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副作用症状のメカニズム
性ホルモンのバランスが関与
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 30歳男性。1年ほど前から皮膚科に通い、薄毛に対する治療を受けている。この日は人目をはばかるように来局。気分がふさいでいる様子だった。これまではそんな様子はなかったのだが、胸の辺りをしきりに気にしていた。

乳房の仕組み

 乳房は、哺乳動物に特徴的な皮膚の付属器官である。その内部には、出産後に児に栄養を与えるための乳腺が含まれている。乳腺は、胎生期において乳腺堤と呼ばれる上皮の肥厚部分から発生する1)

 哺乳動物の乳腺堤は、腋窩から鼠径部に至る線(ミルクライン)の上に複数発生する。従って、哺乳動物では6つ(3対)または8つ(4対)の乳房を持つものが多い。ヒトでは1対だけが発達してほかは退化したため、通常乳房は2つである。しかし、残存する場合もあり、副乳と呼ばれる痕跡がある。授乳期には副乳が膨らんで、その存在に気付くことも多い。

 乳腺は、乳管と小葉、結合組織である間質からなる。女性ホルモンには卵胞ホルモンのエストロゲンと、黄体ホルモンのプロゲステロンがあるが、乳管上皮を増殖させ、乳房を大きくするのは、エストロゲンの役割である。プロゲステロンは、小葉にある腺房上皮を増殖させ乳汁産生の準備を行う2)

 月経前に乳房が張ったり、痛くなるという女性がいるが、これは月経前の黄体期に、プロゲステロンとエストロゲンの分泌量が上昇し、妊娠に備えるためである。

 妊娠して出産すると、同時に乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンが分泌されるようになる。

 乳腺は、男性にも存在しているが、通常は発達することはない。前述の副乳は、男性にも見られる。

女性化乳房のメカニズム

 女性化乳房は、男性における乳房の肥大をいう。乳房が腫れる、痛い、突っ張るといった症状が見られる。ときには乳汁が出ることもあり、男性にとっては衝撃的な現象である。そのため、誰にも言えず人知れず悩んでいることも多い。

 女性化乳房はホルモンのうち、エストロゲンと乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンに、何らかの影響が起こることによって発生する。特に、アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲンの不均衡が、原因となることが多い3)

 生理的なものとしては、新生児の胸が膨らんでいることがある。これは、母親のエストロゲンが胎盤を通じて高いレベルで移行し、一時的な乳房の発達が起こるためである。エストロゲンは、2~3週間で代謝されるので、次第に治まっていく。

 思春期に乳房が肥大することもある。これは、成人レベルに達する時期、アンドロゲンとエストロゲンの分泌のずれが起こるために生じると考えられている。

 高齢男性でも乳房肥大が起こることがある。これは、睾丸でのアンドロゲンの合成は低下するが、末梢の脂肪組織にあるアロマターゼの活性が高まるため、アンドロゲンがエストロゲンに変換され、相対的にエストロゲン優位になるためと考えられている。

 肥満症の男性では乳房が大きいことが多い。これは、脂肪組織でのアロマターゼ活性が増大しているためと考えられる4)

 疾患の症状として女性化乳房が起こることもある。甲状腺機能の亢進症や低下症、肝硬変、慢性腎不全などで起こり得る。

 甲状腺機能亢進症では、血中のエストロゲンの増加が見られる。また、甲状腺機能低下症では血中テストステロン(アンドロゲンの一種)の低下と、プロラクチンの増加が見られる。

 エストロゲンは通常、肝臓でグルクロン酸抱合や硫酸抱合を受けて、胆汁や尿中に排泄される。体内では、性ホルモン結合蛋白やアルブミンと結合して、多くは非活性な状態で存在している。しかし、肝硬変末期などで肝機能が著しく低下している場合は、抱合ができずに代謝が遅延したり、アルブミンの合成ができなくなるために、遊離のエストラジオールが増加する。それらによってアンドロゲンとエストロゲンの不均衡が生じ、女性化乳房が起こる。

 末期の腎不全で尿毒症が起こると、精巣が傷害され、テストステロンの合成が阻害される。また、プロラクチンの放出が増加することも知られている。そのため、血液透析患者では、30%程度に女性化乳房が起こるといわれている5)

 睾丸腫瘍、副腎腫瘍、下垂体腫瘍、肺癌では、プロゲステロンの産生を促進するホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピンが産生され、女性化乳房を起こすことがある。

副作用による女性化乳房

 副作用で女性化乳房が起こる原因としては、薬の服用が(1)エストロゲンとアンドロゲンの不均衡を引き起こす場合、(2)プロラクチンの分泌に影響を及ぼす場合─の2つが多い。

(1)エストロゲンとアンドロゲンの不均衡
 前立腺癌などの治療では、エストロゲン製剤であるエチニルエストラジオール(商品名プロセキソール他)や、抗アンドロゲン作用を持ち内因性のエストロゲンを増加させるような薬剤が使われる。

 通常、アンドロゲンの一種であるテストステロンは、さらに活性の高いジヒドロテストステロンに変換され、これがアンドロゲン受容体と結合する。

 しかし、前立腺癌の治療に使われるフルタミド(オダイン他)やビカルタミド(カソデックス他)などは、アンドロゲンと競合するため、受容体に結合できないジヒドロテストステロンが過剰となる。するとフィードバック機構が働き、テストステロンの合成が低下する。

 その一方で、ジヒドロテストステロンが過剰になり、テストステロンが過剰な状態となった段階で、不要なテストステロンはアロマターゼを利用してエストロゲンの成分の一つであるエストラジオールに変換されるため、血中のエストロゲン/アンドロゲン比が上昇し、女性化乳房を引き起こす。

 前立腺肥大症の治療薬であるデュタステリド(アボルブ)や、AGA(男性型脱毛症)治療薬のフィナステリド(プロペシア)などは、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換するときに必要な5α還元酵素を阻害し、活性の高いジヒドロテストステロンの濃度を低下させることで抗アンドロゲン作用を示す。

 抗真菌薬のケトコナゾール(ニゾナール他)も5α還元酵素を阻害する作用を有し、女性化乳房を起こすことが知られている。

 ドーピングに使用されることが多いアンドロゲンや蛋白同化ステロイドの乱用でも、女性化乳房は起こりやすい。服用初期は、男性化の症状として、脱毛や性欲亢進が起こるが、長期投与によって女性化が起こる。男性ホルモンや蛋白同化ステロイドが過剰になると、アロマターゼによるテストステロンからエストラジオールへの変換率が高まるためである。この作用は、乳房の女性化のみならず精神的な女性化も促し、抑うつ的になることもある。

 利尿薬のスピロノラクトン(アルダクトンA他)は、アルドステロン受容体に結合し、アルドステロンの結合を阻害することで降圧作用を示す。しかし、アルドステロンだけでなく、アンドロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモン受容体にも作用する。そのため、テストステロンの血中濃度が上昇し、フィードバック機構が働き、テストステロンの合成が低下する。なお、アルドステロンは副腎皮質で産生されるステロイドホルモンの一つである。

 ヒスタミンH2受容体拮抗薬のシメチジン(タガメット他)やファモチジン(ガスター他)にも抗アンドロゲン作用があることが知られている。また、ジギタリス製剤でも、古くから女性化乳房の副作用があることが知られている。ジゴキシン(ジゴシン他)の構造がエストロゲンに似ていることやエストロゲンの合成や放出に影響するためと考えられている。

(2)プロラクチンへの影響
 プロラクチンは下垂体から放出されるホルモンで、視床下部とドパミンなどにより分泌が調節されている。睡眠不足やストレスによっても、その分泌は増大する。プロラクチンが多くなると、男性でも女性と同様に乳腺の発達が刺激され乳房が肥大し、ときには乳汁が漏出する。

 例えば、抗精神病薬のフェノチアジン系やブチロフェノン系薬剤、三環系抗うつ薬、制吐薬のメトクロプラミド(プリンペラン他)、抗ヒスタミン薬のオキサトミド(セルテクト他)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬などを服用している患者に女性化乳房が起こることがある。これらの薬剤の持つドパミン受容体の遮断作用によって、プロラクチンの分泌抑制が阻害され、高プロラクチン血症となるためである。

 その他、ドパミン産生を抑制するレセルピン(アポプロン、レセルピエム)やメチルドパ水和物(アルドメット、ユープレスドパ)、ベラパミル塩酸塩(ワソラン他)などの降圧薬でも、女性化乳房が起こることがある。

 さらに、カルシウム拮抗薬やイソニアジ(イスコチン、ヒドラ)でも女性化乳房の報告があるが、明確な機序は不明である。

 また、モルヒネμ受容体の刺激でプロラクチンの分泌が増えることが知られており、モルヒネ塩酸塩水和物(アンペック、オプソ、パシーフ他)やフェンタニル(デュロテップ他)では、乳汁分泌の報告がある6)

図 女性化乳房が起こる原因と起こりやすい薬剤

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 最初の症例を考えてみよう。この患者は、1年ほど前からフィナステリド1mg/日を服用している。そこで薬剤師は、周りに聞こえないように配慮しながら、気になることがあるのかと尋ねた。

 すると、患者は少しびっくりしながらも、「実は…」と、最近、胸が膨らんできて、しこりのような違和感もありショックを受けていることを話した。また、誰にも相談できず、気分が沈みがちだったことなども、打ち明けてくれた。

 薬剤師は、フィナステリドの副作用で女性化乳房が起こっていると考え、すぐに皮膚科の医師に連絡した結果、処方は中止となった。

参考文献
1)松村譲児「人体解剖ビジュアル」(医学芸術社、2005)
2)「病気がみえる9 婦人科・乳腺外科」(MEDIC MEDIA、2013)
3)高木博史ら、新薬と臨床 2011;60:733-45.
4)上芝元、Modern Physician 2007; 27:1687.
5)小林雄祐ら、診断と治療 2013;101:1065-9.
6)岩本佳代子、日本医療薬学会年会講演要旨集 2011:179.

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