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徹底マスター 薬の相互作用としくみ
CNS用薬の服用中は禁酒、過鎮静・記憶障害誘発の恐れ
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

石井 愛子、杉山 正康 杉山薬局(山口県萩市)

 アルコールの作用は実に多彩であり、飲み方次第で、薬にも毒にもなる。適量の飲酒(純アルコール量に換算して1日約20gまで。ビール中瓶1本、日本酒1合、焼酎0.6合に相当)は、ストレス発散、動脈硬化抑制、HDL低下、消化酵素分泌促進などの作用をもたらす。その結果、循環器系疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中)、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)、消化管疾患などに対して保護的に働く。一方、大量飲酒(純アルコール量に換算して1日約60g以上)は、多くの疾患のリスク因子となる(表1)。

表1 習慣性の大量飲酒に伴う臓器障害

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 アルコールの薬物相互作用は機序によって、(1)薬剤によるアルコール代謝抑制、(2)アルコールによる薬剤代謝抑制、(3)アルコールと薬剤の薬力学的相互作用─に分けられる。このうち、(1)(2)については既に解説した(本誌2011年10月号、同12月号)。今回はアルコールの多彩な生理作用に起因する薬力学的相互作用について解説する。

アルコールはCNSを抑制

 アルコールは中枢神経系(CNS)を抑制する方向に作用し、その作用は血中アルコール濃度に依存して増強する。これは、アルコールは脂溶性が高く、脂肪組織の多い脳やCNSに容易に移行しやすいためである。脳内では、GABAA受容体、NMDA受容体(グルタミン酸受容体)や5HT3受容体などに作用してCNS抑制効果を示すと考えられている。

 社会問題となっているアルコール依存症は、毎日の大量飲酒(慢性大量飲酒)によるGABAA受容体の感受性低下やダウンレギュレーション(受容体数低下)、GABAA神経を介した側坐核からのドパミン放出の増大に起因すると考えられ、治癒率は1~2割とされる。また、大量飲酒による健忘症は、感情と記憶をつかさどる大脳辺縁系の抑制に起因する。

 アルコールは睡眠にも影響を与える。飲酒すると、睡眠前半にレム睡眠(交感神経刺激状態)の抑制とノンレム睡眠(脳の休息状態)の増加、睡眠後半にノンレム睡眠の抑制とレム睡眠の増加を起こす。ただし慢性大量飲酒では、常にノンレム睡眠が抑制された状態となり、次第に熟眠障害を来す。従って、寝酒は睡眠の質を低下させ、中途覚醒や早朝覚醒を招く(ケース1)。アルコール依存症患者が飲酒を突然中止すると、レム睡眠が過度に増加し、振戦や幻視などの離脱症状が出現することも知られている。

 なお、大量飲酒が脳や脊髄、末梢神経系などに障害を引き起こすメカニズムとして、アルコールが細胞内の転写因子であるNF-κBを活性化して炎症性サイトカインの遺伝子発現を促進することや、NADPHオキシダーゼを誘導して活性酸素を過剰に産生することが示唆されている(J Neuroinflammation.2012;9:5.)。

併用でCNS抑制作用増強

 アルコールと、CNS抑制効果のある薬剤を併用すると、CNS症状が誘発される恐れがある。特にCNS用薬の中で、添付文書上、「飲酒を避けることが望ましい」「できるだけ飲酒を避ける」(原則飲酒禁止)とされている薬剤には注意が必要である(表2)。

表2 アルコールと医薬品の薬力学的相互作用

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 精神疾患(うつ病、統合失調症、てんかん発作、パーキンソン病、認知症など)の発現率は大量飲酒で高まり、治療薬の効果を減弱させる恐れがあるため、これらの疾患を有する患者の大量飲酒は禁止する。中でも、睡眠・鎮静薬や向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬)を服用中の患者では、わずかな量でも原則飲酒を禁止した方がよい。これは、飲酒により過度のCNS抑制が起こり、眠気や鎮静のほか、暴力念慮、自殺企図、心機能障害、呼吸抑制、昏睡などが表れ、致命的となり得るためである。

 特にベンゾジアゼピン(BZ)系薬を服用中の患者では、前向性健忘、記憶障害、奇異反応、せん妄、異常行動、持ち越し効果などの副作用が表れやすくなり、非常に危険である(ケース1)。うつ病、統合失調症、不眠症の患者は、アルコール依存症になりやすい観点からも、飲酒を禁止すべきだろう。

 抗パーキンソン薬を服用中の患者では、適量の飲酒時にもCNS抑制効果によって転倒を起こしやすくなる。一方、てんかん患者では適量飲酒が有効である場合もあり、病型や症状、服用中の薬剤に応じて、アルコール摂取制限の程度が異なる。CNS用薬はいずれも、適量飲酒であっても用量調節を要する場合があるため、服用中の飲酒の可否については、担当医に確認後、患者に指導した方がよいだろう。

血糖降下・上昇作用も

 アルコールは、肝臓における糖新生抑制(血糖値低下)と、肝グリコーゲン分解促進(血糖値上昇)の両作用を示す。慢性大量飲酒者ではグリコーゲンが枯渇しているため、糖尿病用薬との併用による低血糖の誘発に注意が必要である(ケース2)。

 また、糖新生の抑制を主作用とするビグアナイド系薬には、乳酸アシドーシスのリスクがある。大量飲酒では解糖系が促進され乳酸アシドーシスの誘発リスクが高まるため、慢性大量飲酒者への同薬の使用は禁忌である。

 なお、慢性大量飲酒では、アルコール性膵炎に伴うインスリン分泌低下も問題となる。アルコール性膵炎の半数以上は糖尿病を合併していることや、慢性膵炎の約7割はアルコールに起因することが知られている。また、アルコール自体や飲酒時の食事摂取によって、カロリー・塩分過多となり、肥満や生活習慣病の悪化を招く恐れもある。

血管拡張作用による低血圧

 アルコールによる血圧低下(血管拡張、顔面紅潮など)の作用は、アセトアルデヒドの「アンタビュース効果」に起因している。日本人の約55%はALDH2*2(不活性型)を持つために、血圧低下を起こしやすいことが知られている。

 従って、降圧薬や末梢血管拡張薬、冠拡張薬などの血管拡張薬を服用中の患者では、大量飲酒に注意する(PE32ページのケース3)。起立性低血圧を誘発しやすいα遮断薬や亜硝酸薬、降圧薬を服用中で、飲酒による顔面紅潮が起きやすい患者には、大量飲酒は避けるよう指導する。飲酒後の血圧低下は一次的である一方、慢性大量飲酒では血圧が上昇するため、常習飲酒者には適量を厳守させる。

 なお、アルコール誘発性冠攣縮(異型)狭心症や心房細動では、飲酒中よりも、アルコールが血中から消失する時に発作を起こしやすいことが知られている。飲酒による動悸が契機となり不整脈を引き起こす場合もあるため、これらの患者には担当医に確認後、禁酒を指導した方がよい。

アルコールのその他の作用

 大量飲酒には、血液凝固を抑制・促進する作用もある。血液凝固抑制作用には肝臓での凝固因子産生低下が、促進には利尿作用による脱水が関与していると考えられる。また、アルコールが胃壁を刺激し、胃酸分泌促進や消化管出血、胃粘膜障害を発症するケースも多い。抗凝固薬や、胃腸障害を起こしやすい非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ドパミン作動薬(特に麦角系)を服用している患者には、飲酒の影響を必ず説明する(ケース3)。

 慢性大量飲酒により最も起こりやすいのは、アルコール性肝障害である。脂肪肝に始まり、慢性肝炎を経て、最終的には肝硬変や食道静脈瘤、肝癌へと進展する。アルコール依存症の患者の約8割が肝障害を発症し、肝硬変を来し、致命的となる。慢性飲酒者が肝障害を誘発する可能性のある薬剤を服用している場合は、定期的な肝機能検査を実施し、大量飲酒を避けるように指導する。

 なお、飲酒による尿酸値の上昇には、ビールや日本酒などに含有されるプリン体だけでなく、二次的な乳酸上昇による腎尿酸分泌阻害も関与している(本誌13年5月号参照)。高尿酸血症治療薬を服用中の患者には、飲酒する場合は適量を厳守するよう指導する。ベンズブロマロン(ユリノーム他)では、肝毒性を誘発する可能性が高まるため、特に注意が必要である。

飲酒時の服薬の可否

 アルコールによる薬効への影響を避けるためには、体内アルコール残存量を考慮するとよい。血中アルコール量は通常、飲み始めてから30~60分で最高値に達し、1時間に分解できるアルコール量は体重1kg当たり約0.1gとされている。従って、体重60kgの人が適量のアルコール20gを摂取した場合、約3時間で体内から消失すると考えられる。

 また、「血中アルコール濃度=純エタノール量(g)/(体重×分布係数[男性0.7、女性0.6])ー時間×0.15」で表されるWidmark式を用いる方法もある(Biochem Z.1922;131:473-84.、medicina.2005;42:1531-3.)。

 一般に、適量の飲酒後、約3時間以上空けて薬を服用することは問題ないと考えられる。ただし、アルコールの分解速度には個人差があるほか、女性はホルモンによるアルコール代謝阻害作用への影響があるため、適量は男性の約半量とされている。従って、夕食後や就寝前服用の睡眠薬や向精神薬に関しては、適量であっても、飲酒した日の服用は避けるよう指導した方がよいだろう。

 当薬局における指導の実践例を下に示す。

 Aさんは独居で、抗うつ薬のパキシル(一般名パロキセチン塩酸塩水和物)、不眠症のためBZ系のデパス(エチゾラム)、レンドルミン(ブロチゾラム)を服用中である。「お酒は好きだが、禁酒している」と話していた。

 だがある日、「起床時に自分の家かどうか分からないことがある」と訴えたため、詳しく話を聞くと、再三の指導にもかかわらず、就寝前に飲酒していることが発覚した。薬剤師は、リポバス(シンバスタチン)にも記憶障害の副作用はあるが、アルコールとBZ系との相互作用に起因する可能性が高いと判断。アルコールは抗うつ薬や睡眠薬の作用を増強し、最悪の場合は昏睡などで死に至ることを再度説明した。特に睡眠薬は翌日まで眠気、めまい、ふらつきが強く表れ、異常行動や今回のような記憶障害も起こりやすいため、飲酒は禁止であることを伝えた。

 また、アルコールには覚醒作用があり、量が増えれば夜中に何度も目が覚めたり(中途覚醒)、朝早く目が覚めたり(早朝覚醒)するなど眠りが浅くなること、アルコールには入眠効果もあるが、次第に弱まり、アルコール依存症に至る危険性が高いことを説明した。

 Aさんは十分に理解したようだったため、処方医に相談した結果、禁酒を条件にデパスが倍量に変更され、Aさんの不眠は解消された。

 Bさんは糖尿病、肝機能障害があるため、休肝日を設けるなどの指導を行っているが、なかなか実行できない。日本酒2合(実際はこれ以上と推測される)の晩酌後に、ふらつきや異常な空腹感などの低血糖症状を認めたため、夕食前のオイグルコン(グリベンクラミド)が2錠から1錠へ変更された。

 Bさんは薬局で、「飲酒によってなぜ低血糖となるのか」と質問したため、薬剤師が慢性大量飲酒と血糖値との関係について説明し、理解を得た。

 だが数週間後の来局時に、自己判断で夕食前は服薬していないことが発覚した。Bさんの了承を得て処方医に連絡した結果、オイグルコンの夕食前服用が昼食前に変更となった。その後、晩酌後の低血糖症状はほとんど認められず、HbA1cは5.5%(JDS値)と安定しているが、飲酒は糖尿病を悪化させる恐れがあるため、常に適量を厳守するように指導している。

 なお、本ケースの低血糖の誘発の原因として、オイグルコンとウルソ(ウルソデオキシコール酸)との併用による血漿蛋白結合置換も考えられる。

 心房細動と高血圧があるCさん。心房細動は飲酒した翌日に起こりやすいため禁酒するよう指導しているが、「酒をやめるなら死んだ方がよい」と言って聞かない。医師と相談の上、飲酒は適量にとどめ、休肝日を設けることを決めた。担当薬剤師は、来局時には毎回、大量飲酒の影響(血圧の低下・上昇、アスピリンによる胃腸障害、ワルファリンカリウムおよびアスピリンの血液凝固作用の変動)について伝え、大量飲酒を避けるよう指導していた。

 しかし、ある日、友人と飲酒した際、飲み過ぎて転倒したことが発覚。軽度の外傷のみだったが、帰宅後直ちに家庭血圧計を測定した結果、低血圧を来していた。この話を聞いた担当医は、今後、会合などで飲酒する際は、降圧薬の服用を中止するよう指示した。

 飲酒量の制限を指導することは容易ではないが、担当薬剤師はCさんに適量の飲酒を厳守するよう、根気よく指導を継続している。

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