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適応外処方のエビデンス
シロスタゾールがアルツハイマー病の認知機能を改善
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

疾患概念・病態

 アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)は、認知症の原因として最も多い疾患で、認知症の原因の5~6割を占める。AD患者の脳には、脳の神経細胞の周りにアミロイドβ蛋白(Aβ)が沈着し、老人斑と呼ばれる塊ができる。老人斑ができて数年~数十年が経つと、神経細胞は神経原線維変化と呼ばれる変化を起こして正常に機能しなくなる。この変化が進むことで、ADの症状が出現、進行する。

 症状は、ゆっくりと年単位で進行する。初期症状として、記憶障害、中でも新しいことを覚えられないという症状が現れる。症状が進行すると、見当識障害、物事の判断ができなくなるなどの中核障害、日常生活動作の低下などを伴うようになる。また、怒りっぽさ、介護への抵抗、不安、妄想といった行動・心理面の変化を指すBPSD(認知症の行動・心理症状)が現れることもある1)

 一方、認知症には、脳血管障害を原因とした血管性認知症もある。血管性認知症とADは、これまで異なる認知症と考えられていたが、最近では多くの認知症患者が両方の病態を併発している可能性が指摘されている2)

治療の現状

 現在、ADの治療薬としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬3種と、NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)拮抗薬1種の、計4種類の薬剤が発売されている。

 AD患者の脳内では、神経伝達物質のアセチルコリン(ACh)が少なくなり、神経伝達に障害が出ると考えられている3)。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、ACh分解酵素の働きを阻害してAChの量を増やして神経伝達を改善させる薬剤で、ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト他)、リバスチグミンの貼付薬(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール)が使用されている。

 また、グルタミン酸は記憶や学習において大切な役割を果たしている神経伝達物質であるが、AD患者ではグルタミン酸が過剰に放出され、神経細胞が傷害されると考えられている3)。NMDA受容体拮抗薬のメマンチン塩酸塩(メマリー)は、グルタミン酸の働きを抑えて神経を保護する。

 一方、脳血管疾患を合併したAD患者に対して、ADの進行抑制を目的として、抗血小板薬のシロスタゾール(プレタール他)が適応外で使用されることがある(表1)。

表1 脳血管疾患を合併したアルツハイマー病(AD)患者へのシロスタゾールの処方例

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シロスタゾールの有効性

 新井らは、ドネペジル5mg/日の治療を2年以上受けている、進行性のAD患者10例(男性5例、女性5例、年齢52~70歳、認知機能障害は中等度)に、シロスタゾール100mg/日を平均7.6±4.4ヵ月併用投与した4)

 その結果、AD患者の認知機能や記憶力を測定できるMMSE(表2)の平均スコアは、10例中8例の患者で増加し、症状が改善した。ベースラインに対するスコアの増加は、併用開始5~6カ月後に最も顕著だった。

 また、ADの症状の程度を示すFAST(表2)や、AD患者の認知機能の評価スケールであるADCS-CGIC(表2)による総合的な臨床状態の評価においても、ほとんどの患者で改善するか安定を維持していた。

表2 アルツハイマー病(AD)の評価スケール

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 一方、櫻井らは、ドネペジル服用後6カ月以上経過した脳血管疾患を合併するAD患者を対象に、シロスタゾールの効果を調べた5)。対象患者20例のうち、11例(男性3例、女性8例、平均年齢79.7±4.6歳)にはシロスタゾール100mg/日を、6カ月間投与。9例(男性1例、女性8例、平均年齢78.8±7.3歳)を対照群としてアスピリン100mg/日あるいはクロピドグレル50~75mg/日を6カ月間投与した。

 その結果、MMSE、ADAS-Jcog(表2)、TMT-A(表2)、WMS-R logical memory-I(表2)は、シロスタゾール群では試験前と6カ月後の値に有意な変化はなかった。一方、対照群では、ADAS-Jcog、TMT-A、WMS-R logical memory-Iは有意(P<0.05)に変化し認知機能の悪化を示した。

 さらに、脳血流検査では、シロスタゾール群で6カ月後に前部帯状回の局所脳血流量が有意に増加したが、対照群では6カ月後に左中側頭回の局所脳血流量が有意に減少していた。以上から、シロスタゾールは脳血管疾患を合併するAD患者の認知機能の低下を予防することが示唆された。

作用機序

 シロスタゾールがADの進行を抑制する機序には、脳細胞におけるcAMP応答配列結合蛋白(CREB)が関与していると考えられている。

 脳細胞に豊富に発現する転写因子CREBは、記憶、神経可塑性、細胞の生存など、幅広い神経機能に関与している。CREBは、リン酸化されることで活性化する。ADの脳ではCREB機能が低下しており、これは、AD患者の脳細胞に沈着しているAβ蛋白が、CREBのリン酸化を抑制しているためと考えられている。

 これに対し、シロスタゾールは、CREBのリン酸化を亢進することによって、Aβ蛋白で誘導される記憶障害を改善し、脳血流量を増加させると考えられている5)

適応外使用を見抜くポイント

 脳梗塞後の患者には再発予防の目的で抗血小板薬が処方される。既にAD治療薬が使用されている患者で、抗血小板薬がシロスタゾールに変更された場合には、同薬がADの治療目的を兼ねて処方された可能性がある。

 AD治療薬に併用してシロスタゾールが処方されている場合には、服薬指導の際に、シロスタゾールには脳の循環や働きを良くし、認知機能を改善するなど、ADの進行を抑制する効果もある旨を、患者に説明することが重要である。

参考文献
1)おはよう21 2013;10月号増刊:18-21.
2)認知症の最新医療2013;3:17-21.
3)久留米醫學會雑誌2013;76:1-8.
4)Am J Geriatr Psychiatry.2009;17:353-4.
5)Geriatr GerontolInt.2013;13:90-7.

講師 藤原 豊博
AIメディカル・ラボ、薬剤師
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始。同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。

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