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薬局で血液検査が可能に
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

 2014年3月31日、臨床検査技師等に関する法律に基づく告示が改正され、翌日に適用された。これによって、これまで法的位置付けが不明確だった薬局などでの自己採取した検体による生化学的検査が、法的に認められることになった。

新たに「検体測定室」が誕生

 採血を伴う検査を行う場合、これまで病院や診療所など一部の施設以外では、「衛生検査所」としての届け出が必要だった。ただし、自己採血であり、診断に用いるのでなければ衛生検査所以外でも検査が可能とも考えられており、管轄する保健所の解釈によって、許可されるか否かが異なる状況だった。

 それが今回、臨床検査技師等に関する法律第20条の3第1項の「衛生検査所として登録が不要な施設」に、検査を受ける者が自ら採取した検体の生化学的検査を行う施設である「検体測定室」が加えられた。これにより、幾つかの条件はあるが、検体測定室の届け出をすればどこでも自己採血検査ができるようになった。

写真1 検体測定室の開設届書

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必要事項を記入し、厚生労働省医政局指導課医療サービス室長に届け出る。

 告示改正と同時に、厚生労働省と経済産業省は連名で「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」を公表。検体採取方法や検査(測定)後のサービス提供の内容が、医師法に規定する「医業」に該当しない範囲で実施すべきことなどが示された。

 さらに厚労省は4月9日、薬局などが検体測定を行う上での具体的な手続きや運用上の留意点などを示した「検体測定室に関するガイドライン」を出した(表1)。検体測定室は薬局に限っていないものの、測定は医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師のいずれかが行うこととされ、薬局での実施を意識した内容となっている。

表1 検体測定室について(「検体測定室に関するガイドライン」より編集部まとめ)

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検査で広がる薬局業務

 これまでも、薬局での自己採血検査は実施されてきた。筑波大学大学院内分泌代謝・糖尿病内科准教授の矢作直也氏が進めるプロジェクト「糖尿病診断アクセス革命」は、その一つだ(インタビュー参照)。10年から東京都足立区と徳島県の合計20薬局でHbA1cを測定し、糖尿病の予備群のスクリーニングを行ってきた。10年10月から14年3月に検査を受けた3014人(糖尿病治療中の患者は対象外)のうち、HbA1c(国際基準値)が6.5%以上で糖尿病が強く疑われる人は約12%、同6.0~6.4%の糖尿病予備群が疑われた人は約16%だった。プロジェクトでは、これら3割近い人たちに受診を勧めた。「実際に受診したかどうかは調査中」(矢作氏)だという。

 また、受検者のうち44%は定期的な健康診断を受けていなかったという。矢作氏は、「新たなスクリーニングの場が必要ということだ。今回、新設された検体測定室を薬局が運営することで、その役割を担える」と話す。

 広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授の森川則文氏のプロジェクトでは、幾つかの薬局が同氏の指導の下、薬局の店頭や健康フェアなどでHbA1cに加えて総コレステロール、中性脂肪、尿酸値を測定してきた。

 サンキュードラッグ(北九州市門司区)の11薬局の店頭とイベント会場での測定では、基準外の値を示した人の割合は、HbA1cは12%(基準とした範囲は4.6~6.2%)、中性脂肪は34%(同150mg/dL以下)、総コレステロールでは41%(同200mg/dL)、尿酸値は16%(同男性3.4~7.0mg/dL、女性2.4~5.7mg/dL)だったという。「特に、総コレステロールや中性脂肪の値が高い、30、40代の若い人たちが多く見付かった」と森川氏。そうした人たちに早期に受診してもらうことで、将来的な医療費の抑制につなげることができる。

 加えて、森川氏は「医療費を抑えるために、今後、治療対象となる前段階の人たちが、薬局で検査をして結果を見ながらセルフメディケーションを行えるような施策が進むのではないか」との見方を示す。既にスイッチ化されているイコサペント酸エチル(商品名エパデール)に続き、αグルコシダーゼ阻害薬などの生活習慣病薬も、いずれOTC薬が出てくると予測する森川氏。「薬局で適切に検査ができることを示せなければ、そのシナリオが崩れる。薬局での検査を用いたセルフメディケーションを根付かせられるかどうかの正念場」と強調する。

「血液検査で、セルフメディケーションのサポートの幅が広がる」と話す広島大学の森川則文氏。

健診を受ける動機付けに

 糖尿病診断アクセス革命のプロジェクトに参加し、500人以上の検体測定を無料で行ってきた、あやせ薬局(東京都足立区)管理薬剤師の長井彰子氏は、「思った以上に、多くの人が検査を受けに来ている」と、手応えを感じている様子だ。長井氏は、「数値が良い人でも『改めて健診を受けるね』と帰っていく人が多い。手軽に検査が受けられることで健康への意識が高まり、健診を受ける動機付けになる」と話す。

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 東京都東久留米市に本社を構え13薬局を経営するアビックでは、森川氏の指導の下、12年6月から、清瀬元町店(東京都清瀬市)でHbA1cと、中性脂肪、総コレステロール、尿酸値の測定を行ってきた。同社取締役副社長の湯谷綾子氏は、薬局での血液検査を始めた理由を「薬局は、いずれ処方箋調剤だけでは立ち行かなくなる。健康維持や予防をサポートする機能も持つべき。血液検査はそのための大きな武器となる」と話す。

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 試薬などにかかる実費分として1項目500円を受検者に負担してもらっているが、月に10~20人が検査を受けに来るという。「検査のために定期的に来局していれば、いざ治療が必要になったときに処方箋を持って来てくれるだろう。予防から関わることで“かかりつけ薬局”として機能できる」と話す湯谷氏。「機器の減価償却費や試薬代、人件費などを考えると、1項目500円では赤字だが、薬局なら処方箋応需につながる可能性がある。地域に根差すための患者サービスの一環と考えれば、やる意味がある」と言う。

 アビックでは、管理栄養士を薬局に配置し、栄養指導ができる用意もしている。「検査だけでなく、相談されたときのフォローができてこそ、薬局が行う価値がある」(湯谷氏)。

結果を基にした説明はNG

 検査手技は難しいものではないが、「血液を扱うため、検体の適切な扱い方などの研修が必要」と湯谷氏。同社では、森川氏がイベントなどを通じて行う研修に参加し、手技や知識を学んできた。森川氏は、「今後、検査値や病態などの知識も含め、大学の生涯教育などで研修を行う体制を整えていく必要がある」と話す。

 実際の測定は、検体測定室に関するガイドラインにのっとって実施する。検体測定室を開設するには、7日前までに厚労省医政局指導課医療関連サービス室長に届け出る。イベントなどでの臨時の検体測定室の設置も可能だ。

 受検者には、結果の判断は自分で行うことや、結果のいかんにかかわらず改めて健康診断などを受けることなど11項目を説明し、同意を得て承諾書に署名をもらう。

 採血のための穿刺はもちろん消毒や血液の採取も受検者が行う。感染防止対策の徹底も必要だ。血液が付着した穿刺器具などは、感染性廃棄物として処理する。都道府県薬剤師会などが、インスリンなどの自己注射針の回収事業を行っている地域では一緒に処分できるが、そうでなければ専用の業者との契約が必要だ。

 測定結果については、測定値と測定項目の基準値を示すのは構わないが、結果を基にしたコメントはNGだ。「一般的に、HbA1cが6.5%以上あれば、糖尿病が疑われます」との説明は構わないが、「あなたは糖尿病が疑われますので受診してください」などは認められない。逆に基準値内であっても健康と誤解される表現は避ける。診断と見なされる発言は厳しく禁止されているわけだが、このことは医療訴訟のリスクを回避することにもつながっている。

表2 検体測定後の説明例

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 また、受検者が検査結果を見て、自分で判断して購入するのは構わないが、測定結果を基にOTC薬や健康食品などの購入を勧めてはいけない。

 薬局での自己採血検査が法的に認められた一方で、要件が厳しくなったと考える向きもある。しかし、薬局が診断行為と見なされる指導をしたり、検査結果を物販に結び付けるような行動が目立てば、より厳しい規制が掛けられかねない。「せっかく薬局に与えられたチャンスを上手に運用し育ててほしい」と森川氏は語っている。

23万人超が既に体験

 薬局以外でも自己採血による検査を行う事業体がある。「セルフ健康チェック」としてサービスを提供するケアプロ(東京都中野区)だ。「ワンコイン健診」の名称で、東京都中野区の店舗に加えて、駅やイベント会場などの特設スペースで自己採血検査などを実施してきた。

 検査項目はHbA1cや血糖値、中性脂肪、LDL・HDLコレステロール、肝機能、骨密度、肺年齢など。検査は看護師が行い、2007年のサービス開始時から既に約23万5000人が検査を受けているという。同社予防医療事業部長の上屋敷将明氏は、「健診には行かないけれど、身近な場所ですぐに結果が出るのであれば、検査を受けてみようかと思う人は多い」と、需要があることを示す。

 同社は検体測定室の届け出をいち早く行い第1号となった。「自己採血検査が一般的になり、手軽に検査を受ける習慣が社会に根付いていけば、健診受診率の向上や生活習慣病の予防につながるはず」と上屋敷氏は話している。

(写真提供:ケアプロ)

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