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CaseStudy
木の実薬局 (埼玉県新座市)
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

 「こちらで骨密度を測ってもらえるの? お友達に聞いて来たんだけど」。木の実薬局(埼玉県新座市)の自動ドアが開き、60代と思しき女性が遠慮がちに入ってくる。「はい。骨密度だけでよろしいですか? 他にも血管年齢とか、筋肉の量なども測定できますよ」。笑顔で応対したのは、実務実習中で明治薬科大学5年生の森万里奈氏。女性を入り口脇の「健康セルフチェックコーナー」に案内しながら、測定項目や機器の使い方などをてきぱきと説明していく。これは、木の実薬局で開催している「健康相談デー」での一コマだ。

 木の実薬局では2012年10月から、毎月第3土曜日に健康相談デーを開催。患者や家族、地域住民を対象に、体組成計、血管年齢計、骨密度計、血圧計の4台の健康測定機器(写真1)を使った健康測定を行い、測定結果の説明や健康増進のためのアドバイスを行っているのだ。

写真1 木の実薬局に常設している健康測定機器

薬局を入ってすぐ左手の一角に設けた「健康セルフチェックコーナー」に、4種類の健康測定機器を常設。体重や体脂肪率、筋肉量などが測定できる体組成計と、血管年齢計、骨密度計、血圧計を無料で利用できる。測定希望者には薬剤師や医療事務員、実習中の薬学生がマンツーマンで機器の使い方を説明し、スムーズに測定できるようにしている。

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体組成計など4台を常設

 木の実薬局が健康測定機器を待合室に設置したのは11年12月。「患者や地域の人の健康管理に役立つ測定機器を、薬局に置きたいと思ったのがきっかけだった」と、当時の管理薬剤師、矢口泰子氏(現・かくの木薬局新堀店管理薬剤師)は言う。最初に体組成計を設置したところ来局者に好評だったので、12年2月から3月にかけて健康測定機器を増やした。

 4台の測定機器の導入には数十万円が掛かった。測定結果を印字するロール紙などの消耗品代もばかにならない。測定や結果説明などは無償で行っているので、来局者が多少増えたところで採算は取れない。「会社の理解があったからできたこと。木の実薬局を地域の健康アドバイザーとなれる薬局に育てていくための投資として、購入を認めてもらえた」と矢口氏は振り返る。

 新座市内に木の実薬局など薬局3店舗を運営する株式会社かくの木は、市内で介護支援事業所と福祉用具事業所も運営しており、20年前の設立時から「医療と介護の視点を持った薬局」として地域に根ざした経営を行ってきた。木の実薬局への健康測定機器の設置は、地域貢献を基本方針とする会社だからこそスムーズに進んだといえる。

健康相談デーには、木の実薬局の薬剤師や医療事務員だけでなく、グループ他店のスタッフも応援に加わる。薬局実務実習の期間中は、グループ3店舗で受け入れている薬学生も参加。

 健康測定機器を使いやすいように、薬局内のレイアウトも工夫した。入口寄りの壁沿いに長テーブルを据えてその上に機器を置き、スムーズに測定ができるように配置。測定結果の説明やアドバイスは、プライバシーを守れるよう間仕切りの付いた投薬カウンターで行うようにしている(図1)。

図1 健康セルフチェックの流れ

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「相談デー」で来やすさ向上

 こうしてスタートした「健康セルフチェックコーナー」だったが、最初のうちこそ1日に何人も利用者があったものの、次第に利用者が減っていった。健康チェックを受ける人には、初回は必ず一人ずつ薬剤師などの薬局スタッフや薬学生が付き添って、測定方法や結果の説明、健康アドバイスを行うようにしていた。だが「使い方を教えて、結果も説明してとなると、調剤が忙しい時間帯は手が回らなくて。結局、何カ月かすると、薬局からもあまり積極的に測定を呼び掛けなくなってしまった」と、木の実薬局に当時勤務していた、かくの木薬局新堀店の松葉真弓氏は打ち明ける。

 この状況を変えたのが、松葉氏が海外研修で訪れたドイツで目にした光景だった。ドイツには年1回、6月に「薬局の日」があり、その日は全国の薬局で血糖値などの無料測定や健康相談を大々的に行う。「ドイツ国民に健康意識を持ってもらうための取り組みで、国民にも『薬局の日』の存在が周知されている。そんな光景を見て、木の実薬局でも『健康測定の日』を作れば、もっと地域の人が気軽に来られるようになるのではとひらめいた」と松葉氏は言う。

 初回の健康相談デー開催は12年10月。その月は、たまたま第3日曜日が休日当番で開局することが決まっていたため、その前日の土曜日と合わせて2日間行うことにした。開催告知チラシを作り、グループ3店舗で来局した患者に手渡して「ご家族でもご近所の方でも、どなたでも測定に来てください」と呼び掛けた。初日は、チラシを受け取った患者がちらほらと来た程度だったが、2日目は「薬局で健康測定をしてもらえると聞いたのですが、無料ですか?」「予約は必要ですか?」という電話が来るなど情報が口コミで広がり、2日間で50人を超える人が訪れた。

 その後も毎月、第3土曜日に開催日を固定することでリピーターも増えた。「継続してもらうことが大事なので、健康相談デー以外での測定でも『わたしの健康手帳』(写真2)を渡している。測定結果を6回分書き込める記録用紙が2枚目、3枚目になっている人もいる」と、木の実薬局管理薬剤師の松永みどり氏は手応えを語る。

写真2 「わたしの健康手帳」を使った測定結果の管理

測定結果は、希望者に無償で提供しているA6判のノート「わたしの健康手帳」に薬剤師や薬学生が貼付・記入して、健康管理に役立てやすいようにしている。測定結果を経時的に記入する「健康チェック測定記録」には、1枚に6回分が記録できるが、既に2枚目、3枚目になっている来局者も。

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「健康相談デーを定期的に開くことで、健康測定が受けられ、健康について相談できる薬局であるということを地域住民に認知してもらいたい」と話す、木の実薬局の松永みどり氏。

実習生の学びの機会にも

 健康相談デーに健康測定を受けに来る人数は平均して40~50人。実務実習期間中に健康相談デーがある場合は、集合研修として、グループ薬局で受け入れている薬学生も木の実薬局に集まり、測定や健康相談を体験する。取材に訪れた7月19日は、明治薬科大学の森氏の他、昭和薬科大学5年生の小山智生氏と城西大学5年生の並木美仁氏が応対に当たっていた。

 薬学生たちが口をそろえるのが、健康測定に訪れる人の健康意識の高さだ。「普段の実習で服薬指導する患者さんとは違って、積極的に質問して来る」(小山氏)。「主婦の方に栄養指導で生半可なことは言えない。私よりよっぽど知識がある」(並木氏)。松永氏は「自分よりも健康への知識が豊富で、人生経験も長い来局者に対して何ができるのか、この体験を通じて考え、学び取ってほしい」と話す。

開催を続け地域に浸透

 来局者を増やす工夫も行っている。「熱中症対策は万全ですか」。毎月の健康相談デーの告知チラシには、こんなキャッチコピーとともに月替わりのテーマが記され、当日は店内のホワイトボードにテーマに沿った情報が掲示される(図2)。「何かテーマがあれば来るきっかけになりやすいかと。血圧計の割引販売をしたり、麦飯の試食会をしたりと、試行錯誤を重ねている」と松永氏。

図2 健康相談デーの告知チラシと月替わりテーマ

定期的に健康チェックを受けに来てもらえるよう、月替わりのテーマを入れた告知チラシを毎月作成して、グループ3薬局で薬剤交付時などに一緒に手渡している。当日はテーマに沿った情報の掲示に加え、健康管理に役立つ食品などの試食会や割引販売を行うことで来局者数を増やしている。

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 2年近く健康相談デーを開く中で、木の実薬局に健康測定機器があり、測定や相談を行っているという情報が地域に周知されてきた。地域のお年寄りの集会で、測定を実施してほしいという依頼も受けるようになった。

 今後の課題は、健康相談デーの運営の効率化だ。門前の診療所は土曜日も診療しているため、「当日は外来と健康測定の担当者を大まかに分けているが、外来が忙しくなるとどうしても健康測定が後回しになる」と分析する松永氏。「今後、地域の健康ステーションとして健康測定などに取り組む薬局が増えると思うが、そうした薬局と情報を共有し、より良い方法を一緒に考えていければ」と期待を寄せている。(内山 郁子)

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