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漢方のエッセンス
其の三十四   かっ香正気散
日経DI2014年7月号

2014/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年7月号 No.201

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 かっ香正気散の「気」は、脾胃の気を意味する。脾胃の気が失調し、誤った方向に飲食物が昇降して嘔吐や下痢が生じているようなときは本方で治療する。主薬のかっ香(かっこう)に、気の乱れを正す働きがある。さらに本方は、体表と体内の気を調和させる。

どんな人に効きますか

 かっ香正気散は、「外感風寒、内傷湿滞」証を改善する処方である。

 病因には、体質の悪化など体内にあるものと、外気の冷えや乾燥など体外にあるものがある。前者を内傷、後者を外感と呼ぶ。つまり「外感風寒」証は、外からの風邪(ふうじゃ)と寒邪(風寒邪)に侵された状態である1)

 風邪は、自然界の風により生じる現象に似た症候を引き起こす病邪で、疾風のように発病が急で、変化が多く、体表部や呼吸器を侵すことが多い。寒邪は、自然界の寒冷により生じる現象に似た症候を引き起こす病邪で、冷え、固定性の疼痛などが生じやすい。従って、外感風寒は、ウイルスや細菌の感染による初期症状に近い。

 風寒邪に侵されると、体表で人体の抵抗力(正気[せいき])が風寒と争うため、体表と体内の気の調和が崩れ(営衛不和)、ぞくぞくとした寒気(悪寒)や発熱が生じる。発熱は微熱であることが多い。邪気が頭部に達すると頭痛が起こる。

 一方、「内傷湿滞」証の湿滞は、湿邪の停滞を意味する。従って内傷湿滞とは、体内に溜まっている湿邪によって引き起こされる証である。湿邪の一つ、飲食物から生じる湿濁2)が消化器官内にたまると、胃腸の消化吸収機能の調和が乱れる(脾胃不和)。

 健康な状態では、六腑の一つである胃が飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べた物を人体に有用な形(清)に変化させて脾に渡した後、残りのかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろす(降濁)。そして五臓の一つである脾は、清を吸収して気血3)を生成して肺に持ち上げ(昇清)、全身に輸送していく(運化)。

 しかし、湿邪が脾胃に停滞していると、清気がスムーズに上昇できず、濁気が下降できない(昇降機能の失調)。このため、上に向かって吐き気や嘔吐、下に向かって下痢が生じる。ときに嘔吐と下痢が同時に発生する霍乱(かくらん)4)状態にもなる。気の流れが停滞しているので、腹部膨満感や腹痛が起こり、脾胃機能の低下により食欲不振となる。味覚が衰えることもある。水湿は体内にたまり、身体の重だるさも生じる。舌には、べっとりとした白い舌苔が付着する(白膩苔[はくじたい]湿滞の舌象)。口が粘ることもある。

 以上のように、体表と体内の両方に症状がある場合(内外両傷)に、本方を使う。

 臨床応用範囲は、外感風寒、内傷湿滞の症候を呈する疾患で、急性胃腸炎、消化不良、胃・十二指腸潰瘍、胃腸型感冒、天候不順時の感冒、食中毒、耳下腺炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、浮腫などである。

 上述の諸症状は、夏に生じることが多い。湿度が高いところに、汗や冷房で身体が冷えてかぜを引き、冷たい飲み物、生もの、果物の過剰摂取などで胃腸の調子がよくない状態である。本方は、夏かぜ、夏ばて、暑気あたり、冷房病にもよく用いられる。

どんな処方ですか

 配合生薬は、かっ香、蘇葉(そよう)、白し(びゃくし)、半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、陳皮、大腹皮(だいふくひ)、桔梗、生姜、大棗(たいそう)、甘草の13味である。

 本方は、平胃散と同じ化湿和胃剤の一つである。平胃散(蒼朮、厚朴、陳皮、生姜、大棗、甘草)にかっ香と半夏を加味した不換金正気散に、蘇葉、白しなど5味を加えてある。

 いずれの処方も湿邪を除去して胃腸機能の不調(脾胃失和)を改善し、腹部膨満感、悪心をはじめとする症状を改善させる。

 君薬のかっ香は、体表の病邪を除去し(解表[げひょう])、特に風寒邪を発散して取り除く。また、湿濁を除去することにより(化湿)、脾胃の機能を調和し(和中)、昇降機能の失調を改善する(昇清降濁)。

 臣薬の蘇葉は、外感の寒邪を発散し(発表散寒)、気を巡らして脾胃の負担を軽くする(行気寛中)。解毒作用もある。白しは、外感の風邪を除去し(きょ風解表)、湿邪を払う(燥湿)。止痛効果もある。この臣薬2味で風寒邪を散らし、湿濁を解消してかっ香を助ける。

 同じく臣薬の半夏は、痰飲を除去して鬱結、つかえを解消し(化痰散結[けたんさんけつ])、滞って上逆した気(気逆)を降ろして落ち着かせ、胃の機能を調える(降逆和胃)。燥湿作用により吐き気や嘔吐が抑えられ(止嘔)、咳が鎮まる。厚朴は気の鬱結を解きほぐして流れを滑らかにし、塞がっていた部分を開く(行気開鬱)。腹満が解消される。半夏同様、化痰散結、燥湿作用がある。この臣薬2味で燥湿和胃、降逆止嘔する。

 佐薬は7味ある。白朮と茯苓は脾の機能を立て直して湿濁を運び去り(健脾運湿)、脾胃の機能を調整(和中)して止瀉する。陳皮と大腹皮は気を巡らして湿邪を除去し(行気化湿)、脾胃のつかえをなくして(通暢[つうちょう])腹満を解消する(暢中除満)。

 桔梗は肺の機能を調節して解表、化湿を助ける。生姜と大棗の組み合わせは、体表と体内の気を調和させ(調和営衛)、脾胃の機能を活性化させる。 甘草は、使薬として脾胃の機能を調えて気を補いつつ(益気和中)、諸薬の薬性を調和する。

 以上、かっ香正気散の効能を「解表化湿、理気和中」という。諸薬の配合により表裏が双解し、化湿、昇清降濁、理気和中し、その結果、外感風寒は霧散し、湿濁は消失し、気機は通暢し、脾胃が調和して、諸症状が治癒する。

 悪寒や頭痛が強ければ荊防敗毒散を合わせる。身体が重だるいようなら平胃散を併用する。夏ばてがひどい場合は清暑益気湯を使う。

 同じ嘔吐や下痢でも、湿熱や、飲食の不摂生(傷食)による嘔吐や下痢には効かない。

 出典は『和剤局方』である。

こんな患者さんに…【1】

「夜中に上半身にべっとりと寝汗をかき、不快です」

 飲酒と美食を好む。身体が重だるい。内傷湿滞、営衛不和とみて本方を使用。1カ月で完治した。口の粘りもなくなった。営衛不和に湿邪が乗じると、べっとりとした寝汗が出る。

こんな患者さんに…【2】

「胃のつかえがとれません」  上腹部の膨満感、吐き気もある。身体が重だるく、頭重感もある。内傷湿滞、昇降機能の失調とみて本方を使用。2カ月ほどで諸症状がすっきり改善した。

用語解説

1)風邪、寒邪、湿邪は、いずれも病因の一つ。自然界の現象に似た病因は6つあり、六淫(ろくいん)という。
2)飲食物の残りかす(濁)は湿っぽい。これが健康を害する場合、湿濁と呼ぶ。
3)気は人体のあらゆる生理機能を推し進める生命エネルギー、生命力に相当する。元気、やる気の「気」。血(けつ)は生命活動に必要な栄養。
4)霍乱というと一般にコレラを意味するが、中医学の霍乱は本文のような病証である。コレラは霍乱の一種といえる。

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