市販の服薬カレンダーの大半は、1週間単位で薬を管理するもの。曜日別に朝、昼、夕などの服薬時点が表示され、そこに付いた透明のポケットに薬をセットして使用する。「日めくり服薬カレンダー」を作ったアクア薬局花棚店(鹿児島市)の原崎大作氏も、このタイプのカレンダーを使っていた。 ところが3年前、原崎氏は、ウイークリーのカレンダーで服薬管理がうまくいかないケースを経験する。「認知症の患者さんで、薬をセットした1週間のカレンダーをご自宅の壁に掛けて使っていたんですけど、2週分セットして次に訪問すると1週分は手つかずで残っていたり、朝の分を夕に飲んでしまったりという状況でした」。 飲み残しのパターンに法則性は見られず、「虫食い状態に薬が残る。訪問日が水曜日だったのでカレンダーを水曜始まりにしてみましたが、効果はありませんでした」と原崎氏は振り返る。 そこで思い付いたのが、カレンダーを曜日単位ではなく、日単位で薬を管理できるものにすること。A4判の事務用紙に1日単位で大きく日付と服薬時点を印刷し、一包化薬を貼り付けて束にして持って行った。すると、「9割方、飲めるようになったんです。その後すぐ、降圧薬を半量に減らせました」。 効果の高さに驚いた原崎氏は、データベースソフトのファイルメーカーProを使って、様々な服薬時点の日めくり服薬カレンダーを印刷できるソフトを作成。患者や家族、介護者の意見を聞きながら改良を重ね、「月や曜日を入れたり、コメントを入力・表示できるようにしたり。薬の貼付欄も、写真やイラストを印刷できるようにしまして、2013年2月に現在のバージョンになりました」と原崎氏は話す。 その後、原崎氏は13年7月に自身のフェイスブックのグループ「在宅ツールらぼ」で、日めくり服薬カレンダーをメンバーに公開した。「メンバーは全国で在宅をやっている薬剤師なのですが、いろんな患者さんに活用してくれました」(写真)。 日めくり服薬カレンダーの大きなメリットとしてメンバーに好評なのが、残薬管理が容易になること。飲み残した薬はカレンダーに貼付されたまま残るので、訪問日に回収すれば、飲み残しの状況が日単位で把握できる。「患者さんごとの残薬のパターンが明確になるので、例えば就寝前の、日付が変わるタイミングでの服薬漏れが多い人では、就寝前の薬だけ分けて管理するなどの対応ができます」と原崎氏は言う。 また、認知症や視覚障害の患者では、一包化薬の一部を薬包内に飲み残すことがあるが、「一包化薬の薬包を捨てる専用の箱をカレンダーの横に設置して、訪問時にチェックする」というアイデアを実践しているメンバーもいる。「こうした活用例を共有することで、在宅患者の服薬管理に関する様々な課題を、知恵を出し合って解決していきたい」と原崎氏は話している。 審査会で話題になった在宅部門の応募作品は、「くるくるケース」と「くすりスマートBOX」。どちらも、「朝-昼-夕」というように服用順に並ぶよう一包化した薬包を、切り離さずに箱に入れて服用順に取り出せるようにしたツールだ。同じタイプの薬剤管理ケースをドイツの介護施設で見たというネオフィスト研究所の吉岡氏は、「日本にはない便利な商品だと思っていたら、同じ発想の作品が2つも応募されていて驚いた。ケースへのセット時に薬包をいちいち切り離す手間が要らず、コンパクトに管理できるので、施設での使用に向きそう」と話す。 視覚障害がある人に、服薬時点を触覚で知らせる「でこデコ」は、もこもこと盛り上がる文字が書ける「デコレーションペン」でシールに点を付けたもの。「点字シールを身近な文房具で作るという着眼点が素晴らしい」と日本薬剤師会の近藤氏は賞賛する。
フェイスブックで公開
在宅部門の注目作品
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