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症例に学ぶ 医師が処方を決めるまで
慢性肝炎
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

講師
金 守良
(神戸朝日病院[神戸市長田区]院長)

講師から一言

 慢性肝炎は、治療が長期間にわたる疾患で、特に自覚症状がないため、服薬コンプライアンスを維持するのが困難になる。急に検査値が悪化することもしばしばあり、薬剤耐性の面からも定期的な受診で検査値を確認していくことは欠かせない。患者は、受診時に直近の検査値やその傾向を主治医から聞いていると思われるので、薬局でも可能な範囲で聴取し、患者を励ますきっかけにしていただければ幸いである。

 慢性肝炎とは、一般に、肝障害によって肝臓の炎症が6カ月以上などの長期間持続する病態をいう。その原因は、肝炎ウイルス、アルコール、薬物、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)など多様である。

 中でも、ウイルス性肝炎であるC型慢性肝炎とB型慢性肝炎は、患者数およびキャリア数が多い(表1)。

表1 C型およびB型慢性肝炎の患者数とキャリア数

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 C型およびB型慢性肝炎では、ウイルスへの感染後に完全には排除されなかったウイルスが肝細胞内で増殖を続け、そこに免疫担当細胞が攻撃を繰り返すことで、肝障害が続く。慢性的に肝細胞が傷害を受けると、組織が硬くなって線維化が起こり、肝硬変に進展する。肝炎ウイルスへの持続感染と肝硬変は、肝癌(原発性肝細胞癌)を引き起こす最大の危険因子である。

 ウイルス性肝炎の治療法は、対症療法と抗ウイルス療法の2つに分けられる。対症療法とは、肝臓の炎症を沈静化することにより肝臓の線維化を抑制して、肝硬変や肝臓癌への進展を防止する治療である。対症療法には一般に肝庇護薬を使うが、過度の鉄蓄積が肝炎を悪化させるとされることから、瀉血療法や鉄制限食も行われている。

 抗ウイルス療法は、ウイルスの排除や、増殖を抑えることを目的とした治療法で、主な治療薬は、インターフェロンや核酸アナログ製剤である。

 本稿では、具体的な症例を提示しながら、C型慢性肝炎とB型慢性肝炎の治療の実際を紹介する。

再燃を繰り返すC型肝炎には新薬を考慮

 最初に紹介するのは、C型慢性肝炎の典型例である。患者は当時65歳の男性で、健診で肝機能異常を指摘され、06年に当院を紹介受診、C型肝炎と診断された。輸血歴、家族歴はない。

 C型肝炎の治療は、ここ10年でも治療薬が複数登場するなど、様変わりしている(図1)。現在、ウイルス量とジェノタイプによって、初回投与時はインターフェロンの単独投与か、リバビリン(商品名コペガス、レベトール他)などとの併用が検討される(表2)。

図1 C型慢性肝炎治療の変遷

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表2 C型慢性肝炎に対する初回治療ガイドライン
(「2013年B型C型慢性肝炎・肝硬変治療のガイドライン」を改変)

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 本症例のC型肝炎ウイルスはジェノタイプ1で、ウイルス量は5.2logコピー/mLと高値であり、抗ウイルス療法としてペガシス(一般名ペグインターフェロンアルファ-2a)とコペガス(リバビリン)の併用療法を48週間実施した。また、肝庇護療法としてウルソ(ウルソデオキシコール酸)を抗ウイルス療法の終了後も継続した。

 4週に1回の血液検査でモニタリングしたところ、血清ALT48IU/L、AST54IU/Lと肝機能は改善していたが、ウイルス量は4.3logコピー/mLと消失せず、以降8年間にわたり再燃と治療を繰り返していた。

 そこで、第2世代プロテアーゼ阻害薬のソブリアード(シメプレビルナトリウム)を追加する3剤併用療法を開始した。

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 ソブリアードは、2013年12月に発売された新薬で、ペグインターフェロンα-2aまたはペグインターフェロンα-2b、およびリバビリンとの併用で投与期間は12週間となっている。臨床試験の結果から、治療困難なジェノタイプ1かつ高ウイルス量の未治療の症例では、著効率が88.6%になるとの報告がある。ペグインターフェロンとリバビリンによる2剤併用療法に比べて、有意な副作用の増加は認められていないため、3剤併用療法は肝臓専門医の間でも注目されている。

 ご存じのように同じプロテアーゼ阻害薬で11年に発売されたテラビック(テラプレビル)には、重篤な副作用である皮膚障害や貧血が問題になっていたため、臨床医の間では使いづらさを指摘する声もあった。

 本症例は、ソブリアードの投与を開始してからまだその効果は明らかになっていないが、私の外来では徐々に3剤併用療法を開始する患者が増えている。

貧血など合併症によりIFN単剤投与も

 ただし、ペグインターフェロン、リバビリン、シメプレビルの3剤併用療法の適応に該当しても、投与できないケースもある。その理由として問題になるのが、リバビリンによる溶血性貧血で、ヘモグロビンが7~8g/dL程度にまで低下し、倦怠感に悩まされる患者もいる。

 溶血性貧血の起こりやすさは、最近の研究でInosine triphosphate pyrophosphatase(ITPA)という酵素に関する遺伝子多型から判断できるようになっている。

 ある研究では、メジャーホモ接合タイプ(C/C)では56%に重症の貧血が見られたが、ヘテロ接合タイプ(C/A)やマイナーホモ接合タイプ(A/A)ではその発生頻度が4%弱であったと報告されている。日本人の約8割がC/Cではあるが、事前にITPA 遺伝子多型を調べておくことで、薬の量を調節して貧血の重症化を回避するなど、個人の体質に合わせた治療計画を立てることが可能になっている。ただし、本検査は保険未収載である。

B型肝炎の服薬中断による再燃

 続いて、B型慢性肝炎への処方例を紹介する。この患者は42歳の女性で、2012年2月に、B型慢性肝炎の治療で、近所の内科診療所より当院を紹介受診となった。ウイルスはジェノタイプCだった。HBe抗原は陰性だった。

 当院初診時、肝機能はAST 33IU/L、ALT 38IU/Lと比較的低値だったが、ウイルス量は6.5logコピー/mLと低くはなかった。そこで、核酸アナログ製剤のバラクルード(エンテカビル水和物)を投与した。

 バラクルードは、ゼフィックス(ラミブジン)よりも、肝機能の改善やウイルス量の減少といった効果発現に時間が掛かる印象だが、耐性化頻度が低いので、現在、核酸アナログ製剤では第一選択となっている(表3)。表4には、B型慢性肝炎に用いる薬剤の特徴を示した。

表3 B型慢性肝炎の治療ガイドライン
(「2011年度厚生労働省研究班によるウイルス性肝疾患の治療ガイドライン」を改変)

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表4 B型肝炎に用いる抗ウイルス薬の特徴
(「慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2013」を改変)

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 バラクルードは初診時に90日分を処方することも可能だが、月1回来院してもらい、検査値など経過を確認することが重要と考えるため、私は1カ月分の処方としている。

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 患者のウイルス量(logコピー/mL)は、1カ月ごとに、5.8、2.8と減少し、初診から1年5カ月後にはASTは27IU/L、ALTは 25IU/Lで、ウイルスは検出できないところまで改善した。ところが、その後患者は受診せず、7カ月後に来院した際にはASTが290IU/L、ALTが310IU/Lまで悪化していた。そこでバラクルードの投与を再開し、ウイルスの増殖を抑える目的で、ヘプセラ(アデホビルピボキシル)も併用した。

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 併用を開始して21日後の現在、ASTは50IU/L、ALT は108IU/Lと改善傾向がみられている。

耐性化や思わぬ副作用に注意

 最後に、10年ほど前から当院にて治療を行っている、現在47歳の男性のB型慢性肝炎の症例を紹介する。10年前の当院初診時、肝硬変まではいかないが、既に高度線維化(F3)で、肝硬変(F4)の一歩手前だった。当時唯一使用できたゼフィックスで治療を開始した。

 初診から1年後、ASTは41IU/L、ALTは17IU/Lと肝機能は落ち着いており、ウイルス量は4.76logコピー/mLまで下がった。ところが、1カ月後にはAST、ALTがそれぞれ646IU/L、582IU/L、ウイルス量は7.6logコピー/mLまで上昇していた。

 検査の結果から、ウイルス変異を起こしていることが判明し、その後ヘプセラを追加したところ、約6カ月後には肝機能はAST 39IU/L、ALT 33IU/L、ウイルス量は3.1logコピー/mLと肝機能正常化とウイルス量の低下を認めた。さらにその4カ月後には、スミフェロン(インターフェロンアルファ)の皮下注を10カ月間行った。

 現在のゼフィックスの単剤投与下のB型慢性肝炎患者に対する核酸アナログ製剤治療ガイドラインを示す(表5)。

表5 ラミブジン投与中のB型慢性肝炎患者に対する核酸アナログ製剤治療ガイドライン
(「2011年度厚生労働省研究班によるウイルス性肝疾患の治療ガイドライン」を改変)

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 さて、初診から3年4カ月後、ASTは36IU/L、ALTは29IU/L、ウイルス量は3.1logコピー/mLと改善傾向がみられていた。

 ところが、その後数カ月間受診しない期間が3回ほどあり、初診から約10年後の受診の際には「2カ月半ほど服用していない」と話した。確かに、ASTが 2700IU/L、ALTが1800IU/L、ウイルス量は9.1logコピー/mLまで上昇していたため、ヘプセラへの耐性獲得も念頭に置き、バラクルードを追加した。

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 この直後、血液検査でクレアチンホスホキナーゼ(CPK)が4097IU/Lに上昇。しびれや脱力感といった症状も見られたため、横紋筋融解症が疑われた。他院で投与されているリバロ(ピタバスタチンカルシウム)の服用を中止したが、CPKは2万1633IU/Lまで上昇した。過去の症例報告などから、ゼフィックスも横紋筋融解症の原因として疑い、投与を中止。入院後に輸液などを行ったところ、CPKは172IU/Lまで低下し、正常化した。

 このように、思わぬ副作用が起きる可能性があるので、薬局でも積極的にモニタリングを行ってほしい。

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