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Interview
日本薬剤師会会長 山本 信夫氏
日経DI2014年8月号

2014/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年8月号 No.202

やまもと・のぶお
1950年東京都生まれ。73年東京薬科大学卒業。81年保生堂薬局入局。98年日本薬剤師会常務理事、2006年同副会長。12年6月東京都薬剤師会会長(15年6月まで兼任の予定)。14年6月より日本薬剤師会会長。05年9月から09年10月まで中央社会保険医療協議会委員を務めた。

3期6年務めた前会長の児玉孝氏との一騎打ちを制し、日本薬剤師会会長に就任した山本信夫氏。医薬分業バッシングや薬剤師不要論が噴き出す中、まずはどの薬局でも同レベルのサービスが受けられるということを示すのが肝要と唱える。新会長としての抱負などを聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明。収録日は7月3日)


─6月に日本薬剤師会会長に就任されました。立候補の動機は何ですか。

山本 前体制に対する批判的なコメントを期待されているのかもしれませんが、児玉会長が務めた3期のうち、2期は私も副会長として会長を支える立場におりましたので、問題があるとすれば3分の2は私にも責任があります。

 2年前、18年ぶりに日薬を離れて東京都薬剤師会の会長に就いてからは、足元を固めようと考えてやってきました。ですが、「医薬分業はけしからん」「薬剤師は仕事をしていない」と批判される中で、日薬を変えていく必要があるのではという声が周りから上がり始めて、私も意識するようになりました。最後は自分で立候補を決断しましたが、そこに至るまでに外堀を埋められていたようなところがあります。

─「変えなければならない」と考えたのはどういう点ですか。

山本 明治維新のように、体制をがらりと変えようというのではありません。立候補する時に申し上げたのは、薬剤師会は単独で存在しているのではないということです。行政や政治、社会、製薬企業、医薬品卸など、様々なところと関係していますが、その関係が以前に比べてぎくしゃくしているように思うので、会長になったらもう少し円滑にしていきたい。薬剤師のことを理解してもらうためにも、行政や医師会、歯科医師会、看護関係の団体などと連携していく必要があると考えたのです。

 それから、地方から挙がってくる声に、極力耳を傾けるような会務運営をしていきたいとも考えました。

─周囲との関係を改善すれば、医薬分業への批判が高まっている状況も変化するでしょうか。

山本 変わっていくと思います。医薬分業に批判が出ているのは、国民に十分にその主旨を理解してもらえていないからだと思います。そもそも批判の声が、グローバルスタンダードである分業の仕組みに対するものか、その制度の下で薬剤師あるいは薬局が十分に機能していないことに対するものかというと、私は後者だと考えています。

 日薬は創立以来、医薬分業に向けて進んできましたが、国民あるいは患者さんに対して、医薬分業についてきちんと説明できてきたかは疑問です。分業とは、医師が処方箋を書いて薬局で薬を受け取ることだと思われているから、「機械でもできることだ」と言われてしまう。つまり分業批判は、(OTC薬の供給など)薬局が本来やるべき役割を的確に果たしていないから生じていると思います。

 一方、中央社会保険医療協議会では、調剤に際して患者に説明をしていない、薬剤情報提供文書の紙を入れているだけではと言われています。こういう声に対しても、きちんとやっていることを見せていく必要があります。

 批判に対して反省すべきは反省し、説明すべきは説明していかなければなりません。「見える化」と言葉で言うのは簡単ですが、実態として見てもらえるような取り組みを、薬剤師一人ひとりが実行することが重要です。

─日薬のトップとしては、そういう取り組みを薬剤師全体に促していけるかが問われますね。

山本 日薬の会員は約10万人で、薬剤師として働いている人は病院や診療所なども合わせると、20数万人になります。全員が日薬の会員ではないし、日薬が唯一薬剤師を代表しているとまでは申しませんが、薬剤師の職務を主張していく上では大切な組織だと思うし、日薬が薬剤師の先頭に立って主張していかなければならないというのはこれまでと何ら変わりません。

 薬剤師がどういう役割を果たすべきかは、既に様々なところで示してきているので、薬剤師にはその方向を目指して仕事をしてほしいと願っています。みんなでそろってやれば、大きな力になりますから。中には難しいこともあるかもしれませんが、基本的な役割、基本的な業務については、患者さんがどの薬局に行っても同じレベルのサービスが同じように受けられるというシステムを作り出していくことが必要だと思います。

 だから、「薬剤師はこう行動する」「これは全員ができる」というものを見せていく必要があると思います。

─「薬剤師がどういう役割を果たすべきかは示している」と言われましたが、具体的に何のことですか。

山本 例えば、厚生労働科学研究事業の「薬局の求められる機能とあるべき姿」という報告書が今年1月に出されました。この策定には日薬も参画しました。また、昨年日薬が発表した「薬剤師の将来ビジョン」でも方向性は示しているし、「薬局のグランドデザイン」の中間まとめも今年6月に公表しました。

 「あるべき姿」に関して言うと、報告書に書かれていることは実は多くの薬局ができているんです。ただ、少し時間差や温度差がある部分もある。だから報告書として示されれば、「後、このくらいやれば」という目標ができる。自分たちの位置が分かれば、目標に向けて努力できるわけです。

 「薬局のグランドデザイン」の中間まとめは、前執行部が作ったものですが、今の執行部の半分は策定に関わっています。これから2025年に向かってどうなっていくのかを踏まえた上で、必要なところは採用し、修正すべきは修正しようと思っています。

─薬剤師の業務範囲についても広がる方向ではありますが、まだ不明確な部分もあります。

山本 もちろんです。以前は薬剤師は患者に触れてはいけないと言われていたのが、軟膏を塗れるようになったりと、少しずつ広がってはいます。ですが、その一方でグレーゾーンというのが必ず出てくる。ただ、グレーだからと手を出さないでいると、グレーで終ってしまいます。グレーをはっきりさせるためのアクションも、一方で必要です。

─薬剤師のことを国民に理解してもらうためには、より積極的な情報発信が必要では。また、スピード感のある取り組みも求められると思います。

山本 日本医師会がシンクタンクを設けてやっているようなことを日薬もやって、アピールしてはどうかという意見もありますが、すぐにできるものではありません。だから学者に頼んでみるとか、身の丈に合ったやり方をして、いずれ力が付けばシンクタンクのような組織を作っていく必要もあると思います。

 日薬は動きが鈍いように見えるかもしれませんが、旅客機が方向を変えるときにはゆっくりと回っていくわけで、日薬のような大きな組織が急に方向を変えると乗っている人は無茶苦茶になってしまいます。先端を走っている人から見ればまどろっこしいかもしれませんが、みんなが乗れるような仕組みを作っていきたいと思っているので、ちょっと長い目で見ていただければと思います。

インタビューを終えて

 前会長の児玉氏が“行動派”であるのに対して、山本氏は“理論派”─。そんな評判通り、山本氏の語り口は理詰めで押して来るという感じでした。

 山本氏自身が言うように、今、薬剤師に求められているのは、来るべき超高齢社会にどのような役割を担っていくのかを、国民の目に分かるように行動して見せていくことです。その意味で薬剤師は、ちょうど分岐点に立っていると言えるでしょう。新リーダーの肩に重い責任がのしかかっているのは間違いありません。(橋本)

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