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CaseStudy
アイン薬局大手町店 (東京都千代田区)
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年7月号 No.201

 東京都千代田区大手町では現在、老朽ビルを建て替える再開発プロジェクトが進行中だ。独立行政法人都市再生機構が、大手町をグローバルビジネスの戦略拠点として再構築するという目標の下、「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」を進めている。

 アイン薬局大手町店は、再開発プロジェクトで建設されたビルの1つ、大手町フィナンシャルシティ1階に入居する保険薬局だ。大手町フィナンシャルシティは、大手町駅の北側、かつて経団連会館などが建っていた場所に、2012年11月にオープンした新しいビル。地権者でもある日本政策金融公庫と日本政策投資銀行が入居している他、外資系企業ではモルガン・スタンレーグループがオフィスを構える。フィナンシャルシティの名前通り、銀行、投資会社や監査法人など、金融関係の企業が集まっている。

所属薬剤師は全員英語OK

 アイン薬局大手町店では、処方箋調剤と併せて、OTC薬や日用雑貨も販売している。来局者は近隣に勤務するビジネスマン、ビジネスウーマンが主体。年齢も40代から50代が中心となる。激務の人が多いためか、高価格帯の健康ドリンクや、OTC薬では胃腸薬などが売れ筋商品だ。薬剤師に対する相談も、金融マンのライフスタイルに即したもの、すなわち業務に支障がないよう、眠くなる成分を含まない薬や、アルコールと薬やサプリメントとの飲み合わせに関するものなどが多い。また、ビルに入居している飲食店街からのリクエストに応じて、食中毒予防向けの消毒剤も置いている。

ドリンク剤は激務のサラリーマンには人気商品。二日酔いの不快感を抑制する商品も売れ筋だ。

 しかしこの薬局の最大の特徴は、常に英語で患者対応が可能な体制をとっている点にある。新ビルにテナントを誘致するに際し、再開発共同施行者の三菱地所は、英語による医療サービスを近隣に提供することを考えた。その結果、聖路加国際病院を母体とする診療所である聖路加メディローカスとアイン薬局が、英語対応可能な施設としてビルに入居することになったのだ。再開発が進む大手町は、アジアヘッドクオーター特区指定などを通じて海外企業の誘致を進めており、今後も外資系企業は増えていくと予想される。アインファーマシーズにとっては、将来の成長を期待した出店といえる。

 アイン薬局大手町店では、4人の薬剤師全員が、英語で患者に対応できる。同社に所属する2600人の薬剤師から選ばれた人材だ。

 薬局長の井上幹雄氏は、大学院時代に研究を通じて学んだ英語が、現在の業務で使用する英語の基盤になっていると振り返り、「英語の参考文献を読む中で、薬剤師として必要な英語を学んだ」という。新潟薬科大学大学院修士課程2年時に、マサチューセッツ薬科大学で2週間の海外研修を受け、実地で英語を使用する機会も得た。その後、アイン薬局で薬剤師として勤務を始めた後も、添付文書改定にキャッチアップするためにその根拠となる英語の論文を読んだり、英語での患者対応を効率化するシステムを開発してきた。

薬局長の井上幹雄氏。英語の能力を見込まれて、新潟県の薬局から大手町店に転勤した。

 同店に所属する他の薬剤師も、薬剤師免許習得後の海外留学や、海外医療機関におけるボランティアなどを通じて、英語力を身に付けてきたという。井上氏は、「英語を学習している薬剤師にとって、業務で英語を使える場があるのはよい目標となる。患者に英語で対応する店舗があれば、英語が話せる薬剤師を採用し易くなる、という効果もある」と話す。

 アイン薬局大手町店には1日平均35人が処方箋を持って来局するが、うち5人程度で英語対応が必要になる。そのほとんどが日本で仕事をしている外国人。数は少ないが、旅行中に体調を崩した人も来る。「英語対応可能」をウェブサイトで公表している薬局は全国でも珍しいため、京都の旅館から大手町店まで、電話で問い合わせが来たこともあった。

図1 アイン薬局大手町店のレイアウト

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大手町フィナンシャルシティ1階の店舗部に入居しているアイン薬局大手町店。床面積は100平方メートルで、その4割を調剤室が占める。処方箋調剤を目的に来局する患者数は1日35人ほど、OTC薬などの購入目的で来局する顧客数は1日30人ほどだ。

薬情をまとめて英語で印刷

 アイン薬局大手町店には、設備面でも独自の工夫がある。初回質問表はもちろん、お客様カードも英語版を用意した。掲示も一部が2カ国語表記となっている。英語で医薬品の情報を提供できるよう、システムも構築した。まず、薬袋を英語で印刷するソフトを導入。さらに、医薬品情報提供書(薬情)の英語版データベースMINTSを、データベースソフトのMicrosoft Accessを使って独自に構築している。

 MINTSでは、処方内容として日本語の医薬品名(商品名)を入力すると、対応する薬情を英語で一括して呼び出せる。患者の処方ごとに各薬剤の薬情を個別に印刷するのは時間がかかるため、MINTSでは、複数の医薬品を併用している場合でも、薬情を1つにまとめられるようにした。

 このデータベースは、井上氏が前任地の新潟県で勤務していた当時に開発に着手したもの。日本人の患者が海外旅行や出張、留学に行く場合に、所持している医薬品を英語で説明できるようにしようという発想から開発を始めた。アイン薬局大手町店では外国人患者の服薬指導に主に利用しているが、グループの他の店舗からのリクエストで、海外渡航する日本人用に英文の薬情を作成することもある。

 英語対応を実現するというコンセプトで開局した大手町店の位置付けは、アインファーマシーズの中でもかなり特殊だ。同店の薬剤師は、グループ内の英語研修の一翼も担っている。2013年は3回、グループ内で薬局英語の勉強会を開催した。学習内容は、受付、欠品対応、服薬指導、会計の際に使用する英語のフレーズなどだ。研修の際には、業務で忙しい薬剤師がコストをかけずに英語学習を継続できるように、英語学習用のアプリの紹介なども行っている。

 同時に、薬局英語教育を実施する上で有効なアプローチに関する研究を実施し、2013年の日本薬局学会で発表している。この調査では、東京地区にある同社の95店舗に所属する薬剤師に、英語に関するアンケートを実施。回答を統計解析したところ、仕事の英語よりも、日常英会話学習への関心が強いという傾向が出た。そこで研修の際には、薬局英語と併せて、日常会話を教えることが、効果的な学習に結びつくのでは、と解析している。

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大手町店の開局に当たり、英語による店内表示(左)、初回質問表(中央)、アンケート用紙(右)なども作成した。

文化や制度の違いにも対応

 病気の治療に関する慣習や医療制度は国ごとに違うため、アイン薬局大手町店の薬剤師は、様々な文化や制度の違いに直面する。井上氏は、「宗教上の理由で服用できない薬はないかなど、不安なことは確認するようにしている」と話す。イスラム教徒などが忌避する、豚を原材料とする医薬品も存在するためだ。また、日本では処方箋が必要だが、海外ではOTC薬として販売されている医薬品の購入希望者が処方箋なしで訪れることもある。

 制度面での違いを表す典型的な例がリフィル処方箋だ。米国などでは、症状が安定している患者については、医師の診察なしでも定期的に薬を受け取れる処方箋がある。これは日本では導入されていない制度であるため、「リフィルが欲しい」という外国人患者には事情を説明して、医療機関を受診してもらう必要がある。薬局での会計も国ごとに手続きが異なるため、「支払いは請求書を発行してほしい」と希望する患者が来局したこともあった。

 「2020年には東京オリンピックが開催される。日本に来る外国人の数は今後も増加していくだろう。英語対応できる薬剤師を増やすことで、社会のニーズに合わせた新しい医療サービスを提供していきたい」と井上氏は話す。薬剤師が来局者に英語で応対する光景も、その頃には今よりもありふれたものになっているかもしれない。(増田 智子)

民間企業による災害時の医薬品備蓄

 企業の本社が集中する大手町の昼間人口は約10万人と推定されている。東日本大震災後、災害への備えを強化することが全国的に求められる中で、2013年11月から、アイン薬局大手町店は、大手町の災害時医療体制づくりに参加している。

 大手町フィナンシャルシティは、災害などの非常時には周辺エリアの就業者、来訪者などの要救護者を受け入れることを想定しており、1階のエントランススペースは診療スペースとして使用できるようになっている。非常用電源なども備えており、災害時にはここで、医師が負傷者などの治療に当たることになる。アイン薬局大手町店は、この際に必要となる薬や医療器材を、大手町フィナンシャルシティ管理組合が地下3階に設置した医薬品倉庫に備蓄している。

 このような、周辺地域のための災害時の医薬品備蓄を、民間企業が主体となって実施するのは初めてだという。医薬品の備蓄には薬事法の規制があり、備蓄主体が管理薬剤師を雇用し、維持管理に当たらせなければならないというハードルがあるためだ。大手町フィナンシャルシティの場合は、再開発の共同施行者である三菱地所が東京都など規制当局と協議。ビル入居者であるアイン薬局大手町店に勤務する薬剤師が、医薬品倉庫の管理薬剤師を務めることで許可を得た。また、アインファーマシーズは、薬事法に基づく卸売販売業の届け出を東京都に提出している。大手町フィナンシャルシティ管理組合が、アインファーマシーズに医薬品購入・維持管理業務を委託し、医薬品倉庫の場所も提供して、備蓄された医薬品の管理を任せるという形だ。

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 医薬品倉庫で備蓄する品目数は、阪神淡路大震災後の調査を参考にした。震災後3日間で大手町の人口の約1%が要救護となると試算し、1000人分、330品目を備蓄している。外傷の治療を想定した消毒薬や抗生物質、消炎鎮痛薬の他、総合感冒薬や抗アレルギー薬、ストレスで眠れないなどの症状に備えて睡眠薬、抗不安薬も用意している。備蓄品目は、実際に治療に当たることになる聖路加メディローカスの医師と検討。医療器具の中には、骨折セットや蘇生セットなど、内科を中心とするクリニックは通常備えていないものも含まれる。

 医薬品や医療器具には使用期限がある。期限切れの備蓄品については管理組合と、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会の資金で順次更新していく予定だ。

大手町フィナンシャルビル地下3階に設置された医薬品倉庫。緊急時に取り出しやすいよう、用途別に色分けして収納している。写真下は縫合セットの中身。すぐ使用できるよう滅菌処理し包装してある。

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