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早川教授の薬歴添削教室
短期間に繰り返し受診する小児の病態把握のコツ
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

 今回は、原谷ゆう薬局に来局した当時1歳7カ月の男児、藤村悠大ちゃん(仮名)の薬歴をオーディットしました。悠大ちゃんは鼻症状や喉の不調のため、短期間に何度も受診しますが、そのたびに処方内容が変わり、病態の捉えどころがありません。

 一般に小児の受療行動には、かぜ症候群などで突発的に受診する、アレルギー性疾患で特定の季節に集中して受診するといった幾つかのパターンがあります。今回は前者に当たる症例を通じて、断片的な情報からどのように病態を把握し、患児と保護者へのケアを行っていくかを見ていきます。

 本文は、会話形式で構成しています。症例検討会には薬剤師3人(A~C)が参加し、このうち薬剤師Aは薬歴作成にも関わっています。(収録は2014年7月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『薬剤師の視点を連携に生かす「在宅アセスメント」虎の巻』(日経BP、2013)など。

今回の薬局
原谷ゆう薬局(京都市北区)

 原谷ゆう薬局は、京都府を中心に75軒の薬局を展開するゆう薬局グループが2013年9月に開局した。応需している処方箋は月1100枚ほど。内科からの処方箋が大半を占めるが、小児科や、在宅療養患者の訪問薬剤管理指導にも対応している。

 同薬局には、20代1人、30代1人の薬剤師が勤務している。

 電子薬歴を採用し、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、前回来局時からの変化や経過を分かりやすく記すように心掛けている。また、薬歴の記載内容がマンネリ化することを防ぐために、常に新しい視点で患者から話を聞くようにしている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず、薬歴の表書きを見ていきましょう。1歳半の男児です。初回に得られた情報として、体重と、併用薬としてオノンドライシロップ(一般名プランルカスト水和物)があることが書かれています(【1】)。

A 初回は私が担当しました。体重や併用薬は、初回に必ず確認するようにしています。

早川 それを表書きにきちんと記載しているのは非常に良いと思います。続いて、初回の薬歴も見ていきましょう。ミヤBM(酪酸菌製剤)とムコサールDS(アンブロキソール塩酸塩)が処方されました。A情報として、「薬の拒否は今のところないと確認」とあります。

A 小児患者の服薬コンプライアンスには剤形が大きく関わりますし、嫌がる子供に薬を服用させるのは、保護者の苦労することでもあるので、普段から聞き取るようにしています。

早川 初回にまず、これまでの服薬経験について確認することは重要です。確認した結果を表書きに書いておくと、なお良いでしょう。その際、日付も付記しておき、その後、変化があった場合は患者コメント欄に書き加えていくという形で運用するといいと思います。

 加えて、症状についても確認し、服薬指導を行っています(【2】)。ここで改めて、得られている情報から考えられる疾患名を挙げてみましょう。その際、処方薬の適応となる疾患や病態と、患者が訴えている症状の両面から、それぞれ考えられる疾患を挙げ、それを突き合わせるという思考回路が重要です。まず、併用薬であるオノンからは、どのような疾患が考えられますか。

B 気管支喘息、アレルギー性鼻炎。

早川 そうですね。そして初回には、鼻症状を訴えています。

A 10月というかぜを引きやすい季節であり、処方日数も7日分だったので、かぜで鼻水や痰が出ていておなかも緩くなっているのかなと考えました。

早川 よくあるかぜや鼻炎と推測したのですね。このように推測しておくことで、次回以降、疾患の絞り込みのための聞き取りのポイントが明確になると思います。

A 「鼻です」という母親の訴えと、去痰薬のムコサールが出ている事実が一致していないので、母親からもう少し症状を聞き取っておくべきでした。

早川 患者とのやり取りの中で気付かなくても、薬歴を書く段階で気付いた場合は、次回確認すべき事項として薬歴に残しておきましょう。その点では、P情報には「薬の苦味や服用に問題がなかったかどうかを確認する」という内容を記しておくとよいと思います。

C ミヤBM細粒が食前服用で、「食事の有無にかかわらず服用を」と指導しています。母親は薬を飲ませるのが大変だろうなと思いました。

早川 食事の摂取状況についても、次回確認するよう、プランに記しておくといいですね。

服用可否は表書きにも記載

早川 続いて、10月28日の薬歴を見ていきます。前回の処方日数は7日分でしたが、来局は3週間後です。前回プランに挙げていた服薬状況についても、「問題なく服用できた」と確認できています。新たに処方されたヒルドイドローション(ヘパリン類似物質)については、使用感を聞き取っています【3】。「夏はビーソフテンがお好み」ということも確認していますね。剤形や性状による使用感や患者の好みを考慮するのは、薬剤師の大事な役割です。ヒルドイドとビーソフテンは薬剤師から見てどのような違いがありますか。

A ヒルドイドクリームは乳液状ですが、ビーソフテンローションはクリアーな水溶液状でさらっとしており、夏場に好まれます。実物を見せながら説明したところ、両方とも使用経験があり、この時は冬なのでヒルドイドを希望されました。

C これは有用な情報なので、表書きに記しておくとよいと思います。来年の夏に、また処方されるかもしれません。

早川 そうですね。表書きに書いてあれば、別の薬剤師が対応する場合も見逃さずに済みます。内服薬も含めて、小児の場合は剤形や使用感の違いが服薬の可否に影響するので、服用できた薬剤、できなかった薬剤の特徴などを書き残しておくことが大切です。

 さて、この日はムコサールDSが前回と同じ用量で出ています。

C 薬剤師が「咳止め」と説明しているということは、実際にお子さんが咳をしていたのではないでしょうか。

早川 初回で病状について掘り下げましたが、もし、咳込んでいる様子だったら、「いつから続いていますか」「出やすい時間帯はありますか」などと尋ねてみると、対応の幅は広がりますね。

 では次に行きましょう。11月1日、わずか4日しかたっていません。この日は耳鼻咽喉科から、ムコサールに加えて、メイアクト(セフジトレンピボキシル)、ペミラストン(ペミロラストカリウム)、オノンが出ています(【4】)。オノンは併用薬として認識していましたね。まず、今回なぜ耳鼻科を受診したと考えられますか。

A いつもかかっている小児科が休診日だったのか、症状が治まらず、セカンドオピニオンを求めて耳鼻科を受診したのかもしれません。初回で併用薬として聞き取ったオノンに関しても、「今飲んでいる」のか、「過去に飲んでいた」のか不明です。

早川 詳しい症状やオノンの服用歴、どちらの診療科がメーンであるかを聞くタイミングだったといえますね。これまでの推論を踏まえて、今回処方された薬から病状を更に推察してみましょう。

B 気管支喘息が考えられます。

早川 咳症状が強くなってきた、という見方ですね。

A 副鼻腔炎に移行して膿性鼻汁が見られたのかなと思いました。

早川 細菌感染の可能性があるという見方ですね。

A 発熱がないとすれば、中耳炎では。

C 小児科を定期的に受診しているにもかかわらず、臨時で受診する場合は、明らかな症状が出ている時ではないかと思います。母親にとって何が気になる症状だったかをもう少し聞けたらよかったと思います。

早川 今挙げられたことについて、継続して経過を確認できるといいですね。他に気になることはありますか。

A メイアクトを飲めるかどうか。

早川 そうですね。過去の服用歴の有無も含めて確認したいところですね。

A セフェム系抗菌薬が初処方かもしれないので、薬物アレルギーの症状や対処法について説明しておいた方がいいと思います。

早川 続いて12月6日。1カ月後です。小児科から、オノンが出ています。やや増量されています。

A 体重の記載がないので分かりませんが……症状の度合いも踏まえた上で微増したのかもしれません。

早川 A情報に「気管支炎」という言葉が出てきました。これは実際に聞き取ったのでしょうか。

一同 うーん……。

早川 恐らく、推測でしょうね。その前提で、病状把握を更に進めていきましょう。「喉の調子が悪いです」というS情報が得られています【5】。その上で、オノンが増量され、ムコダインDS(カルボシステイン)が処方されています。この処方変化をどう見ますか。

A 受診して薬を服用して少し治まり、しばらく様子を見るけれど、また調子が悪くなって受診するというのを繰り返している印象です。

処方日数と来局間隔に着目

早川 症状が持続しているかどうかはさておき、8週間で4回も来局しています。もし症状が持続しているとすれば、かぜなどの急性疾患ではなく、慢性疾患の可能性も考えられますね。

A 当薬局を訪れていない“空白の1カ月”の間にも、受診して他の薬局で薬を受け取っていた可能性もあります。

B ムコサールからムコダインに変更されることについては、医師から説明を受けているのかを確認したいです。

早川 その他、初回に挙がっていたアレルギー性鼻炎の可能性についてはいかがでしょうか。

A アレルギー性鼻炎だったら、アレルゲンを確認したい。ハウスダストやダニなどの場合は、こまめに換気するなどの住環境改善の指導も必要です。あと、医師が治療について母親にどう説明しているのかも気になります。

早川 最初は単なるかぜ症状という捉え方でしたが、症状が持続しているので、副鼻腔炎や中耳炎、喘息、アレルギー性疾患の可能性も高まってきました。続く12月13日には「まだ良くならないですね」とのS情報で、ムコサール、ムコダイン、ヒルドイドローションが処方されています。

A 引き続き、痰の状態を見ていく必要がありそうです。

長期管理を見据えたケアを

早川 年が明けて1月22日。しばらく間が空きましたが、この後、25日、28日と続けて来局しています。処方薬の経過をまず押さえていきましょう。1月22日には、アクディーム(リゾチーム塩酸塩)とパルミコート(ブデソニド)が新たに出ています【6】。25日には、オノンDSのほか、ホクナリンテープ(ツロブテロール)、メプチン吸入液(プロカテロール塩酸塩水和物)も出ており、パルミコートが1日3回吸入になりました。随分追加されましたね。そして28日は、オノン、アクディーム、ムコダインが再び処方されました。さて、どの処方薬が気になりますか。

C パルミコート。「ネブライザーは前から使っています」と聞き取っていますが、1歳半でネブライザーの使用歴があるということは、かなり小さい頃から使っていると考えられます。メプチンも一緒に処方されていることからすると、喘息の可能性は高いと思います。

早川 吸入ステロイドに加えて、吸入β2刺激薬も出ている、ということから推測したのですね。ここに来て、オノンも喘息に対して処方されていたとみることができますね。治療ステップはどのくらいと考えられますか。

一同 症状としては中等度でしょうか。

早川 乳児の場合、機嫌が悪くなる程度なら小発作、泣いてぐずってミルクも飲まなくなる程度は中発作と捉えます。吸入ステロイドとβ2刺激薬が処方されていることから、恐らく中発作は出ていると思われます。さらに、25日には薬の種類が増え、急性期の発作を抑えるだけでなく、長期管理を行うステップに上がってきたことがうかがえます。

 今度は、喘息であるという観点に立って、これまでにそれを示唆する情報がなかったかどうか考えてみましょう。

C ヒルドイドが出ているので、アトピー性皮膚炎の可能性があります。

早川 そうです。それが小児喘息の診断に重要とされている情報の一つなのです。アトピー性皮膚炎がある乳児は、喘息の可能性が高い。この視点は私たちにも十分評価できます。さらに、両親の喘息の既往歴も参考になります。

A 確かにその通りです。

早川 あと、β2刺激薬の吸入により症状が改善したかどうかも、喘息かどうかを判断する際の参考になりますね。もし気管支炎だったら、呼吸困難はそれほどひどくないし、β2刺激薬で劇的に改善するとは限りません。このように、基本的な病態や薬物治療の知識と情報を基に、推測、判断していくことで、より早い段階から予後の改善に関わっていくことができます。

C 病態がはっきりしてくると、それに対する処方薬が適切かどうか判断できますし、それにより薬剤師の対応の幅も広がります。

早川 そうですね。続く3~4月にも受診していますが、特に変化はないので省略します。変化があるのは、5月8日。キプレス細粒(モンテルカストナトリウム)が追加され、パルミコートとメプチンも30日処方になりました(【7】)。何が考えられますか。

A 経過を観察している中で再発したため、喘息と確定し、しっかりとした治療に切り替わったのではないでしょうか。1月末に処方されたパルミコートの使用頻度や残量も確認したいです。

C 症状も気になります。長引いているので、治療が強化されたのでは。

早川 では、服薬指導や生活指導の観点ではいかがでしょうか。

A 今まで、「症状が出たら受診」という傾向があったように思います。母親の喘息への病識を確認し、継続的に受診・治療することの必要性について説明しなければならないと思います。

C かぜとは違うということを理解しているか確認します。喘息の場合、生活環境の改善が必要な場合もあるので。

A 受診してくれない限り、医師は状況が分からないので、保護者の理解は重要です。

早川 医師は以前から定期的に服薬する必要性を母親に説明しているけれど、伝わっていない可能性もあります。

C 理解度を確認することはなかなか難しいですが、薬剤師が関わり、不足している部分をフォローする意義は大きいですね。

早川 薬、病態などの様々な視点で推測し、多くのことが見えてきました。

原谷ゆう薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

樋口 敬史氏

 処方された薬の服用状況はもちろん、病状を把握するために次回確認すべきポイントを薬歴に記しておくことで、つながりを持った、より深いアプローチができると分かりました。来局頻度が多くなるほど、過去の薬歴までさかのぼって見返すことが難しくなります。表書きに記すことを意識して、今後の確認事項を考えるようにしたいと思います。

近藤 良祐氏

 小児患者への服薬指導は、単発的になりがちで、こうして振り返ってみると連続性がなく十分に評価できていないことが分かりました。また、患児本人から症状などを聞き出せない分、保護者の協力が重要であると改めて認識しました。薬が処方された背景を想像しながら、保護者からの聞き取りや服薬支援につなげていきたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 小児患者は断続的に来局することが多いですが、つながりを意識して見ていくことで、より良いケアを提供できることが分かったと思います。

 小児患者のケアの基本である、味や剤形などの嗜好や服薬の成否に関する情報は、必ず評価して表書きに記載しておくようにしましょう。一見、対症療法と思われる断片的な処方の裏には、慢性疾患が隠れていることもあり、それは的確な聞き取りによって把握できます。一般的に、小児が罹患する疾患は慢性化を予防することが非常に重要です。できるだけ早期に患者の病状を把握する上で、患者の症状と処方内容の両面からアセスメントしていく姿勢を持つことが望まれます。

 小児患者のケアにおいては、保護者との関わりが主体となります。薬物療法に対する保護者の認識は、患者の予後に大きな影響を及ぼします。本症例では、母親とのやり取りの中で得られた、母親の性格や子育ての方針などに関する情報も、必要に応じて薬歴の表書きに記載していくとなお良いでしょう。

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