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社長はつらいよ
お金は簡単には貸してもらえない
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年7月号 No.201

 会社を経営していると、必ず銀行と付き合うことになる。当社は現在、都市銀行2行、ちょっと大きめの地方銀行、元信用金庫の小さめの地方銀行の計4行と付き合いがあるが、会社を作った当初は、お金を借りるのは本当に大変だった。

 当時は医薬分業が始まったばかりで、薬局という事業そのものが世の中に知られていなかった。銀行の担当者は、保険薬局の事業収入のほとんどが医療保険から支払われていることすら知らず、安定した事業であることを分かってもらうのに、すごく苦労したものだ。

 あれは起業して5年目だった。基幹病院の門前に大型店舗を作るために、都銀のM銀行に2億円ほどの借り入れを申し入れた。その基幹病院は、院外処方箋を出すことを正式に決めていて、ボクの押さえていた土地は病院玄関の正面にあるバス停の1番近くという好立地。誰がどう見ても利益が出る手堅い案件だ。なのに、銀行はなかなか首を縦に振ってくれなかった。

 事業としての安全性と将来性を伝えたが、何回もダメ出しをされて、その度に事業計画書を書き直しては出し、書き直しては出すといったことを繰り返した。そのときは、なぜ分からないのかと怒りすら覚えていたが、今振り返ると、そのことが事業を営み、社長業をする上で、ボクにとって大きな力となったと感じている。5年後、10年後を見据えて、薬局と会社の在り方を具体的に考え、人に分かりやすく伝えることを意識するようになったのは、事業計画書を何度も書き直したお蔭だ。

 その借入金の返済も終わり、M銀行との取引がなくなり数年が経った昨年、久しぶりにM銀行の渉外担当の女性がやってきた。九州美人の彼女は、「お金を借りてくれ」と言う。M銀行に育ててもらったという思いもあり、ちょうど近隣の薬局の買収を計画していたので、その資金の借り入れをお願いすることにした。

 そう伝えると彼女は、会社の過去3年分の決算書を出してほしいと言ってきた。まあ、そのくらいは必要だろうと思い、言われるままに出したら、次にボクの確定申告書3年分、さらに各店舗の収支報告書も出せと言ってきた。面倒に思い、だったら別の銀行に借りようという気持ちに傾き始めたその矢先、 そんなボクの気持ちを見透かしたかのように、携帯の留守電に彼女からのメッセージが残されていた。

 「あの件、進んでいますか。まさか浮気していませんよね ! 」

 う、うわき……。一昔前の都銀の担当者といえば、エリートでお硬い人ばかり。彼女のような交渉をしてくる人なんていなかった。そんなメッセージを残すぐらいだから、てっきり貸してくれるのかと思い、こちらから連絡をした。すると、またあれを出せ、これを出せが始まり、言われるがまま書類をそろえる日々。

 考えてみれば、お金を借りてくれと言ってきたのは彼女だ。なのに、こちらがその気になったら、石橋を叩き、重箱の隅をつつき、ねちねちと調べてくる。面倒極まりない。

 しかし彼女は、タイミングといい、コミュニケーションの方法といい、なんとも絶妙で、つい言うとおりに動いてしまっている。そしてこの機会に5年後、10年後を見据えて、改めて薬局と会社の在り方を考えるのも悪くないと思わされている。頼もしくも手ごわい彼女のような薬剤師が、うちの会社にもいればなあ……。彼女を社内研修の講師にでも呼んでみるか。(長作屋)

筆者プロフィール
関西エリアを中心に展開する薬局チェーンのオーナー(非薬剤師)。
15年前に製薬会社を辞めて薬局を開設、今では25店舗を経営。

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