DI Onlineのロゴ画像

Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
医療従事者に対してコミュニケーションスキルを訓練すると終末期患者の役に立つのか? ほか
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

画像のタップで拡大表示

 臨床家はコミュニケーションが大事だという意見に反対する人はいないだろう。医療訴訟でも、起こってしまった事故そのものより、患者・家族とのコミュニケーション不足の影響が大きいという話も聞く。

 今回の論文は、研修医およびナース・プラクティショナーを、コミュニケーションスキルの集中的な訓練をするグループと、通常の教育をするグループとに分け、終末期患者へのコミュニケーションの質を検討したランダム化比較試験(RCT)だ。

 ある程度のコミュニケーション教育を受けている医師や看護師と、そのような教育を全く受けていない世代の薬剤師とでは違いがあるかもしれない。だが、6年制薬学部を卒業した若い世代の中には、医師や看護師と同等以上のコミュニケーション教育を受けて卒業する人もいるかもしれない。そう考えるとこの論文は、薬剤師にも十分当てはまるのではないだろうか。

 結果は厳しいもので、コミュニケーションスキル向上訓練をしようがしまいが、終末期患者が回答したコミュニケーションの質(QOCスコアで測定)にはほとんど差が見られなかった。

表1 訓練群と対照群におけるQOCスコア、うつ病スコアの差

画像のタップで拡大表示

 もちろん、4時間×8回程度の訓練でコミュニケーションが上達するわけがないという意見はあるだろう。だが、学部教育のカリキュラムに4時間×8回以上の教育機会がある大学はまれだ。この論文によれば、この程度の中途半端なコミュニケーション教育は無意味だということかもしれない。もっと言えば、仮に訓練を増やしても、よい結果が出るかどうかは分からない。医療従事者のコミュニケーション訓練は、終末期患者には無意味なのかもしれない。

 この論文では、患者のうつ症状も評価しており、訓練を受けたグループで、うつ症状スコアがむしろ高かった。24点満点の尺度でわずか1.2点の差なので、大した差ではないとも言えるが、少なくとも良くはなっていない。

 論文の結果には思い当たることが色々ある。患者に対してあまりに共感したり、色々な話を引き出したりすると、患者がかえって憂鬱になるというのは、実際の現場でしばしば経験する。

 訓練に有意な効果がなかったという結果を、どのように臨床に生かすかは難しい。コミュニケーション訓練の効果というのは、そもそも点数化して評価するのが困難な面がある。ただ、数値化できるような一般的な効果は認められないということは肝に銘じておきたい。医療従事者のコミュニケーションスキルが患者にとって有用だったと思う場面は多いかもしれないが、そういうときにこそ、この論文を思い出して、本当に患者の役に立っていただろうかと振り返ってみることは、無駄ではないと思う。


Q.抗菌薬投与時は、併せて乳酸菌も与えた方がよいか?
A.プロバイオティクスを投与すると、抗菌薬によるクロストリジウム・ディフィシル関連下痢症の発症が少ない。

画像のタップで拡大表示

 抗菌薬使用時に乳酸菌製剤などのプロバイオティクスを併用することは広く行われている。だから、クロストリジウムによる偽膜性腸炎が半分以下になったといっても「当たり前だろう」と思うかもしれない。だが私は、この論文で意外な結果を発見した。

 一つは、外来患者に対する抗菌薬投与でも、5.9%ものクロストリジウム感染が起きていたこと。もう一つは、プロバイオティクスの効果が大きかったことだ。プロバイオティクスの投与でクロストリジウム・ディフィシル関連下痢症が5.9%から2.0%にまで減るということは、リスク差は3.9%、治療必要数は約25人(1/0.039)となる。私の場合、抗菌薬を25人に投与するのに1カ月もかからないので、それだけで1人の偽膜性腸炎を予防している計算になる。

表2 プロバイオティクス群と対照群におけるクロストリジウム・ディフィシル関連下痢症の発症と副作用

画像のタップで拡大表示

 この研究の大きな問題点は、メタアナリシスの対象となった20件のRCTのうち13件で、5%~45%の患者でクロストリジウム感染症についてのデータが欠損していたことだった。そこで、プロバイオティクス群の欠損データは、データがあった人より5倍多くイベントが起きていたと仮定した場合の解析結果も示している。この最悪の仮定でも、相対危険が0.50(95%信頼区間0.34~0.76)と結果は変わらなかった。

 これを受けて論文の著者らは、この解析結果は欠損値が多いという問題点を考慮してもなお‘robust(頑健)’であると述べている。統計的な有意差というのは危ういものが多いが、こうした解析結果を示されると、その危うさを少しは晴らすことができる。

(本コラムは隔月で掲載します。)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ