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症例に学ぶ 医師が処方を決めるまで
2型糖尿病
日経DI2014年10月号

2014/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年10月号 No.204

講師
西村 英樹
(熊野前にしむら内科クリニック[東京都荒川区]院長)

講師から一言

 経口血糖降下薬が7種類になり、治療薬の選択肢が広がった結果、経口薬の単独あるいは併用療法によって血糖コントロールを行うことは昔よりはるかに容易になっている。その大前提として服薬コンプライアンスを良好に保つことが重要なので、薬剤師の皆さんには、薬剤ごとの特性や特徴的な副作用などを把握した上で、服薬指導や副作用チェックなどを通じて糖尿病患者をサポートしていただきたい。

 2014年4月にナトリウムグルコース共輸送担体(SGLT)2阻害薬が発売され、2型糖尿病治療に7種類の経口血糖降下薬が使用できるようになった(図1)。その中心となるのはジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬である。日本では2009年末から使用が始まった新しい薬だが、無効例が少ない、低血糖を来しにくい、肥満を助長しにくいなど、有効性・安全性を考慮すると一番使いやすい。

図1 病態に合わせた経口血糖降下薬の選択

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 そのため、病態に応じてビグアナイド(BG)薬やα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)を使うこともあるが、まずDPP-4阻害薬を単剤で処方し、効果不十分の場合に他薬を併用することが多い。併用薬は罹病期間や病態に応じて選択する。罹病期間が短く食後血糖が高い場合はα-GIやグリニド薬、インスリン抵抗性が強ければチアゾリジン薬やBG薬を選択する。罹病期間が長くインスリン分泌能が低下している場合はスルホニル尿素(SU)薬が必須となるが、使用は少量にして他薬を組み合わせる血糖コントロールが基本となる。本稿では、経口血糖降下薬による治療例と、背景にある考え方について解説する。

軽症例はまずDPP-4阻害薬で治療を開始

 最初に紹介する症例は、目のかすみや頻尿を訴えて当院の糖尿病外来を受診した48歳の男性である。3カ月前に他院で糖尿病を指摘されたが、放置していたという。身長182cm、体重70kgで、初診時のヘモグロビン(Hb)A1cは8.4%、食後3時間血糖は181mg/dLだった。高血圧や脂質異常症などの合併症はなかった。

 本例のように罹病期間が短くて心血管系の合併症がなく、HbA1cが9%程度までの2型糖尿病であれば、DPP-4阻害薬の単剤投与で血糖コントロールがうまくいく場合が多い。本例にはオングリザ(一般名サキサグリプチン水和物)を5mgから開始した。

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 1カ月後の再診時、HbA1cは6.5%まで低下。オングリザを2.5mgに減量し、治療を継続している。

 DPP-4阻害薬は14年9月時点で7剤が発売されているが(表1)、糖尿病専門医の間では個々の薬剤の特徴を踏まえた使い分けが行われている。

表1 DPP-4阻害薬の特徴

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 血糖降下作用はビルダグリプチン(商品名エクア)が一番強く、シタグリプチンリン酸塩水和物(ジャヌビア、グラクティブ)、アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ)、テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(テネリア)が続く。薬価にも違いがあり、通常用量の1日薬価はシタグリプチン、アナグリプチン(スイニー)、サキサグリプチンの3剤が安価である。

 本例はHbA1cがさほど高くないため、作用の強さよりも薬価の安さを重視してサキサグリプチンを選択した。血糖をしっかり下げたい場合は、1日2回きちんと服用できるかを患者に確認し、ビルダグリプチンを処方する。低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールが高値の場合は、こちらも1日2回服用となるが、LDLコレステロールを下げる作用を持つアナグリプチンを選択している。

透析例にはα-GIやDPP-4阻害薬を使用

 次の症例は、糖尿病腎症のため透析導入となり、近隣の透析クリニックに通院している55歳の男性である。インスリン製剤を使用しているが血糖コントロールは不良で、かつ透析中に度々低血糖発作を起こすため、当院を紹介され受診した。身長172cm、体重96kgで、初診時のHbA1cは9.1%、食後2時間血糖は199mg/dLだった。

 腎機能低下例に使用できる経口血糖降下薬は限られており、透析導入後の選択肢はDPP-4阻害薬、α-GI、グリニド薬のミチグリニドカルシウム水和物(グルファスト)程度となる。α-GIは血糖降下作用は弱いものの、糖の吸収を遅延させることで低血糖発作を抑制する効果があるため、本例にはインスリン製剤の継続下でα-GIのセイブル(一般名ミグリトール)を追加した。

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 1カ月後の再診時、HbA1cは8.8%とさほど下がっていなかったが、低血糖発作は減少していたため、インスリンを増量してDPP-4阻害薬のトラゼンタ(リナグリプチン)を追加した。

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 本例にトラゼンタを選択したのは、尿中排泄率が他のDPP-4阻害薬よりも格段に低く、ほとんどが胆汁排泄されるためである(表1)。トラゼンタは脂溶性であるため、2~3カ月かけてじわじわと効果が上がる特性がある。本例も追加1、2カ月後のHbA1cは7.7%、7.9%だったが、3カ月後は6.9%に下がり、以後も7%前後を維持している。

SGLT2阻害薬はビグアナイド薬などと併用

 次の症例は、高度肥満を伴う若年の2型糖尿病である。患者は32歳の女性。身長163cm、体重110kgで、体格指数(BMI)は42である。初診時のHbA1cは7.4%、空腹時血糖は127mg/dLで、心血管系の合併症はない。

 本例にはまず、体重減少作用を併せ持つBG薬のメトグルコ(メトホルミン塩酸塩)を500mg/日で処方し、1カ月後に1000mg/日へと増量。しかし、HbA1cがほとんど変化しなかったため、初診から3カ月後にSGLT2阻害薬のアプルウェイ(トホグリフロジン水和物)を追加した。

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 アプルウェイの追加から1カ月後のHbA1cは6.8%となり、2カ月後には6.6%まで低下している。

 SGLT2阻害薬の特徴は、強い血糖降下作用が速やかに表れ、かつ体重減少作用を持つこと。HbA1cや体重がすぐに目に見えて下がるので、患者の治療へのモチベーションが上がるという効用も持つ。

 半面、尿路・性器感染症のほか脱水によると思われる脳梗塞や重症薬疹などの重篤な副作用が報告されており、良い適応となるのは若年(65歳未満)で腎機能障害がなく、飲水指示を守れる患者に限られる。SGLT2阻害薬は、そうした患者において、メトホルミンやDPP-4阻害薬などで血糖コントロールが不十分な場合に併用して使用するのに適している。すなわち、高血圧治療における少量の利尿薬のような役割を果たす薬剤ではないかと筆者は考えている。

経口薬による糖毒性解除は尿検査で判断

 最後の症例は、初診時にHbA1cと血糖が非常に高く、糖毒性(高血糖によりインスリン分泌不全とインスリン抵抗性が増悪した状態)の早急な解除が必要な46歳の男性である。1カ月前に健康診断で空腹時血糖が318mg/dL、HbA1cが11.1%と指摘され、口渇と体重減少もあるため受診した。身長165cm、体重71kgで、初診時のHbA1cは12.8%、食後5時間血糖は384mg/dLだった。

 糖毒性の解除は通常、インスリン製剤で行うが、本人が経口薬を強く希望したため尿検査でケトン体が検出されないことを確認。1週間後の来院を指示し、SU薬のアマリール(グリメピリド)を1mg/日で7日分処方した。

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 本例のように尿中にケトン体が検出されなければ、ケトアシドーシス(糖尿病の急性代謝性合併症で、血中ケトン体の急増により血液が酸性化して脳浮腫や昏睡などを引き起こす病態)による急変のリスクは低いと考えられるので、比較的安全にSU薬による糖毒性の解除を行える。ただし、処方は短期間にとどめ、再診時に血糖コントロールの改善が認められなければインスリン製剤を使用する。

 1週間後の再診時、食後5時間血糖は229mg/dLへと低下しており、口渇がかなり減ったとのこと。アマリールを2mg/日に増量して経過を見たところ、1カ月後にHbA1cは11.4%、2カ月後は9.2%となり、3カ月後には8.0%にまで低下した。HbA1cを急速に下げすぎると網膜症などの合併症を発現・悪化させる恐れがあるため、アマリールは1mg/日に減量し、DPP-4阻害薬のエクア50mgを1日1回投与で追加。エクア単剤(1回50mgを1日2回)による治療を視野に、経過を見ているところである。

SGLT2阻害薬の適正使用で2度の注意喚起

 14年4月の発売後、重篤な副作用の発生報告が続いていることを受け、糖尿病専門医から成る「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を発表。その後も副作用報告が続いたことから、8月29日に上記勧告の改訂版を発表して、再度の注意喚起を行った。勧告の全文は、日本糖尿病学会のウェブサイト(http://www.jds.or.jp/)に掲載されている。

 同委員会は改訂勧告において、「予想された副作用である尿路・性器感染症に加え、重症低血糖、ケトアシドーシス、脳梗塞、全身性皮疹などの重篤な副作用がさらに増加している」と指摘し、以下の7点に留意するよう勧告している。

1)インスリン製剤やSU薬などのインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、用量を減じる。インスリン製剤との併用は治験で安全性が検討されていないことから特に注意が必要である。患者にも低血糖に関する教育を十分行う。
2)高齢者への投与は、慎重に適応を考えた上で開始する。発売から3カ月以内の投与では全例登録する。
3)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じる。利尿薬との併用は推奨されない。
4)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
5)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションする。必ず副作用報告を行う。
6)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努める。発見時には泌尿器科、婦人科にコンサルテーションする。
7)原則として、本剤は当面他に2剤程度までの併用が推奨される。

 この勧告は、今後の副作用の発生状況により、再度の改訂が行われる可能性がある。重篤な副作用を防ぎ、また早期発見するために、調剤や服薬指導を行う薬剤師も勧告に対して注意を払っておきたい。

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