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検査値のミカタ
腫瘍マーカー
日経DI2014年10月号

2014/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年10月号 No.204

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

外来癌化学療法が普及し、多くの薬局で、抗癌剤の副作用を予防・軽減するための薬剤の処方箋を受け付けたことがあると思います。今回は癌の診断補助や経過観察に用いられる腫瘍マーカーについて、かかりつけ薬局での捉え方を中心に解説します。

 腫瘍マーカーは、癌細胞の存在により増減する物質のうち、体液(主に血液)を使って測定可能なものを指す。

 腫瘍マーカーが使われる目的には、大きく分けて、(1)癌のスクリーニング、(2)手術や化学療法、放射線治療などの治療効果の判定、(3)経過観察(再発のモニタリング)─がある。臨床現場で用いられている主な腫瘍マーカーを表1に示す。

表1 主な腫瘍マーカー

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感度・特異度を念頭に置く

 腫瘍マーカーには非常に多くの種類がある上、臓器や組織への特異性、腫瘍の活動性をどの程度反映するかなど、意味合いも異なる。まずは、各マーカーの大まかな位置付けを理解しておきたい。その際、以下の点に注意する。

◯腫瘍マーカーと癌種が1対1対応しているわけではない。
◯1種類の腫瘍マーカーで診断が確定することはない。
◯陽性(基準範囲外)だからといって癌が存在するわけではない。
◯陰性(基準範囲内)だからといって癌の存在が否定されるわけではない。
◯腫瘍マーカーの変動幅と進行・重症化の度合いは相関しない(一部のマーカーを除く)。

 腫瘍マーカーの性質は、感度、特異度、診断効率といった指標で示される(表2)。腫瘍マーカーの数値を評価するためには、これらの指標を念頭に置くことが重要である。

表2 腫瘍マーカーの性質を示す指標

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 臨床現場で最も重視されるのは、結果が陽性の場合、どれくらいの確率で本当に癌があるかということであり、指標としては陽性的中率(検査後確率)が用いられる。陽性的中率は、有病率(検査前確率)と検査の有効性(感度および特異度)によって決まる。一方、検査の結果が陽性であっても癌が見付からない確率を誤警告率という。母集団の有病率の違いによって、陽性的中率は大きく異なり、腫瘍マーカー検査の妥当性も違ってくる。

 例えば、感度80%、特異度80%のCEA(癌胎児性抗原)を大腸癌検診に用いた場合、有病率が1%の一般診療所での陽性的中率は3.8%(誤警告率は96.2%)であるのに対し、有病率が10%の癌専門病院での陽性的中率は30.8%となる(表3)。誤警告率が高いと、結果が陽性だった受検者に過度の精神的苦痛を負わせる恐れがある。

表3 検査実施機関の違いによる陽性的中率の差の一例

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薬局での活用時の留意点

 薬局で腫瘍マーカーの値を目にする場面としては、癌と診断されていない患者への対応時、治療中の癌患者への対応時の2つが想定される。

 癌と診断されていない患者に対しては、検査実施機関による陽性的中率の違いを念頭に置きつつ、腫瘍マーカーの値のほか、自覚症状の有無や既往歴、生活習慣、患者の不安感の程度や原因などを加味して、受診勧奨を行う(ケース1、ケース2)。表2、表3のどこに当てはまるかを考えながら対処すると理解しやすいだろう。

 一方、癌患者が、腫瘍マーカーを含む検査結果を薬局で提示した際には、癌種や病勢を読み取り、今後の治療の見通しを立てて、想定される副作用の予防・軽減や心理的ケア、長期的な療養支援に生かしたい(ケース3)。抗癌剤による個々の副作用の評価では、腎機能(2014年2月号)、血球(同6月号)、電解質(同8月号)などの検査値を継続して確認する。

 癌患者が病院での検査結果を薬局で見せてくれるということは、薬局を信頼している証でもある。長期にわたり、癌患者をサポートしていく「かかりつけ薬局」として、積極的に療養支援に関わってほしい。ケースと対応例を示す。

ケース1

 薬局の近所に住む70代男性Aさん。生来健康で、毎月栄養ドリンクを買いに薬局を訪れる。だが、ある日、Aさんは浮かない表情で来局した。薬剤師が話し掛けると、「人間ドックで、腫瘍マーカーのCEAの値が高かった」と打ち明けた。数値は不明。

 Aさんは、「数十年来たばこを吸ってきたのがいけなかったと思う。最近、有名な俳優が食道癌で亡くなっているし、自分ももう手遅れになっているような気がして、何も手に着かない」と、いつになく暗い表情で話した。

 ケース1の場合、腫瘍マーカーの数値が高くても、必ずしも腫瘍があるわけではない(偽陽性の可能性がある)。Aさんには医療機関を受診して医師の診察や画像検査を受けるよう指導する。

ケース2

 軽度の糖尿病のため、一般診療所に通院中の60代男性Tさんが、処方箋を持って3カ月ぶりに来局した。やや肥満気味だったTさんが、痩せてほっそりとした印象だった。

 驚いた薬剤師が病状を尋ねると、Tさんは、「特に運動したり食事に気を付けたわけではないが、ここ2カ月くらい、胃がもたれるようになって、食欲が落ちたような気がする。おかげで体重が8kgくらい減ってスリムになった。2週間前に別の診療所で健診を受けたが、腫瘍マーカーに異常はなかったので、医師には特に相談しなかった。血糖コントロールは良好だとほめられた」と話した。

 ケース2のTさんの話からは、腫瘍マーカーは陰性ではあるものの、胃もたれや体重減少などの自覚症状もあり、腫瘍がある可能性は否定できない(偽陰性の可能性がある)。

 このような場合、まずは通院中の内科診療所の主治医に相談するよう勧め、詳細な検査の実施や、専門病院への紹介を促すべきである。

ケース3

 非小細胞肺癌のため、病院の呼吸器内科で外来化学療法を施行中の70代男性Kさん。アリムタ(一般名ペメトレキセドナトリウム水和物)を3クール投与したが、効果不十分のためタルセバ(エルロチニブ塩酸塩)に変更された。

 タルセバ開始から2カ月後、Kさんは処方箋を持って薬局を訪れた際、薬剤師に、「CEAは下がっているようだが、皮膚症状がつらい」と訴えた。呼吸器内科ではリンデロン-Vローション(ベタメタゾン吉草酸エステル)を処方されている。Kさんは、「アリムタが無効だったので、タルセバが効かないと困る。だから副作用はできる限り我慢して、先生にはつらいとは話していない」と打ち明けた。

 タルセバは上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬であり、発疹などの皮膚障害の副作用が高頻度で起きることが知られている。ケース3では、「CEAは下がっている」というKさんの言葉から、タルセバの効果が認められていることがうかがえる。このような場合、薬剤師は早期から十分な副作用対策を講じ、治療を継続できるよう支援することが求められる。

 具体的には、不安感や副作用症状について聞き取り、患者の心理的負担を軽減するほか、日常生活での注意点や保湿剤、外用ステロイドの使い方などを分かりやすくまとめた資料を用意し、きめ細かな指導を行う。また、必要に応じて、Kさんの了解を得た上で、病院の呼吸器内科または皮膚科の医師に副作用への対処について相談するとよいだろう。

開発進むコンパニオン診断薬

 ある種の癌の薬物治療においては、標的分子の発現や遺伝子変異の有無、薬物代謝酵素の遺伝子多型などのバイオマーカーを調べ、薬剤の有効性や副作用を予測し、薬剤の適応を判断することがある。そのようなバイオマーカーを用いた体外診断用医薬品は、特定の薬剤とセットで用いられることから、「コンパニオン診断薬」と呼ばれる。コンパニオン診断薬は、分子標的薬に関して開発されることが多く、日本では現在、トラスツズマブ(HER2蛋白)、セツキシマブ(KRAS遺伝子)、ゲフィチニブ(EGFR遺伝子)、クリゾチニブ(ALK融合遺伝子)などにコンパニオン診断薬が存在する。

 薬剤と診断薬を同時に実用化するためには、早期から製薬会社と診断薬会社が連携して開発を進めたり、一体的かつ円滑な審査を行う体制を整えることが必要である。そのため医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2012年4月、コンパニオン診断薬プロジェクトを立ち上げ、コンパニオン診断薬の開発に関わる問題点の整理、医薬品の同時開発や臨床試験などにおける指針の整備に着手した。

 今後はコンパニオン診断薬の開発が更に進むことが予想されている。各医療機関での検査の精度管理や保険償還の在り方についても議論していくことになりそうだ。

参考文献
1)国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス(http://ganjoho.jp
2)中原一彦監修『パーフェクトガイド 検査値事典』(総合医学社、2011)

中村先生のひとくちコラム

 国立がん研究センターや新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの共同プロジェクトは今年8月、マイクロRNAを使って癌を早期に診断するシステムの開発に着手しました。マイクロRNAとは、22塩基ほどの短いRNAの断片のこと。癌などの疾患に伴って、血中で検出されるマイクロRNAの種類や量が変動することが明らかになっています。癌患者の血液サンプルを用いてマイクロRNAを大規模に解析することで、感度と特異度が高い診断システムの構築を目指すそうです。

 胃癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、大腸癌など13の癌種が対象で、目標は2018年度末までに臨床使用を実現すること。早期に正確に診断できるシステムが構築されれば、癌検診の姿も現在とは大きく変わることになるでしょう。

「検査値のミカタ」は、今回で連載を終了します。

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