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早川教授の薬歴添削教室
居宅訪問の報告書に薬剤師からの提案をどう書くか
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

 今回は本町調剤薬局黒埼店への来局歴があり、主治医からの依頼で居宅療養管理指導を開始した74歳男性、新山陽成さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。

 新山さんには認知機能の低下や失語、右片麻痺などがあり、要介護3と認定されています。

 居宅訪問を開始するにあたって、医師からの依頼書やケアマネジャーが作成した居宅サービス計画書から、把握すべき患者情報とケアの視点を確認し、それをどのように訪問時の対応、そして医師への報告書に結び付けていくのかに着目して読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。症例検討会には「新潟かかりつけ薬剤師育成会」の会員薬剤師10人が参加しました。薬歴作成を担当したのが薬剤師A、症例検討会での発言者が薬剤師B~Jです。

(収録は2014年3月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
本町調剤薬局黒埼店(新潟市西区)

 本町調剤薬局黒埼店は、新潟市を中心に10店舗を展開する株式会社本町調剤薬局が2000年6月に開局した。応需している処方箋は月に1800枚ほど。近隣にある内科診療所を中心に、広域の病医院から処方箋を受け、居宅訪問も積極的に実施している。

 同薬局に勤務する薬剤師は3人。薬歴はSOAP形式の手書きで、服薬状況や体調変化、残薬の有無など薬剤服用歴管理指導における留意事項の記入欄を設けている。薬歴には患者との会話内容のほかに、薬局に来てから帰るまでの患者の様子(動き方、声の大きさ、顔色)など薬剤師が観察したことを【O】欄に記録し、それも考慮して薬学的なアセスメントを行っている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 この患者さんは、脳血管障害と糖尿病という2つの疾患で2つの医療機関から薬をもらっていました。かぜのためSクリニックを受診したことを契機に、Sクリニックの医師が訪問診療を行うことになり、本町調剤薬局黒埼店に訪問指導の依頼が来たというのが、これまでの経緯です。

 まずは、医師からの「訪問薬剤管理指導依頼書・情報提供書」と、診療情報提供書などから収集した患者情報のサマリーという2枚の書類から、患者の全体像を把握していきましょう。皆さんはこの書類に記載されたどの情報に注目しますか。

B 失語症という情報は重要だと思います。ご本人とのコミュニケーションが難しいことが予想されるので。

C 腎症。食事や水分の摂取が少ないと、悪化する恐れがある。

早川 病態の面から腎症、精神・身体面から失語を押さえたいという意見が出ました(【1】)。他はどうでしょう。

D 介護度。要介護3なので、排泄と食事に介護が必要です。ほぼ全介助です。歩行もできないと書かれています(【1】)。

E 便と尿の失禁があり、寝たきり状態なので、床ずれや感染症が心配です。糖尿病があるので、特に。

F てんかんの種類が気になります。意識消失を伴うのか。

早川 この患者の医学的な状態については、どう見ますか。

E 糖尿病のコントロールができていないのかと思っていたんです。それで腎機能が悪化していて、透析に進む恐れがあると考えていたんですが。

早川 HbA1cは7.5%で、合併症を進行させないという次善の管理目標値は達成できています(【2】)。患者の年齢などを考えると、どうですか。治療は強化すべきでしょうか。

A いえ、優先順位は低いです。

早川 そうですね。患者の全体像を把握する上では、優先して対応すべきことは何かという判断が大切になります。

薬剤師の視点でのケア計画は

早川 次に、「居宅サービス計画書」を見ていきましょう。薬剤師による居宅訪問も、サービスの一つとして計画書に組み込まれています。この計画書のどこに着目しますか。

A 新山さんの奥さんから、急な体調変化、特に熱が出ると困るという訴えがあるので、まずそれをケアしていく必要があります。

H 排便管理を安定してできるように支援していきたい。

早川 計画書には、デイサービスの前日に下剤を内服するという情報があります(【3】)。この辺は薬にも関わってくるので着目しておきたいということですね。他に何かありますか。

C 健康観察が「生活全般の解決すべき課題」の第一に来ているので(【3】)、これに薬剤師がどう関われるかを考えたい。

I 「総合的な援助の方針」(【3】)に、生活意欲の低下があると書かれています。その改善の経過を見ていきたい。生活意欲の低下があると、なかなか服薬も難しいでしょうし。

早川 そう、「総合的な援助の方針」は大事ですね。ケアに関わる全ての医療職、介護職が認識しておきたいポイントです。この在宅患者さんの一番大事な、トータルの目標は何になると思いますか。

E 生活の意欲が出てきて、食欲が出て、後は、できれば自分で起き上がるなど、体力が出てくることでしょうか。

早川 そうですね。身体機能、精神機能がこれ以上低下しないように。そして本人の意欲も維持できるような支援をするというのが、われわれ全員の目標であることを認識しておきましょう。

 その中で私たちは具体的にどんな支援をしていくのか。それを「薬剤師としてのケア計画書」として一緒にまとめてみませんか。何でもよいですので思いついたことを言ってください。

E カリウム値について。デイサービスで出ている食事も、カリウムへの配慮がなされているかを確認したい。

H リンとか。全般的な栄養管理。

早川 栄養管理。そういう言葉の方がいいかもしれませんね。

G 栄養を摂取する上で味覚は大事になってくるので、味覚障害を起こすような薬が悪影響を及ぼしていないか。

早川 今出ている薬で、その可能性のあるものは。

G ブロプレス(一般名カンデサルタンシレキセチル)とテグレトール(カルバマゼピン)とプラビックス(クロピドグレル硫酸塩)です。

早川 なるほど。その視点は大事ですね。一般論ではなくて、この人には味覚障害を起こす可能性がある薬が3つ出ている。経過の中でその辺を評価していこうというのを、一つのモニタリングポイントとして挙げました。他はどうでしょうか。

C 嚥下機能です。

I 誤嚥性肺炎もです。食事や服薬を、寝たまましているのか。

早川 なるほど。新山さんは脳血管障害を持っていて、認知機能が低下している。この2つは誤嚥のリスクとなるので、着目点としてモニタリング項目に挙げておきましょう。他の点は。

J 排便のコントロール。どうしても介護者である奥さんの負担になってしまうので。下剤が適正か、食事の内容はどうかを確認したい。

H 皮膚状況の確認。糖尿病なので、褥瘡リスクが高い。

C デイサービスでの入浴時に、褥瘡が出来やすい仙骨や踵を確認するよう、薬剤師が依頼しておく。

F 糖尿病がらみで、網膜症のチェックも必要だと思います。

早川 様々な視点からの意見が出ました。それでは、「身体機能の低下を防ぐ」という、ケアに関わる全職種の大きな目標に関して、薬という観点から気になることはありませんか。

A テグレトール。日常生活動作(ADL)を低下させ得ます。

C ブロプレスによる起立性低血圧。

早川 そうですね。認知機能に対してはどうですか。

A テグレトールは認知機能の悪化にも注意が必要です。

F テグレトールは症候性てんかんに対して出ていますが、もし側頭葉てんかんだったら、発作で短期記憶が飛ぶことがある。それを認知症と勘違いしていないか、見極めておきたい。

早川 鑑別が可能なのであれば、ベースラインとして把握しておきたいということですね。

「むくみ無し」をどう考えるか

早川 さて、いよいよ初回の訪問です。服薬管理状況や体調変化について、全般的に確認したことが、7月6日の薬歴に記載されています。実際に訪問してみて、どんな印象を持ちましたか。

A 医師からの書面などから予想していた以上に悪いというか、意思の疎通もできなくて寝たきりでした。ですが、奥さんから食事や服薬状況について話を聞いて、嚥下機能も、咳やむせ込みは無いということで、奥さんの介助で服薬はできていると考えて、「コンプライアンスは良」というアセスメントをしました(【4】)。

早川 奥さんの援助によって服薬は基本的にはできていると。ただ、プルゼニド(センノシド)の残も多数、確認されました(【4】)。初回のアセスメント、皆さんはどう見ますか。

G 「食欲無し」で、おかゆ少量というのが気になります。糖尿病薬を飲んでいますから低血糖が心配です。

早川 確かにそこは注意しておきたいですね。ところで、リオベル(アログリプチン安息香酸塩・ピオグリタゾン塩酸塩)の副作用確認で、むくみは出ていないと分かりました(【4】)。この情報はどうアセスメントしますか。

G 患者は腎症のIIIB期とのことでしたが、浮腫が無ければ、水分制限の必要はありません。

A 訪問時の腎機能は、依頼書の時点よりも改善していました。GFRは55.2mL/min/1.73m2で、カリウムも3から4前後と正常値でした。

早川 むくみが無く、厳格な水分制限などは必要ないとアセスメントできるのですね。他の職種の参考になるよう、そのアセスメント結果も薬歴や報告書に記載しておきましょう。

考察を報告書の形にしよう

早川 7月8日の報告書は、薬剤の服用状況、管理状況がきちんと書かれていて、とてもよいと思います(【5】)。また、プルゼニドの残薬が200錠ほどあることを報告し、プルゼニドの中止を提案しています(【6】)。他に、ここで報告や提案をしておきたいことは。

H アーガメイトゼリー(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)は油分を含むので、腹部膨満感が出やすい。それで食欲が無く、かつ飲水制限はさほど必要ないとすれば、水に溶かして飲むケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)やカリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)のドライシロップ剤にする手もあると思います。

G 栄養剤のエンシュアの味は嫌がっていないでしょうか。ラコールなど味が改良された栄養剤に替えるとか、栄養剤を中止できるよう食事支援を強化するのもよいのでは。

早川 なるほど、栄養面に着目した提案も盛り込めそうですね。排便管理についてはどうですか。

E プルゼニドで管理することは、あきらめた方がいいかもしれませんね。毎日服用すると下痢になるし、調節して使うのも大変だから、残薬がこれだけあるわけですよね。ちょっと大胆なんですけど、訪問看護が入っていますから、浣腸などで対応してもらっては。

G プルゼニド、連日投与じゃなくて頓服でもよいんじゃないですか。

E 1回2錠で出ていますが、1錠でもよいかもしれません。

H 下剤を、量の調節がしやすい液剤のラキソベロン(ピコスルファートナトリウム水和物)に替えるのは?

A 先ほどのアセスメントで腎機能はあまり心配要らないことが分かったので、酸化マグネシウムでもいいかも。アミティーザ(ルビプロストン)も、便の水分量を調節する薬なので、プルゼニドよりどっと出る下痢は少なくなると思います。

E 粉は飲めないとのことですが、錠剤のマグミット(酸化マグネシウム)を、軽く潰す。

早川 いろいろな提案が出ましたね。ここからが大事です。排泄に焦点を当てた報告書を、皆さんだったらどう書くか。文章の形で述べてください。

全員 ……(沈黙)。

早川 なかなか文章となると難しいですか。では、ここまでの議論を踏まえた報告書の例を言ってみます。元の報告書にある「プルゼニド錠の残薬が約200錠ありました。次回は中止をお願いいたします」に続けて、「排便管理について、今後、検討させていただいてよろしいでしょうか」。そして、薬剤師が排便管理を今後、どのように進めていくかを表明します。いかがでしょう。これで排便管理については方向性を示せました。

服薬負担を減らす種々の方法

早川 次に、7月20日の薬歴と報告書。ここで担当薬剤師はリバロ(ピタバスタチンカルシウム)のOD錠への変更を提案していますね(【7】)。新たな情報として「朝の分は3錠と2錠に分けて服用している」と書いてあります(【7】)。実際に錠剤を飲みづらそうにしていることを確認したので、OD錠への変更を提案したわけですか。

A そうです。

E 1回に5錠なのは、用法が朝に偏り過ぎなのも原因かな。一部を夜に変えれば、1回に飲む錠数を減らせます。

A そうか。すごい、思いつかなかった。

早川 処方されている薬の大きさ、長径や厚さについてはどうですか。

A それについてはOD錠の有無も含めて検討しています。リバロ以外は、より優れた代替薬は無いとアセスメントしました。

早川 他薬については服用性向上のための変更は不要だと。では、そのことも報告書に書いておきましょう。アーガメイトについてはどうですか。

C 中止を検討してもいいかも。

A でも、食事が取れるようになってきている。するとカリウム摂取量も増えるから、残しておきたいです。

E カリウムを取りすぎたときに、頓服で飲むようにすることは可能かも。私たちだけでは判断できませんが。

早川 そのことを報告書の形にすると、どうなりますか。

E ええと、アーガメイトと、それからエンシュアも、調整して服用、頓服にしてもよろしいでしょうか。先生のご意見をいただきたい。

早川 「ご意見をいただきたい」という軟らかい表現はよいですね。薬剤師としてアセスメントしたことや提案などを、役割意識を持って、報告書に記載していきましょう。

新潟かかりつけ薬剤師育成会でのオーディットの様子。

参加者の感想

吉田智彰氏

 今日のオーディットでは、「服薬して問題ない」といった、薬剤師がちゃんと確認してきたことを記録に残し、医師に報告することも大事だということに気付かされました。自分一人だと見落としがちなことも、他の参加者の意見から気付く視点が得られて、すごく勉強になりました。

高井亮氏

 オーディットでは薬剤師から医師に何をどう提案するかという話が中心だったのですが、欲を言えば他の職種や、介護している奥さんから薬剤師に望むことを聞いて、こちらから一方的に何かをするのではなく向こうが望むことを提供するという、相互的な関係をつくり上げていければいいなと感じました。

全体を通して

早川 達氏

 在宅患者のケアでは、医学的問題の改善だけでなく、精神・身体機能や生活の維持が大きな目標となります。薬剤師は医学的な問題を中心に考えてしまいがちですが、今回、「訪問薬剤管理指導依頼書・情報提供書」と「居宅サービス計画書」から生活機能面をよく読み取り、総合的な援助方針と具体的な課題を把握することによって、優先度・重要度が高い課題の中で薬剤師がどんな支援を行えばいいのかを考えていくことができました。

 在宅現場では特に、多くの職種が協働する中で具体的な成果を求められます。そのため、訪問後にどのように報告・提案していくかを主眼にオーディットを進めました。薬学的な面しか考慮していない意見は、他のケア提供者には受け入れてもらえません。他の職種の視点を押さえた上で、多面的なアセスメントを行い、薬剤師である自分はどのようにしていくべきと考えているのかをはっきりと述べることが大事です。ディスカッションでは様々な具体的な意見が出て、いろいろな対応方法があることへの気付きが得られたのではないでしょうか。どの対応策がベストであるかの判断には、さらに代理人(患者の妻)の意見も含めて状況を見極め、他の職種に依頼すべきことは依頼していくことが重要であるという認識が深まったのではないかと思います。

 他の職種に薬剤師の考えと判断を伝える意味で、報告書はとても重要です。役割意識を明確に持って、アセスメントと提案を書いていただきたいと思います。今回は医師への報告書としてオーディットしましたが、他の職種への依頼や提案を含む意見が出れば、より良かったと思います。薬剤師が介護職を含めた他職種と医師との間をつなぐ役割を果たすことを目指していきましょう。

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