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副作用症状のメカニズム
薬で起こる「男性の悩み」の原因は?
日経DI2014年6月号

2014/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年6月号 No.200

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 55歳男性。薄毛治療のためフィナステリド(商品名プロペシア)を使用している。最近、元気がない様子なので、若い女性薬剤師が何か変わったことはないかと聞いたが、「何もない」と帰って行った。次回来局時に、今度は年配の男性薬剤師が尋ねたところ、「実は……」と悩みを打ち明け始めた。

 男性性機能障害には、勃起障害(ED)、性欲低下、射精障害などがあり、最も頻度が高いのは、EDである。

勃起のメカニズム

 勃起は、神経と血管の協調運動である。陰茎は、2種類のスポンジのような組織である尿道海綿体と陰茎海綿体からできている1)。尿道海綿体は、中央に尿道が通っており、射精時には精液が通る。陰茎海綿体は、分厚い3層構造の線維でできた白膜(靭帯)に覆われている。陰茎海綿体の中央には陰茎深動脈が走り、そこから、らせん状の動脈(らせん動脈)が、海綿体洞に広がっている。

 海綿体は、血管の一種であり、陰茎深動脈かららせん動脈を通じて血液が供給されている。そして、海綿体から陰茎回旋静脈などを通じて血液が流出する。この回旋静脈は、白膜を貫通している。

 性的刺激が加わると、その刺激は骨盤神経を通じて陰茎の海綿体神経に伝わり、陰茎内皮細胞に伝わる。陰茎海綿体神経には、非アドレナリン非コリン作動性神経(NANC)が含まれている。NANCは、陰茎の血管や海綿体平滑筋に分布しており、その終末でLアルギニンから一酸化窒素(NO)を合成している1)

 海綿体神経には副交感神経も含まれており、この終末から放出されたアセチルコリンは血管や海綿体の内皮細胞の受容体に結合し、NOを産生する。NOは、前述の陰茎深動脈やらせん動脈、海綿体平滑筋細胞に浸透し、細胞内の可溶性グアニル酸シクラーゼという酵素を活性化し、グアノシン三リン酸(GTP)を環状グアノシン一リン酸(cGMP)に変換させる1)。cGMPは、海綿体平滑筋にあるカルシウムチャネルを抑制する。すると、陰茎深動脈やらせん動脈などを取り巻く平滑筋が弛緩し、血管は拡張する。

 これらの血管には副交感神経も分布しており、さらに血管は拡張し、動脈血が陰茎海綿体洞に流入して充満する。その結果、動脈血で拡張した海綿体洞が膨れ、白膜との隙間は狭くなり、回旋静脈などの流出静脈は圧迫され、流出抵抗が増して海綿体の内圧が上昇し、勃起が成立、維持される(図1)。

図1 勃起のメカニズム

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射精のメカニズム

 性的興奮が高まり勃起すると、脊髄にある射精中枢から交感神経である下腹神経を通じて前立腺が収縮し、前立腺液が前立腺前部の尿道へ分泌される2)。これがトリガーとなって、膀胱の下にある内括約筋が収縮して膀胱からの通路が遮断され、精液の逆流を防ぐ。興奮が頂点に達すると、交感神経を介して外括約筋が弛緩し、精嚢から精液が射精管、前立腺部尿道、尿道へ射出される。

 射精が終わると、cGMPがホスホジエステラーゼ5(PDE5)によって分解され血管拡張が終了し、海綿体に供給される血液が減る。さらに、血管内皮細胞に分布する交感神経が緊張し、血管が収縮して流入血液量が減少する。加えて、海綿体を支える海綿体小柱が収縮して海綿体洞より血液の流出を促進し、勃起を終わらせる。

 性的刺激は、テストステロンの働きが大きい。テストステロンは、精巣の間質でコレステロールから合成される。視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が調節され、この性腺刺激ホルモンによって精子形成やテストステロンの分泌が調節されている。

 男性の性腺刺激ホルモンは、黄体刺激ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)である。LHは、精巣のライディッヒ細胞に働き、コレステロールからのテストステロンの産生を促す。FSHは、セルトリ細胞に働き、テストステロンとともに精子の形成を促す。また、テストステロンはアロマターゼによってエストロゲンに変換される。テストステロンは、視床下部へ働きかけてドパミンを増やし、性欲を起こす。なお、ドパミン作動性神経は性行動を促進する。反対に、セロトニン作動性神経は性行動を抑制している。

男性性機能障害のメカニズム

 EDの罹患率は、年齢と共に高くなる。糖尿病や脂質異常症など、血管内皮障害を伴う疾患が背景にあることが多い。血管内皮が障害されると、血管の緊張や血管構造が破綻し、NOの産生が低下する。陰茎動脈の直径は、1~2mmと細いため、より血管内皮障害の影響を受けやすいのではないかといわれている3)

 Montorsiらは、心血管障害を発症した患者の67%が約3年前にEDの発症を自覚していると報告している4)。また、ED患者を追跡した前向き検討では、ED患者はEDに罹患していない男性と比較して、心血管障害の発生が1.25倍であったとする報告もある5)

 陰茎海綿体の周りの平滑筋が加齢と共に減少し、テストステロンも減少することでもEDが多くなる。

 過度のストレスも、男性性機能障害の原因になり得る。ストレスによって副腎皮質放出ホルモン(CRH)が分泌され、下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞を刺激し、ACTHが産生される。ACTHは、副腎皮質細胞のACTH受容体に結合し、コルチゾールなどの副腎皮質ステロイドの産生を増加させ、血圧上昇、蛋白質や脂肪の分解、血糖の維持、抗炎症作用などをもたらし交感神経の活動を亢進させる。交感神経の過度な興奮は、EDを起こす。

 ストレスは、プロラクチン(PRL)などの下垂体前葉ホルモンの分泌にも影響を与えるが、高PRL血症では、GnRHの分泌不全を来し、テストステロンの合成が低下し、性欲低下、EDを引き起こす。PRLの分泌は、セロトニンによって促進され、ドパミンにより抑制される。

副作用による男性性機能障害

 副作用による男性性機能障害の原因として考えられるのは、(1)ドパミン作動性神経活性低下作用、セロトニン作動性神経活性上昇作用、プロラクチン分泌促進作用を持つ薬、(2)抗コリン作用を持つ薬、(3)α受容体遮断作用を持つ薬、(4)血圧を低下させる薬、(5)アンドロゲン産生・分泌抑制、アンドロゲン受容体遮断作用を持つ薬6)、(6)精巣への障害を起こす薬─などである。

 三環系抗うつ薬は、(1)のドパミン受容体遮断作用や、セロトニンの再取り込み阻害作用を持つものが多く、プロラクチンの分泌促進作用があり、性欲低下やEDを起こしやすい。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)も、セロトニン再取り込み阻害作用やプロラクチン分泌促進があり、性欲低下やEDが起こりやすく、そのことが服薬アドヒアランスを低下させる大きな要因になっている。

 ハロペリドール(セレネース他)やリスペリドン(リスパダール他)などの抗精神病薬、スルピリド(アビリット、ドグマチール、ミラドール他)やメトクロプラミド(プリンペラン他)などの胃腸運動促進薬も、ドパミン受容体遮断作用やプロラクチン分泌促進作用を有する。

 また、モルヒネ製剤などの麻薬性鎮痛薬でもドパミン作動性神経を抑制し、プロラクチン分泌を促進するため、性欲低下、EDが起こり得る。

(2)の抗コリン作用によって男性性機能障害を起こしやすい薬には、三環系抗うつ薬、SSRI、抗精神病薬がある。

(3)のα受容体遮断作用が原因となる薬としては、抗精神病薬、排尿障害治療薬、α受容体遮断薬がある。α受容体は、精嚢平滑筋にも存在する。そのため精嚢の受容体も遮断し、精嚢収縮が起こり、射精障害が起こることがある。降圧薬、前立腺肥大症の治療に使われるα受容体遮断薬でも同様である。

 また、ハロペリドールやリスペリドンも末梢性の交感神経α受容体遮断作用を持つ。これらによって、射精の機序を障害すると共に、陰茎海綿体の弛緩が起こることがある。

(4)の血圧を下げる薬は、陰茎内圧も下げるためEDが起こり得る。

(5)のアンドロゲンの産生や分泌抑制、アンドロゲン受容体遮断作用が原因になりやすい薬は、GnRH製剤、抗アンドロゲン薬、卵胞ホルモン製剤、黄体ホルモン製剤など。性欲低下やEDを起こす。

 また、カリウム保持性利尿薬のスピロノラクトン(アルダクトンA他)は、ステロイド骨格を有する。アンドロゲン受容体を遮断し、アンドロゲン産生抑制を起こすため、性欲低下やEDを起こす6)。シメチジン(タガメット他)も同様である。

さらに、5αリダクターゼ阻害薬であるフィナステリドやディタステリド(アボルブ)はテストステロンから、より作用の強力なジヒドロテストステロンへの代謝を阻害するため、性欲低下やED、射精障害の頻度が高い。

(6)の精巣を傷害するものとしては、抗癌剤がある7、8)。抗癌剤治療を受けている場合、無精子症や精子減少症などを起こすことがある。

 そのほか、プロスタグランディンは陰茎海綿体を弛緩させるため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によってプロスタグランディン合成阻害が起こると、陰茎海綿体の収縮が起こりEDにつながる。

図2 男性性機能障害が起こりやすい薬

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 最初の症例を見てみよう。男性薬剤師が時間を掛けて話しを聞いたところ、患者はEDを訴えた。そこで薬剤師は、薄毛の治療薬であるフィナステリドの服用によって、男性性機能障害が起こり得ることなどを説明。患者自身が治療を選択するための判断材料となるように、十分な情報提供を行った。

参考文献
1)尾崎由美ら、治療 2002;84:2694-9.
2)永井敦ら、泌尿器外科 2008;21:359-61.
3) Tsujimura A, et al.,J Urol 2003;170:2345-7.
4) Montorsi F, et al., Eur Urol 2003; 44:360-5.
5) Tompson IM, et al., JAMA 2005;294:2996-3002.
6)内山利満ら、Modern Physician 2004; 24:297-303.
7)吉田健史、プロフェッショナルがんナーシング 2013;3:254-6.
8)西村裕美子、プロフェッショナルがんナーシング 2012;2:319-23.

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