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副作用症状のメカニズム
「生理が来ない」
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 40歳女性。双極性障害と診断され、バルプロ酸ナトリウム(商品名デパケン)を服用中である。この日は、薬局に来て「月経が来ない」と相談してきた。

月経のメカニズム

 月経とは、約1カ月ごとに起こり、数日で自然に止まる子宮内膜からの周期的な出血をいう。月経開始の初日から、次の月経が始まる前日までの期間を月経周期という1)

 思春期になると、視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌される。GnRHは、パルス状に分泌され下垂体に到達し、下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の2つの性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が分泌される。FSHは、卵巣の卵胞を発育させる。思春期では、卵巣の中に原始卵胞が16~35万個存在している。原始卵胞には未成熟の卵子が含まれ、毎月その中の幾つかが次第に成熟して卵胞となり、そのうちの1つの卵胞が急速に成長して成熟卵胞となる。

 卵胞は、内莢膜と顆粒膜で覆われ、卵子を育てる卵の殻の役目を果たしている。内莢膜細胞には下垂体から分泌されるLHの受容体が多数存在しており、LHの刺激を受けるとコレステロールからアンドロゲンの合成が促進され、顆粒膜細胞へ供給される。顆粒膜細胞にはFSHの受容体が多数存在しており、FSHの刺激を受けると、アンドロゲンをエストラジオールに変換させるアロマターゼ活性が増大する2、3)。エストロゲンは卵胞で作られるため、「卵胞ホルモン」とも呼ばれる。

 月経周期は、増殖期、分泌期、月経期に分かれている。増殖期には、エストロゲンによって子宮内膜が増殖して2~3mm(厚い部分は10mm)に肥厚し、受精卵が着床できるベッドができる4)。エストロゲンの血中濃度が高くなると、フィードバック機構が働き、脳下垂体前葉からLHが大量に分泌される(LHサージ)。LHは卵胞を刺激するため、卵胞は破裂し、中の卵子が腹腔内へ放出(排卵)される。放出された卵子は卵管に取り込まれ子宮へと運ばれる。

 一方、破裂した卵胞の顆粒膜細胞と莢膜細胞は増殖して黄体細胞へと変化する。黄体細胞からは、少量のエストロゲンと、大量のプロゲステロンが産生される。プロゲステロンの血中濃度が高くなると、子宮内膜の子宮腺の分泌活動が活発化する。これを月経の分泌期という。プロゲステロンは体温を上昇させ、基礎体温は高温期に入る。子宮腺の中は、グリコーゲンや脂質に富む分泌物で充満される。らせん状の動脈が発達し、子宮内膜に張り巡らされ、子宮は受精卵が成育できる心地良いベッドへと変化していく。

 受精卵が着床しないと、黄体は白体となり、エストロゲンやプロゲステロンの分泌が減少し、子宮腺の分泌活動が止まる。子宮内膜への血液の供給は中止され、増殖した子宮内膜は壊死し、剥離して血液や粘液と共に排出される。これが月経(月経期)である。

 受精卵が着床し妊娠が成立すると、黄体は増大してプロゲステロンを分泌し続け、妊娠を維持する。やがて胎盤が形成され、黄体の機能が受け継がれる。胎盤から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンは乳腺を発達させるが、この時点では下垂体からのプロラクチン(PRL)の分泌を抑えている。出産し胎盤が娩出されると、エストロゲンとプロゲステロンの血中濃度は急激に低下する。これにより、PRLが下垂体前葉から分泌され、乳汁分泌が起こる。PRLは性腺を抑制するため、授乳中の女性は排卵が止まる。

 正常月経の定義は、排卵があること、月経周期が25~38日、生理の長さは3~7日、月経血の量は20~140mLとされている4)。通常11~14歳ぐらいに初経がある。月経異常には、初経の異常、月経周期の異常、持続日数や量の異常─がある。

 初経の異常:10歳未満で初経が来たものを早発月経、15歳以上では遅発月経、18歳になっても初経が起こらないものを原発性無月経と呼ぶ。原発性無月経は、ターナー症候群などの先天異常によるものが多い。

 月経周期の異常:月経周期が24日以内に繰り返す頻発月経、月経周期が39日以上となる希発月経などがある。頻発月経は、黄体機能不全などの器質疾患や無排卵症などの機能異常によることが多い。

 希発月経は、過剰なストレスや無理なダイエット、無排卵症による場合がある。過度の体重減少は広い意味のストレスと考えられる。アスリートの希発月経も同様である。ストレスは、PRLや甲状腺刺激ホルモン(TSH)などの下垂体前葉ホルモンの分泌に影響する5)。PRLの血中濃度が高くなり、高PRL血症となると、GnRHの分泌不全を来す6)。これらにより、卵胞発育や排卵が障害され月経異常を来す。

 一般にストレスは、TSHに対して抑制作用を持っている。過剰な抑制は、甲状腺機能低下をもたらし、フィードバック機構により甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌が促進される。すると、その刺激で下垂体から、TSHのみならずPRLまでもが分泌され、高PRL血症となる。

 ストレスに対する生理反応で副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)の分泌が高まると、GnRHの分泌も抑制される。またLHの分泌が月経周期の適切でない時期に亢進するため、正常な卵胞形成が障害されると考えられている5)。放っておくと不妊の原因にもなる。

 月経の持続日数や量の異常:月経持続日数が2日以内の過短月経や経血量が異常に少ない過少月経がある。これらは子宮発育不全や卵巣機能不全など器質的な異常や無排卵症などの機能的な異常、甲状腺機能低下でも起こる。月経が8日以上続いたり(過長月経)、経血量が異常に多い過多月経では、子宮筋腫や子宮内膜症、黄体機能不全などの器質疾患や血液凝固障害に伴うことが多い。

副作用による月経異常

 副作用による月経異常としては、上述のいずれの異常も起こる。

(1)卵胞への直接障害
 抗癌剤は、直接卵巣に影響を及ぼし、卵胞の変性や消失をもたらすことがある。これは、不可逆的であり不妊症の原因となる。特にアルキル化剤は、卵や前顆粒膜細胞に対して作用し、原始卵胞の減少を引き起こす7)。また、卵巣への直接作用により、エストロゲンの産生が低下することで月経異常、ひいては閉経状態を引き起こす。そのほかに、白金製剤やサリドマイドは、卵母細胞に対する直接毒性を示し排卵停止による無月経を引き起こす。

(2)性ホルモンやその分泌を制御するホルモンへの影響
 エストロゲン製剤の投与によりエストロゲンの血中濃度が上がると、フィードバック機構が働き、脳下垂体前葉からLHが分泌され排卵、月経へと進み不正性器出血となる。また子宮内膜の過剰増殖が起こることもある。子宮内膜症などの治療に使われるダナゾール(ボンゾール)や卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤では、月経異常が起こる。

 GnRHは、パルス状に出てゴナドトロピンの分泌を刺激する。これが持続的に出るとゴナドトロピンの分泌は低下する。この作用を利用して、リュープロレリン酢酸塩(リュープリン他)やナファレリン酢酸塩(ナサニール他)などは、子宮内膜症による激しい痛みの一時的な鎮痛のための適応がある。しかしGnRHは卵巣など性腺機能を抑制するので、卵巣機能は減退し、骨粗鬆症を含め更年期障害で出現する一連の症状が現れる。

 タモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス他)やクロミフェンクエン酸塩(クロミッド他)などの抗エストロゲン製剤やヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)製剤などによる治療を繰り返したり、長期間使用した場合に卵巣過剰刺激症候群が起こる。タモキシフェンは、抗エストロゲン製剤であるが、部分的なエストロゲン作動薬でもある。子宮内膜症や不妊治療に使われるGnRHアゴニストのブセレリン酢酸塩(スプレキュア)なども、不正出血を起こす。

 副腎皮質ホルモン剤は、LH、FSHの分泌を抑制するため、月経異常を引き起こす。フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、やカルバマゼピン(テグレトール他)は、ホルモン結合グロブリンの血中濃度を上昇させ、遊離のエストラジオールが減少するため、無月経や希発月経を起こす8)

(3)プロラクチンへの影響
 PRLは、ドパミンによって制御されている。つまり、抗ドパミン作用を持つ薬の投与によって、PRLの分泌が起こり、高プロラクチン血症となる。抗ドパミン作用を持つ薬としては、ハロペリドール(セレネース他)やクロルプロマジン塩酸塩(ウィンタミン、コントミン)などの抗精神病薬、イミプラミン塩酸塩(イミドール、トフラニール)やアミトリプチリン塩酸塩(トリプタノール、ノーマルン)、パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル他)などの抗うつ薬、メトクロプラミド(プリンペラン他)、ドンペリドン(ナウゼリン他)、スルピリド(アビリット、ドグマチール、ミラドール他)などの制吐薬や、シメチジン(タガメット他)、ラニチジン塩酸塩(ザンタック他)、オキサトミド(セルテクト他)などがある。その他、抗アレルギー薬でも高プロラクチン血症の報告がある。

 また、ドパミンの産生を抑制する薬剤として、レセルピン(アポプロン)やメチルドパ水和物(アルドメット、ユープレスドパ他)、ベラパミル塩酸塩(ワソラン他)などがある。プロラクチンの産生や分泌亢進をする薬としては、エストロゲン製剤、経口避妊薬、さらに、オピオイド製剤などがある。これらは同時に、無月経や希発月経を起こす。

(4)血液凝固への影響
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)でも月経過多や子宮出血を引き起こすことがある。血小板上にはセロトニンレセプターがあり、セロトニンが結合すると血小板が活性化され、プロスタグランジンの中間代謝産物が生成され、強い血小板凝集作用と血管収縮作用を持つトロンボキサン(TX)A2が生成される。SSRIの使用は,相対的な凝固能の低下を招き、月経過多を起こす。ワルファリンカリウム(ワーファリン他)やダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)など血液凝固に影響のある薬剤の投与でも、月経過多が起こり得る。

(5)その他
 バルプロ酸を長期投与された女性で、多嚢胞性卵巣症候群もしくは高アンドロゲン血症を誘発したという報告が増加している7、9)。その原因は、明確ではないが、体重の増加とインスリン抵抗性の増大により、インスリン血中濃度が上昇し、それに伴ってインスリン様成長因子(IGF)1の血中濃度が減り、これが卵巣でのアンドロゲンの合成を促進させ、月経異常を引き起こすのではないかと考えられている7)

図 副作用で月経異常が起こるメカニズム

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 最初の症例を見てみよう。患者は、双極性障害の治療のためにバルプロ酸を服用していた。薬剤師は同剤による副作用を疑った。

 話を聞いたところ、患者は挙児を希望していることも分かった。そこで、主治医に情報提供し、双極性障害の症状コントロールと妊娠について、計画的に考えていくことになった。

参考文献
1)佐藤達夫監修、からだの地図帳(講談社、2013年)
2)星猛、他共訳、医科生理学展望(丸善、1998年)
3)麻生芳郎訳:一目でわかる内分泌学(メディカルサイエンスインターナショナル、1995年)
4)松本佳代子ら、薬局2005;56:1636-47.
5)川崎彰子ら、日本臨床スポーツ医学会誌2006;14:399-407.
6)千石一雄、日本産婦人科学会誌2009;61:N15-N21.
7)Tisdale JE、Drug-Induced Diseases(American Society of Health-System Pharmacist (Maryland)、2010年)
8)Isojarvi J、Neurology2003;61:227-34.
9)皆川公夫ら、脳と発達2012;44:285.

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