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薬理のコトバ
SGLT2阻害薬
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

講師:枝川 義邦
早稲田大学研究戦略センター教授。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学環境医学研究所助手、日本大学薬学部助手、早稲田大学高等研究所准教授、帝京平成大学薬学部教授などを経て、14年3月より現職。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 9月に入り、季節が変わる準備に心を向けていく時期になった。暑かった夏を想い名残惜しさに心を痛める一方で、来る秋の味覚は待ち遠しい。思う存分楽しむためには心身ともに健康が大事、過食のため糖尿病を発症しては本末転倒だ。とはいえ、糖尿病の治療にも、これまでにないメカニズムの薬剤が使われ始めている。

 今回は、従来の糖尿病治療薬にはなかったメカニズムで注目を集めるSGLT2阻害薬についてまとめてみよう。

原尿からの再吸収を抑制

 腎臓は、血液を濾過し、老廃物などを尿として体の外に排泄する役割を担う。腎臓の糸球体で濾過されてできる原尿には、体に必要な物質も含まれているが、原尿が尿細管を通って膀胱にたどり着くまでの間に、電解質などを再吸収して血液に戻す仕組みが備わっている。

 血液中の糖はわずかに腎臓の糸球体で濾過され、原尿中に含まれることがある。とはいえ、糸球体を出てすぐの近位尿細管で100%再吸収されるので、健常人では尿糖が体外に排泄されることはない。しかし、インスリンの作用が不十分になると、尿中に排泄されるようになってくる。糖尿病の始まりだ。

 糖尿病に対する既存の薬物療法は、血糖値を下げるために、主として身体の糖利用を促進させるという発想で構築されてきた。だが、今回取り上げるナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬は、“糖の排泄”を促すという、これまでなかったメカニズムの薬剤。血液中の糖を減らす方法として、体の外に積極的に出すというのは確かに妙案だ。

 SGLTは「sodium-dependent glucose transporter」の略称で、ナトリウムイオンと同時にグルコースを運ぶ役割の蛋白質、つまりトランスポーターのことだ。SGLTには6種類のサブタイプが知られていて、SGLT2は腎臓の近位尿細管に限局した発現をしているのが特徴。近位尿細管における再吸収で、ナトリウムイオンが1個運ばれるときに同時にグルコース1分子を血中に戻すように働く。

 原尿中に漏出した糖を血液中に戻すというSGLT2の役割は、あたかも川に逃げた魚を捕まえ、背後にある“生けす”に投げ入れる漁師のようだ。この再吸収のメカニズムによって、健常人では尿中に糖が排泄されない。

 だが、糖尿病の状態になると、糸球体濾過される糖量も多くなるので、再吸収が追い付かずに尿中排泄されてしまう。原尿中の糖量が多い状態が続くと、尿細管のSGLT2が増量され、血液中に再吸収される糖量が増えるという悪循環が繰り広げられるようになる。

 ここに奏功するのがSGLT2阻害薬。SGLT2にくっついて働きを阻害し、糖の再吸収を妨げることで血液中の糖量の上昇を抑える。さらに、原尿中の糖濃度が高まることによる浸透圧の上昇が、利尿作用を生じる。この尿量の増加は糖排泄をさらに増やす。薬剤によっては1日70g以上もの大量の糖を排泄するので、カロリー減少による減量も期待できるというわけだ。

蛋白結合率などに差異

 既に臨床現場での使用が始まっている薬剤は幾つかあるが、それぞれの性質が異なるので複雑だ。区別するためには、SGLT2への選択性、蛋白結合率、血中半減期などを考慮するのがよい。個々のSGLT2阻害薬の名称は一見ややこしいが、よく見ると一般名には全て「グリフロジン」が付くので、実は覚えやすいのではないか。

 カナグリフロジン水和物(商品名カナグル)、イプラグリフロジンLプロリン(スーグラ)は、SGLT2選択性が低く、蛋白結合率が高く、血中半減期は長いという性質を持つ。グルクロン酸抱合で代謝されるため尿中の未変化体の割合が低いのも特徴だ。一方、トホグリフロジン水和物(アプルウェイ、デベルザ)、ルセオグリフロジン水和物(ルセフィ)、エンパグリフロジンは上と逆の性質を持つ。ルセオグリフロジンとトホグリフロジンは肝臓の薬物代謝酵素チトクロムP450(CYP)により代謝を受けるところも異なる性質だ。ダパグリフロジンプロピレングリコール(フォシーガ)はこれらの中間の性質を持つ。

 これらの薬剤は、糸球体から原尿中に出て、尿細管の管腔側からSGLT2に結合して作用するとされる。ということは、蛋白結合率が低い方が早く尿に出るので作用には有利ということになろうか。

 SGLT2阻害薬の副作用の一つは体重減少。これは糖尿病患者にとってはむしろ朗報で“副効用”ともいうべきか。他の副作用には利尿作用による頻尿があり、1日に約400mLも尿量が増えるという。そして、尿糖が増すことで尿路および性器感染症にかかりやすくなることにも注意が必要だ。

 ターゲットが腎臓なだけに、腎機能に不安がある場合や高齢者などでは注意を要するが、これまでの治療で充分な効果が得られていない糖尿病患者にとっては魅力ある薬剤だ。

 秋の準備は夏を忘れることではない。生活習慣病でも継続した取り組みが大切だ。夏の疲れを残さないようにしつつ、季節が連なっていく空気感も満喫していこう。

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