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検査値のミカタ
血球検査値
検査値のミカタ

2014/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年6月号 No.200

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

 血液検査には、血清を用いる生化学検査のほかに、血液細胞成分を調べる血球計算(血算)があります。血算は、貧血の鑑別や、薬剤性の血球異常の診断などに用いられます。副作用の早期発見のために、血球検査値の基本的な見方と初期症状を整理しましょう。(中村)

 血液は、酸素や栄養素、ホルモンの運搬や体温調節、生体防御といった生命機能維持に重要な役割を担っている。

 血液の約45%は、細胞成分である血球が占める。赤血球、白血球、血小板、リンパ球などの全ての血球は、多能性細胞である造血幹細胞から分化、成熟して作られる(図1)。

図1 血液の生成系統の模式図

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 薬剤性の血液障害の機序には、大きく分けて、(1)造血幹細胞から分化・誘導する過程を抑制する(抗癌剤による骨髄抑制など)、(2)成熟した細胞を破壊して細胞数の減少や機能不全を来す(免疫的な機序による用量非依存的な障害)─の2つがある。

検査値の意義と基準値

赤血球:
 赤血球中のヘモグロビンに酸素が結合して、酸素を全身に運搬する。寿命は約120日と長い1)

 検査項目としては、赤血球数(RBC)と血色素量(Hb)、ヘマトクリット(Ht)がある。RBCの基準値は男性420~554×104/μL、女性384~488×104/μL。Hbは酸素運搬能力を示し、基準値は男性13.8~16.6g/dL、女性11.3~15.5g/dL。Htは全血液に占める赤血球容積の割合を指し、通常は男性40.2~49.4%、女性34.4~45.6%。

 これらの検査値に加え、平均赤血球容積(MCV=Ht×10/RBC)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH=Hb×10/RBC)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC=Hb×100/Ht)も同時に算出されることがあり、貧血の診断・鑑別に用いられる(表1)。

表1 平均赤血球容積(MCV)による貧血の分類

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白血球:
 白血球は血液中の有核細胞の総称で、免疫・感染制御の機能を持つ。白血球数(WBC)の基準値は3500~9200/μL。

 顆粒球と呼ばれる好中球、好酸球、好塩基球のほか、単球、リンパ球がある。通常は、好中球が白血球の約55%、リンパ球が約36.5%を占めるとされるが、この分画の割合は一定ではなく、病態を反映して変動する。そのため、白血球数の増減を認めた場合は、白血球分画を調べて病態を判断する。好中球は細菌感染症や慢性骨髄性白血病などで増加するのに対し、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などで減少する。

血小板:
 血小板は、血管内皮を修復し血液を凝固させる。通常、末梢血液中の血小板数(Plt)は15.5~36.5×104/μLで、脾臓にもプールされている。

薬剤による血球系の異常

 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」で取り上げられている薬剤性の血球異常の概要を表2に示す。

表2 薬剤性の血球異常の概要

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 血球減少症を引き起こす頻度が最も高いのは抗癌剤である2)。一部を除いて、抗癌剤は用量依存的に造血幹細胞や造血前駆細胞の分化・増殖を障害し、血球減少を起こす。またメトトレキサートの過剰投与(連日投与)による骨髄抑制の事例も報告されている。

 また近年、プロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾールやラベプラゾールによる溶血性貧血が報告されている。PPIによる顆粒球減少症や血小板減少症の報告もあるため、注意が必要である(ケース)。

ケース
オメプラゾールによる溶血性貧血

 80歳代女性。逆流性食道炎と診断され、オメプラゾール20mg/日を開始した。開始前の血液検査所見はWBC4100/μL、Hb11.6g/dL、Plt12.6×104/μL。

 1カ月以内に動悸、息切れ、全身倦怠感が出現し、2カ月後に症状が増悪した。その時点では、WBC1万7300/μL、Hb6.4g/dL、網赤血球32.5%、Plt0.1×104/μLであり、抗赤血球抗体の有無を調べるクームス試験は陽性、急性期反応蛋白質の血清ハプトグロビンの著減(<10mg/dL)などから、オメプラゾールにより誘発された自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症と診断された。オメプラゾールによる患者リンパ球刺激試験は陰性であったが、溶血性貧血発症時に抗オメプラゾールIgG抗体が認められ、病状と相関して推移した。

 溶血性貧血は同薬の中止のみで軽快。3カ月後にHb9.8g/dL、Plt16.0×104/μL、5カ月後にHb11.6g/dL、Plt13.8×104/μLとなり、クームス試験も陰性化した。

(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:薬剤性貧血」より引用)

 なお、医薬品副作用被害救済制度において、添付文書に規定されている検査が実施されていなかったために、使用方法が適正と認められず不支給となることがある。特にチアマゾールやチクロピジン塩酸塩、サラゾスルファピリジンによる無顆粒球症に関して、検査未実施例が散見される。

 チアマゾールとチクロピジンは、「警告」欄に、少なくとも投与開始から2カ月間は2週間に1回、それ以降も定期的な血液検査(白血球分画含む)を行うよう記載されている。サラゾスルファピリジンは、投与開始から3カ月間は2週間に1回、次の3カ月間は4週間に1回、その後は3カ月ごとに1回、血液検査を行うことが推奨されている。

 血球異常が疑われた場合は、直ちに被疑薬を中止することが不可欠である。特に無顆粒球症は、発熱や咽頭痛などかぜに似た初期症状を示すが、被疑薬の中止と感染への適切な治療が遅れると、致死的となり得る。

 血液障害を引き起こし得る薬剤は非常に多い。薬局では、それらの薬剤を服用中の患者に対し、定期的に血液検査が実施されているかを確認するとともに、副作用の初期症状について繰り返し注意を促すようにしたい。

参考文献
中原一彦監修『パーフェクトガイド検査値事典』(総合医学社、2011年)

補足説明
1) 血球によって寿命は異なる。赤血球の寿命は約120日と長いため、貧血症状は緩徐に進行する(急性出血を除く)。幼若な赤血球である網赤血球は通常、全体の約0.8~2%を占めるが、貧血の回復期などの造血亢進状態では高値を示す。白血球の寿命は約6日と短いが、骨髄や末梢にプールされており、早急な供給が可能である。
 血小板の寿命は約8~12日(3~7日との報告もある)である。低用量アスピリンやチエノピリジン系薬は、不可逆的な抗血小板作用を持つことから、これらを服用中の患者に出血を伴う外科手術を施行する際は、一般に、術前7~14日ほど休薬する(休薬期間は施設や術式によって異なる)。
2) パクリタキセル(商品名タキソール他)の臨床試験では、白血球数減少や好中球数減少が高頻度で認められている。白血球減少が軽度であるにもかかわらず著明な好中球減少を来したケースもあることから、添付文書上、白血球分画の測定が推奨されている。

中村先生のひとくちコラム

 抗血栓療法の大規模臨床試験では、「大出血」「小出血」という言葉で出血リスクを表現しますが、実はその定義は試験によって異なります。

 例えばTIMI(Thrombolysis In Myocardial Infarction)出血基準における小出血の定義は、「臨床的に明白な出血の徴候があり、Hb3~5g/dLの低下(不明な場合はHt9~15%の低下)を伴う」です。一方、RE-LY(Randomized Evaluation of Long-term Anticoagulant Therapy)出血基準の大出血の定義を見ると、「Hb2.0g/dL以上の低下を伴う出血、2単位以上の輸血または重要な領域・臓器への症候性出血」となっています。つまり、Hb3g/dLの低下を伴う出血は、TIMIでは小出血、RE-LYでは大出血に分類されます。これらの定義を押さえた上で文献を読み、薬効や出血リスクを評価しましょう。

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