中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部) レニン・アンジオテンシン系阻害薬や利尿薬、漢方薬など、日常的に用いられる薬剤の副作用として、電解質異常があります。また夏季によく問題となる脱水にも、電解質が深く関わっています。薬局薬剤師として知っておくべき電解質の基礎知識を整理しましょう。 電解質とは、体液中でイオンとして存在し、酸塩基平衡や浸透圧の調節を担っている物質を指す。生体の恒常性維持に不可欠な電解質(イオン)には、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)、塩素(Cl-)、炭酸水素(HCO3-、重炭酸イオンともいう)、リン酸(HPO42-)などがある。 標準的な体格の成人男性では、生体内の水分量である体液量は、体重の約60%を占める(年齢や性別により50~80%と幅がある)。体液は、細胞膜を隔てて細胞内液(体重の40%)と細胞外液(同20%)に分けられる。さらに細胞外液は、毛細血管壁を隔てて血漿(同5%)と組織間液(同15%)に分けられる。毛細血管壁は蛋白質以外の物質を透過させるのに対し、細胞膜では、トランスポーターが水以外の物質の通過を制御している。 主な電解質の分布と役割、血清基準値と異常値を呈する原因を以下に示す。 Na+: K+: 細胞内外のK+分布は、血液の酸塩基平衡c)によって大きく変動する。具体的には、pHが0.1低下すると、K+は細胞内から細胞外へ移動し、血清K+値は約0.6mEq/L上昇する。K+は神経・筋の興奮伝達や筋収縮に関与しており、血清K+値の異常は、神経・平滑筋・心筋の機能異常として表れる(表2)。 なお、低K血症を伴う高血圧症を示す偽アルドステロン症は、甘草やグリチルリチン酸を含有する薬剤が原因で起こることが多い。主な症状は、手足のしびれやこわばり、頭重感、徐々に進行する四肢の脱力や筋肉痛など。 Cl-: Ca: 血清Ca値は、腸管からの吸収、腎尿細管での再吸収、骨での形成と吸収、副甲状腺の機能の影響を受けて変動する(表3)。基準値は8.5~10.5mg/dL。 Mg: 経口摂取されたMgの30~50%は小腸で吸収され、腎排泄される。腎糸球体濾過を受けたMgの大半は尿細管で再吸収され、最終的に1~2%のみが尿中へ排泄される。 基準値は1.5~2.1mEq/L(1.8~2.5mg/dL)。Mgは他の電解質と異なり、ホルモンによる調節機構を持たないため、容易に欠乏・過剰状態に陥りやすい。 高Mg血症の初期症状は、悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠など。重篤化すると、呼吸抑制や意識障害、不整脈を来し、心停止に至ることがある。 水・電解質代謝異常を生じる主な薬剤を表4に示す。特にサイアザイド系利尿薬による低Na血症や、ACE阻害薬による高K血症はよく見られるため、これらの薬剤を使用している患者には、初期症状について繰り返し注意を促すとともに、定期的に血液検査を受けるよう指導する。 また、酸化マグネシウムによる高Mg血症の報告も散見される。腎機能低下患者や高齢者に長期間投与されている場合は注意が必要である。 最近では、癌骨転移患者などへのランマーク(一般名デノスマブ)の投与により、重篤な低Ca血症が相次いで報告されたことを受け、ブルーレターが発出された。具体的には、(1)投与前および投与後頻回に血清Ca値を測定する、(2)投与時は、血清Caが高値の場合を除き、Caとして500mg/日および天然型ビタミンDとして400IU/日を経口補充する、(3)重度の腎機能障害患者では低Ca血症を起こす恐れが高いため慎重に投与する、(4)低Ca血症が見られた場合は、CaおよびビタミンDの経口投与に加え、緊急を要する場合はCaの点滴投与を併用するなど速やかに対処する─といったことが注意喚起された。同薬の投与に伴う低Ca血症の予防・治療に適応がある薬剤として、デノタスチュアブル配合錠(沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール・炭酸マグネシウム)がある。 ランマークは4週1回の皮下投与製剤であり、院外処方箋からは投与の有無を把握できないが、デノタスチュアブル配合錠が処方されている場合などには同薬を使用している可能性を念頭に置き、初期症状や血液検査の実施状況を確認するようにしたい。 a)電解質水溶液の単位には、物質の濃度を表すmg/Lやmol/L(M)のほか、電荷量を表すmEq/Lも用いられる。浸透圧は水1kgに溶けている溶質のモル数であるmOsm/kgH2Oで表されるが、生理的な濃度範囲では通常、mOsm/Lで代用する。例えば、1mMのCaCl2溶液中で、Ca2+と2Cl-に電離している場合、CaCl2の濃度は110.9mg/L、Ca2+およびCl-のイオン濃度はそれぞれ2mEq/L、浸透圧は3mOsm/Lとなる。 b)高張性脱水は、水分喪失>Na+喪失の状態で、経口摂取不良や著しい発汗などで起きる。高Na血症を来し、細胞外に水分が移動するため口渇が表れる。一方、低張性脱水は、Na+喪失>水分喪失の状態で、慢性脱水時に水分のみ補給した場合などに起きる。循環血液量は減少し、細胞内浮腫に伴う頭痛や痙攣、意識障害が表れる。 c)動脈血の至適pHは7.35~7.45と非常に狭く、これより大きく外れると酵素反応や電解質分布、膜透過性に影響を及ぼし、致死的となる場合もある。血液pH<7.40をアシデミア、pH>7.40をアルカレミアといい、pHを低下または上昇させる病態をアシドーシスまたはアルカローシスという。 pHは動脈血ガス分析で測定するが、アニオンギャップ(AG)を用いることもある。AG=[Na+]-([Cl-]+[HCO3-])で、基準値は12±2mEq/L。AG上昇では乳酸アシドーシスやケトアシドーシスなど代謝性アシドーシスが、AG低下では低アルブミン血症や高γグロブリン・K・Ca・Mg血症などを考慮する。簡易的に、[Na+]-[Cl-]>40を代謝性アシドーシスと見ることもある。 参考文献 中村先生のひとくちコラム 入院患者の電解質異常で最も頻度が高いのは低Na血症ですが、最近、その多くが低張輸液の漫然投与に起因する可能性が指摘されています。 低Na血症を伴う体液貯留の改善には、水分過多の状態を是正するために利尿薬が投与されますが、併せて、“維持液”と呼ばれる3号輸液を投与することが少なくありません。ですが、特に腎機能が低下している高齢者では、排泄される尿中Na++K+濃度が、投与する輸液中のNa+濃度よりも高くなってしまうため、輸液を漫然と投与すると、Na+喪失が進んでしまうのです。 電解質輸液は在宅医療の現場でもよく用いられます。これを機に、電解質をマスターしてみてはいかがでしょうか。
検査値の意味と基準値
Na+は大半(97%)が細胞外液中に含まれ、血漿浸透圧の維持や細胞外液量の調節を担っている。血漿浸透圧は血清Na+値と連動しており、血漿浸透圧(mOsm/L)≒血清Na+値(mEq/L)×2で示されるa)。従って、血清Na+値の異常は、Na+そのものの過剰や欠乏状態ではなく、水とNa+の相対的な異常を示す(表1)。血清Na+の基準値は135~149mEq/L。
K+は細胞内の主要な陽イオンであり、体内の総K量の90%は細胞内に存在する。膜貫通蛋白質であるNa+-K+ATPaseによって通常、細胞外K+濃度は3.5~5.0mmol/L、細胞内K+濃度は140mmol/Lに保たれており、静止膜電位を形成している。
Cl-は、細胞外液中の主要な陰イオンである。Na+と並行して増減し、電気的中性を維持する。基準値は98~108mEq/L。Na+、K+、HCO3-などの血清濃度と合わせて、酸塩基平衡やNa+代謝異常の予測に用いられる。
Caは、生体内に最も多く存在する無機物であり、心筋の律動的収縮、ホルモン分泌、細胞内情報伝達、血液凝固などの役割を担っている。90%以上が骨と歯に局在しており、残りは筋、神経、血漿、脊髄液に存在する。血中Caの約50%はアルブミンと結合しているが、生理的に重要なのは残りの遊離Ca2+である。
Mgは主に細胞内に存在し、様々な酵素反応の補酵素として働き、DNA合成や神経・筋興奮伝達などの重要な役割を担っている。薬剤による電解質異常
補足説明
1)中原一彦監修『パーフェクトガイド検査値事典』(総合医学社、2011)
2)村上順子・西崎統編著『看護に活かす検査値の読み方・考え方』(総合医学社、2012)
3)日本腎臓学会誌2002;44:18-28.
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