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早川教授の薬歴添削教室
脳出血既往患者に「いつ死んでもいい」と言われたら
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年7月号 No.201

 今回は、ベル薬局辰巳台に来局した当時59歳の男性、小原忠之さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。小原さんは高血圧で、脳出血の既往歴があり、血圧のコントロールはうまくいっていません。初回の来局時には、「もう、いつ死んだっていい」という発言がありました。

 この発言の裏にある小原さんの気持ちや、生活習慣や健康に対する考え方などについて、どうアセスメントを深めていくか。そして、どのように指導・対応していくのが望ましいかを考えながら、オーディットの内容を読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。症例検討会には、市原市薬剤師会の会員薬剤師7人(A~G)が参加しました。このうち、薬歴作成を担当したのが薬剤師A~Cです。(収録は2014年5月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『薬剤師の視点を連携に生かす「在宅アセスメント」虎の巻』(日経BP、2013)など。

今回の薬局
ベル薬局辰巳台(千葉県市原市)

 ベル薬局辰巳台は、千葉県内に8店舗を展開する有限会社ベル・ファーマシーが、2002年6月に開局した。内科、小児科、整形外科、リハビリテーション科など6科を標榜する診療所からの処方箋を中心に、月1700枚ほどを応需している。同薬局に来局する患者層は、子どもから高齢者まで幅広い。

 ベル薬局辰巳台には、20代1人、40代2人、50代1人、60代1人の薬剤師が勤務している。薬歴は電子薬歴で、主にSOAP形式で記載している。担当薬剤師が替わっても継続した服薬指導が可能になるよう、分かりやすい記載を心掛けている。また、重要な患者情報は、ポップアップ画面で確認ができるようになっている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 この患者は、高血圧で診療所を受診した後、ベル薬局辰巳台に来局しました。初回の、3月26日の薬歴を見ると、確認事項欄の「合併症既往症」のところに「あり(脳溢血)」と書かれています。そうした既往症や、喫煙・飲酒の有無など慢性疾患の管理において重要な基本情報をきちんと確認できている点は、とても良いと思います(【1】)。

 受診の経緯や病気に対する患者の考え方も、しっかり聞き取っていますね。脳溢血で倒れて、降圧薬を飲んでいた。薬だけ欲しいけれどそうもいかないので、しょうがないから受診した。酒ばかり飲んでいる、もういつ死んだっていいと言って帰っていった……。服薬や病気に対する患者の気持ちを聞き取って、そのまま記載しています。薬局における患者の「主訴」が、S情報としてきちんと書かれていると思います(【2】)。

 皆さんはこのS情報を見て、患者はどういう人だと感じましたか。まずはベル薬局以外の方から自由に意見を述べてください。

D 「いつ死んだっていい」と言われてしまうと、ちょっと対応に困る。難しい患者。

E 忙しい人。あんまり会話が好きじゃない。

F 本当は薬なんて飲みたくないんだけど、脳溢血で倒れたことがあるから、不安な気持ちがあると思う。それを素直に言えないのかな。

G 薬局ではあまり話をしたくないのかと思う。

早川 色々な見方が出ましたね(【3】)。続いて、ベル薬局の皆さんにお聞きしましょう。初回に担当したのはCさんですから、Cさんは一番後にして、他の方から。

A この時点の、初回のS情報からの第一印象は、とっつきにくい人。年齢的にも、社会経験的にも。

早川 60歳にもなると、その人なりのスタイルがあるから、他人の言うことを聞かなさそう?

A はい。そういう印象です。

B 私は、構ってほしいのかなって思いました。放っておいてくれみたいなことを言うけれど、でも。

早川 それは構ってほしい、関わってほしいという気持ちの裏返しだという印象を持ったわけですね(【3】)。では、最後にCさん、この時の患者の印象はどうでしたか。

C この方は、お薬を渡す時、投薬カウンターから少し離れたところに立って、カウンターの前にまで来てくれなかったんです。だから、早く薬をもらって帰りたいのかなと。飲んだ経験のある薬だから説明はいらない、薬だけもらって早く帰りたい、という様子に見えました。

 薬剤師としては、初回だからある程度のことは聞かないといけない。でも態度や言葉の端々にそういう雰囲気が感じられて、あまりここで聞きすぎて嫌がられてはいけないから、次回以降、少しずつ聞いていくようにするといいかな、と思いました(【3】)。

早川 そういう印象を持ったから、今回はあまり深い話はせず、「次回、もう少し聞き取りができるとよいです」と薬歴に書いたわけですか。現場ではそういう配慮が大事になりますよね。

 もう一歩進めて、薬歴に、今おっしゃったような患者の様子や、どんな患者だとアセスメントしたのかを書きませんか。次回以降に聞き取っていく具体的な内容とともに記しておくと、さらに良い薬歴になると思います(【2】)。

患者像に基づく指導プランは

早川 皆さんが薬歴のS情報から推定した患者像には、人によってかなり違いがありました。忙しくて、薬剤師にはあまり関わってほしくない患者だととらえた人もいれば、実は不安で、薬剤師の関わりを求めているという見方もありました。

 それでは、皆さんの抱いた第一印象に基づいて、患者が次に来局した時にどう対応するか、具体的なプランを立てていきましょう(【4】)。「忙しそう、会話が好きじゃないのでは」という印象を持ったEさんは、次からどうしますか。

E 「血圧が180くらい」というのが、薬を飲んで180mmHgなのか、飲んでいなくてなのかが知りたい。なので、「お忙しそうですけれど、薬は飲めてます?」と。やっぱり一番初めに聞きたいのは、飲めているかどうかです。

早川 患者には不安な気持ちがあると見ていたFさんはどうですか。これからこの方に、どういう風にアプローチしていきたいと思っていますか。

F うーん……。脳溢血で倒れた時に、今後の治療方針とか、血圧を下げないと再発のリスクが高まるとかの説明を、医師から受けたと思うんです。それを聞いていくことで……。

早川 なるほど。自分の予後や治療目標などに対する認識がどうなのかを、会話の中から探って、どこに不安があるのかを聞き出していきたいと。

F はい。

早川 この患者は構ってほしがっていると見たBさん、次にどうしますか。

B 私は、本人はしゃべりたがっていると思うんです。なので、割とアバウトに「どうですか、最近?」くらいの聞き方でアプローチします。

早川 こっちから指導するという姿勢ではなくて、話をさせるような姿勢で対応していこうということですね。

B はい。もしそれでしゃべらなかったら、客観的なデータを聞いていきます。

心血管病のリスクを評価

早川 では、2回目の薬歴に進みたいと思います。4月26日の担当はAさん。脳溢血の発症が2012年の6月だということを、しっかり聞き取れていますね。発症日の把握は、今後の治療や服薬の管理で大事になります。お酒を毎日飲む、一人暮らしである、片道70分の自転車通勤をしているなどの点も聴取できています(【5】)。

 さらに、脳溢血で左手や左の口にしびれが残ったことが記載されています(【5】)。しかし、それについてのアセスメントは書かれていません。服薬をする上で障害になるレベルなのですか。

A いいえ、問題ないレベルです。

早川 すると、手指にしびれはあるが、機能的には服薬への影響がないとアセスメントできるわけですね。それでは、そのアセスメントもここに記録しておきましょう(【5】)。

 今回、かなり色々な情報を聞けていますね。

A そうなんです。投薬カウンターからそんなに離れずに立っていて、意外と詳しく話してくれました。

早川 前回と今回、血圧値が聞けていますし、脳溢血の既往があることも分かっていますので、この段階で患者の高血圧のリスク評価をしていきましょう(【6】)。この方は、どんな心血管病の危険因子を持っていますか。

C 脳出血の既往。

早川 そう、心血管病の既往歴がありますね。これがあるだけで、リスクのレベルとしては?

C 第3層になります(表1)。

早川 そうですね。第3層、つまり一番リスクが高くなります。他に、どんな心血管病の危険因子がありますか。

A 年齢は、59歳だから、高齢ではない。喫煙はない。

B 肥満も、ありません。細身です。

早川 家族歴はどうですか。若年発症の心血管病の家族歴。聞けていないのであれば、次回以降のモニタリングプランとして挙げておきましょう。

 血圧値はどう評価しますか。

C 前回も今回も、診察室血圧が180mmHgを超えているので、III度高血圧です(表1)。

早川 血圧分類はIII度高血圧で、リスク層は第3層ですから、この患者の心血管病リスクは高リスクと評価されます。治療目標値はどうなりますか。

E 診察室血圧で、140/90mmHg。

早川 そうですね。では、この患者に対して、どんな療養指導をこれからしていけばいいでしょうか。

D 血圧が、前回は180mmHg、今回は薬が前の日に切れて200mmHgですよね。前回処方された薬を毎日欠かさず飲めば、前日に飲み切る計算になるので、この1カ月の服薬コンプライアンスは非常に良かったと考えられます。そこを強化する。

早川 なるほど。服薬していれば血圧は下がる、服薬と血圧値を関連付けて指導して、薬を切らさないことを認識してもらうというプランになりますね。

 そういう病識、薬識の面からアプローチするほかに、どんな方向から療養指導ができるでしょうか。

B 一人暮らしの男性なので、食生活の改善はなかなか難しいかもしれないんですけど、お惣菜のカロリーや塩分の表示の見方を教えてあげて、ヘルシーなものを選べるように指導する。

F 片道70分、自転車通勤しているのって、すごいことですよね。体を動かせているのはとても良いことなので、継続できるようにしてあげたい。ほめてあげる。

早川 良いことはほめて、支持的な態度を示すというプランですね。

「死んでもいい」への対応

早川 続いて、5月から7月の薬歴を見ていきましょう。5月25日にはオルメテック(一般名オルメサルタンメドキソミル)が、6月21日にはアダラートCR(ニフェジピン)が増量になりました。そして、7月23日にはセララ(エプレレノン)とカルデナリン(ドキサゾシンメシル酸塩)が追加されました。

 薬が増量され、さらに追加されるという状況の中、6月21日には「酒はやめられない。やめろと言われたら死んだ方がまし」だという発言がありました。7月23日には「いつ死んでもいい、どうでもいい」と(【7】)。皆さんは、薬歴に書かれたこれらの発言を読んで、どう感じましたか。それを踏まえ、どんなアプローチをしていけばいいかを考えていきましょう。

F なぜいきなり、お酒の話をしているのか。先生から何か言われたのかな。

E 服薬はちゃんとするから酒は飲ませて、という意味かも。妥協点として。

D 「死んでもいい」という言葉は、前も出てきましたよね。構ってもらいたいからという見方もありましたが、私は違うと思うんです。むしろ、否定してもらいたいとか、いい方向に持っていってもらいたいという気持ちがあって、こんな極端な言い方をしてしまうんじゃないでしょうか。

A ……この人、どれくらい、生きたいのかな。

早川 それによって、アプローチの仕方も変わると。

A はい。

G 何歳まで生きたいということにも関係するんですが、もうすぐ定年ですよね。定年後、何をしたいか。

E 好きなことをやるためにも健康を維持したい、という意識付けができるといいんですが。

F もっと手近な目標があるといいと思う。定年後じゃなくて1カ月後とか、すぐ結果が出ることを。

早川 なるほど。それは、食事に気を付けたとか、こういう運動をしたとか、個別のことでよいわけですね。

血圧が下がりポジティブに

早川 さて、8月20日の薬歴です。S情報には、血圧は下がってきたとありますね。「あれから、酒と、塩分と糖分を減らして、外を歩くようにした」と。「定年退職したら、年金で楽しもうとも思ってきた」とも言っています(【8】)。この日、患者はどんな様子でしたか。

B こちらから何かを聞く間を与えないほど、わーっと一気にしゃべってきました。「血圧が下がったのは、きっと俺がこういうことをしたからなんだ」と。

早川 うれしかったんですかね、血圧が下がったことが。

B そんな雰囲気でした。6~7月の投げやりな発言は、生活を改善したのに薬が追加になったことでショックを受けて、頑張ってもどうせだめなんだと、予防線を張っていたのではないかと。ここに来てようやく血圧が下がってきたので、どんどんポジティブになってきたと感じました。

早川 患者がポジティブになってきた、このタイミングで、皆さんならどんな指導、どんな話をしていきますか。

C お酒を減らしたというのは、具体的にどれくらいなのかを聞く。

早川 ここはお酒の話の突っ込みどころだと。他には?

G 食事。外食で、何をどれだけ食べているか。

早川 食事内容を確認しながら、適切な食事が取れるように支援をしたいということですね。運動はどうでしょうか。

D 通勤でかなり自転車に乗っていますよね。それに追加してウオーキングもしている。運動のやりすぎという心配はないのかな。

A 確かに、肥満や高血糖はありませんから、ここまで長時間の運動は必要ないと思います。でも本人は、やればやるほど良いと思っているかも。

早川 それはもしかすると誤認識かもしれない。新たな指導のポイントがまた、出てきましたね。これらの点を具体的なプランとして、薬歴のP欄に書いていきましょう。

新潟かかりつけ薬剤師育成会でのオーディットの様子。

参加者の感想

小室 裕保氏

 外来で患者さんと接する時間は限られていますので、その限られた時間の中で聞き取った情報を、きちんとアセスメントして具体的なプランを作ることが大切であること、それがよい患者ケアにつながるということを、今回のオーディットを通じて感じました。

岡本 衛氏

 私はいわゆる「一人薬剤師」で、患者さんもだいたい顔見知りの方なので、薬歴にアセスメントは書いてもプランはきちんと書いていませんでした。アセスメントをいろんな方向に掘り下げ、それに基づくプランを立てることで、患者さんの生活の質(QOL)の向上につなげていきたいと思います。

坂本 知子氏

 患者さんの言葉に対して抱く印象が、薬剤師によって違うことに驚きました。患者さんの担当薬剤師が固定されていない薬局では、薬剤師がそれぞれ抱いている印象をすり合わせて、皆が同じ患者像を共有して対応することが大事です。そのためにも、薬歴に次につなげるプランを書いていこうと思います。

全体を通して

早川 達氏

 血圧コントロールに難渋している症例で、患者も血圧が思うように下がらないことに対する自分の気持ちを薬局で表出していました。「いつ死んでもいい」など、かなり極端な言い方をするため、薬剤師としてはどのように対応するかが難しい患者でした。このような患者にはしばしば出会うと思われますが、患者の気持ちをしっかりと受け止め、逃げないように対応していただきたいと思います。今回の薬歴には、患者自身が述べた言葉がそのままの形で記載されていたので、オーディットでは患者の発言に基づいて気持ちや価値観を推定し、留意点や対応方法についてのディスカッションを深めることができました。患者ケアはいかに個人にマッチさせて行えるかが重要になるので、本例のような薬歴の書き方を他の薬局の方々も参考にしていただきたいと思います。

 一方、今回の薬歴では、患者の言葉を踏まえた人物像のアセスメントはよくできていますが、それを具体的にどう指導・管理につなげていくかがあまり書かれていないのは少々残念でした。アセスメントを生かして、もっと具体的に指導すること、行動することが重要です。そして、それを記録する。この点をさらに意識して実践を続けていただきたいと思います。

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