(2)アモバン (1)効果発現までの時間が遅くなり、効果が減弱する可能性があるため。 今回、Fさんに処方されたルネスタは、ゾピクロン(商品名アモバン)を光学分割して得られたS体で、一般名はエスゾピクロンである。ゾピクロンは鏡像異性体(エナンチオマー)が存在し、R体とS体が同じ割合で含まれる混合物(ラセミ体)である。エスゾピクロンは中枢神経系のγアミノ酪酸(GABA)受容体複合体に結合し、GABAによる塩化物イオンの神経細胞内への流入を促進することでGABAの効果を増強し、催眠作用を示す。 ゾピクロンの薬理活性の大部分はS体に起因することが明らかになっている。催眠作用や抗不安作用への関与が示唆されるGABAA受容体の4種のサブユニット(α1、α2、α3、α5)に対するエスゾピクロンの結合親和性は、いずれもゾピクロンに比べて高かった。R体はGABAA受容体に対する親和性はなく、鎮静作用は有していないものと考えられている。また、生体内でS体とR体での相互変換はなく、R体はS体の体内動態に影響を及ぼさない。従って、ゾピクロンの薬効はS体のエスゾピクロンの量に依存すると考えられる。このため、ゾピクロンの用量は成人の場合7.5~10mgであるのに対し、エスゾピクロンは2~3mgと大幅に少なくなっている。 また、エスゾピクロンの高齢者の用量は1~2mgである。これは臨床試験によって1~2mgでの有効性と安全性が確かめられたことによる。同様に、高度の肝機能障害、腎機能障害がある患者では血中濃度曲線下面積(AUC)が増加するため、開始用量は1mg、最大用量は2mgに設定されている。 ゾピクロンと異なる点として、エスゾピクロンは添付文書の用法用量に「食事と同時または食直後の服用は避けること」との記載がある。これは臨床試験で、食後に投与した群では最高血中濃度到達時間(Tmax)が遅延し、最高血中濃度(Cmax)が低下することが明らかになったためである。食後にエスゾピクロンを服用すると、効果発現までの時間が遅くなり、効果が減弱する可能性があるため、食後の服用を避けるよう指導しなければならない。また、ゾピクロンでは認められている麻酔前投与への適応がないことも知っておくべきであろう。 副作用としては両薬剤とも苦味があり、これはゾピクロンのR体とS体がともに有する性質である。添付文書では、味覚異常の発現率がゾピクロンでは約4%、エスゾピクロンでは約36%となっており、エスゾピクロンの方が高頻度に報告されている。しかし、治験の時代背景により有害事象の抽出感度が異なる可能性もあり得る。一方、前述のようにエスゾピクロンは投与量自体が少ないため薬物の暴露量が減少し、苦味が抑えられる可能性を指摘する論文も少なくない。 ゾピクロン、エスゾピクロンともに、体内吸収後に一部が唾液中に分泌されるため、翌朝にも苦味が残ることがある。苦味は用量に依存して発現するほか、唾液量とも関係することが分かっている。 なお、睡眠薬は連用によって有効性が減弱する「耐性」の問題があるが、エスゾピクロンでは、プラセボとの比較試験で、6カ月間毎晩服用しても効果の減弱は認められていない。 イラスト:YAB 今日からお飲みいただくルネスタというお薬は、アモバンという睡眠薬の改良版です。アモバンに含まれている、構造の異なる2種類の物質のうち、一方を取り出したものです。その一方の物質に催眠作用があるため、アモバンより少ない量で効果が出ます。 また、一般に睡眠薬は飲み続けると効きにくくなるといわれていますが、ルネスタは長期間飲んでも効果が下がらないことが分かっています。飲むタイミングはマイスリーと同じで、寝る直前です。ただ、このお薬は食事による影響を受けやすく、食後にお飲みになると効果が表れるまでに時間が掛かり、弱くなってしまいます。なので、ルネスタを食後すぐに服用するのは避けてください。
参考文献 ※本クイズは、書籍『日経DIクイズ15』からの再掲載です。
出題と解答 :今泉 真知子
(有限会社丈夫屋[川崎市高津区])
こんな服薬指導を
1)医学と薬学 2012;67:871-4.
2)睡眠医療 2012;6:114-9.
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