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薬理のコトバ
帯状疱疹
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

講師:枝川 義邦
早稲田大学研究戦略センター教授。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学環境医学研究所助手、日本大学薬学部助手、早稲田大学高等研究所准教授、帝京平成大学薬学部教授などを経て、14年3月より現職。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 季節的なものか、ゴールデンウイークに豪遊したからか、この時期は疲れた顔を散見する。疲れが溜まることで発症しやすくなる疾患には幾つかあるが、初夏から夏にかけて増えるのが帯状疱疹だ。新緑の芽吹きのごとく、皮下の神経の走行に沿って皮膚表面に帯状に発疹が表れ、痛みをもたらすやっかいな疾患。今回は、心の準備も兼ねて、帯状疱疹の疫学と発症機序、治療薬についてまとめてみよう。

神経に潜むVZVが再活動

 帯状疱疹の原因は、水痘・帯状疱疹ウイルス。水痘(Varicella)と帯状疱疹(Zoster)から頭文字を取り、VZVと呼ばれる。初回感染では、2週間程度の潜伏期を経て全身に丘疹を生じる(いわゆる「水ぼうそう」)。

 一度かかれば免疫が付くため、普通は二度とかからないのだが、実はVZV自体は神経節に潜伏して生き長らえている。そして、疲労の蓄積などにより免疫力が弱くなった時に、再び活動を開始する。帯状疱疹は、通常は免疫力によって増殖や活性化が抑制されている病原体による疾患、すなわち日和見感染症の一つなのだ。帯状疱疹の場合は、CD4陽性Tリンパ球の値が500個/μLを切ると生じるとされる。若葉が目にまぶしい時期ではあるが、日和見感染のウイルスにニョキニョキ芽を出されたらかなわない。

 発症の一番のリスクは加齢。宮崎県皮膚科医会が1997~2011年に実施した疫学調査によると、50歳を過ぎると急激に発症率が上がり、発症率のピークは70歳代というデータが得られている。とはいえ、過労やストレスが引き金で若い人に発症することもある。若いから軽症で済むとはいえず、免疫力により重症度が決まる。初期に軽症であっても、無理をすることでいくらでも重症化する疾患だ。

 VZVは特定の知覚神経に沿って増殖するため、全身どこにでも帯状疱疹が表れる可能性があるが、好発部位は肋間神経の走る胸から背中にかけての胸部、首近辺、顔面、頭部。身体の片側にだけ出るのが特徴だ。帯状疱疹による痛みは、VZVの刺激に起因する神経炎により生じる。皮膚がヒリヒリする程度から、針が刺すような痛みまで様々で、ひどくなると痛みで夜も眠れなくなるほどだ。

 面白いことに、帯状疱疹の発症に見られる季節性には、水痘の流行期との関連がありそうだと分かってきた。水痘は主として冬に流行し、夏場の流行は少ない。これは、紫外線の影響でVZVの感染力が落ちるためとされるが、帯状疱疹は逆に、水痘が流行しにくい夏場に発症が増える。夏場には、VZVによるブースター効果、つまりウイルスに曝露されることによる免疫力の増強が起こりにくく、帯状疱疹を発症しやすくなるのではないかと考えられている。宮崎県での15年にわたる疫学調査でも、水痘は冬に流行し、それとは逆に帯状疱疹の発症は夏場に増えることが確認されている。

発症早期に抗ウイルス薬を

 帯状疱疹の薬物治療は、原因療法として抗ウイルス薬、痛みに対する対症療法として消炎鎮痛薬を用いることが基本となる。

 ウイルスは細胞に寄生してコピーを増やし、その細胞から脱出して別の細胞に感染していく。抗ウイルス薬は、この増殖サイクルのプロセスを阻害するなどの方法でウイルスを排除する。しかし、ウイルス自体を破壊するわけではないので、VZVのように神経節に潜り込んでしまうと完全な排除は困難だ。ウイルス量が少ない段階で治療を開始し、症状が治まっても薬を飲み切ることが抗ウイルス薬による帯状疱疹の治療、そして後遺症の「帯状疱疹後神経痛」を予防するポイントとなる。皮膚に症状が出てから72時間以内に飲み始めるのが望ましい。

 帯状疱疹の治療の柱となる抗ウイルス薬には、アシクロビル(商品名ゾビラックス他)やビダラビン(アラセナ-A他)、ファムシクロビル(ファムビル)というよく効く薬があり、点滴や内服により短期間での治癒が期待できるようになっている。最近では、アシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビル塩酸塩(バルトレックス他)も広く用いられているようだ。

 なお、帯状疱疹の発症を防ぐためには、疲れを溜めないなど全般的な免疫力を下げないことに加え、ワクチン接種が効果的だ。帯状疱疹発症の季節性に関する説明のところで触れたブースター効果は、VZVへの感染歴がある人が、ウイルスに曝露されることで成立する。従って、水痘ワクチンは、水痘だけでなく帯状疱疹の発症予防にも有効なのだ。

 水痘ワクチンは日本では長らく任意接種であり、ようやく14年10月から小児(1~2歳)への接種が定期接種となることが決まったが、成人への接種は任意のまま。だが、VZVに対するワクチンは米国やEUなど30カ国以上で、高齢者に対して帯状疱疹の予防を目的に接種することが推奨されていて、有用性が確認されている。帯状疱疹の発症率が高まる年代になったら、帯状疱疹や後遺症の神経痛から身を守るために、自費にはなるが接種を検討してもよいだろう。

 こうした予防策を講じつつ、なってしまったら早目に抗ウイルス薬による治療を開始。そして、ゆっくり休んで免疫力を高める。このことが、重症化を防ぎ、後遺症を残さないためにも大切だと覚えておこう。

 

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