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SGLT2阻害薬指導のポイント
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

 2014年4月に1製品、5月に4製品、新しい作用機序を持つ糖尿病治療薬、ナトリウム依存性グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬が国内で相次いで発売された。糖尿病患者の血液中の糖分を、尿と一緒に排出させることで、病態の改善を目指すというこれまでにない作用機序の薬だ。この薬の服用によるグルコースの排出量は1日50~100gとも言われている。

 血糖コントロール不良の患者に対する新しい選択肢として有望視される一方で、重篤な副作用も見られ、糖尿病の専門医は安易な使用に警鐘を鳴らす。SGLT2阻害薬を使いこなし、糖尿病患者の疾患コントロールに役立てる方法が模索されている。

 SGLTは、腎臓や腸、心臓など体内の様々な場所に存在する膜蛋白質で、ナトリウムイオンとグルコースの輸送を担当している。幾つかのサブタイプが存在するが、グルコースの再吸収に関係しているのはSGLT1とSGLT2だ(図1)。腎尿細管におけるSGLT1、SGLT2の役割は、糸球体で原尿中に排出されたグルコースをもう一度血中に取り戻すこと。グルコースは人体にとって重要な栄養源であるため、無駄なく活用する仕組みが備わっている。腎尿細管における糖の再吸収の90%が、SGLT2によるものだ。

図1 SGLT2阻害薬の作用機序

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 SGLT2阻害薬は、SGLT2に結合して、原尿中のグルコースが血液に再吸収されることを防ぐ。有効成分は、リンゴの樹皮に含まれる天然化合物フロリジンを改変した化合物だ。SGLT2遺伝子の突然変異により、グルコースの再取り込みが阻害される家族性腎性糖尿病という疾患があり、この疾患の患者は、尿糖値が異常に高いが、血糖値は正常で、正常な人とほとんど同じ生活を送れる。この家族性腎性糖尿病と同じ状態を、経口投与する薬によって引き起こすことを狙ったのがSGLT2阻害薬といえる。

 血糖値が低い場合には、原尿中へのグルコースの排出が減るため、単剤で使用した場合、SGLT2阻害薬の作用が低血糖につながる可能性は低い。また、インスリン分泌を促進させないことから、血糖値が低下した場合には、肝臓に蓄積されたグルコースが放出され、血糖値を維持する機構が機能する。低血糖のリスクが低いのは、糖尿病治療薬として重要な特徴だ。

 2014年7月末の時点で販売中のSGLT2阻害薬は、4成分5製品。スーグラ(一般名イプラグリフロジンLプロリン)、フォシーガ(ダパグリフロジンプロピレングリコール)、ルセフィ(ルセオグリフロジン水和物)、それにデベルザとアプルウェイ(共にトホグリフロジン水和物)だ。これ以外にも2014年7月にカナグル(カナグリフロジン水和物)が厚生労働省の承認を得ており、14年8月には発売見込み。エンパグリフロジンも13年10月に厚労省に承認申請済みで、14年中に承認される見通しだ。

 現在販売中のSGLT2阻害薬は、薬価収載後1年間は、処方期間が最長で2週間に制限されている。また、65歳以上の患者については、市販後調査の対象になっており、発売後3カ月は全例を登録して治療経過を1年間追跡することになっている。

専門医による注意喚起

 SGLT2阻害薬は、機序が新しいことから、発売前から副作用が心配されていた。尿から糖を排出するために、泌尿器や性器で細菌が増殖しやすくなり、感染症が増えることを危惧する声の他、グルコースの排出により尿管側の浸透圧が高まり、水分の再吸収が抑制されて尿量が増えるという浸透圧利尿作用による脱水や、脂肪代謝の亢進によるケトン体増加などの副作用を懸念する声が出ていた。

 これらの副作用はSGLT2阻害薬の効果と表裏一体のものだ(図2)。尿糖上昇に伴いHbA1c値は下がり、エネルギー喪失により内臓脂肪も減少するが、一方で筋肉量減少(サルコペニア)やケトン体の上昇が誘発される。また尿量が増えることで、体重減少や血圧低下が想定されるほか、脱水に伴う腎機能障害や、脳梗塞などの循環器系疾患が生じる可能性もある。

図2 SGLT2阻害薬の作用と副作用

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 日本初のSGLT2阻害薬としてスーグラが発売され、市販後の情報が集まってくると、副作用の傾向も明らかになってきた。そこで、糖尿病専門医が組織したSGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会は、14年6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を発表した。低血糖、ケトアシドーシス、脳梗塞、全身性皮疹などの副作用の事例と対策を述べ、慎重な使用を推奨するものだ。

 Recommendationが最初に挙げたのは、低血糖の事例だ。SGLT2阻害薬は単剤では低血糖のリスクは低いとされているが、インスリンやスルホニル尿素(SU)薬などを併用している患者では低血糖が生じていた。同委員会は、SGLT2阻害薬とSU薬を併用する場合には、SU薬の減量を検討する必要があるとしている。これはDPP4阻害薬に対する注意喚起と同じものだ。また同委員会は、SGLT2阻害薬の臨床試験では、インスリンなどとの併用における有効性・安全性は検討されていないことにも言及している。

 この他、ケトアシドーシスの事例は、極端な糖質制限を実施している患者に生じたことから、このような患者での使用には注意を促している。また脳梗塞については、体液量減少により症状発現に至る可能性があるとし、脱水を起こしやすい高齢者や利尿薬を併用している患者には、十分な理由がある場合のみSGLT2阻害薬を投与することなどを求めている。

 同委員会の考えでは、今のところ有用性も安全性に関する懸念も、全てのSGLT2阻害薬で同程度だ。ただし、スーグラで見られた全身性皮疹や紅斑の副作用が、他のSGLT2阻害薬にも当てはまるかどうかは不明としている。同委員会の委員である東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授は、「SGLT2阻害薬は、少しずつ使用を広げ、糖尿病治療の中での位置付けを決めていくべき薬。薬剤師は安全性情報を優先して説明してほしい」と話している。

表1 販売中と今後発売が見込まれるSGLT2阻害薬の特徴(編集部まとめ)

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肥満の患者は新薬を歓迎

 それでは臨床の医師は、どのような患者にSGLT2阻害薬を用いているのだろうか。東京女子医科大学東医療センター内科部長の佐倉宏氏は、「非高齢の肥満している患者で、本人の希望があり、2週間に1度通院することに同意できる患者」と対象を説明する。

 糖尿病では薬剤選択の幅が広がり、投与する薬も患者の病状、生活や好みにより異なる。SGLT2阻害薬が選択される順位は今のところ、インスリンやメトホルミン、SU薬、DPP4阻害薬、GLP1受容体作動薬など既存薬の後だ。インスリンやSU薬のように、糖尿病治療薬の中には投与によって体重が増加するものがある。このため肥満で、これ以上に体重を増やしたくない患者が、SGLT2阻害薬の処方を希望する場合が多いという。

 ただし、佐倉氏は、禁忌や慎重投与の対象になっている患者に加え、既存薬で血糖コントロールに成功している人や、非肥満者、腎機能や肝機能に不安がある人には処方していないという。女子医大東医療センターでは遠方から通院する患者も多いため、2週間の処方制限がハードルになる場合もある。結果として、6月末の時点でSGLT2阻害薬の処方を受けているのは数人程度と多くはない。

 女子医大の糖尿病センターで2013年の糖尿病治療薬の処方ランキングで1位だったのはDPP4阻害薬。佐倉氏は、「DPP4阻害薬を振り返ってみると、発売当初から安全性が高いという感触があった。SGLT2阻害薬は副作用に対する懸念があるため、DPP4阻害薬に比肩するほどには伸長しないだろう」と予測する。ただし「2週間処方の制限が外れたり、高齢者の全例調査での安全性評価の結果が明らかになれば、処方量はある程度は増えるだろう」と付け加える。

「最初は厳格な適正使用を行い、市販後調査や臨床研究の結果に応じて、徐々に適正使用の範囲を拡大するのが望ましい」と語る、東京女子医科大学東医療センターの佐倉宏氏

 一方、近隣の患者が多いために、2週間処方制限の影響を受けにくい開業医の状況はどうだろうか。糖尿病専門医である熊野前にしむら内科クリニック(東京都荒川区)院長の西村英樹氏は、「興味のありそうな人には勧めているが、対象は限定しており、処方自体は少ない」と話す。同クリニックでも、非高齢で肥満の患者十数人がSGLT2阻害薬を使用しているのみだ。

 ただし、BMI35以上の高度な肥満の患者では、体重減少作用は大きな魅力になっており、服薬コンプライアンスは高い傾向がある。同クリニックでSGLT2阻害薬の投与を受けた患者で、性器感染症を生じたために投与を中止した例では、患者は感染症治癒後の服薬再開を希望しているという。

服薬指導では水分摂取を徹底

 今のところ数は少ないものの、SGLT2阻害薬を処方される糖尿病患者は今後、増加が予測される。薬局ではどのように対応していけばいいのだろうか。

 糖尿病患者の指導を30年以上にわたって継続してきた薬局恵比寿ファーマシー(東京都渋谷区)薬剤師の佐竹正子氏は、「SGLT2阻害薬を使用している患者に、夏場、まず強調するのは水分補給」と話す。猛暑日が続く中、SGLT2阻害薬による尿量増加に伴う脱水は非常に危険だからだ。「1日に、500mLのペットボトル1本分の無糖の水分を、普段より多く摂取するように指導している」と佐竹氏は言う。

 一方、脱水に次ぐ特徴的な副作用である尿路や性器の感染症については、排尿時や性器にむずむずするような違和感がないかを確認している。尿路・性器感染症は糖尿病患者以外でも珍しくない疾患だが、罹患したことがない人もいるからだ。異常を感じた場合には、内科や泌尿器科などの受診を勧めるが、まだSGLT2阻害薬になじみがない医師もいるため、薬の説明資料を渡し、医師に見せるように伝えているという。

 SGLT2阻害薬では体重減少効果が比較的早期に表れる。そこで患者が高いモチベーションを保ちながら治療と向き合えるようになることを同氏は期待している。「2013年に日本糖尿病学会は、HbA1c7%以下という血糖コントロールの目標値を示した。しかし、従来の薬物治療と生活改善だけでは、なかなか7%を突破できない人がいる。SGLT2阻害薬でまず体重減少効果が現れれば、患者のやる気を引き出し、より良い生活習慣を獲得するきっかけになるのではないか」と佐竹氏は言う。

 副作用が懸念されるとはいえ、血糖管理の選択肢が増えることは糖尿病患者の治療にとってはプラスだ。長期間使用した場合の安全性と効果、SGLT2阻害薬間の比較など、この薬に関する情報は今後も増えていく見込みだ。薬局では、薬剤情報のアップデートに注意を払う必要がある。

表2 SGLT2阻害薬を服用している患者に対する指導のポイント

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