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副作用症状のメカニズム
第45回 毛髪異常 円形のはげができた
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年7月号 No.200

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 48歳女性。潰瘍性大腸炎と診断され、2カ月前から病院でインフリキシマブ(商品名レミケード)の点滴を受けている。しきりに髪を気にしているので聞いてみたところ、円形のはげができたとのことであった。

毛が生えるメカニズム

 体毛の基本的な役割は保温と保護である。人類は、進化の過程においてライフスタイルの変化と共に、体温の過剰な上昇を防ぐために体毛が退化したと考えられている1)。しかし、特に熱に弱い脳を守るために、頭髪だけは残った。

 全身にある産毛は、体温調節(断熱と保温)に一役買っている。寒さや恐怖を感じたときに「鳥肌が立つ」ことがある。毛の根部分の毛包には、起毛筋が寄り添うようにあり、起毛筋の収縮によって毛が立つ。起毛筋の収縮は、交感神経に支配されており、寒さや怒り、恐怖によって起こる。

 体毛の保護的な機能は以下の通り。眉毛は額から流れ落ちる汗や雨水が目に入らないように、まつ毛は目に異物が入りにくいように、鼻毛は異物が鼻から気道に入らないように、それぞれ役割を担っている。

 毛は毛包から生じる。毛包は、胎生期に表皮の細胞の一部が変化して形成される。生後に新たに毛包が形成されることはなく、一生のうちに生える毛の数は、胎生期に決まる。

 毛包形成は、胎児の器官形成期に表皮の一部の細胞が増殖し、塊となって真皮層側へ陥入することから始まる。この塊が毛芽細胞となり、毛包の起源となる。この塊の真下にある真皮層でも線維芽細胞が集合し始め、やがて陥入していった表皮層の先が真皮層の細胞の塊を囲むようになり、毛乳頭細胞となる。毛乳頭を取り囲んだ表皮細胞(毛芽細胞)は毛母細胞に分化していく。

 毛母細胞は、活発に増殖し、さらに角化して「毛」となる。毛包には、色素細胞であるメラノサイトもでき、合成されたメラニンが毛母細胞に取り込まれることで、色のついた毛が成長する。メラニンには色の異なるものがあり、その混合比率によって、毛の色が決まる。

 毛は、毛周期というサイクルに従って生まれ変わる。その周期、つまり1本の毛の寿命は5~6年とされている。

 毛周期は、成長期、退行期、休止期からなる。成長期は、毛母細胞が活発に分裂し、毛が伸びる時期である。成長期は2~6年続く。退行期は2~3週間で、その後、毛母細胞の分裂が停止し、アポトーシスを生じ、急速に細胞数が減少して萎縮し、休止期に入る。休止期には毛乳頭も萎縮し、次の成長期を待つ。休止期は、3~4カ月である。

 次の成長期の開始は、胎生期における器官形成を制御している転写因子が関与し、幹細胞が支配していると考えられている2)

 ヒトの毛周期は、毛包ごとに独立しているので、一斉に抜けたり、生えたりすることはない。また、部位によっても毛周期の期間が異なる3)

脱毛が起こるメカニズム

 頭髪は、通常、1日に50~60本が脱ける。したがって、100本程度までは生理的脱毛と考えられる。また、男性型脱毛や出産後脱毛、栄養代謝障害による脱毛なども病的ではない脱毛である。病的なものとしては、円形脱毛症や皮膚障害のあとの脱毛、ストレスによる脱毛などがある。

 男性型脱毛では、毛周期における成長期が短縮して、休止期に入っている毛の割合が増加する。成長期が短くなるということは、まだ伸び切っていない短い毛が抜けることになり、次第に毛包が萎縮し、毛が細くなっていく。

 血中のテストステロンが毛乳頭細胞に入り、5α還元酵素によってジヒドロテストステロンに変換され、核内の男性ホルモン受容体に作用して、毛の成長を抑制する蛋白質を産生。それが毛母細胞の細胞分裂に作用し、影響を与えるためと考えられている3)。5α還元酵素阻害薬が、男性脱毛症に使われるゆえんである。

 男性型脱毛症で後頭部の毛が残るのは、その部分の毛母細胞には男性ホルモンの受容体がなく、脱毛が起こりにくいためと考えられている。

 女性の場合、出産後に脱毛が起こることがある。妊娠後期には、エストロゲンの影響によって、毛周期の成長期から休止期への移行が抑制されるが、出産後はエストロゲンが低下し、その抑制がなくなるため、急激に休止期毛が増加することによる。出産後2~3カ月後に脱毛が目立つようになり、その後は徐々に回復する。

 栄養代謝障害によって脱毛を来すこともある4)。特に亜鉛の欠乏によって起こる。潰瘍性大腸炎などによる亜鉛の吸収障害や、経腸栄養や高カロリー輸液の長期投与による亜鉛欠乏などで多い。

 円形脱毛症の原因は、自己免疫異常だと考えられている。円形脱毛症の毛球の組織には、リンパ球が浸潤し、その大部分はCD4陽性リンパ球であることが認められている。

 皮膚炎の後には、しばらく脱毛が続くことがある。ほかにも精神的、身体的ストレスで髪が抜けることがある。これらは、環境の変化に対応するために下垂体での副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が刺激されることによる。ACTHは副腎皮質に対してホルモン分泌を促進させ、副腎皮質ステロイドと副腎アンドロゲンが増加し、毛包が成長期から休止期へと移行する。これも、休止期脱毛であり、脱毛が起こるのは2~3カ月後である。

多毛が起こる原因とは

 一方、多毛はどうであろうか。前述の通り、毛包が増加することはない。多毛症は、軟毛の肥大化あるいは硬毛化であり、見た目に増えたように見えるに過ぎない。男性ホルモンが関与する性毛の硬毛化と、男性ホルモンが関与しない軟毛の硬毛化がある。

 多毛の症状が現れる頻度の高い疾患にクッシング症候群がある。副腎腫瘍によるクッシング症候群では、アンドロゲンの産生が増えることで、多毛が起こる。前述のように妊娠中には、休止期への移行が抑制されていることに加え、胎盤性アンドロゲンの影響で顔や四肢などに発毛が見られることがある5)

 また女性では、多嚢胞性卵巣症候群で多毛が見られる。黄体形成ホルモンの過剰産生によって、卵巣間質からのアンドロゲン産生が増えるためと考えられている5)。甲状腺機能低下症では、細胞でのエネルギー産生と共に蛋白合成が低下するため、テストステロン結合蛋白が少なくなり、遊離のテストステロンが増えて多毛が起こると考えられている。

副作用による脱毛や多毛

 成長期脱毛を起こしやすい薬としては、抗癌剤が挙げられる。毛母細胞は、骨髄細胞と同様に体内での細胞分裂が非常に活発であり、抗癌剤の影響を受けやすい。これらの成長期の細胞に抗癌剤が作用すると、細胞分裂は停止するため、急遽、休止期となり、脱毛が起こる。

 特に頭髪は、通常80~90%が成長期にあるため、抗癌剤による影響を最も受けやすいといえる。投与開始から2~3週間で毛が抜け始め6)、治療中は抜けた状態が続く。終了後は3~6カ月で再び生え始め、8カ月から1年程度でほぼ回復する。

 抗癌剤の投与では、頭髪だけでなく眉毛やまつ毛、鼻毛、ひげ、体毛も抜けることがある。ただし通常時におけるまつ毛の成長期は1~6カ月で、50%が休止期に入っているとされ、また下腿の体毛の成長期は5~7カ月といわれる。従って、まつ毛や下腿では抗癌剤による脱毛が目立ちにくい。

 特に脱毛が起こりやすいのは、シクロホスファミド水和物(エンドキサン)、ドキソルビシン塩酸塩(アドリアシン、ドキシル他)、パクリタキセル(タキソール他)、ドセタキセル(タキソテール他)、イリノテカン塩酸塩水和物(カンプト、トポテシン他)、エピルビシン塩酸塩(ファルモルビシン他)など、殺細胞性の抗癌剤である。パクリタキセルの脱毛の発現率は90%以上で、まとめて大量に抜けることが多く、全ての体毛が抜ける場合がある7)

 殺細胞性抗癌剤に比べるとその頻度は低いが、分子標的薬でも脱毛が起こる。スニチニブリンゴ酸塩(スーテント)、ソラフェニブトシル酸塩(ネクサバール)、アキシチニブ(インライタ)などで報告が多い。

 これらの薬の投与前には、髪を短くしておくことが重要である。抜けた毛の始末が簡単で目立ちにくく、ショックを軽減できるからだ。特に女性にとって、髪が抜けると外見が大きく変わるため、精神的なダメージが大きい。

 化学療法に対する脱毛予防策として、冷却キャップや育毛プロテインクリームなどがあるが決め手に欠き、確立された脱毛予防法はない。最近では、ウイッグも入手しやすくなっているので、あらかじめ適切な情報を提供し、患者の気持ちに寄り添い、対応することが何よりも大切である。

 免疫疾患に使われるTNFα阻害薬では、自己免疫反応が起こりやすくなることが知られており、円形脱毛症を起こす場合がある8)

 抗凝固薬やインターフェロン製剤、抗甲状腺薬では、休止期脱毛が起こることが知られている。

 一方、多毛症は長期にわたる副腎皮質ホルモンや黄体ホルモンの投与時に見られる。その他、ダナゾール(ボンゾール)、ミノキシジル(リアップ)、ペニシラミン(メタルカプターゼ)、シクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル他)、ストレプトマイシン硫酸塩(硫酸ストレプトマイシン)、ジドブジン(レトロビル)、エリスロポエチン製剤、アセタゾラミド(ダイアモックス)、フェニトイン(アレビアチン他)などで報告がある9)

 難治性ネフローゼ症候群にシクロスポリンを用いる場合、多毛はほぼ必発で、体幹、上肢、下肢、顔面に太い体毛が密生する。小児では特に多毛が起こりやすい。そのため思春期の患者では、外見変化によるいじめやコンプライアンス不良につながることがある。

 また、ラタノプロスト(キサラタン他)やトラボプロスト(トラバタンズ)などプロスタグランジン系の緑内障治療に使われる(点眼薬)は、睫毛異常が起こることがある。睫毛貧毛症治療に使われるビマトプロスト(ルミガン)は、その副作用を応用したものである。プロスタグランジン系薬剤は、まつ毛の休止期を成長期に転化する。50%のまつ毛は休止期にあるため、これを成長期に転化することで、まつ毛を増やす。また、成長期の毛乳頭細胞はプロスタグランジン系製剤を投与することで毛包が肥大化するため、まつ毛が太くなり、伸長する10)

図 脱毛や多毛を起こしやすい薬

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 最初の症例を見てみよう。患者は潰瘍性大腸炎でTNFα阻害薬のインフリキシマブによる治療を受けており、円形脱毛症はインフリキシマブの副作用による可能性があると考えられた。しかし、そのほかの副作用は発現しておらず、脱毛以外に治療上の問題はなかった。そこで薬剤師は、医師に情報提供しつつ、患者にも十分な情報提供を行い、治療を継続させる上で、美容面での相談に乗るなど患者の気持ちに寄り添うケアを行うことにした。

参考文献
1)N.G.ジャブロンスキー、日経サイエンス、2010年5月号
2)板見智ら、実験医学 2007;25:2563-7.
3)植木理恵、薬局 2006;1973-8.
4)斉藤典充、小児科診療 2009;72:2042-8.
5)小島秀規ら、産科と婦人科 2003;1535-9.
6)清原詳夫、大腸癌Frontier 2012;5:272-4.
7)安藤雄一、プロフェッショナルがんナーシング 2012;2:75-8.
8)加来信子ら、J Environ Dermatol Cutan Allergol 2011; 5:39-45.
9)小野友道、Medical Practice 2003;20:161-9.
10)勝村宇博ら、『眼のサイエンス(視覚の不思議)』(文光堂 2010年)

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