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Interview 
薬樹代表取締役社長 小森雄太氏
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年月号 No.20

こもり・ゆうた
1964年神奈川県生まれ。日本大学理工学部薬学科卒業。薬剤師。東京薬科大学大学院修士課程医療薬学専攻修了。大手製薬会社に入社し、医薬情報担当者(MR)として勤務。94年に父親が社長を務める薬樹に入社し、取締役就任。2002年代表取締役に就任し、現在に至る。

 薬樹(神奈川県大和市)は、関東1都5県に約150店舗を有する。かつてトップ10にも数えられたが、ここ数年は大量出店・全国展開に背を向け、地域密着型の店舗を展開してきた。5月には医薬品卸のメディパルホールディングス(東京都中央区)と業務・資本提携。その狙いを、小森氏に聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

─5月に医薬品卸のメディパルホールディングスと資本・業務提携で合意したと発表しました。これにはどのような狙いがあるのでしょうか。

小森 薬樹では、2012年にメディパルグループが開発した「PRESUS」という名称の調剤薬局業務サポートシステムを導入し、有償で利用してきました。これは、医薬品の自動発注、薬歴管理、レセコンなどを含む情報システムと、調剤薬局オペレーションシステムを統合したものです。これを利用することで在庫などの管理を、卸と薬局を一体化して行えるようになり、サプライチェーン全体の運用を効率化できました。

 ただ、これまでわれわれはあくまでもPRESUSのユーザーの立場で開発に協力してきました。他の薬局がこのシステムの導入を検討するのに協力しようとしても、現状のままでは、例えば日常業務を止めてまで他の薬局の見学を受け入れるのが難しい場合もあります。

 一方で、日本全体で社会保障費をいかに抑制するかが課題になっている中で、サプライチェーン全体のコスト削減に取り組むのは、私企業の利益を超えた、大きな意味での社会的正義だと思いました。そこで、PRESUSによるサプライチェーン全体の効率化の取り組みを普及させていくために、今回の提携を行ったのです。

 今後、メディパルさんが全国の薬局にシステムを紹介するのに新体制で協力していきます。20%の出資を受け入れたのは、両社で目的や方向性を一致させるためには資本提携するのがいいと判断したからです。われわれはメディパルさんの持分法適用会社にはなりますが、他の医薬品卸との関係ががらっと変わることはありません。傘下に入ったとか、グループ会社になったというつもりもありません。

─PRESUS導入の薬局への効果について、具体的に教えてください。

小森 導入後、欠品率は減少し、急配の回数も減りました。急配が無くなると卸にメリットがあるだけでなく、われわれの方でも発注業務を簡素化できるし、検品の対応などに要した時間を対顧客に当てられるといったメリットがあります。顧客からも「あそこに行けば必ず薬がある」と思ってもらえ、リピート率も上がります。また、後発医薬品の取り扱いが増えたためにアイテム数は増えているのですが、在庫保有高は導入前後でほとんど変わっていません。

 それから、処方箋受付時に残薬確認や後発品の希望の確認を行うことが今回の調剤報酬改定で盛り込まれましたが、PRESUSは最初に処方確定するシステムになっています。そうすると手戻りが減って、患者の待ち時間を減らせます。最初に時間を掛けて顧客に対応することが、全体最適につながるのです。

─医薬品の流通コストを削減しようという機運が、薬局関係者の中に高まりつつあるのでしょうか。

小森 業界の流通改善の議論を見ていても、まだそこには至っていないように思います。急配などの業界慣行も、異業種の方から見ると無駄と思われるかもしれませんが、業界内で問題視する声はあまり聞きません。

 ただ、経済合理性を考えればコストが低い方に流れると思うし、そうする責任がわれわれにはあると思います。医薬分業率が現状に至ったのは先輩方が一生懸命やってくださったからで、それには感謝しなければなりませんが、一方で薬局の一人勝ちだ、もうけ過ぎだと言って分業が岐路に立たされている。これに対し、流通の透明化、効率化に取り組むことで応えるのもわれわれの責務です。薬価差を追求するのも経営の自由だとは思いますが、世間がそれを許さなくなりつつあると感じます。

─薬樹の店舗は関東地域に集中しています。店舗展開の基本的な考え方を教えてください。

小森 もともと1970年代に創業した会社で、2002年に私が社長を引き継ぎました。大型門前薬局とは15年ほど前に決別して、地域の方々とより深い関係性を構築できないかを考えながら出店してきました。医療は地域との関係が重要だからです。地域包括ケアシステムを考えても、地域の医療従事者の方々と、顔が見える関係の中で連携することが重要です。全国に展開するよりも、より狭い範囲の中で深い関係をつくっていく方が、地域の方に喜んでいただけると考えています。

 だから関東と言っても、約150店舗の半分ぐらいは神奈川県内に、さらにその半分が横浜市内にあります。

─面対応の薬局を中心に展開されているということですか。

小森 面対応という言葉の定義が人によって異なるかもしれませんが、立地的に近い医療機関以外から来る、いわゆる広域処方箋が全受付処方箋枚数の20%ぐらいに上ります。この広域処方箋をベンチマークの一つとして、社員たちと一緒にこれを増やそうと取り組んできました。というのも、複数の医療機関の処方箋をお持ちいただくのは、薬局経営のメリット以上に、健康状態をチェックできるなど、顧客にとってのメリットが大きいと思っているからです。

─薬樹は、「健ナビ薬局」という予防や健康相談などに力を入れた薬局の運営でも知られています。

小森 5年前に「健康ナビゲーター」というものを目標にしてやろうじゃないかと言って、2店舗を開設したのが始まりです。予防といえば食事と運動だ、だったら薬剤師よりも管理栄養士が専門だと言って取り組んできました。現在、健ナビ薬局は11店舗あり、管理栄養士も40人います。病気の方への正しい運動指導が行えるよう、理学療法士の採用も開始したところです。

 管理栄養士の人件費も掛かるし、個室を設けるなど内装にも凝るので、最初のうちは健ナビ薬局の収益は、既存店よりも良くなかったのですが、3年目からは単年度で匹敵するようになって、4年目には完全に良くなりました。何がいいかというと、広域処方箋の伸び率が既存店を大きく上回っています。管理栄養士などの働きが、地域の方々から支持されているのだと思います。

 実は5年前から薬樹の店舗数はほとんど増えていません。ドクターの高齢化に伴って、昔開設したマンツーマンの薬局を閉じて、健ナビ薬局などの新しい業態に転換することに取り組んできたからです。いたずらに店舗数や売上高を追うのではなく、質の向上、すなわちリピート率や広域処方箋などをベンチマークにしながら、うちに対するファンを作ることに取り組んできました。

 今年の薬剤師国家試験の結果を見て、保険薬局の大量採用・大量出店の時代は終わったとの思いを強くしました。われわれはこれからも、目の前にいる顧客との関係を深めることに粛々と取り組んでいくつもりです。

インタビューを終えて

 今回の卸との提携のきっかけは、08年に業務提携した三菱商事から紹介され、サプライチェーン全体での効率化という考えに共感したことだったといいます。「健康ナビゲーター」というコンセプトを打ち出した際には、どういう薬局づくりを目指すべきか、全店の社員に聞いて回ったのだとか。地域密着型の出店戦略や、医薬品卸との資本提携などのユニークな経営方針も、決して独断専行ではなく、周りの意見にじっくりと耳を傾けた上で打ち出したものなのでしょう。(橋本)

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