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Interview
学校法人医学アカデミー薬学ゼミナール学長 木暮 喜久子氏
日経DI2014年6月号

2014/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年6月号 No.200

こぐれ・きくこ
1967年共立薬科大学(現慶應義塾大学薬学部)卒業。薬剤師。国立がんセンター研究所生化学部などを経て、78年学校法人医学アカデミーに入職。88年副学長、98年理事長補佐、2012年より現職。また、12年より慶應義塾大学薬学部同窓会長も務めている。

 過去最低の合格率を記録した薬剤師国家試験。例年に比べて難問が出題されたせいか。あるいは学生のレベルが低かったのか。38年間の歴史を有し、薬剤師国家試験対策予備校のガリバー的存在である薬学ゼミナールの学長である木暮喜久子氏に、今年の薬剤師国試をどうみるかを聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

─薬剤師国家試験の合格率が大きく低下しましたが、今年の問題は難しかったと考えていますか。

木暮 難易度が上がったとは思いません。ただ、今年は考える力、問題解決能力、医療現場での実践力を問う出題や長期実務実習の成果を問う内容が多かった。その意味で今年は非常に良い問題が多かったと思います。

 6年制薬学教育を受けた学生が初めて受験した2012年から新しい出題基準になり、実務とそれ以外の領域を組み合わせた複合問題が出題されるようになりました。ですが、当初は必ずしも連動した問題になっていませんでした。それが、回を追うごとに、出題の精度が上がってきたと思います。

─具体的にはどういうことですか。

木暮 例えば、話題になっている「焼きガキの問題」です。実際に薬剤師は、患者さんの背景をしっかり聞いて判断しなければならないので、情報を把握することは薬剤師の基本動作です。それができていないので、薬ゼミの自己採点システムでみた正答率は4割程度でした。しかも連問になっているので、1つ目の質問で「ノロウイルス」を選んだ人は、2つ目の質問も当然間違えてしまいます。これは、1つ判断ミスをすると大変なことになるという意識を持っているかが問われたのだと思います。

 また、従来は記述形式で出題された内容がグラフで出題されていたり、来局者の症候を基にOTC薬で対応できる場合を問う設問など、考える力を確認する問題が目立ちました。更に、現場で使用されている新薬なども多く出題されていました。

─そうした出題にはどのような意図があるとみていますか。

木暮 厚労省の医道審議会薬剤師分科会が2010年にまとめた「新薬剤師国家試験について」の中には、「薬剤師が医療の担い手にならなければならない」「そのためには未知なる事象に対して、資格者として責任ある行動を取らなければならない」「薬剤師国試でその資質を確認する」といった趣旨のことが書かれています。それが国試に反映されていると思います。

 厚労省には、国試の問題を変えることで大学の教育を変えようという意図があるのでしょう。例えば最近の施策を見ていると、調剤のみを行う薬局が問題視され、在宅もやりなさい、OTC薬も扱いなさいという方向にありますね。国試でも、在宅やOTC薬に関する問題がたくさん出題されています。

─難易度が変わらないとしたら、合格率低下には何が影響しましたか。

木暮 基礎的な学力の低下が挙げられます。薬ゼミではこれまで38年間で224回の模擬試験を実施し、その際、出題のレベルは一定にするようにしています。すると今年の受験生は前年に比べて模擬試験の点数が低かったので、心配はしていました。

 実際の国試で出題の領域別に自己採点の正答率をみると、物理・化学・生物は60%を割り込んでいます。薬理、薬剤、薬物治療、実務など、医療に関する問題の正答率は高いのですが。

 つまり、医療のことは一生懸命勉強したのだけれど、基礎は低学年でやったきりで忘れてしまったということかもしれません。でも、基礎は語学と同じで、繰り返し学ぶことで定着していくものです。だから、低学年のうちから、基礎をしっかりと身に付けていくことが大事だと思っています。

─新設校が増えて、偏差値が低い者が薬学部・薬科大学に進学するようになったことが合格率低下に影響しているという指摘もあります。

木暮 それだけではなく、入学した時期に、薬学部の人気が下がっていたことも影響していると考えています。大学が増える一方で人気が低迷し、経営上、偏差値が低い人でも入学させた学校がたくさんありましたから。ただ、これは新設かどうかは関係ありません。入学した学生をしっかり基礎から教育した大学は、合格率も高かったです。また、薬学部の人気は回復傾向にあり、ここ1、2年は、薬剤師は就職がいいので、進学したい学部のランキングで薬学部は上位に入っています。

─薬ゼミとしては今年、どのぐらいの合格者を生み出したのですか。

木暮 今年の合格者のうち1003人が6年制の既卒者です。一方、薬ゼミの全日制1年コースもしくは全日制半年コースに通って今年合格した人が約800人います。短期間だけ通った人はもっといますが、いずれにせよ既卒の合格者の大半が薬ゼミ出身者です。

 ただし、今年は薬ゼミ出身者の合格率も例年と比較するとあまり良くありませんでした。だから私たち自身も変わらなければいけないと思っています。考える力や問題解決能力を身に付けさせるにはどうすればいいか、新しいやり方を毎日議論しているところです。

 その1つとして、例えばこれまで授業を終えた際に確認のために質問と答えを渡していたのですが、答えを渡すのをやめて、みんなで討議させるといったことをやっています。また、「薬ゼミエンジン」と言って、まず問題を見た時に背景を考えて目標を立て、問題を解いた後は確認するというサイクルを回しながら勉強するよう提案しています。

─予備校としても国試の変化に対応しなければならないということですね。

木暮 予備校の中には「既出問題をしっかりやっていれば余分なことは覚えなくていい」と教えているところがたくさんありますが、私はそうではないと思っています。目的は、試験に合格することではなく薬剤師になることなのですから、基本的なことだけ知っていればいいというのは間違いです。

 むしろ、学生には、「今求められている薬剤師はどういうものか」を、常に意識するように教えているつもりです。職員にも、「薬剤師国試に受かるために必要かどうかではなく、薬剤師として必要かどうかを考えて、必要なら教えるように」と言っています。

─合格率が低かったので、予備校の入学希望者が増えたと聞きました。

木暮 今年は1800人を受け入れるつもりでしたが、国試が終わって申し込みが殺到して大変なことになりました。今は教室を広げるなどやりくりして、3000人を受け入れています。

 いずれにしても、薬ゼミに通う学生の大半は1回か2回か国試に落ちた人ですが、薬剤師になった後は原則、企業や大学ではなく、地域で働いています。そして恐らく、私たちはどの大学よりも、一番多くの薬剤師を輩出しています。だから私たちには、学生たちに寄り添って、社会が求める薬剤師を育てていく責任があると思っています。

インタビューを終えて

 薬剤師国試対策の予備校というと、受験のテクニックを叩き込むところだと思っていましたが、木暮氏の話を聞いているとそのイメージは払拭されました。薬ゼミでは今年、教室の拡張に合わせて22人の薬剤師を講師として新規採用しました。そして、新人講師にすぐに授業をさせるのではなく、時間を掛けて教育者としてのマインドを教え込むのだそうです。この採用難の時代に薬剤師を集め、業界のガリバーとして君臨できている秘訣は、そんなところにあるのかもしれません。(橋本)

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