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医師が語る 処方箋の裏側
男性にも有用な桂枝茯苓丸、脳梗塞後遺症の排便障害を改善
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

 上の処方箋は、降圧薬などと一緒に、漢方薬の桂枝茯苓丸を処方した際のものである。桂枝茯苓丸は、月経不順や更年期症状といった女性特有の不調の改善によく用いられる漢方薬。患者の桂木春雄さん(仮名、62歳)が男性であることに、違和感を覚える方がいるかもしれない。

 実は、桂木さんは当院を受診する3カ月前、左中大脳動脈領域に脳梗塞を起こし、右片麻痺などの後遺症が残った。2カ月半のリハビリテーションを経て退院し、当院で医学的管理を受けながら、自宅でリハビリを続けることになった患者である。

 頭部CT写真を見ると、梗塞巣に加えて軽度の脳浮腫が認められた。腹部を打診すると鼓音がして、腹部X線写真では腸管内に多量のガスが認められた。桂木さんは疲れたような表情で「入院中はずっと便秘で、そのせいか食欲もない。体もこわばって動かしづらい」と訴えた。

 こうした病態の背景にあるのが、血流の滞り、すなわちお血(おけつ)である。お血は確かに婦人病の多くに関与しているが、脳外科医から見ると脳梗塞も、脳の中で血管が詰まって水が溜まり、お血を来す疾患といえる。桂木さんの便秘や食欲不振、体のこわばりは、脳梗塞後のお血による脳や腸の浮腫に起因すると考えられた。中でも便通障害は、お血を改善して腸の浮腫を取るだけで軽快する例を私は多く経験している。そこで桂木さんには、病院で処方されていた降圧薬、血栓形成抑制薬に加え、お血の改善作用が強い桂枝茯苓丸を処方した。

 1カ月後の再診時、桂木さんは見違えるような明るい表情で来院。「便秘が治って3食をきちんと食べられるようになり、生活にリズムが付いて、体のこわばりも軽くなった」とうれしそうに話した。お血が脳梗塞後遺症の一因となること、改善に桂枝茯苓丸が有用であることを、薬剤師の皆さんにもぜひ知っておいていただきたい。(談)

工藤 千秋氏
Kudoh Chiaki
くどうちあき脳神経外科クリニック(東京都大田区)院長。1985年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。英国バーミンガム大学、東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどを経て2001年にクリニックを開設。日本脳神経外科学会専門医・評議員、日本認知症学会専門医、日本脳神経外科漢方医学会評議員。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療にも力を注いでいる。

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