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CaseStudy
市名坂薬局(仙台市泉区)

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

 市名坂薬局(仙台市泉区)は、内科・循環器科などの専門診療を行う診療所と病院の近隣に位置する。薬局の前にはバス停があり、薬局の軒下にあるベンチは、来局者だけでなく、バスを待つ客もしばしば利用する。

 ベンチの前には、薬をモチーフにした手書きのイラストと「花粉症対策はお早めに!」とのメッセージが書かれた立て看板(写真【6】)。通行人や待合にいる患者の目を引く。

 この立て看板は、市名坂薬局の委員会活動の一環で生まれたもの。同薬局では全ての薬剤師と事務スタッフが4つの社内委員会のいずれかに所属し、サービス向上や業務効率化のアイデアを日々、実行に移している。

ボトムアップで業務改善

 市名坂薬局を含め仙台市内に3カ所の薬局を運営するサンライフコミュニティーの代表取締役社長・吾孫子(あびこ)純氏は、「委員会こそ、薬局を動かしている最も重要な組織」と話す。「経営者がトップダウンで指示するのではなく、現場のスタッフ一人ひとりが問題意識と真心を持ち、ボトムアップで知恵を絞った方が、“答え”に近づくはず」(同氏)だからだ。

 同氏が言う“答え”とは、経営理念の1つの柱に掲げている、安全・迅速・親切な医療を提供すること(図1)。それを実現するための組織が委員会だ。

図1 市名坂薬局の経営理念と委員会の関係(取材を基に編集部で作成)

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 吾孫子氏自身は薬剤師資格を持っていない。大学経済学部を卒業後、約9年間の銀行勤務を経て、父親の吾孫子真一氏(現・サンライフコミュニティー会長)から薬局経営を引き継いだ。その際、「薬剤師という国家資格は、国民のためにあるもの。薬局・薬剤師は自らの利益を第一に追求するのではなく、税金や保険料を負担する国民、すなわち目の前の患者さんや地域社会の目線に立って、より良い医療を提供していく使命がある」と考えた。

 経営と現場を分離することで、薬剤師には生涯、国民のための存在であるという意識を持ち続けてほしい─現場発のアイデアを実行に移す権限を「委員会」に委ねる仕組みを導入した背景には、吾孫子氏のそんな期待が込められている。

 委員会活動によって小さな改善を積み重ねていけば、患者や医療機関などを含む地域社会からの信頼と支持につながり、薬局は自ずと適正な利潤を得られるようになる。薬局の経営が安定すれば、現場のスタッフの心にはゆとりが生まれ、より良い医療を提供しようとするモチベーションは更に上がるわけだ。「十分な人員をそろえ、委員会活動は全て勤務時間内に行う体制にしている」(吾孫子氏)点も、スタッフのモチベーションを高く維持し、好循環を生み出す秘訣となっている。

 実際、かかりつけ薬局推進委員会委員長の秋祐子氏は、「患者さんに『ありがとう』と言ってもらえた時や、喜んでもらえる工夫を現場からどんどん発信できることに、大きなやりがいを感じる」と話す。

時間もコストも効率化

 各委員会の活動実績を見ていこう。

 安全対策委員会では、調剤過誤を防いだり、サービスの質を平準化したりする仕組みについて検討を重ねている【A】。これまでに、自動錠剤分包機に薬をセットした時の記録表や、在庫の定期数量チェック表、インシデントリポートなど、様々な様式を作成してきた。

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 体制を整えるだけでなく、スタッフに安全意識を浸透させるのも、同委員会の重要な任務。記録する際は、ダブルチェックを行った上で、日付入りの証印を押すことをルールに定めた。委員長の大貫雅幸氏は、「責任感と緊張感を持続させるために、自分の目で見て確認することを徹底している」と話す。

 より安全で迅速なサービスを提供する上で、調剤業務を効率化し、患者の待ち時間を減らす努力も欠かせない。それを請け負っているのが調剤業務改善委員会だ【B】。10年2月の活動開始以来、90以上もの改善策を施してきたという。委員長の本間幹一郎氏は、「既存業務の見直しによるコスト削減を積み重ねていけば、全自動錠剤分包機や電子薬歴など、高価な機器を導入する余力も生まれ、更に業務の効率化が図れるようになる」と語る。

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事務スタッフにもプロ意識

 一方、かかりつけ薬局推進委員会は、冒頭で紹介した立て看板を使って情報を発信したり、OTC薬の選定を行ったりするなど、「処方箋がなくても気軽に立ち寄れる薬局」を目指して、設備や接遇の改善を図っている【C】。

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 今年1月からは、待合の一角を利用した無料健康相談も開始。週4日、事前予約制で、患者1人当たり30分ほど掛けて、薬剤師がじっくり相談に乗る。これまでに月1~2人のペースで、疾患治療に関するセカンドオピニオンや、副作用チェック、検査データの読み方などに関して相談を受けているという。

 薬局で安全・迅速・親切なサービスを提供する上で、事務スタッフの協力も不可欠だ【D】。事務スタッフは、薬剤師が調剤・監査・服薬指導などの業務に専念できるよう、薬剤師でなくても行える業務を請け負っている。薬の発注点管理から発注、納品、検品、棚入れまでの一連の在庫管理も、事務スタッフの業務の一つだ。

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 事務改善委員会の活動は、入力ミスを防ぐためにダブルチェックする体制を整えたり、レセプトが複雑な事例を収集・検証・共有したり、診療報酬に関する外部の講習会に出席してスキルアップを図ったりするなど、既存業務の効率化と質向上を目的としたもので、いずれもプロ意識を持って臨む。委員長の千葉香澄氏は、「委員会活動は、経験年数の違いによる業務の質のばらつきをなくすことはもちろん、事務スタッフ同士が対等に話し合える良い機会にもなっている」と話す。

あらゆる方法で薬局をPR

 さらに市名坂薬局では、委員会活動の成果を患者に知ってもらう取り組みにも力を入れる。具体的には3カ月に1回、委員長が吾孫子氏に活動報告を提出し、それを薬局のウェブサイトに掲載するとともに、印刷して薬局の待合にも掲示している(写真1)。「委員会活動を自己満足に終わらせず、自己研さんを続けるためにも、活動報告を掲載する意義は大きい」(秋氏)。

写真1 委員会の活動報告などを紹介する掲示板

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薬局の待合に「ご意見箱」を設置するほか、薬局支援サービスのクラスAネットワークが発行する健康情報誌『Life』のとじ込みはがきを通じて、患者から意見や要望を集めている。寄せられた全ての意見に対して、社長の吾孫子純氏が回答を作成し、スタッフに事前に回覧した上で掲示。また、委員会の活動報告についても、冊子にして掲示板に貼り出している。

 加えて、地域の小・中・高校生の短期間の職場体験を随時受け入れているほか、社内勉強会の一部を社外の薬剤師や薬学生に無料で公開するなど、地域社会全体に向けた“薬局の見える化”にあらゆる機会を活用している。

 「一般の人々は、薬局・薬剤師の業務内容や存在意義について、学校教育の中で教わることはない。だからこそ、私たちが自らPRする努力をしなければならない」と吾孫子氏は力説する。

 薬局側からアピールするばかりではなく、患者のニーズをくみ取る努力も怠らない。待合に「ご意見箱」を設置するほか、薬局で配布している健康情報誌のとじ込みはがきを活用し、意見や要望に真摯に耳を傾ける。

 大半は好意的な感想だが、中には待ち時間への不満や、薬局が提供するサービスの必要性を疑問視する声もある。「不満やお叱りの声は、薬局への期待の表れ。改善のチャンスを与えてもらったと前向きに捉えてほしい」と、吾孫子氏はスタッフに説いているという。

 また、寄せられた意見には、吾孫子氏が回答を作成し、全スタッフに事前に回覧した上でウェブや待合に掲示。回覧には、経営理念を浸透させるほか、問題点を現場のスタッフに認識させ、行動を促す狙いもある。これまでにクレジットカード決済端末機や空気清浄器の導入など、患者の声がサービス改善に反映された事例は数多い。

 現在のところ、委員会活動や啓発の成果を数字で示すまでには至ってはいないが、「最近は、結果を意識して活動するよう伝えている」と吾孫子氏。

 そして、委員会活動などの最終目標は、患者や地域住民に信頼され、支持されることだ。吾孫子氏は、「小さな努力も、積み重ねれば大きな成果につながるはず。今後もスタッフ一丸となって取り組み、薬局のファンを増やしていきたい」と意気込む。(内海 真希)

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