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症例に学ぶ 医師が処方を決めるまで
感染性眼疾患
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

講師
高瀬 博
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学講師)

講師から一言

 感染性眼疾患では、ひとたび緑内障などの続発症が生じれば、薬剤の種類は倍増し、その使用法は点眼、内服薬ともに複雑なものとなる。これらの処方薬に対する患者さんのアドヒアランスを良好に保つには、医師-患者間のコミュニケーションが重要であることはもちろんであるが、薬剤師の皆さんのサポートは決して欠かす事のできない最後の砦である。ぜひご協力をお願いしたい。

 眼科領域で扱う感染症は多彩である。感染部位となる眼組織またはその付属器としては、眼球を取り巻く眼窩結合織、涙腺、眼瞼(まぶた)の皮膚、眼表面組織である結膜や角膜、そして眼球内部を構成する網膜やぶどう膜組織などが挙げられる(図1)。これらの組織に対して、細菌、真菌、寄生虫、ウイルスなどの病原体が感染すると、様々な症状が現れる(表1)。

図1 眼球および眼周囲組織の解剖図

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表1 代表的な感染性眼疾患

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 感染性疾患に対しては、病原体に感受性のある特異的な薬剤を、眼または全身に投与する。角膜のような透明組織における透明性の維持や、網膜・視神経などの不可逆的な障害、変性を防止する目的で、ステロイドの局所または全身投与の併用を必要としたり、眼圧をコントロールする薬剤を併用する場合もある。今回は、外来診療の対象となる眼感染症について、処方の考え方を説明する。

麦粒腫には抗菌薬を点眼と内服で投与

 最初に紹介するのは、25歳の女性の右眼に生じた麦粒腫、いわゆるものもらいである。麦粒腫は眼瞼に存在する腺組織に急性化膿性炎症を生じたものだ。睫毛(まつ毛)の毛根周囲で脂質を分泌しているツァイス腺またはモール腺に生じる外麦粒腫と、眼瞼内の腱板で脂質を分泌しているマイボーム腺に生じる内麦粒腫がある。今回の症例では、上まぶたの睫毛の毛根部皮膚が赤く腫れ上がって硬いしこりを形成しているのを認めた。患者は同部位に強い圧痛を感じており、外麦粒腫と診断した。

 この疾患を引き起こす菌は、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌であることが多い。そのため本症例では、幅広い抗菌スペクトルを持つニューキノロン系抗菌薬であるガチフロ(一般名ガチフロキサシン)の1日4回点眼に加え、グラム陽性菌への感受性を持つセフェム系抗菌薬のケフラール(セファクロル)を1日750mg、毎食後に内服で処方し、1週間継続とした。

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 麦粒腫に対する抗菌薬投与は、再燃を防ぐために、患部の発赤・腫脹が軽減しても1週間は内服を継続する。本症例は1週間後の再診では軽度の発赤を伴うしこりは残存していたが、まぶたの腫れと圧痛は著明に改善していた。そのため、ケフラールの内服は終了し、ガチフロの点眼のみを1週間継続した。さらに1週間後の診察では病変は完全に消失しており、抗菌薬点眼も終了した。

 麦粒腫の多くは薬物療法によく反応する。患部の皮膚が薄くなり、膿を持った黄色い点(膿点)が見えてきた場合は、注射針を用いた穿刺やメスによる切開により膿を排出させると、より早期の治癒につながる場合がある。この際には、ケフラールの内服に加えて、タリビッド(オフロキサシン)の眼軟膏を1日2回、排膿部に塗布する。

感染性結膜炎は原因微生物の見定めが肝要

 次に、感染性結膜炎の20歳女性の症例を紹介する。結膜炎は主に充血や眼脂(目やに)を伴うが、原因微生物により治療方針が異なる(表2)ため、それぞれの特徴的性状から診断する必要がある。この患者は、1週間前から右眼の充血・眼脂があり、その後、左眼も同様となったため来院。両眼ともに眼内に炎症所見はなく、毛様充血、白色の粘度の高い眼脂を認めた。また、結膜に生じる、内部にリンパ液を内包した小さな水ぶくれである瞼結膜濾胞も確認された。

表2 様々な原因で生じる結膜炎とその治療

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 耳前リンパ節の圧痛、腫大もあり、まずはアデノウイルスによる流行性角結膜炎(EKC)を疑った。眼脂を検体としたアデノウイルス迅速検査では陰性であったものの、偽陰性の可能性やアデノウイルス血清型の違いの可能性も考慮し、EKCの治療として、消炎目的でステロイド点眼薬のフルメトロン(フルオロメトロン)と、細菌混合感染に対するクラビットをそれぞれ1日4回、点眼開始した。

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 なおこの症例のように、複数の点眼薬や眼軟膏を同時刻に併用する場合の最大の注意点は、点眼薬の使用時には最低5分間の間隔を空けることである。これは、先に点眼した薬剤が次の薬剤によって希釈されるのを防ぐためである。間を5分空けるというルールが守られれば、点眼の順序には特にこだわる必要は無い。しかし、この症例におけるフルメトロンのように懸濁性点眼薬で、粘性の高い基剤が用いられている場合は、薬効成分の眼表面における持続時間が重要と考えられるため、点眼の順序は後にした方がよい。同様の理由で、眼軟膏は点眼薬よりも後に用いることを勧めている。

 1週間後の再診時、起床時の眼脂は減ったとのことであったが、充血は改善せず、瞼結膜濾胞は拡大し癒合していた。EKCにしては難治性であり、濾胞形成が強いため、眼脂にクラミジアPCR検査を実施した結果、陽性であった。早速、クラミジア結膜炎として治療方針を変更し、マクロライド系抗菌薬のジスロマック(アジスロマイシン)1g/1日の1回内服に加え、エコリシン眼軟膏(エリスロマイシンラクトビオン酸塩・コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム)1日5回点入を開始したところ、症状は軽快してきた。

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 成人のクラミジア結膜炎は性的接触による感染が最も疑わしいが、安易にそこに触れると、患者がパートナーに不信を抱くなど、思わぬ騒動の原因となることがある。この症例では、女性医師による感染源の説明と慎重な問診を実施した。その結果、患者は風俗店でアルバイトをしていたことが判明した。

ぶどう膜炎は自己免疫性か感染性かを鑑別

 次の症例は、66歳の男性である。患者は、2週間前から生じた左眼の充血、眼痛、霧視(目のかすみ)を主訴に近医を受診した。強い前房炎症と高度な眼圧上昇を認め、虹彩炎(ぶどう膜炎)と続発緑内障と診断された。

 近医では、消炎の目的でリンデロン点眼・点耳・点鼻液0.1%(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)の1日6回点眼を、眼圧下降の目的でキサラタン(ラタノプロスト)1日1回点眼、チモプトール(チモロールマレイン酸塩)1日2回点眼、利尿薬であるダイアモックス(アセタゾラミド)2錠分と利尿に伴うカリウムの欠乏を補うためのアスパラカリウム錠(L-アスパラギン酸カリウム)を処方した。

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 投薬治療にも関わらず、眼内炎症および眼圧上昇は改善せず、いずれも持続したため、当科を紹介受診した。左眼の前房には豚脂様角膜後面沈着物を多数認め、眼圧は依然40mmHgと高値だった。ぶどう膜炎の原因としては、ベーチェット病やサルコイドーシスなどの自己免疫疾患も考えられるが、この患者では、右眼には異常が無く、左眼の眼底にも異常を認めなかった。そのため、感染性ぶどう膜炎を疑い、前房水を採取しPCRを施行したところ、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)遺伝子が検出された。

 VZVに初めて感染した人は水痘(水ぼうそう)になり、終生免疫を得る。しかし、水痘治癒後もVZVは知覚神経に潜伏し、加齢や疲労などによる免疫力の低下に乗じて皮膚に帯状疱疹を生じる。眼の周囲にある三叉神経第一枝に帯状疱疹を生じると、角膜炎や虹彩炎を合併することがある。時には皮膚症状を伴わず、症状が出るのは角膜や光彩だけという例もあり、診断が難しい。

VZVぶどう膜炎は帯状疱疹に準じて治療

写真1 66歳男性、VZV虹彩炎

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 この症例も皮膚の発疹や知覚異常を伴わなかったが、VZVにより生じた虹彩炎と考えられた(写真1)。VZVによる虹彩炎を適応症とする薬剤は無いため、この場合は帯状疱疹に準じて治療を開始した。まずはバルトレックス(バラシクロビル)1日3000mgの内服を開始し、その他の治療は前医からのものを継続した。

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 バルトレックスの内服開始から1週間後には、角膜後面沈着物は消退傾向となり、前房炎症も軽減していた。ただし眼圧は、眼圧下降薬の継続にもかかわらず25mmHgと正常値を越えていた。このことから、眼内では依然VZVが活性を有しているものと推測した。そこでバルトレックスの内服は1500mgに減量しつつも継続し、さらにゾビラックス眼軟膏の1日5回の左眼への点入を開始した。

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 抗ウイルス薬と眼圧低下作用を持つ治療薬の併用の結果、1週間後の診察では角膜後面沈着物と前房炎症はほぼ消失、眼圧も18mmHgへと下降した。この時点でバルトレックスとダイアモックス、アスパラカリウム内服は中止としたが、ゾビラックス眼軟膏、リンデロン0.1%の使用は継続した。

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 VZVによる虹彩炎は治癒に時間がかかる上に、一度治癒しても再燃を繰り返したりするため、外用の抗ウイルス薬の投与を長期間続けることになる例が多い。この症例では、前房の最初の炎症が消えた後も、軽度の炎症の再燃を繰り返した。そして炎症を繰り返す度に虹彩萎縮が進行し、正常眼圧の維持が困難になっていった。

 このため、発症1年後にはVZVによる虹彩炎の続発緑内障に対する手術が実施された。発症から2年を経過した現在も、VZVの抑制と炎症の回避のため、ゾビラックス眼軟膏とリンデロン0.1%を1日1回、継続使用している。

ぶどう膜炎とは
眼の内部(眼内組織)に炎症を起こす病気を総称してぶどう膜炎と呼ぶ。ぶどう膜炎では、前房と硝子体に炎症性細胞が浸潤し、目のかすみ、充血など様々な症状を引き起こす。ぶどう膜炎は、サルコイドーシス、原田病、ベーチェット病のような自己免疫疾患に伴って生じるもの、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染によるものなど、原因も多様である。

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