしている。うち6店舗では患者に対し積極的に電子お薬手帳の利用を勧めており、一定期間後に他の店舗と比較する計画だ。利用者の多くは65歳未満だが、高齢者は家族が登録することから、家族向けの説明資料も用意している(写真下左)。
 電子お薬手帳の機能をどの程度使いこなすかは患者によって様々だ。服薬アラームなどの様々な機能を駆使している人や、中には「開発の人に伝えてほしい」と改良の要望を手紙で送ってきた患者もいた。
 同社では、長期的には電子お薬手帳の利用者は増加していくと予測しており、薬局内での情報登録プロセスを自動化するシステム改良を実施している。

画像のタップで拡大表示

 一方、新しい機能で話題を集めたのが、薬局への処方箋送信機能だ。薬局に事前に処方箋を送っておけば待ち時間を短縮できるという機能は、患者にとっては明らかに役に立つ。14年5月からアイセイ薬局が試験運用中の電子お薬手帳システム「おくすりPASS」と、パナソニックヘルスケアが14年7月に発表した「ヘルスケア手帳」は、薬局への処方箋送信機能を持っている。また、ケンコーコムの処方箋FAX送信サービスであるヨヤクスリも、14年8月からサービスにお薬手帳機能を加えた。処方箋送信機能が電子お薬手帳の利用にどう影響するか、患者の動向が注目されている。

 またおくすりPASSには、基本の服薬記録機能を発展させた機能がある。これは患者の「お金を無駄にしたくない」という心理に訴えて治療効果を高めることを狙ったもの(Case8)。患者にきちんと服薬することの重要性を伝え、手帳を日々利用してもらうための試みと言える。この他、紙のお薬手帳では困難でも、電子お薬手帳なら実現可能な新しい機能があれば、お薬手帳を使う患者を増やせるだろう。例えば、電子お薬手帳にOTC薬との併用に関するアラート機能があれば、OTC薬を購入するときに役立つ。

Case8

医療費の見える化でコンプライアンス向上 アイセイ薬局日本橋室町店(東京都中央区)
 14年5月に日本橋室町店で試験運用を開始したアイセイ薬局の「おくすりPASS」は、患者のスマホを認証に用いるサーバー型のシステム(写真左)。
 服薬リマインダー機能では、服薬時間になるとアラームが鳴り、薬を飲んで画面をタップすると服薬の記録が残される。この記録に基づく「服薬達成率」を円グラフで表示、飲み忘れた薬の代金相当額を表示する(写真右)。これにより服薬コンプライアンスの向上を狙っている。利用者アンケートでは、服薬リマインダー機能を約半数のユーザーが使用していた。

画像のタップで拡大表示

 一方で、改良の余地が大きいのが他職種との情報共有だ。医師が患者の服薬状況を知りたいときには、電子お薬手帳の服薬管理機能が役立つ。ただし現状では、記録の閲覧には患者がデータを印刷するなどの手間がかかる。スムーズに情報共有できるように、服薬サマリーの自動出力機能を追加したり、医師が患者の服薬データにアクセスできるようにするなどの新たな仕組みを導入する必要がある。

 電子お薬手帳には、「お薬手帳」という仕組みの有用性を可視化するという“機能”も期待されている。医療・薬剤経済学の研究者で、harmoの開発に関わっている東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学特任助教の五十嵐中氏は「紙のお薬手帳は、記載されている調剤内容などの取りまとめが煩雑で、患者への貢献を測定するのが難しい。サーバー型の手帳では、このようなデータは既に蓄積されている。持参率の向上による利益や、薬剤ごとのコンプライアンスの違いによる影響の分析も将来は可能になる」と語る。

「お薬手帳には埋もれた可能性があるシステム。電子化でそれを生かせる」と話す東京大学の五十嵐中氏。

 電子お薬手帳は、国全体の医療の効率化、より効果的な治療法の開発に貢献する可能性を秘めているのだ。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ