DI Onlineのロゴ画像

特集:オピオイドUp to date
治療の選択肢広げる新薬・新剤形が発売、癌以外への使用を考慮した対応を
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

 日本におけるオピオイド鎮痛薬の使用量は、2000年代に入って急激に増加した。この動きを牽引してきたのが、新規・新剤形のオピオイド鎮痛薬だ。

 それまで注射薬しかなく、主として麻酔に用いられてきたフェンタニルクエン酸塩は、02年に貼付薬(商品名デュロテップ)が発売されたことを契機に一気に使用量が増えた。同様に注射薬のみだったオキシコドン塩酸塩水和物は、徐放製剤(オキシコンチン)が03年、速放製剤(オキノーム)が07年に発売。「定時薬(時間を決めて飲む薬)とレスキュー(痛みが増強した時に使う薬)」という癌性疼痛の緩和に向けた組み合わせ処方が同一薬で行えるようになり、緩和ケアの基本薬としての地位を確立した。

 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルという主要なオピオイド鎮痛薬を合算した消費量は、12年にモルヒネ換算量で5250kgと、00年(同891kg)のおよそ6倍に達している(図1)。

図1 日本におけるモルヒネ・フェンタニル・オキシコドン消費量の推移
(がん研究振興財団『がんの統計'13』より作成)

画像のタップで拡大表示

癌性疼痛への使用法は確立

 使用方法の標準化も進んだ。非オピオイド鎮痛薬を第1段階、弱オピオイドを第2段階、強オピオイドを第3段階とする世界保健機関(WHO)の3段階除痛ラダーに従った薬剤選択法が普及。痛みに応じた増量(タイトレーション)方法も周知され、「日本緩和医療学会などのガイドラインから逸脱した処方はめったに見なくなった」と、あけぼのファーマシーグループ(茨城県つくば市)在宅支援室長で日本緩和医療薬学会の緩和薬物療法認定薬剤師である坂本岳志氏は話す。「定時薬のタイトレーションも、レスキューの回数や使った時の疼痛状況を確認し、1日に4回以上使っているなら増量、という流れに沿って適正に行われている」と続ける(坂本氏のインタビューを参照)。

 癌性疼痛に対する緩和ケアの普及は、07年4月に施行された「がん対策基本法」に基づく重点目標の一つ。医師向けの研修プログラム「PEACE」が各地で継続的に開催されており、緩和ケアの均質化は達成されつつある。

多機能オピオイドが登場

 さらにここ数年は、従来薬とは一味違うオピオイド鎮痛薬が臨床現場に登場した(オピオイドの新薬)。μオピオイド受容体の作動に加え、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害(SNRI)作用やN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体への拮抗作用などを併せ持つ「マルチファンクショナル・オピオイド」だ。

 痛みには腫瘍などで末梢神経の侵害受容器が刺激されることによる侵害受容性痛や、神経の損傷による神経障害性痛などがあり、神経障害性痛にはNMDA受容体拮抗作用やSNRI作用などが奏功する。「マルチファンクショナル・オピオイドは、従来のオピオイド鎮痛薬では十分な緩和が難しかった、神経障害性痛への効果が期待されている」と、東京慈恵会医科大学大学院緩和医療学教授で同大学附属病院腫瘍センター緩和ケア室長の下山直人氏は言う。

東京慈恵会医科大学の下山直人氏は「マルチファンクショナル・オピオイドが臨床現場でどのように活用されていくのかに注目したい」と言う。

 マルチファンクショナル・オピオイドの一つであるトラマドール塩酸塩は、SNRI作用を併せ持つ弱オピオイド。従来は注射薬のみだったが、2010年9月に単味のカプセル剤(トラマール)、11年7月にアセトアミノフェン(AAP)との配合錠(トラムセット)が発売された。トラマドールと類似の構造を持つ強オピオイドのタペンタドール塩酸塩にはノルアドレナリン再取り込み阻害(NRI)作用があり、14年8月に徐放製剤(タペンタ)が発売されたばかりだ。約80年前に開発され、13年3月にようやく日本でも発売となった強オピオイドのメサドン塩酸塩も、NMDA受容体拮抗作用やSNRI作用を持つことが明らかになっている(表1)。

表1 主なオピオイド鎮痛薬の剤形と適応、規制区分(編集部調べ)

画像のタップで拡大表示

慢性痛への使用が拡大

 オピオイド鎮痛薬を巡るもう一つの新しい動きが、慢性痛への積極的な使用だ。日本には慢性痛に苦しむ人が2200万人いるとされる。「慢性化した痛みの多くは神経障害性だが、侵害受容性の要素がある場合は、アセトアミノフェンで十分に痛みが取れなければオピオイド鎮痛薬を使うことが、今では標準的な治療法になっている」と、仙台ペインクリニック(仙台市宮城野区)理事長の伊達久氏は言う。

「慢性痛では癌性疼痛とは全く違うオピオイドの使い方をすることを認識してほしい」と訴える、仙台ペインクリニックの伊達久氏。

 以前は癌性疼痛にしか使えなかったフェンタニル貼付薬では、デュロテップMTが10年1月、ワンデュロは13年12月、フェントスは14年6月から慢性痛への使用が可能になった。11年4月には、弱オピオイドのブプレノルフィンの貼付薬(ノルスパン)が、変形性関節症と腰痛症に伴う慢性痛の治療薬として発売。トラマドールとAAPの配合剤であるトラムセットは発売当初から慢性痛の適応を持ち、単味のトラマールにも13年3月に慢性痛の鎮痛という効能が追加された(表1)。「ついこの間まで、慢性痛にはコデインがだめならいきなりモルヒネを使うしかなかったことを考えると、隔世の感がある」と伊達氏は目を見張る。

「痛みゼロ」目指さぬ慢性痛

 ただし、慢性痛へのオピオイド鎮痛薬の使い方は、癌性疼痛への使い方とは根本的に異なる。「痛みゼロ」を目指さないのだ。「慢性痛に対する治療目標は、患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)能力を向上すること。痛みを取るのは副次的な目的で、痛みがあっても動ける、痛みが気にならない状態を目指すものだ」と伊達氏は強調する(表2)。

表2 癌性疼痛と慢性痛の治療目標の違い

 この目的でオピオイド鎮痛薬を使う場合、定時薬のタイトレーションは行わない。オピオイド鎮痛薬は定時薬としてのみ使用し、レスキューにはAAPなどオピオイド鎮痛薬以外の薬剤を使う(表3)。慢性痛患者にオピオイド鎮痛薬を処方する場合は、年単位で使用していくことを前提に、なるべく薬物に依存させないよう投与法に工夫が凝らされているのだ。

表3 慢性痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方

 しかし、癌性疼痛への使用法が医師に広く周知された“弊害”として、「慢性痛なのにオピオイド鎮痛薬を痛みがゼロになるまで増量したり、レスキューにオピオイド鎮痛薬を使うといった誤用が後を絶たない」と伊達氏は語る。

 さらに、一部の薬剤師の対応も問題視する。「薬局で患者の痛みの評価を行うのはいいが、慢性痛の患者には、痛みがあるからといって安易に『次回、先生に鎮痛薬を増やしてもらいなさい』とは言わないでほしい。レスキューにオピオイド鎮痛薬が出ていないのはおかしいとか、アセトアミノフェンでは効かないなどと、軽々しく患者に告げる薬剤師もいる」と苦言を呈し、「慢性痛では全く違うオピオイド鎮痛薬の使い方をすることを、きちんと認識した上で患者に対応してほしい」とクギを刺す。

処方資格確認も必要に

 なお、オピオイド鎮痛薬の一部では、処方医に登録制を設けている(表4)。事前にインターネットを通じて適正使用講習を受けた医師のみを製薬会社のデータベースに登録し、薬剤師は調剤前に医師の受講歴を照会する仕組み。慢性痛への使用に関しては、医療用麻薬のフェンタニル貼付薬3剤(デュロテップMT、ワンデュロ、フェントス)と向精神薬のブプレノルフィン貼付薬(ノルスパン)で登録制が設けられているので留意しておきたい。癌性疼痛にのみ適応を持つメサドン(メサペイン)も、処方資格を持つ医師しか処方を行えず、かつ調剤する薬局でも調剤責任薬剤師の事前登録が必要だ。

表4 処方医の資格確認が必要なオピオイド鎮痛薬

画像のタップで拡大表示

 オピオイド鎮痛薬は、難治性の痛みを緩和する強力な切り札。その半面、誤用や乱用で依存を形成しやすい「最も危険なドラッグ」でもある。患者を危険から守るためにも、適正な使い方を認識した上での調剤が、全ての薬剤師に求められている。

ビッグデータに見るオピオイドの処方トレンド

 新規・新剤形のオピオイド鎮痛薬が登場したここ2年余りで、癌患者に対するオピオイド鎮痛薬の処方動向はどう変わったのだろうか─。メディカル・データ・ビジョン(東京都千代田区)の協力を得て急性期病院136施設におけるオピオイド鎮痛薬の処方人数を商品ごとにグラフ化したのが図2だ。

図2 オピオイド鎮痛薬が処方された癌患者数の推移
(データ提供:メディカル・データ・ビジョン)

画像のタップで拡大表示

 オキシコドン2製剤の処方人数は微増、モルヒネ3製剤は微減。フェンタニル貼付薬では、フェントスが約46%処方人数を伸ばし、デュロテップMTは約63%の減少となった。

 興味深いのは、トラマドール2製剤の伸びだ。特にAAP配合剤のトラムセットは、癌性疼痛への適応を持たないにも関わらず2年余で3.7倍に。採用品目数を絞っている病院で、麻薬への抵抗感が強い癌患者に適応外処方されている可能性もありそうだ。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ