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C型肝炎は経口薬だけで治す時代に
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

 経口抗ウイルス薬のダクラタスビル塩酸塩(商品名ダクルインザ)とアスナプレビル(スンベプラ)が今年9月に薬価収載され、発売される。この2剤の併用により、注射薬のインターフェロン(IFN)を使わない「IFNフリー」の治療が可能になる。

 「ダクラタスビルとアスナプレビルの2剤併用療法により、IFNを使えない患者に対しても高い治療成績が得られた。今後は、IFNフリーの経口薬による治療がC型肝炎の第一選択となっていくだろう」─。この2剤の治験に携わった広島大学消化器・代謝内科学教授の茶山一彰氏はこう話す。

「今後はIFNフリーの治療がC型肝炎の第一選択となっていくだろう」と話す広島大の茶山一彰氏。

 ダクラタスビルはC型肝炎ウイルス(HCV)のNS5A複製複合体形成の阻害作用、アスナプレビルはNS3/4Aプロテアーゼ阻害作用を持ち、HCVの増殖を抑える(図1)。

図1 C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖とダクラタスビルおよびアスナプレビルの作用機序

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(両剤のインタビューフォームの図を一部改変)

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 2剤併用療法の適応は、「ジェノタイプ1※1のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変※2で、(1)IFNを含む治療法に不適格の未治療あるいは不耐容の患者、(2)IFNを含む治療法で無効となった患者」。つまり、何らかの理由でIFNを使えない患者か、過去に使って効果がなかった患者だ。

 現在、ジェノタイプ1の標準治療であるペグインターフェロンα(PEG-IFNα)(ペガシス、ペグイントロン)、リバビリン(コペガス、レベトール他)、シメプレビルナトリウム(ソブリアード)の3剤併用には代償性肝硬変の適応がないが、この2剤併用は代償性肝硬変(Child-Pugh分類A)にも使える。

 ジェノタイプ1b患者を対象としたダクラタスビルとアスナプレビルの2剤併用の第3相臨床試験では、2剤を24週間投与することで、84.7%(188/222)の患者が、治療終了から24週間にわたってHCV-RNA陰性の状態を持続した(SVR24※3、図2)。

図2 国内で行われたダクラタスビル、アスナプレビルの第3相試験の成績

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IFNを含む治療に不適格の未治療患者または不耐容患者では87.4%、前治療無効患者では80.5%がSVR24を達成した。

副作用が大幅に軽減

 この第3相試験には、IFN不適格の未治療患者(貧血、好中球減少、血小板減少、うつなどが認められる患者や、65歳以上75歳以下の高齢者)、不耐容の患者(IFNまたはリバビリンの副作用のため12週未満で治療を中止した患者)などが組み込まれた。有害事象による投与中止は5.0%(11/222)あった。

 C型肝炎の治療では、長らくIFNが中心に位置付けられてきた。だが、IFNの投与には週1回の通院が必要となる上、発熱、頭痛、倦怠感のほか、間質性肺炎、うつ病など、ほぼ全ての患者に何らかの副作用を生じる。副作用が重篤な場合、投与量を減らしたり、治療を中断するため、決められた治療を完遂できないこともあった。

 「IFNは副作用が多いため、治療を受けたくないという患者が少なくなかった。IFNフリーの治療であれば、重篤な副作用を避けられ、治療を受けられる患者も増える」と、山梨大学内科学講座第一教室教授の榎本信幸氏は期待する。

 ダクラタスビルとアスナプレビルの主な副作用としては、肝機能障害がある。第3相試験では、ALT上昇が15.8%(35人)、AST上昇が12.6%(28人)に見られた。このため、治療開始12週目までは少なくとも2週ごと、それ以降は4週ごとに肝機能検査を行い、ALTが基準値上限の10倍以上に上昇した場合は、投与を中止する。

 また、ダクラタスビルはチトクロムP450(CYP)3A4、アスナプレビルはCYP3Aで代謝されるため、多くの薬剤と併用禁忌になっている。「2剤併用が基本なので、両方の併用禁忌に注意が必要。特に、ベラパミル塩酸塩(ワソラン他)、ジルチアゼム塩酸塩(ヘルベッサー他)などの併用は、薬剤師がしっかり認識してチェックする必要がある」と、肝臓専門医の診療所門前で肝炎患者の処方箋を多く受けている、ゆうあい薬局五日市中央店(広島市佐伯区)管理薬剤師の江口徳吉氏は話す。

続々と登場を控える経口薬

 ダクラタスビルとアスナプレビルに続いて現在、複数の経口薬の開発が国内で進められている(表1)。中でも注目されているのが、ledipasvirとsofosbuvirだ。ledipasvirはNS5A阻害作用、sofosbuvirはNS5Bポリメラーゼ阻害作用を持つ。

表1 IFNフリーの治療に向け国内で開発中の主な経口抗ウイルス薬

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 ledipasvirとsofosbuvirの2剤またはリバビリンを加えた3剤を併用する第3相試験では、12週間の投与により、2剤併用で100%(171/171)、リバビリンを加えた3剤併用で98.2%(167/170)の患者が、治療終了から12週間にわたってHCV-RNA陰性化を持続した(SVR12)。副作用で多かったのは鼻咽頭炎、頭痛、倦怠感など。SVRを達成できなかった3人の内訳は、1人が治療後の再燃、1人が発疹による治療中止、1人が死亡だった。

 「自験例では、患者のほとんどが、服用開始から4週の時点でHCV-RNAが陰性化していた」と、この2剤の治験を取りまとめた国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター長の溝上雅史氏は話す。ledipasvirとsofosbuvirの第3相試験には、C型肝炎治療を受けたことがない患者も組み込まれており、IFNの適応の有無にかかわらず使えるようになるとみられる。

 では、ダクラタスビルとアスナプレビルはどのような患者に処方されるのか。複数の医師の見解で共通していたのは、「肝癌リスクが高く、すぐにでも治療を始めたい患者に対しては、ダクラタスビルとアスナプレビルを使う」こと。肝線維化が進行していたり、IFNを含む治療を受けられない高齢者などが想定される。

 肝癌のリスクは年齢や性別、肝炎活動性、肝線維化、飲酒習慣や糖尿病の有無などによって総合的に決まる。「患者一人ひとりに肝癌リスクを説明し、治療のメリットとデメリットを十分に説明した上で、治療法を選んでもらうことが必要だ」と山梨大の榎本氏は話す。

ジェノタイプ2もIFNフリーに

 ジェノタイプ1に続き、ジェノタイプ2でもIFNフリーの治療が可能になりそうだ。sofosbuvirは14年6月、ジェノタイプ1に先駆けて、ジェノタイプ2のC型慢性肝炎の治療薬として製造販売承認が申請された。sofosbuvirとリバビリンを12週間併用する。

 国内で行われた第3相試験では、未治療または治療歴のあるジェノタイプ2の患者153人に、sofosbuvirとリバビリンを12週間投与した結果、96.7%(148/153)がSVR12を達成した(図3)。治験の取りまとめを行った山梨県立病院機構理事長の小俣政男氏は「C型肝炎はジェノタイプにかかわらず、経口薬によりSVR率100%を目指せるようになった」と話す。

図3 国内で行われたsofosbuvirの第3相試験の成績

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未治療患者、治療歴ありの患者ともに、95%以上の患者がSVR12を達成した。

薬局での服薬指導とフォローを

 週1回の通院が必要なIFNを含む治療に比べ、経口薬による治療は通院回数が少なくなる。治療の手軽さから、治療への参加意欲の低い患者が治療を希望する可能性もある。国立国際医療研究センターの溝上氏は「これまで以上に薬剤師の服薬指導が重要になる」と話し、今後、薬剤師対象のセミナーを開催する予定だという。

 アドヒアランスを高めるためには、「飲み忘れた時の対処法を、あらかじめ患者に伝えておく必要がある」と、ゆうあい薬局の江口氏は指摘する。ダクラタスビル、アスナプレビルはともに、次の服用までに4時間以上あれば服薬できる。なお、ダクラタスビルは1日1回だが、アスナプレビルは1日2回の服用なので、間違えないように患者に伝える。

ゆうあい薬局の江口徳吉氏は、「併用禁忌の有無は確実にチェックしたい。アドヒアランスを高めるために、飲み忘れ時の対処も患者に伝えておくことも大切」と話す。

 ダクラタスビルは5角形で垂線が9.1mm、厚さが4.6mm、アスナプレビルは長径14.9mm、短径9.3mmと、比較的大きな薬剤だ。フィルムコート錠のダクラタスビルは粉砕・半割の可否のデータが現在なく、アスナプレビルは軟カプセルのため粉砕・半割は不可。また両剤ともに簡易懸濁法の可否のデータがなく、現時点では推奨されない。「現状では、嚥下が困難な患者が服薬する際には、服薬補助ゼリーを使うしかないだろう」と江口氏は話す。

 また、抗ウイルス薬の服薬が終わった後のフォローも欠かせない。C型肝炎の治療で目指すのは肝癌リスクの低減。「SVR達成後も、半年に1回は受診してもらい、エコーやCT撮影、血液検査などを行う」と山梨大の榎本氏は言う。定期的に受診して検査を受けるよう、薬剤師からも患者に働き掛けることが重要だ。

ウイルスの薬剤耐性が課題に

 複数の新薬の登場を控え、医師はどの薬を使うようになるのか。その判断のポイントの1つになりそうなのが、薬剤耐性のHCVが出現する頻度だ。

 ダクラタスビルとアスナプレビルは、臨床試験の結果を見る限り、現在開発中の薬剤に比べてSVR達成率が低めで、薬剤耐性が出現する頻度が高い。

 HCVのNS3/4AやNS5A領域(図1)のアミノ酸配列のうち、特定のアミノ酸が置換されると、薬剤の治療効果が減弱することが分かっている。

 ダクラタスビルとアスナプレビルの第3相試験では、治療に失敗した34人中29人で、NS3/4A、NS5A領域の両方に薬剤耐性に関係するアミノ酸置換が認められた(Kumada H,et al. Hepatology.2014;59:2083-91.)。

 一部の患者は、治療開始前からこうした薬剤耐性に関するアミノ酸置換があることも確認された。元々、NS5A領域のアミノ酸配列にY93Hの置換がある患者に限ると、2剤併用によるSVR24の達成率は43.3%(13/30)だった。

 ある領域にアミノ酸置換があった場合、今後発売される同じ作用機序の別の薬剤も効かない可能性がある。特に、NS5A領域の耐性は数年にわたって残存するといわれている。

 こうした結果を踏まえ、広島大の茶山氏は「治療開始前に耐性置換の有無を調べた上で治療するのが望ましいだろう」と話す。現在のところ保険適用にはなっていないが、エスアールエル、ビー・エム・エルなどの臨床検査受託会社が、これらの薬剤耐性変異の検査を受託している。

 B型慢性肝炎の治療では近年、核酸アナログ製剤であるラミブジン(商品名ゼフィックス)、アデホビルピボキシル(ヘプセラ)、エンテカビル水和物(バラクルード)が使われてきた。

 6月に公表された「B型肝炎治療ガイドライン(第2版)」では、核酸アナログ製剤の投与によるB型肝炎ウイルス(HBV)-DNA量の変化に応じて、使用する核酸アナログ製剤を見直す方針が新たに示された(図4)。

図4 ガイドライン第2版で示された核酸アナログ製剤の効果に応じた次の治療薬選択の考え方

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 HBV-DNAが陰性化していれば「治療効果良好」と見なし、エンテカビル単独の場合はそのまま継続する。ラミブジン単独の場合は耐性変異出現の可能性を考慮して、エンテカビルに切り替える。アデホビルは腎機能障害や低リン血症などの副作用が知られており、4~5年間の投与でクレアチニンが0.5mg/dL以上増加した症例が3~9%あったと報告されている。そのためラミブジン/アデホビル併用、またはエンテカビル/アデホビル併用の場合は、そのまま継続するか、アデホビルを新たに登場したテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(テノゼット)に置き換えることも可能とされた。

 一方、HBV-DNAが陰性化していない患者は「治療効果不良」と見なし、ラミブジン/テノホビル併用またはエンテカビル/テノホビル併用に変更あるいは変更可能とされた。

 「これまでラミブジン耐性でエンテカビルが奏効しない場合などは治療選択肢がなかったが、テノホビルが使えるようになったことで治療方針を明確に打ち出すことができた」とガイドラインの責任著者を務めた帝京大学内科学講座教授の田中篤氏は話す。

ドラッグフリーを目指す試みも

 C型肝炎と異なり、B型肝炎では核酸アナログ製剤を飲み続ける必要がある。服用している間は高率でHBV-DNA陰性となるが、中止するとウイルスの複製が再開されて肝炎が再燃するケースが多いからだ。ただ、若年層の患者が生涯にわたって服薬することを希望しなかったり、副作用の発現や経済的な事情などでやむなく服用を中止せざるを得ないこともある。

 こうした場合に核酸アナログ製剤を中止した後の肝炎再燃を抑える手段として注目されているのが、「sequential療法」だ。これは、核酸アナログ製剤を服用中にIFNを一定期間併用し、その後IFN単独に切り替えて核酸アナログ製剤を中止する方法。核酸アナログ製剤とIFNを併用せず、IFN単剤に切り替えることもある。成功すれば、治療薬を生涯飲み続ける必要がなくなる(ドラッグフリー)。

 第2版では「sequential療法を推奨する明確な基準はないが、少なくともHBe抗原が陰性化した症例または陰性例、かつHBV-DNAが持続陰性の症例に対して、HBs抗原陰性化を目指して行われることが望ましい」とされ、改訂前よりも対象となる患者像や治療目標が明確になった。

 既に国内でのsequential療法の成績に関する発表も出てきている。武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)消化器科の玉城信治氏は、sequential療法の治療効果を検討した多施設共同研究の結果を今年6月に開催された日本肝臓学会総会で発表した。

 核酸アナログ製剤を1年以上服用した患者52人に、核酸アナログ製剤とPEG-IFNα-2aを4週間併用した後、PEG-IFNα-2aを単独で44週間投与したところ、54%がドラッグフリーになった(図5)。再燃により核酸アナログ製剤を再開したのは16%だった。

図5 sequential療法による治療効果(提供:玉城氏)

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厚生労働省研究班「B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究」が作成した「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針2012」において、核酸アナログ製剤の中止成功は「ALT 30IU/L未満かつ血中HBV-DNA 4.0logコピー/mL未満」と定義されている。

 sequential療法の問題点は、どのような患者で奏効するかが明らかになっていないことだ。現在、ガイドラインの作成委員を務めた信州大学内科学第二講座教授の田中榮司氏が中心となり、厚生労働省の肝炎等克服緊急対策研究事業として、sequential療法の有用性に関する研究を進めている。今後、効きやすい患者像が明確になれば、核酸アナログ製剤を中止できる患者が増える可能性がある。

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