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漢方のエッセンス
清心蓮子飲
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 上盛下虚(じょうせいかきょ)とは、上半身が実証なのに下半身が虚している(腎虚)というアンバランスな状態である。下半身が虚しているために虚火(虚熱)が上半身に上昇して熱証を呈する。慢性的な体調不良を抱えながら生活や仕事を続けざるを得ない人によく見られる。本方は、その虚実の不均衡を調整するのが特徴である。

どんな人に効きますか

 清心蓮子飲は、「気陰両虚、心火旺」証を改善する処方である。

 人体に必要不可欠な構成成分は、気・血(けつ)・津液(しんえき)1)である。気を陽気、血と津液を陰液2)と呼ぶこともある。この陽気と陰液の陰陽バランスが整っていると健康体でいられるが、バランスが崩れると、体調不良や病気の根本原因になる。

 気虚は、陽気が不足している体質を指す。消化吸収機能をはじめとし、全身の機能や興奮性が低下しているような状態である。元気がない、疲れやすい、無気力、手足がだるい、食欲不振などの症候を伴う。

 一方、陰液が不足している体質を、陰虚という。体液が不足しているので、乾燥や脱水が生じる。

 陰虚証になると、体液の不足により、相対的に熱証が強くなって表れやすい(陰虚火旺[いんきょかおう])3)。これは全身の抑制性が低下して相対的に興奮性が高まっている状態であり、自律神経系の興奮や異化作用の亢進が生じている状況に等しい。

 陽気と陰液は陰陽互根4)の関係で密接につながっており、一方が不足すると他方も不足しやすく、両方が不足する状況が生じやすい。この気虚と陰虚が同時に存在する証が「気陰両虚」である。興奮性の低下(気虚)と亢進(陰虚)が混在する状態である。

 陰虚により生じた熱邪が上昇し、五臓の心に至ると「心火旺」証になる。この証になると虚熱が生じるので、いらいら、焦燥感、不眠、多夢、不安感、のぼせ、口渇、喉の渇き、口内炎、唇の乾燥、胸部の苦悶感、動悸、微熱、午後からの熱感、手のひらや足の裏のほてり、寝汗などの症候が表れる。

 泌尿器・生殖器系においては、脱水による尿量減少や濃縮尿、排尿痛、尿の濁り、血尿、あるいは自律神経系の緊張による頻尿、残尿感、さらに脳の興奮性の過亢進による遺精、そして気虚による固摂作用5)の低下が原因で生じる出血(気不摂血[きふせっけつ])の不正性器出血などが見られる。

 舌は赤く乾燥しており(陰虚火旺の舌象)、付着する舌苔は少ない(陰虚の舌象)。

 臨床応用範囲は、気陰両虚、心火旺の症候を呈する疾患で、自律神経失調症、不眠症、更年期障害、高血圧、口内炎、膀胱炎や尿道炎などの慢性の尿路感染症、膀胱神経症などの神経症、前立腺炎、前立腺肥大症、腎盂腎炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支炎、糖尿病などである。泌尿器系の疾患に多用される傾向にあるが、こだわる必要は全くない。

 上盛下虚は上実下虚ともいい、体内に虚実が夾雑している状態である。根本には、長期にわたる体調不良や疾患があり、そのために体力や機能が衰えて下焦6)が虚した状態となる。すると内熱などの病邪をコントロールできなくなり、それが風船のように体内を上昇して上焦で病態が表れるのである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、蓮肉(れんにく)、麦門冬(ばくもんどう)、黄ごん(おうごん)、地骨皮(じこっぴ)、人参、黄耆(おうぎ)、茯苓(ぶくりょう)、車前子(しゃぜんし)、甘草の九味である。

 君薬の蓮肉(蓮子)は心火を清め(清心)、腎陰を補う(益腎)。全身を滋潤して脳の興奮性を鎮める。遺精を止める働きもある。

 臣薬の麦門冬は陰液を補い(滋陰)、体液を潤して熱を冷まし、異化作用の亢進を鎮めて消炎解熱する。

 他は甘草以外佐薬であり、黄ごんは熱証を冷まし(清熱)、鎮静、降圧する。地骨皮も清熱するが、こちらは虚熱を冷ます力が強い。人参は気を補い、脾の機能を高める(補脾益気)。黄耆も脾胃の機能を高め、気を補う。人参と黄耆の組み合わせにより、補脾益気の力が強まる。茯苓は脾の機能を立て直して湿濁を運び去り(健脾運湿)、脾胃の機能を調整(和中)して止瀉する。車前子は利水して泌尿器系の熱を去り(利水通淋[りすいつうりん])、滋養作用で下焦を強める。茯苓と車前子の利尿作用により膀胱の緊張が緩和され、泌尿器系への刺激が軽減する。

 甘草は、使薬として脾胃の機能を調えて気を補いつつ(益気和中)、諸薬の薬性を調和する。

 以上、清心蓮子飲の効能を「益気滋陰、清心火、利水」という。鎮静と興奮の両作用によりバランスの失調を緩解させ、諸症状を改善する。

 いらいら、動悸、不眠など心火旺が強ければ、黄連解毒湯や酸棗仁湯(さんそうにんとう)を合わせ飲む。口渇など乾燥が強い場合は麦門冬湯や六味地黄丸を合方する。遺精で上盛下虚がない場合は桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)を使う。

 泌尿器系の症状の場合、加齢によるものなら八味地黄丸、炎症が強く痛みや熱感を伴うなら竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、慢性化したものには五淋散などを検討する。本方は、上盛下虚の傾向にある場合や、ストレスや緊張による排尿トラブルによく使う。

 上盛下虚の諸症状については、陰虚火旺証の頭痛や肩凝りには六味地黄丸、肝陽化風証のふらつきや耳鳴りには釣藤散、脾胃不和証の嘔吐や下痢には半夏瀉心湯、衝任虚寒証の冷えのぼせや月経不順には温経湯、寒痰証の喘息や気管支炎には蘇子降気湯(そしこうきとう)などを使う。

 出典は『和剤局方』である。

こんな患者さんに…【1】

「繰り返し膀胱炎になります。心配事が多いときに悪化します」

 疲れやすく、頻尿で、排尿時に不快感を伴う。のぼせと口渇がある。気陰両虚、心火旺とみて本方を使用。3カ月で完治した。

こんな患者さんに…【2】

「いらいらして眠れません。口内炎も治りません」

 疲れているのに眠れない。眠っても夢をよく見る。悩み事が続いているという。気陰両虚、心火旺とみて本方を使用。1カ月で口内炎が治り、2カ月ほどでいらいらと不眠が改善した。

用語解説

1)気は生命エネルギー、血は血液や栄養、津液は正常な水液に相当する概念。気・血・津液が多からず少なからず適量がさらさらと体内を流れていれば、人は健康である。
2)陰液には精も含まれる。精は腎に蓄えられる生命の源、生命エネルギーの基本のこと。
3)陰液が足りないために相対的に勢いを増した熱邪を虚熱と呼ぶ。
4)陰と陽は互いに助け合い、依存し合っている。この関係を陰陽互根という。
5)固摂作用は、気の作用の一つで、生命に必要なものが体外に漏れ出るのを防ぐ。
6)漢方には三焦(さんしょう)という概念があり、人体を大きく三つに分け、胸から上を上焦、真ん中を中焦、臍から下を下焦という。

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