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徹底マスター 薬の相互作業としくみ
抗コリン作用の協力による末梢・中枢性副作用に注意
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

後藤 道隆、杉山 正康(すぎやま薬局[福岡県久留米市])

 副交感神経系(PNS)の神経終末からは、神経伝達物質としてアセチルコリン(ACh)が分泌される。AChは、ACh受容体の一つであるムスカリン受容体に結合した後、血漿中のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)により分解される。ムスカリン受容体には複数のサブタイプがあり、M1は主に中枢、M2は心臓、M3は腺や平滑筋に存在し、それぞれ多彩な生理作用を発揮する(表1)。

表1 ムスカリン受容体のサブタイプと主な作用

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 PNSに作用する薬剤は、抗コリン薬とコリン作動薬とに大別される(表2、表3)。抗コリン薬は消化性潰瘍や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過活動膀胱などのほか、中枢性抗コリン薬としてパーキンソン病にも使われる。コリン作動薬は、慢性胃炎や重症筋無力症、アルツハイマー型認知症などに使用される。

表2 抗コリン薬および抗コリン作用を有する主な薬剤

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表3 コリン作動薬およびコリン作動作用を有する主な薬剤

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抗コリン作用の協力

(1)便秘、口渇の出現
 抗コリン作用を持つ薬剤に共通する副作用として、便秘、口渇、尿閉、頻脈、視力障害(眼圧上昇、散瞳、かすみ目、緑内障)、熱中症、腸閉塞などがある。また、抗コリン作用を持つ中枢神経系(CNS)用薬では、中枢性抗コリン徴候(記憶障害、幻覚、見当識障害、錯乱、不安感など)が表れることもある。抗コリン作用を有する薬剤同士を併用すると、これらの副作用が強く表れる恐れがある(表4【A】)。中でも、便秘や口渇はよく見られるが、背景には相互作用があることが多い(ケース1)。抗コリン作用を有する薬剤の投薬時にはこれらの症状について説明し、気になる場合は相談するよう指導する。

表4 PNS用薬が関与する薬力学的相互作用

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 なお、向精神薬や抗パーキンソン病薬の併用では、重篤な腸閉塞が起こり得る。また、チペピジンヒベンズ酸塩(商品名アスベリン)、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(メジコン他)、桜皮抽出物(ブロチン他)などの麻薬性鎮痛・鎮咳薬や非麻薬性鎮咳薬も、相互作用による便秘に注意する。

(2)緑内障、前立腺肥大の悪化
 抗コリン作用を有する薬剤は、眼圧上昇作用や膀胱平滑筋収縮作用があるため、緑内障や前立腺肥大の患者への投与が禁忌であることが多い。

 緑内障に関しては、一般に閉塞隅角型には禁忌だが、開放型は問題ないとされている。ただし、医師によって見解は異なるため、疑義照会を必ず行うようにする(ケース2、ケース3)。

 患者がタムスロシン塩酸塩(ハルナール他)やシロドシン(ユリーフ)などを使用している場合は前立腺肥大の可能性を念頭に置き、併用薬を注意して確認する(ケース2)。なお、総合感冒薬などのOTC薬に、抗コリン作用を持つ成分が含まれていることもある。

(3)認知機能障害の出現
 高齢者は特に抗コリン作用による副作用が出現しやすい。加齢に伴い体内のACh量が減少するほか、慢性疾患になりやすく、長期にわたり多剤併用することが多くなるためである。日本老年医学会がウエブサイト上で公開している「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」には、抗コリン作用を有する薬剤が多数含まれる。便秘や口渇のほか、認知機能障害(記憶喪失、錯乱など)には特に注意する。

 実際、抗コリン作用を持つ薬剤を継続服用している高齢者の8割に軽度認知障害が見られたとの報告もある(BMJ.2006;332:455-9.)。認知機能の低下が認められた場合、抗コリン作用の影響である可能性を念頭に置く必要がある(ケース3)。

 認知機能低下には、単剤の抗コリン作用の強弱ではなく、併用薬の総コリン負荷が関与する。高齢者における、抗コリン作用に起因する副作用の発現リスクを表す指標もある。合計点数が高くなるほど副作用の発現リスクが高まる(表5)。

表5 抗コリン作用リスクスケール(Anticholinergic Risk Scale)

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コリン作用の協力・拮抗

 AChE阻害作用を持つアルツハイマー型認知症治療薬のドネペジル塩酸塩(アリセプト他)、ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)の2剤以上の併用は禁忌である。併用により、コリン作動性の副作用である心拍数・心収縮力低下(徐脈)、消化管運動・胃酸分泌亢進(悪心・嘔吐)、膀胱・気管支収縮、気管支分泌亢進、痙攣発作、錐体外路症状などが表れる恐れがある。なお、これらとNMDA受容体拮抗薬のメマンチン塩酸塩(メマリー)との併用は禁忌ではないが、CNS抑制傾向が強く表れ、過度の鎮静や傾眠などが表れることがある。

 一方、抗コリン薬とコリン作動薬を併用すると、薬効が減弱する可能性があるため、原則として併用は避ける(表4【B】)。また抗コリン薬は、コリン作動性クリーゼなどのコリン作動薬による副作用症状を不顕性化する恐れがあるため、常時併用は避ける。

 以下、当薬局での対応例を示す。

 ケース1では、頻尿と便秘のため(1)を服用中のAさんに、(2)のフォルセニッド(一般名センノシド)が追加された。薬剤師が病状を尋ねると、便通が4~5日に1回しかないとのこと。強い抗コリン作用を持つポラキス(オキシブチニン塩酸塩)とデパス(エチゾラム)との協力作用により、便秘が悪化したと考えられる。また、口渇の訴えも以前からあったため、あめをなめたり、うがいをして対処するよう指導していたが、当初に比べ症状が強くなっているようだった。

 そこで薬剤師はAさんの了解を得て、後日、処方医に書面で情報提供を行った。便秘と口渇は抗コリン作用による可能性があることを説明し、対策として、(a)ポラキスを他の同効薬に変更、(b)ポラキスとデパスの減量、(c)消化管運動促進薬の追加、(d)口渇に対する人工唾液(サリベートエアゾール)の使用(適応外)─を提案した。

 医師は(c)(d)を選択し、ガナトン(イトプリド塩酸塩)とサリベートが追加処方となった。ガナトンにはコリン作動作用があるが、その後、ポラキスの効果減弱も認められず、便泌・口渇とも生活に支障を来さないまでに改善したためフォルセニッドが中止された。

 ケース2は、肺気腫で治療中のBさん。大学病院から内科診療所に転院となり、抗コリン薬のスピリーバ(チオトロピウム臭化物水和物)を処方されて当薬局に初めて来局した。

 薬剤師がお薬手帳を確認したところ、別の泌尿器科診療所でハルナール(タムスロシン塩酸塩)を処方されていることが判明。また、手帳に記載はないが、会話の中で、眼科で緑内障の治療中であることも分かった。スピリーバは前立腺肥大と緑内障に禁忌であるため、念のため眼科に問い合わせたところ、閉塞型の疑いがあるとのことだった。これらについて内科処方医に報告した結果、大学病院で処方されていたというアドエア250ディスカス60吸入用(サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル)に変更となった。

 ケース3のCさんは、3年以上にわたって(1)~(4)を服用していた。1年前から頻繁に薬の飲み忘れがあったほか、反応・意欲の低下などが表れ、要介護認定を受けた。医師の診断ではアルツハイマー型認知症は否定的で、脳卒中の既往歴もない。デパス、ジルテック(セチリジン)、リスミー(リルマザホン塩酸塩水和物)など、抗コリン作用を有する薬剤を長年併用していたことから、これらが認知機能低下に関与している可能性が考えられた。

 薬剤師は医師らの依頼を受けて、1カ月前からCさんへの訪問薬剤管理指導を開始した。初回訪問時の会話の中で、緑内障で点眼薬を使用中であることが判明したが、眼科医に確認したところ、開放型のため内服薬の使用は問題ないとのことだった。

 お薬カレンダーを用いた服薬管理を始めた結果、次第に飲み忘れが減った。だが、リスミーの残薬が認められたため、Cさんに理由を尋ねたところ、「飲んでも飲まなくてもよく眠れる」とのことだった。薬剤師はこれらについて処方医に報告し、抗コリン作用のある薬剤の減量を提案。その結果、リスミーは中止され、デパスが1日3回から1日2回に変更された。現在、経過観察中である。

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