DI Onlineのロゴ画像

漢方のエッセンス
参苓白朮散
日経DI2014年5月号

2014/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年5月号 No.199

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 人参、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)をメーンに組まれた処方なので、この名がある。弱った胃腸を優しくいたわる処方で、小児の胃腸トラブルにも安心して活用できる。

どんな人に効きますか

 参苓白朮散は「脾虚挟湿(ひきょきょうしつ)」証を改善する処方である。

 根本にあるのは、消化吸収機能の低下(脾虚)である。主に吸収機能の障害により、消化管内の水分量が多くなり、その結果、湿邪(しつじゃ)1)が生まれ、「脾虚挟湿」証となる。

 脾は五臓の一つであり、飲食物を吸収して気・血(けつ)・津液(しんえき)2)を生成し、全身に輸送する働きを持つ(運化)。脾と表裏の関係にある六腑の胃は、飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べた物を人体に有用な形に変化させる。脾はそれを運化するわけである。この機能(脾気)が低下した証が脾虚である。

 脾虚となると、運化・受納機能が低下し、飲食物から生じる湿濁3)が消化器官内に溜まり、湿邪が生じ、脾虚挟湿証となるのである。

 脾胃の機能が虚弱なために運化が十分に行われず、飲食物から生じる湿邪が体内に停滞し、気の流れが滞る。その結果、消化不良、食欲不振、胸部や上腹部(胃の辺り)のつかえ感や不快感(胸かん痞悶[きょうかんひもん])、身体が重だるい、などの症候が生じる。

 脾気が正常に上昇しないため、下痢や軟便が起こる。便は泥状や水様になり、未消化の便が出ることが多い。ゴロゴロ、グルグル、グーグー、ギュルギュル、ゴボゴボとお腹が鳴る(腸鳴)ことも多い。本来なら下降すべき胃気が上逆して吐き気や嘔吐が生じる場合もある。白色の帯下の増加もみられる。

 脾胃機能の失調により気血が不足すると、全身に供給される栄養などが足りなくなる。その結果、手足に力が入らない、疲れやすい、体重が増えない、などの症候が起こる。血の不足により、くすんだ黄色っぽい顔色になる(萎黄)。

 舌の色は白っぽく(血虚の舌象)、その上に白い舌苔がべっとりと付着している(湿邪の舌象)。舌がぽってりと大きいこともある(湿邪の舌象)。

 臨床応用範囲は、脾虚挟湿の症候を呈する疾患で、慢性胃炎、慢性腸炎、消化不良、病後の胃腸虚弱、貧血、慢性気管支炎、慢性腎炎、帯下の多い膣炎や子宮頸管炎などである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、人参、白朮、茯苓、山薬、蓮肉(れんにく)、白扁豆(はくへんず)、よく苡仁(よくいにん)、縮砂(しゅくしゃ)、桔梗、甘草の十味である。

 人参は脾胃の機能を高め(健脾[けんぴ])、強く気を補う(益気[えっき])。白朮は健脾と同時に湿邪を滲出させて除去(滲湿[しんしつ])し、脾の運化作用を助け、人参の補気作用を強める。茯苓も健脾滲湿し、白朮との組み合わせにより腸管内の過剰水分を吸収して血中に引き込んで尿として排泄し、健脾滲湿作用を強める。止瀉にも働く。また人参と白朮により補われた気を全身に流す働きもある。これら益気健脾滲湿する生薬三味が本方の君薬であり、生薬名の由来となっている。

 山薬は健脾益気し、蓮肉は健脾滲湿するとともに、止瀉作用も有する。白扁豆は健脾滲湿し、よく苡仁は利水健脾する。以上の四味が本方の臣薬である。山薬と蓮肉が人参の健脾益気作用を助け、白扁豆とよく苡仁が白朮、茯苓の健脾滲湿作用を高める。

 佐薬の縮砂は脾の機能を活発にして(醒脾[せいひ])気の流れを滑らかにする。桔梗は五臓の肺の気を巡らして、津液の流れを良くする(通調水道)4)。諸薬の薬効を上部に引き上げる力もある。これにより肺の機能を高める。また下痢のように下に向かう症候に効果があるともいわれる。甘草は使薬として益気和中5)しつつ、諸薬の薬性を調和する。

 以上、参苓白朮散の効能を「益気健脾、滲湿止瀉」という。諸薬の配合により、中気を補い、湿邪を除去し、気の滞りを巡らせ、脾胃の機能を回復させて諸症状を改善していく。作用は穏やかで、温性だが乾燥させない優れた処方である。

 君薬三味に使薬の甘草を加えた四味は、四君子湯の構成生薬である。四君子湯も参苓白朮散も益気健脾の働きが強い処方だが、四君子湯が補気を中心として脾胃気虚証を改善する基本処方であるのに対し、参苓白朮散は滲湿作用も併せ持つ方剤となっている。さらに肺の機能も補う。

 四君子湯以外の配合生薬の山薬、蓮肉、白扁豆、よく苡仁は、それぞれ山芋、蓮の実、藤豆、はと麦という、食品としても扱われる生薬である。それらが四君子湯や縮砂と合わさることにより、立派な漢方処方として活躍する。食品としても使われる生薬の配合が多いことからも、胃腸が弱っているときに有効な処方といえる。

 同じく四君子湯を基にした処方に六君子湯(四君子湯プラス半夏、陳皮、生姜、大棗)がある。吐き気や胃の症状が強い場合は六君子湯で脾胃気虚証を改善し、下痢や軟便が顕著な場合は参苓白朮散で脾虚挟湿証を立て直す。

 冷えが強く、腹痛があるものには、人参湯などを併用する。気の流れが悪い場合は、湿邪を除去して気を巡らせる働きのある陳皮を合わせる。白い痰が多く出る場合は二陳湯を合わせ飲む。熱証を伴うときに黄連解毒湯を少量合方することもある。

 出典は『和剤局方』である。

こんな患者さんに…【1】

「慢性的な下痢です。一日に何度もトイレに行きます」

 便は泥状で、ときに水様の便が出る。腹痛はない。脾虚挟湿証とみて本方を使用。2カ月目くらいから便の形が良くなり始め、半年ほどで一日1~2回、健康的な便が出る状態になった。体重が増えて疲れにくくなったと喜ばれた。

こんな患者さんに…【2】

「手足がほてります。唇の乾燥も気になります」

 食欲不振で疲れやすい。舌は赤く乾燥している。脾気陰虚証とみて本方を使用。4カ月間の服用で症状を改善した。脾気の低下で津液の産生が減り、この証になることがある。津液の不足に伴い、相対的に熱の勢いが増し、ほてりや乾燥などの熱証が表れる。こういう時も本方が有効。湿邪を除去して脾気を高め、津液を増やす。

用語解説

1)湿邪は病邪「六淫」の一つ。自然界には六気(風・寒・湿・熱(火)・暑・燥)があり、人はその中で暮らしている。これらが強くなると、六気は六淫(風邪・寒邪…)と化す。湿、すなわち適度な湿り気や潤いは人体に必要だが、それが多過ぎると湿邪となり、病気の原因となる。
2)気・血・津液は人体を構成する基礎的な物質。気は生命エネルギー、血は血液や栄養、津液は正常な水液。
3)飲食物の残りかす(濁)は湿っぽい。これが健康を害する要因となっている場合を湿濁と呼ぶ。
4)水道とは、津液の通り道のこと。水道調整は、五臓の肺がつかさどる機能。
5)和中の「中」は、中焦(ちゅうしょう)、つまり体の中心部分である脾胃を意味する。和中は、脾胃機能の調和を取ること。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ