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適応外処方のエビデンス
カンデサルタンで再燃前立腺癌患者のPSAが低下
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

疾患概念・病態

 日本における前立腺癌の罹患者数(全国推計値)は約4万2000人で、男性の癌の1割を占める。65歳以上の高齢男性に多い1)

 前立腺癌の治療法としては大きく、(1)前立腺特異抗原(PSA)監視療法、(2)手術療法、(3)放射線療法、(4)薬物療法─がある。前立腺癌は、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲンの刺激により進行することから、アンドロゲンの分泌や働きを抑えるホルモン療法が広く施行されている2)。中心的な薬剤は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストである。

 だが、ホルモン療法を長期間施行すると、癌のホルモン依存性が消失し、去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer:CRPC)、いわゆるホルモン療法抵抗性となって、PSAが再上昇するなど臨床的に再燃を来すという問題がある。去勢抵抗性の機序についてはまだ十分解明されておらず、転移性前立腺癌の治療上の課題とされている2)

治療の現状

 CRPCに対して、抗アンドロゲン薬とLH-RHアゴニストを併用するCAB(combined androgen blockade)療法で使用される抗アンドロゲン薬を中止すると、PSAの低下や症状の改善が認められることがある(anti-androgen withdrawal syndrome:AWS)。このAWSの確認について、日本の前立腺癌診療ガイドラインでは、「有効性・効果持続期間が比較的限られるが、長期間にわたって効果が持続する症例もあり、日常臨床でも推奨される」と評価されている(推奨グレードB:科学的根拠があり行うよう勧められる)。同様に、CAB療法で使用される抗アンドロゲン薬を別の抗アンドロゲン薬に変更する交替療法についても、「副作用が少なく一定の有効性が期待できる」と評価されている(推奨グレードB)2)

 米国泌尿器科学会のCRPC診療ガイドライン2013年度改訂版(2014年5月発表)では、転移の有無、ドセタキセル(商品名タキソテール他)による治療歴の有無、症状の有無、全身状態(performance status:PS)によって、患者を6群に分けた上で、治療法が推奨されている。薬剤としてはLH-RHアゴニスト、抗アンドロゲン薬、タキサン系抗癌剤(ドセタキセル、カバジタキセル)などが挙げられているが、日本未承認の薬剤も含まれる3)

カンデサルタンの有効性

 66歳で高血圧を合併し腰椎に転移を持つ前立腺癌患者に、抗アンドロゲン薬のビカルタミド(カソデックス他)を投与したところ、PSAが3250ng/mLから12カ月後に0.02ng/mLにまで低下した。その後、PSAが18.6ng/mLに上昇したため、抗癌剤などによる治療を試みたが効果なく、1000ng/mLまで上昇してCRPCとなった。さらに、骨転移のため脚に重度の疼痛が生じ、歩行できなくなった。

 ビカルタミドだけで経過観察していたところ、心不全を発症したため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のカンデサルタンシレキセチル(ブロプレス)4mg/日を投与した。すると、その後にPSAが245ng/mLまで低下し、10カ月間にわたって270~479ng/mLを維持した。患者はオピオイドを使用しなくても疼痛が改善し、歩行できるようになった4)。この症例で、PSAの低下や症状の軽減が見られたのは、カンデサルタンによるものと推測された(表1)。

表1 前立腺癌患者へのカンデサルタンの処方例

 CRPC患者23例(平均年齢75.9歳)に対して、カンデサルタン8~12mg/日を1日1回4カ月以上経口投与した。全例に転移巣があり、骨転移13例、軟部組織転移2例、骨および軟部組織転移8例だった。カンデサルタン開始1カ月前に抗アンドロゲン薬を中止し、内分泌療法はLH-RHアゴニストとデキサメタゾン(0.5~1.0mg/日)のみであった。

 その結果、8例(34.8%)にPSAの低下が認められた。うち6例はPSAが50%以上低下し、半数の3例では90%以上低下した。残りの2例は、PSAの安定化が見られたものの、最終的には上昇した。PSAの再上昇までの抑制期間は、カンデサルタンでPSAが減少した患者では8.3カ月(1~24カ月)、PSAが安定化した患者では4カ月(2~6カ月)であった。

 1例では肺転移巣の大きさが12.5%減少したが、前立腺癌の再発により36カ月後に亡くなった。12例(52.2%)でPSが安定し、鎮痛薬が減量できた。副作用は1例でのみ低血圧による全身倦怠感が発現したが、カンデサルタンによる治療が継続できた5)

作用機序

 前立腺や精巣、精巣上体などでは、アンジオテンシンII(AII)が局所的に産生されている。前立腺癌細胞、特にCRPC細胞で多く発現しているAIIタイプ1(AT1)受容体にAIIが結合すると、細胞増殖が促進される6、7)。AT1受容体は前立腺間質細胞にも発現しており、AII刺激によって細胞増殖が促進されるとともに、炎症性サイトカインあるいは増殖因子のインターロイキン(IL)6、IL1α、IL8、単球走化性因子(monocyte chemoattractant protein-1:MCP1)などが分泌される6、7)。これらのサイトカインはいずれも、CRPCを増悪させる要因となることが分かっている。

 例えばIL6は、CRPC細胞の重要な増殖因子の一つと考えられており、IL6が多いと癌細胞のアポトーシスが起こりにくくなってしまう。IL1αは、他の多くの癌で血管新生や浸潤に促進的に働くことが知られている。IL8は、男性ホルモン非存在下であってもホルモン依存性前立腺癌の増殖を促進する。MCP1は、胃癌で血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor :VEGF)の分泌と相関することが知られており、AIIが前立腺癌間質細胞を刺激することにより、VEGFなどの血管新生因子の分泌を介して、血管新生を促進すると推測されている7)。

 カンデサルタンは、前立腺癌細胞、特にCRPCに多く発現するAT1受容体を遮断して、IL6などの炎症性サイトカインの産生を抑制する。その結果、抗炎症作用や血管新生抑制作用が主に働いて、抗腫瘍作用につながると推測されている。

適応外使用を見抜くポイント

 表1の処方箋から、適応外使用されているかどうかは判断しがたい。前立腺癌患者であることが分かっていれば、デキサメタゾン(1mg/日の少量投与)はPSAが再上昇した際の改善目的と考えられる。デキサメタゾンは、グルココルチコイド作用が強い半面、ミネラルコルチコイド作用が弱いので、副作用が軽減できる利点がある。

 ラフチジンは、デキサメタゾンの胃腸障害予防で使用されているが、カプサイシン感受性知覚神経に作用して神経因性疼痛にも作用が期待できることから、転移を含めた腫瘍による疼痛の軽減効果も期待されたと予測できる。

 こうして見ると、カンデサルタンは、一見、高血圧への処方と思われる。もちろんその可能性もあるが、前立腺癌の治療目的である可能性もある。 ちなみに、正常血圧の患者では、カンデサルタンによる血圧下降はほとんどない。

 なお、高血圧を合併している前立腺癌患者では、前立腺癌治療を兼ねて、これまでの高血圧治療薬がカンデサルタンに変更されることもある。まずは患者の疾患を確認することが重要である。

参考文献
1)がん情報サービス(前立腺がん)
http://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/
2)前立腺癌診療ガイドライン2012年版
3)Casteration-Resistant Prostate Cancer : AUA Guideline (http://www.auanet.org/common/pdf/education/clinical-guidance/Castration-Resistant-Prostate-Cancer.pdf
4) J Urol. 2005;173:441.
5) Int J Clin Oncol. 2005;10:405-10.
6)泌尿器外科 2012;25(臨増):865-9.
7)日本臨床 2012;70:1604-12.

講師 藤原 豊博
AIメディカル・ラボ、薬剤師
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始。同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。

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