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ヒヤリハット
生活パターンから生じる利尿薬の服薬トラブル
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

 利尿薬を飲むと、その作用によりトイレが近くなる。日々の生理現象が少し変化するにすぎないと見過ごしがちだが、このようなちょっとした変化でも、患者の服薬コンプライアンスが悪化することがある。このため、患者の生活パターンと薬剤の作用特性を踏まえて、適確な服薬指導を行う必要がある。

 患者は生活スタイルや職業によって様々な事情を抱えている。利尿薬のように、その作用が毎日の生活リズムに変化を与えそうな薬剤を服用している患者に対しては、治療効果だけでなく、日常生活への悪影響などについても積極的に確認することが重要である。患者にとって、治療よりも生活や仕事を優先したいという誘惑は大きい。この薬は私の日々の生活には合わない、と考えれば、患者は指示通りの時間に服薬しなかったり、完全に服薬をやめてしまう可能性さえある。

 薬の作用に対する患者の捉え方は多岐にわたることを常に認識し、効果のみに注目するのではなく、患者の日々の生活への細かい影響などにも関心を持つべきである。

 今回は、筆者らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員や全国の薬剤師から寄せられた事例の中から、利尿作用が原因となる服薬ノンコンプライアンスの事例を紹介する。

 なお、筆者らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例は、無料で閲覧が可能である。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから(http://www.iphiss.jp/i-phiss/i-phiss.html)。

■何が起こったか

 フルイトラン(一般名トリクロルメチアジド)を朝ではなく、自己判断で昼あるいは夜に服用していた。また時に、服用しないこともあった。

■どのような経緯で起こったか

 患者は、処方箋1を数年にわたって服用していたが、フルイトランを朝食後に服用すると利尿作用によりトイレが近くなることを心配していた。そして午前中に用事があるときなどは、自己判断で昼あるいは夜に服用したり、時に、服用しないこともあった。

 薬歴には、フルイトランの服薬状況に関する記載が全くなく、患者はこのような服用タイミングの調節を数年続けていたと思われる。

主治医に相談、代替薬を検討

 このケースでは、患者の服薬状況に関する情報を入手せず、服薬コンプライアンスが悪化していることを、患者から聞き出せていなかった。

 降圧利尿薬であるフルイトランは、投与後100分以内に最大利尿を示し、その利尿作用は約6~7時間持続することが報告されている1)。このような作用により、日常生活に大変な不便さを感じている患者がおり、それが原因でコンプライアンスが悪化する可能性を薬剤師は認識しておく必要がある。フルイトランをはじめ、各種利尿薬の作用時間と体内動態パラメーターについて表1にまとめた。

表1 利尿薬の作用時間と体内動態2)

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 本症例においては、数年間の患者の服薬状況を確認し、患者がフルイトランによる利尿作用に困っていることや、患者の服薬コンプライアンスが悪いことについて主治医に説明した上で、フルイトランに関しての代替薬の検討を依頼した。その結果、当該患者においては、以下のように別の降圧薬(ニューロタン)へ処方変更となった。

 今回のケースでは薬剤師はこう対応できればよかった。「朝食後にフルイトランを服用するとトイレが近くなり、昼前に何か用事があった場合に困っていらっしゃったのですね。フルイトランは血圧を下げるお薬ですが、同時に尿も増やします。同じ血圧の薬でトイレに行きたくなることのないお薬に変更できます。先生にご相談してもよろしいでしょうか」。

■何が起こったか

 夜間頻尿の症状を気にして、ラシックス(フロセミド)の服用を自己判断で中止していた。

■どのような経緯で起こったか

 処方薬は毎回、患者の家族が来局して受け取っていた。ある日、いつものように来局した患者の家族に薬を交付しようとしたところ、「ラシックスは残っているから要らない」と言われた。詳しく事情を聞くと、「夜、寝ているときに何度もおしっこに行きたくなるから飲まない」と言って、ラシックスをほとんど服用していないことが分かった。

 この患者は、医師からラシックスを「おしっこが出る薬」と説明されていた。薬剤師は患者の家族に対し、朝服用したラシックスの作用は夜間にまで影響しないことを丁寧に説明し、患者にも伝えるように指導した。

トイレに行きたくなるタイミングを伝える

 患者が、朝食後の服用で夜まで頻尿になると思い込んでいたことは、医師や薬剤師による服薬指導に問題がある。薬剤師は、患者が夜間頻尿の症状で悩んでいることをインタビューなどで把握できていなかった。

 フロセミド40mgを健常成人に投与した場合の血中半減期は0.35時間と極めて短い。その利尿効果は、健康成人に経口投与した場合、経口投与後1時間以内に発現し、約6時間持続することが知られている(表1)。朝服用したフロセミドの作用は夜間にまで影響しないと考えられる。フロセミドは、日中の尿量を増やし、夜間の排尿を抑制する狙いで夜間頻尿の治療に用いられることもある。

 薬剤の作用・副作用は、作用持続時間まで考慮して説明する。場合によっては、上記のような定量的な情報を分かりやすく説明しながら、患者の病態に応じてきめ細かく指導することが必要である。

 このケースの場合、薬剤師は次のように説明すればよかった。「ラシックスはおしっこの出をよくして、体のむくみを取ったり、血圧を下げて心臓の負担を軽くしたりするお薬です。お薬を飲んで数十分で効果が出、6時間程度持続します。なお、朝食後に飲まれたお薬は、夜間にまで影響しません。夜にトイレに行く回数は増えることはありませんので、安心して服用してください」。

■何が起こったか

 担当した薬剤師は、患者の病名や症状を確認せず、薬剤の主な作用の説明だけをした。患者に処方された意図以外の内容も含んでいたため、患者は処方薬を誤解し、服薬ノンコンプライアンスに至った。

■どのような経緯で起こったか

 この患者は、慢性うっ血性心不全と診断された。血圧は正常値範囲内で、むくみの自覚症状もなかった。薬剤師は、レニベース(エナラプリルマレイン酸塩)は高血圧症や慢性心不全(軽度~中等度)の治療に使用すること、ラシックスは循環血流量の減少により血圧を下げることや、むくみの治療に用いることを説明。患者は「血圧は低いし、むくんでもいない。トイレが近くなるし薬を飲む必要はないのでは」と考え、薬を飲まなかった。唯一、医師から「心臓のためのお薬、ジゴキシンを出しましょう」と言われていたのを覚えていたため、ハーフジゴキシンのみを服用していた。

薬を飲む理由を丁寧に説明する

 薬剤師が患者の症状や病名を確認せず、薬剤情報提供文書の内容を読み上げただけ、という行為は問題である。薬局での説明と医師の話が異なることも服薬ノンコンプライアンスの原因の1つであろう。服薬指導での薬剤師の対応は、患者の服薬コンプライアンスに大きく影響する。薬物療法の知識を高めることはもちろん、処方医との連携を密にし、個々の患者に適した説明をするよう心掛ける。服薬指導では、患者が抱く疑問や不安などを確実に拾えるよう、コミュニケーション能力を磨くことも重要である。

 このケースでは、以下のように患者に説明すればよかった。「慢性うっ血性心不全と診断されたのですね。血圧は特に高くなく、むくみもないのですね。今回処方されたお薬ですが、ハーフジゴキシンは、心臓に直接働いて筋肉の収縮力を強くします。レニベースは、体の末端の血管を拡げ、血液の流れを良くします。ラシックスは、体を循環している血液の量を減らす働きがあります。どちらも心臓の負担を軽くするものですから、全てきちんと飲んでくださいね」。

■何が起こったか

 ラシックスを仕事が休みの日(隔日)のみ服用していることが判明した。

■どのような経緯で起こったか

 患者は寡黙なタクシードライバー。薬剤師はβ遮断薬のアーチスト(カルベジロール)の副作用が出ていないことは確認していたが、生活環境を把握できていなかった。

 交付時に患者が、「おしっこの出る薬はこれだよね?」と一包化の中のラシックスを指さし、質問した。何か気になることがあるのか尋ねると、「タクシードライバーなので、仕事中はトイレが近いと困るから、この薬はいつも仕事が休みの日だけ服用している。医師には話していない」とのことだった。

 運転席に長時間座り続けるタクシードライバーは頻繁にトイレに行くことが難しく、生活も不規則になりやすい。薬剤師は、ラシックスは心臓の負担を減らすための大切な薬なので、自己判断で服薬を中止しないように伝え、患者の了解を得て医師に連絡した。

■何が起こったか

 「夜中に何回もおしっこに行くようになったら嫌だ」と考え、ラシックスを指示通り服薬しなかった。

■どのような経緯で起こったか

 担当医は、「おしっこが出やすくなる薬を出しておきます」と患者に話していた。また薬剤師は、ラシックスが利尿薬であることのみを説明し、その効果が発現する時間や、持続時間に関する詳しい情報を提供しなかった。患者が受け取った薬剤情報提供文書にも、ラシックスについて「利尿作用を示し、利尿による循環血流量の減少などにより血圧を下げます」と書いてあった。患者は、夜間にトイレの回数が増えることを恐れて、毎日服用しなかった。

 これも、Case2と同様、医師や薬剤師による服薬指導が不十分だったことが原因と言える。高齢の男性で夜間頻尿による睡眠不足を心配する人は多いが、口に出しにくい悩みである。薬剤師は、患者が夜間頻尿の症状で悩んでいないかどうかを把握するよう努めなければならない。

 このケースでは薬剤師は「ラシックスは朝服用すれば、1時間以内におしっこが出やすくなり、それが6時間程度持続します。しかし、寝る時には効果はかなり低下しているのでご安心ください」と話し、毎日服用するよう説明した。

(東京大学大学院教授 薬学系研究科 医薬品情報学講座・澤田康文)

参考文献
1)最新医学 1960;15:2725-31
2)龍原徹、澤田康文『ポケット医薬品集2014年版』(白文舎、2014) p.402-3
3)J. Urol. Nephrol.1966;72:581-90

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