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Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
タミフルはインフルエンザの合併症予防に有効か?(続編) ほか
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 前回、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)には肺炎などの合併症予防効果がほとんどないとする論文を紹介し、「データを見て疑問に思ったところはないだろうか」と読者に問い掛けた。今回はその種明かしをしたい。

 前回示した肺炎合併の絶対リスク差に加えて、相対リスクを示したのが表1である。そう、医学論文では相対リスクで議論するのが一般的であるにもかかわらず、当論文は絶対リスク差で議論しているのが特異な点である。

表1 オセルタミビル群とプラセボ群の間における肺炎合併の絶対リスク差と相対リスク

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 検査でインフルエンザが確定した患者を対象に限定して解析した結果(サブグループ解析)を見ると、肺炎の合併や抗菌薬を要する合併症がそれぞれ有意に減少している。肺炎の合併を例に取れば、絶対リスク差でいえばたった0.9%の減少だが、それらを相対リスクで表すと0.33(95%信頼区間0.14~0.73)である。つまり、67%も肺炎の発症を減らすということになる。オセルタミビルに肺炎予防の効果があると思いたくなる数字である。相対リスクで見れば、オセルタミビルの治療効果に対する印象は前回とは全く異なってくるのではないだろうか。

 さらに不親切なことに、当論文にはプラセボ群の肺炎発症率が何%なのかが記載されていない。このため、0.9%という数字が大きいのか小さいのか、一見しただけでは分からない。「肺炎が減るといっても、たかだか0.9%か」と、読んだ人が過小に評価してしまいやすい記載の仕方である。

 多くの医学論文には、薬の効果を大きく見せようとする意図が入り込んでいる。しかし、この論文からは逆に、治療効果を小さく見せようとする意図が読み取れる。これも、論文を読む上で留意すべき一つのバイアスといえる。

 もう一つ指摘したいのが、解析の対象である。インフルエンザが確定した患者は、この論文において「サブグループ」であり、メインは臨床的に診断された患者全体である。このため、表1にある、臨床診断によるインフルエンザ患者の項目で有意差がない(相対リスクで95%信頼区間が1をまたいでいる)ことを理由に、「オセルタミビルは効果なし」とするのも間違ってはいない。

 しかし、サブグループだからといってその結果を切り捨てるのも問題である。日本ではインフルエンザの診断キットが普及しており、サブグループの方が実態を反映しているかもしれない。サブグループ解析の結果を基に、「肺炎リスクの高い患者ではタミフルを使用した方がいい」と解釈することは、臨床的には妥当な面もある。

 今回の論文は、一つの論文に対して多様な解釈ができる良い例といえる。論文の結果を実際の臨床に活用する際には、そうした点も考慮に入れなければならず、常に悩ましいのである。

 認知症の早期発見が叫ばれている。では、認知症かどうかあいまいな人、つまり軽度認知機能障害の患者がいたら、薬物治療を行うべきか否か。そんな疑問に答えるのが本論文である。認知症の進行を阻止するためには、コリンエステラーゼ阻害薬が用いられる。本論文は、軽度認知機能障害に対して投与する妥当性を検討したシステマティックレビューである。

 2年後では有意に認知症の進行を食い止めたが、3年後は有意差がなくなっている。一方で、副作用の相対危険は1.09と数値はさほど高くないものの、有意に多いという結果である。

 認知症と診断されない限り、ドネペジル塩酸塩(アリセプト他)をはじめとするコリンエステラーゼ阻害薬は適応外である。さらに軽度認知機能障害患者の40~70%は進行しないというデータも存在する1)

 進行しない可能性が十分にある患者に対してコリンエステラーゼ阻害薬を投与する科学的な根拠は薄い。生活環境の改善や行動療法などへの取り組みが先決だ。もっとも、そんな手間暇の掛かる方法を取れるほど医療者や家族に余裕がないことも多い。不幸な状況である。

表2 コリンエステラーゼ阻害薬投与群とプラセボ群における認知症への進行と副作用の相対リスク

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参考文献

1)Mitchell AJ, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry.2008;79:1386-91.

(本コラムは隔月で掲載します。)

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