DI Onlineのロゴ画像

ヒヤリハット事例に学ぶ
吸入薬使用時にはトラブルが起こりやすい(2)
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

 吸入器の操作や吸入薬の管理は、患者にとって難しい。薬局で説明を受けても、自宅で使用するときには使い方が分からず使用を断念したり、操作方法の理解不足から操作が不十分になる患者は多い。

 今回は、筆者らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員などから寄せられた事例から、吸入薬使用時におけるトラブル事例、中でも間違った使い方をしていた事例を紹介する。

 なお、筆者らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例は、無料で閲覧が可能である。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから。

■何が起こったか
 患者は〈処方箋1〉の薬剤を使用していたが、アドエア250エアゾール(一般名サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル)がなくなった。次の診察は数日後だったので、自宅残薬〈処方箋2〉のアドエア125エアゾール(同)を倍量で使用した。

■どのような経緯で起こったか
 患者は、〈処方箋1〉の薬剤を使用していたが、アドエア250エアゾールが足りなくなった。次の診察まで数日あったので、自己判断で以前に処方され自宅に残っていた〈処方箋2〉の「アドエア125エアゾール」を「1回2吸入、1日2回」(全4回吸入)のところ、倍量の「1回4吸入、1日2回」(全8回吸入)、あるいは「1回2吸入、1日4回」(全8回吸入)」で使用していた。患者は、この不適正使用に特に疑問を感じていなかった。


合剤であることと数字が示す意味を説明

 アドエア製剤はサルメテロールとフルチカゾンの合剤で、現在、9種類が発売されているが、いずれにおいても、サルメテロールの含量(50μg/回、100μg/日)は固定されている。患者は、アドエアに2種類の薬剤が含まれていることを知らなかった。

 アドエア125エアゾールとアドエア250エアゾールの1回噴霧中に含まれるサルメテロール量は、どちらも同じ量(25μg)である。サルメテロールの適正量は100μg/日であるが、この患者の場合、サルメテロールの量が適正量の倍量となっていた。

 サルメテロールの過量投与により、頻脈、不整脈、振戦、頭痛、筋痙攣など、β刺激薬の薬理学的作用による症状が出る可能性がある。サルメテロールの気管支拡張作用は通常12時間持続するので、1日2回を超えて投与しないよう、患者に説明することも重要である1)

 加えて患者には、アドエアは配合薬であることを説明する。そして、薬名の数字は、フルチカゾンの1回噴霧中の含量を示していることを説明し、サルメテロールの含有量はいずれも同一であるため、異なる製品で代用できないことを説明する。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

「アドエアには、気管支を広げるお薬と、気道の炎症を抑えるお薬の2種類の成分が入っています。今回、処方されたアドエア250エアゾールには、以前使用されていたアドエア125エアゾールに比べて炎症を抑えるお薬が2倍入っていますが、気管支を広げるお薬の量は同じです。アドエア250エアゾールの代わりに、アドエア125エアゾールを倍量使用すると、気管支を広げる薬が倍量となってしまい、副作用が起こる恐れがありますので、代替使用は避けてください」。

■何が起こったか
 患者は、パルミコート200μgタービュヘイラー(ブデソニド)とセレベント50ディスカス(サルメテロールキシナホ酸塩)の併用を終了したあと、翌日からシムビコートタービュヘイラー(ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物)を単独で使用すべきところを、シムビコートとセレベントを併用していることが発覚した。

■どのような経緯で起こったか
 患者は、以前はパルミコートとセレベントの併用療法を行っていた〈処方箋1〉。吸入薬は妻が準備していた。

 5月30日に、ステロイド薬とβ2刺激薬の配合薬のシムビコートが処方された〈処方箋2〉。処方医からは、パルミコートは自宅残薬のセレベントと併用して使用し、セレベントがなくなったら、翌日からシムビコートを使用するようにとの指示が出ていた。

 しかし、次に来局したときに、患者の妻にシムビコートの使用状況を聞いたところ、患者は、自宅に残っていたセレベントをシムビコートと併用していることが発覚した。つまり、β2刺激薬のサルメテロールとホルモテロールが重複使用となっていた。


2剤併用から合剤への切り替え時に注意

 β2刺激薬の重複使用となった要因としては、次のような要因が考えられる。

1)患者と家族は、シムビコートが配合薬であると認識しておらず、吸入ステロイドが処方されたと思っていた。
2)シムビコートとパルミコートは同じデザインの吸入器(タービュヘイラー)であるため、患者と家族は混乱した。
3)処方医は、パルミコートと自宅残薬のセレベントの併用が終了してから、シムビコートを単独で使用するように指示したが、シムビコートを使用する頃には、患者と家族は、その指示を忘れていた。

 患者と家族には、シムビコートは配合薬であり、単独で使用するよう説明する。パルミコートとシムビコートの製品のデザインは似ているので、その違いを説明する。また、「パルミコートと自宅残薬のセレベントの併用が終了してから、シムビコートを単独で使用する」という説明は、口頭だけではなく、メモにして渡すことも必要であろう。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

 「今回初めて処方された吸入薬は、シムビコートというお薬です。これまで、パルミコートとセレベントを別々に吸入していましたが、新しいお薬は、この2剤が混ざって入っています。今回はパルミコートも出されておりますが、これは、自宅に残っているセレベントと一緒に吸入していただくためのものです。セレベントを使い切ったら、その後は、今回出たシムビコートだけを吸入してください。薬の切り替え方を記したメモを入れておきますので、間違えないように、切り替えてくださいね」。

■何が起こったか
患者は、フルタイド100ディスカス(フルチカゾンプロピオン酸エステル)を吸入しようとしたが、何回レバーを操作しても薬が出てこないと薬剤師に訴えた。原因を調べると、薬剤は出ており、患者に吸入感がないだけだった。

■どのような経緯で起こったか
 患者は、薬剤師からの説明で、吸入薬がうまく吸入できると、口の中でわずかに甘味や粉の感覚を感じると聞いていた。しかし実際吸入してみると、甘味や粉の感覚がなく、正しく吸入できているか不安になった。何回レバーを押しても同じであり、結局25回分もレバーを押して吸入した。

 患者は、吸入感がない場合の対応については薬剤師から説明を受けていなかった。本事例は、患者が薬局に電話し、「フルタイドディスカスのカウンターの数が3日で0になった」と訴えたことで発覚した。


うまく吸入できない場合の対応も説明

 吸入指導では、吸入時の使用感に関する説明が必須である。この場合は、吸入後わずかな甘味や粉の感覚を口の中に感じることを説明するだけでなく、甘味や粉の感覚がない場合の対応についても説明すべきだった。

 甘味や粉の感覚がない場合は、うまく吸入できていない可能性があるので、レバーを動かさずそのままで吸入だけを1~2回繰り返す必要がある。吸入を繰り返しても吸入感がない場合には、何回もレバーを押さずに、医師や薬剤師に相談するよう指導する。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

 「フルタイドディスカスは、薬がうまく吸入できると、わずかな甘味や粉の感覚を感じます。ただし、体調などによって甘味を感じない場合もあります。うまく吸入できているか不安なときは、レバーは動かさずにそのまま1~2回吸入してください。吸入を繰り返しても、吸入感がない場合には、医師や薬剤師に相談してください。吸入感がないからといって、何回もレバーを押して吸入しないでくださいね」。

■何が起こったか
 スピリーバ吸入用カプセル18μg(チオトロピウム臭化物水和物)のアルミ包装の剥がし方が分からず、毎回はさみを使ってカプセルを取り出していた。

■どのような経緯で起こったか
 患者は慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)と診断され、スピリーバが初めて処方された。スピリーバが処方されて2度目の来局時に、患者が「吸入は行えるが、カプセルをシートからうまく取り出せない。毎回はさみで切っている」と話し、吸入後のカプセルが入ったシートを出した。

 薬剤師がシートを見ると、本来はシートの裏面のアルミ包装を剥がすようになっているのを、シートの表面からはさみでカプセルの周囲を切ってカプセルを取り出していた。


薬の取り出し方を実演を交えて説明

 薬剤師は、患者にスピリーバの吸入方法を説明するときに、アルミ包装の裏側を剥がしてカプセルを取り出すことを伝えていなかった。スピリーバはカプセルの取り出し方が特殊であり、特に高齢者には分かりにくいと思われる。初回交付時に、吸入器具の説明のみでなく、カプセルの取り出し方についても確認が必要である。

 アルミ包装の表面に印字されている「反対面よりお開けください」の記載は、文字が小さく読みづらい。また、シート両面とも、シルバー色で、どこから開ければよいかが分かりにくい。カプセル本体が入っているプラスチック部は硬く、無理やり表面から押し出すと、裏面から出ることなくカプセルがつぶれてしまう恐れがある。服薬指導時は、口頭や印刷物だけでなく、実物の薬剤や吸入器具を見せ、実演しながら指導することがより効果的であろう。

 なお、メーカーに依頼すると、吸入練習用のハンディヘラー(吸入用器具)とプラセボカプセル(1シート)が入手できる。また、メーカーが運営する慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関する情報提供サイトには、使用法の動画などが掲載されている。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

 「カプセルの取り出し方を説明します。ブリスターと呼ばれるアルミシートを1列分切り離してください。中央のミシン目に沿って何度か折り返してから、2つに切り離し、シートの裏面の番号順に剥がします。表面の盛り上がった面から剥がすことのないように注意してください」。

■何が起こったか
 フルタイド100ディスカス(フルチカゾンプロピオン酸エステル)を吸入後、30分たってからうがいをしていた。

■どのような経緯で起こったか
 患者は、吸入後すぐにうがいすると、薬が洗い流されて、効果が減ると考えた。しかし、吸入後30分間、うがいのことを覚えておくのは面倒だと感じ、薬局に問い合わせたことから、不適正使用が判明した。


ステロイド吸入後にうがいをする目的を説明

 本ケースのように、吸入後のうがいについて誤解している患者は少なくない。うがいの目的と方法は、初回の服薬指導できちんと説明しておきたい。また、来局ごとに吸入ステロイドをどのように使用しているか尋ねてみると、誤った使い方を発見しやすく、トラブルを未然に防ぐことができる。

 このケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

 「この吸入薬は、肺から吸収されます。ただ、口からお薬を吸い込むため、薬剤が口や喉に残ってしまいます。薬剤が口に残ると、しわがれ声や感染症の原因になりますので、吸入後すぐにうがいをしてください。吸入後、すぐにうがいをしても薬の効果はなくならないのでご安心ください」。

 

(東京大学大学院教授 薬学系研究科 医薬品情報学講座・澤田康文)

参考文献
1)J Allergy Clin Immunol 2000;105:1108-16.

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ