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特集:
情報不足がトラブルを招く 要注意例には複数人で対応を
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

 在宅業務でよくあるトラブルの一つが、患者・家族からのクレームや理不尽な要求。本誌の調査でも、訪問時間や薬剤師の業務内容に関するクレームの経験が多数寄せられた(下の別掲記事)。

私が経験した「困った患者さん」(調査の自由意見より)

事前に確認した時間にお伺いしたが、「こんな時間に来られたら迷惑」と言われた。(30代男性、三重県)

患者自身が壊した物を、薬剤師が片付けた時に壊したと言い掛かりを付けられた。(30代女性、東京都)

そもそも薬剤師の仕事に理解がなく、医院の配達係と考えられていて、「配達なのに、あれこれうるさい。医者に言い付けてやる」などと言われた。(50代男性、新潟県)

薬剤師Aが物を盗んだと、周囲に偽り、“盗んだ”品物を返すよう何度も連絡がある。(40代男性、埼玉県)

90代の独居男性の自宅を初めて訪問した時、ヘルパーのいる時間に伺ったが、「何しに来た。薬は要らん」とつえを振り上げられた。(50代女性、京都府)

パンツ1枚の患者家族に他の部屋に上がるよう執拗に促された。(20代女性、東京都)

「薬がどうしても見付からない」と言われ、訪問してみると、ないと思い込んでいただけだった。(30代男性、大阪府)

高齢者施設の80代女性。寂しいから毎週来てほしいと、最多で月8回呼び出された。薬のことかと思って行くと、訪問入浴やデイサービスの曜日を変更したいといった介護関連の要望だったことも。(30代女性、徳島県)

夕食の買い出しを頼まれた。(50代男性、神奈川県)

訪問する前にスーパーで寿司を買ってきてほしいと依頼された。(40代女性、東京都)

居留守を使われ、電話すると、郵便受けに薬を入れておくよう言われ、お金を払ってもらえなかった。(40代女性、神奈川県)

 訪問日時や薬の不足に対するクレームの多くは、患者側の誤解によるもの。とはいえ、薬剤師のちょっとした配慮で、こうしたトラブルを防いだり事後対応をスムーズにしたりできる。

 例えば、あらかじめ訪問日時を決めておくだけでなく、訪問する直前に電話で確認する。服薬カレンダーに薬をセットしたら、その場で患者・家族と確認し合うとともに、服薬カレンダーの写真を撮っておく─などだ。

 また、トラブルに至らない小さなミス(ヒヤリハット)であっても、後に悪質なクレームや事故につながる可能性もあるため、記録に残しておくことが望ましい。グループホームや訪問看護ステーションなどを運営するフジケア(北九州市小倉北区)取締役副社長で、自身も看護師・ケアマネジャーである白木裕子氏は、在宅でのスタッフのミスが後にトラブルを招いたケースを経験している。具体的には、「数年前にホームヘルパーが水をこぼしたせいで、今になって床が腐食した。弁償してくれ」「旅行先で買った置物をヘルパーが落として壊した。同じ物はお金で買えるが、思い出はお金では買えない。どうしてくれるのか」といったクレームだ。

 白木氏は、「ヒューマンエラーも含め、たとえ小さなミスやトラブルであっても、会社への報告を徹底させることが大事」と話す。インシデントリポートは、上記のようなクレームを受けた場合に、事業者側が正当な事後対応を行ったことを示す証拠となるほか、他のスタッフに事例を共有すれば、同じミスを起こさないよう注意を喚起できる。

 薬剤師側に過失がある場合は速やかに対処すべき。ただし、「対応はその場で判断せず、薬局に持ち帰って対応法を協議する」「改めて薬局の管理者が出向く」など、トラブル発生時の対策やフローを、薬局内であらかじめ整備しておくことも必要だ。

「小さなミスでも会社に報告するよう徹底させて」と話す、フジケアの白木裕子氏。

訪問先のルールを事前確認

 一方、薬剤師のささいな言動が患者の誤解や不信感を招き、トラブルに発展したり、訪問を拒否されたりすることもある。「在宅では、患者・家族の方針やルールに薬剤師が合わせるのが基本」と、クラフト(東京都千代田区)薬局事業部在宅推進室課長の藤森真紀子氏は話す。

 患者宅でのルールとは、「玄関ではなく勝手口から入る」「入れ歯を使用しているが、本人は隠しているので知らない振りをする」などで、実に多様。「薬剤師が訪問するようなケースでは、既に他の介護保険サービスを受けていることが多い。初回訪問の前にケアマネジャーに相談し、患者の性格や訪問時の注意点を教えてもらうと安心」と藤森氏はアドバイスする。

 患者の性格や言動には、認知症などの疾患が関与していることも多いので、訪問診療を行う医師から、事前に情報を得ておくことも欠かせない。

 とはいえ、認知症患者であっても、ゆっくりと丁寧に話せば理解してくれることもある。「事前に情報を得ておくことは必要だが、それによって先入観を持ち、患者の尊厳を損なうような接し方をしてはならない」と、そらちぶと調剤薬局(北海道砂川市)開設者の福地隆康氏は注意を促す。

キーパーソンを必ず把握

 事前情報という点では、家族関係についても注意を払っておきたい。在宅ケアでは、患者本人だけでなく、家族と関わる機会も多いからだ。患者と家族の間、あるいは家庭内で、過去の不和や介護・経済的負担などの繊細な問題を抱えていることもしばしばある。うっかり口を挟んで事態を悪化させてしまうことのないよう、家庭内でのキーパーソンを把握しておくようにしたい。

 ちなみに、訪問に当たり、社会人としてのマナーを身に付けておくべきことは言うまでもない。藤森氏によると実際、若い薬剤師が訪問時に挨拶しなかった、玄関で靴を脱ぎ散らかしたといったマナーの悪さを指摘され、以降の訪問を拒否されたケースがあるという。

密室でのトラブルも念頭に

 一方、在宅ケアは患者宅という閉じた環境下で行われるため、患者や家族による暴力やセクハラといった迷惑行為のリスクをはらんでいる。

 こうしたリスクに関しても、ケアマネジャーや訪問医などから、あらかじめ情報を得ておきたい。例えば高次脳機能障害のある患者は、社会的行動障害の症状として、突然大声を上げたり、性的に興奮したりすることもある。

 女性の薬剤師では対応が困難なことが予想される場合、男性薬剤師が担当する、薬剤師2人で訪問するといった体制を取るのが望ましい。複数人で訪問することは、トラブルの抑止力となるだけでなく、患者の様子や生活状況を異なる視点で評価できる、患者・家族との会話の中からより多くの情報をキャッチできるなど、アセスメントの幅が広がるメリットもある(表2)。

表2 薬局スタッフが複数人で訪問するメリット(取材を基にまとめ)

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 さかい薬局グループ(福岡県田川市)では、メディカルパートナー(MP)と呼んでいる事務スタッフと薬剤師の2人1組で患者宅を訪問する体制を取っている。代表取締役で薬剤師の坂井美千子氏は、「訪問中の容体の急変など、不測の事態にも迅速に対応できる、バイタルチェックの結果や患者と薬剤師との会話をその場で記録できるなど、MPと薬剤師が2人1組で訪問することのメリットは大きい」と話す。

 人手不足などの理由で、薬局スタッフが複数人で訪問することが難しい場合は、訪問看護や訪問介護などと同じタイミングで訪問するという方法もある。

 介護保険で賄われるサービスは、通常、あらかじめ組んだケアプランに沿って行われるため、ケアマネジャーに確認すれば、他の訪問系サービスの日時は分かるはず。「女性患者の中には、男性が家に上がることを怖がる人もいる。患者の性別を問わず、特に初回は看護師やヘルパーの訪問に合わせた方がいい」と白木氏は話す。

 なお、暴力やセクハラ行為への抑止力としては、契約時に用いる重要事項説明書の中に、「患者の行動が従業員の生命に危害を及ぼす恐れがある場合は、薬局から契約を解除することがある」という主旨を盛り込んでおくのも一つの方法だ。

行政とのつながりも重要

 また、在宅業務に臨む際には、予期せぬトラブルに遭遇した時の対応策も念頭に置くべき。その一つが、高齢者虐待や介護放棄(ネグレクト)だ。

 厚生労働省の調査によると、2012年度の高齢者虐待(養護者によるもの)の相談・通報件数は約2万4000件、そのうち虐待と判断されたケースも1万5000件に上り、決してまれではない。

 在宅ケアに関わる以上、虐待の兆候に気付いたら早期に対応することが求められる。多くの地域では、行政の福祉担当部局や地域包括支援センターに相談・通報窓口を設けている。

「他職種とのつながりを持っておくと、予期せぬ事態に遭遇した時にも素早く対応できる」と話すカネマタの高橋眞生氏。

 カネマタの高橋氏は、実際に介護放棄や、極度に不衛生な環境で生活している事例に遭遇した経験がある。ケアマネジャーや主治医のほか、地域包括支援センターにも連絡を取り、社会福祉士や精神科診療所の医師などに協力を依頼したという。高橋氏は、「ケアチームや行政とつながりを持っておくことが大切」と強調する。

表3 患者・家族とのトラブルと対策のポイント(取材を基にまとめ)

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私はこう対応しています!(調査の自由意見より)

できる限り、患者と2人きりにならないようにする。また、初回は必ず医師に同行させてもらい、医師と薬剤師の間に信頼関係があることを示すようにしている。(30代女性、京都府)

中身が見える透明なバッグを使用している。実際のところ、在宅ケアの現場で窃盗は起きているので、1対1ではなく、同席者がいる状態で訪問薬剤管理指導を行うことが最も重要なのかもしれない。(40代男性、埼玉県)

家の中では、必ず患者の目の届く範囲内にいるようにする。(50代男性、兵庫県)

患者・家族に対して、「質問はありませんか。何かあったらお気軽に電話してください」と伝え、患者サイドが発言しやすい環境づくりを心掛けている。不安や不満は小さいうちにくみ取ることが大事。(30代男性、北海道)

ゆっくり話を聞くようにしている。患者や家族の声を傾聴し、決して否定せず、受け入れることが大切。トラブル発生時も慌てず、相手の主張の信ぴょう性や、早急に対応すべきかどうかをしっかりと判断する。万一、謝罪が必要な場合は、必ず上司と一緒にすぐに訪問し、対応する。(30代男性、兵庫県)

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