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「手帳がないと渡せない」でいいのか、安易な調剤拒否はすべきでない
日経DI2014年9月号

2014/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年9月号 No.203

 最初は今年の5月末だっただろうか。カウンターで薬を受け取った後、その患者はいかにも不満顔で話し始めた。「先日、別の薬局で『お薬手帳がないと薬を渡せない』と言われてね。結局薬をもらえなかったんだよ」と。

 ひどい薬局があるものだなと感じたものの、もしかしたらその患者の思い違いではないかと、その時はあまり深刻に受け止めていなかった。6月になり、そんなことなど忘れかけた頃、他の患者から同様の相談を持ち掛けられた。家族がある薬局に処方箋を持ち込んだところ、本人でないとお薬を渡せないと門前払いされたと言うのだ。

 その後も、「手帳がなければ新しく作るか、取りに戻らないとお薬を渡せないと言われた」など、程度の差こそあれ、時折同様の話を耳にする。話の様子からするに、ある特定の薬局だけということではなさそうだ。

 これは恐らく改正薬事法の影響なのだろう。2014年6月12日に施行された改正薬事法の第9条の3第3項には、「情報の提供又は指導ができないとき、その他(中略)薬剤の適正な使用を確保することができないと認められるときは、当該薬剤を販売し、又は授与してはならない」と、規定されている。

 つまり薬剤師は、患者から十分な情報が得られない場合、調剤薬を交付しないという判断をしてもよく、調剤拒否の正当な理由に当たるというのである。

 確かに医療が高度化・細分化し、リスクの高い医薬品が調剤される機会が増えれば、個々の患者に応じた適切な情報提供が必要なのはもちろん、そのための情報収集も必須になってくる。場合によっては、調剤を断らなければならない場面も出てくるかもしれない。

 「手帳がないと薬を渡せない」と説明した薬剤師は、それを忠実に実行に移しただけのつもりなのだろう(中には、薬剤服用歴管理指導料の41点を算定するために手帳を持たない患者の「調剤拒否」をしている薬局もあるかもしれないが、論ずるに値しないのでここでは言及しない)。

 しかし、よく考えてみてほしい。薬事法は何のために改正されたのか。今回の法改正で調剤薬に関して、必要な情報が得られない場合などに調剤拒否を認める内容が盛り込まれたのは、要指導医薬品に関する規制に合わせてのこと。つまり、医薬品の使用に際しての安全性確保の一環である。

 薬剤師はまじめだと、しばしば皮肉を込めて言われることがあるが、当の本人たちはそれをほめ言葉と受け取るからたちが悪い。法律の条文を文言通りに解釈して実行することだけが大切ではないと、なぜ気付けないのだろう。

 そもそも、調剤拒否をする前に、本当に情報収集に手を尽くしたのかを問いたい。お薬手帳がなかったり、本人が来られないというのであれば、本人に電話をしたり、処方元に連絡をしたりして、十分な情報を得る努力をしただろうか。また、調剤を拒否するというのなら、その責任についても十分に考えてほしい。医薬品を交付しなかった場合、使用できないことによる症状悪化などのデメリットも考えられるわけだが、そこまで考えが及んでいるだろうか。

 調剤拒否は、ともすると「薬局が患者を選ぶ」ことにもなりかねない問題である。安易な判断はすべきでない。  ちなみに、冒頭の調剤を断られた患者家族が、筆者の薬局に持参したのは「白色ワセリン」のみの処方箋だった。患者のやりきれない想いは、どこに向かうのであろうか。(十日十月)

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