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Report
家庭血圧測 指導のコツ
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン(JSH)が改訂され、4月にJSH2014が出版された。改訂のポイントの一つに、家庭血圧の位置付けが挙げられる。家庭血圧は、これまでも重要性が述べられてきたが、「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」といった一文が加えられ、その臨床的意義がさらに強調された形だ。

家庭血圧をより重視

 高血圧の診断や治療の指標に使われる血圧値には、受診時に看護師や医師が測る「診療室血圧」、患者が自宅で測定する「家庭血圧」、専用の血圧測定器を使用して24時間連続して測定する「24時間自由行動下血圧」がある。

 東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想講座教授で、JSH2014作成委員の一人である今井潤氏は「家庭血圧は、診察室血圧よりも生命予後の優れた予知因子であることが示されている。また、心血管病発症や生命予後に関する臨床成績も集積されている」と、家庭血圧の価値を説明する。

「薬局で、患者さんに家庭血圧の正しい測定方法を説明してほしい。また、家庭血圧によって薬効や副作用を確認し、処方医に情報提供してほしい」と語る東北大学の今井潤氏。

 また同氏は、循環器内科医の立場から「特に、白衣高血圧や仮面高血圧の診断と治療の決定に、家庭血圧の測定は欠かせない」と話す。白衣高血圧は、診察室で測定した血圧が高血圧(140/90mmHg以上)を示していても、診療室外血圧では正常域血圧(家庭血圧で135/85mmHg未満)を示すもの。白衣高血圧を示す患者は、診察室血圧で高血圧を示した患者の15~30%にも上るという。

 逆に、診察室血圧は正常域血圧だが、診察室外の血圧では高血圧を示すのが仮面高血圧。仮面高血圧の患者では、臓器障害や、脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクは、持続性高血圧の患者と同程度とされており、治療の対象となる。

 「こうした高血圧の多様な病態は、診察室血圧だけでは捉えらない」と今井氏。家庭血圧によって、白衣高血圧と考えられれば、降圧薬を処方せずに経過観察とすることも多く、逆に診察室血圧が低くても、家庭血圧が高ければ必要に応じて薬物治療を開始するなど、家庭血圧が処方を左右する鍵となっているケースが少なくないと説明する。

 日本では高血圧患者の77%が家庭血圧計を保有しているとの統計がある。家庭血圧を測るように指導する医師も多い。既に、臨床現場では広く使われているが、ガイドラインに「家庭血圧による診断を優先する」と明記されたことで、これまで以上に家庭血圧が重視されることは間違いないだろう。

薬効や副作用の評価に

 薬剤師が薬物治療をサポートする上でも、家庭血圧は有用だ。宮城県を中心に18軒の薬局を経営するプリスクリプション・エルムアンドパーム(宮城県名取市)企画統括部長の佐藤ユリ氏は、「薬の副作用が発現していないか、薬が効いているかを確認するのは薬剤師の務め。家庭血圧を確認すれば、それらが把握できる」と話す。

「薬局で、測定条件やカフの巻き方などを細かく指導することが大事」とプリスクリプション・エルムアンドパームの佐藤ユリ氏は話す。

 特に、新たに降圧薬が処方されたり、増量になったときには、効き過ぎによる副作用が起こっていないか、つまり血圧が下がり過ぎていないかを見る。さらに、朝の服薬前に測定する血圧値が高くないかを確認し、薬効が24時間持続されているかを確認するという。

 また、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病を有する患者には、降圧薬が処方されていなくても、家庭で血圧を測定するように奨励。血圧の変動に気を配り、高血圧の早期発見につなげるように促している。

 生活習慣の指導を行う上でも、家庭血圧は有用だ。「禁煙や減量によって3~5mmHg程度の血圧の変化が見られることが多い。そうした数値の改善は、家庭で血圧を毎日測ることによって捉えることができる」と今井氏。努力の結果が数値として表れることで、患者の生活習慣是正に対するモチベーションが高まるという。「薬局で生活習慣の指導をする際には、ぜひ家庭血圧を使ってほしい」と今井氏は強調する。

 服薬アドヒアランスを高める上でも、家庭血圧測定が果たす役割は大きい。ぼうしや薬局(兵庫県姫路市)上席執行役員の安田幸一氏は、高血圧患者を対象に薬剤師が介入した結果、患者の定期来局率がどう変化するかを調べた。その結果、介入方法の中で最も効果があったのは、血圧手帳の配布と家庭血圧測定の奨励だった。一包化などの調剤の工夫や、薬や食事の説明などの指導よりも、定期来局率に与える影響は大きかったという。

 「患者自身が体のことを理解し、服薬の意味に気付けば、きちんと薬を服用するようになり定期来局率も高まる」と安田氏は言う。

朝晩2回ずつの測定を推奨

 家庭血圧を高血圧診療や薬物治療管理に生かすには、患者に正しい方法、条件で、継続して測定してもらうことが前提となる。

 JSH2014には、測定方法が細かく示されている(表1)。まず、測定機器は、手首や指先で測定するものではなく、上腕で測定するタイプのものを使用する。指用の血圧計は不正確であり、手首式は、手首の解剖学的特性から動脈の圧迫が困難で、正確に測定できない場合が多いためだ。

表1 家庭血圧測定の方法・条件・評価
(出典:日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン(JSH)2014)

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 管理医療機器として厚生労働省の承認を受けている血圧計であれば、メーカーや機種による精度の違いは、ほぼないと考えていい。

 JSH2014では、測定の機会は朝晩2回としている。朝は起きて1時間以内で排尿後、朝食や降圧薬服用の前に、晩は就床前の測定を推奨している。また、測定は1機会に2回ずつ、その平均をその回の血圧値とする。

ただし、測定回数を細かく指導すると、継続が難しいと感じる患者が増える。ぼうしや薬局田寺東店管理薬剤師の一丸智司氏は、「継続して測ってもらうために、測定回数のハードルを下げて説明することも多い」と話す。「原則は、朝2回、夜2回を毎日測定」と説明しつつも、難しそうであれば「朝晩、1回ずつでも構わない」と伝える。さらに朝晩の測定が難しそうであれば朝だけでも測るように、毎日が難しければ、週に数回でも測るように伝えるといった具合だ。その患者が継続できる方法を探りながら、提案していく。

カフの巻き方にも注意

 「測定時の注意事項を守っていない患者さんも多い」と指摘するのは佐藤氏だ。患者が「高い値が出る。機器が壊れているのではないか」と、血圧計を持って来たため、メーカーで機器を調べてもらったが「異常なし」と送り返されてきたことが何度かあるという。そうした患者は、動き回った直後や話しながら測定しているなど、測定方法に問題があることが多いという。

 さらに佐藤氏は、カフの巻き方にも注意を促す。薬局で試したところ、カフがフィットしていない場合に、高めの値が出ることが多かったという。今井氏は「普段より高い値が出たときには、安静にして2回目を測って、下がるかどうかを確認するように指導してほしい」とアドバイスする。その際に、カフが正しく巻けているかも確認するよう、伝えた方がよさそうだ。

 なお、JSH2014を基に血圧測定の方法を下記にまとめた。患者指導に活用いただきたい。(DIオンライン(http://di.nikkeibp.co.jp)からもダウンロードできます。)

5日以上の平均値で評価

 測った家庭血圧を治療に生かすには、記録してもらうことも大切だ。記録を見せてもらったときに評価ができるように、JSH2014による高血圧の基準を把握しておこう。家庭血圧による高血圧の基準は、診療室血圧のそれとは異なり、135/85mmHg以上が高血圧(診察室血圧では140/90mmHg以上)とされている。また、125-134/80-84mmHgが正常高値血圧(同130 -139/85-89mmHg)、125/80mmHg未満が正常血圧と示されている(表2)。

表2 診療室血圧と家庭血圧の基準(JSH2014を基に作成)

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 血圧の評価には、5日以上の測定値の平均を用いる。1回ごとの測定値を見て一喜一憂する患者は多いが、「血圧は変動するものであり、平均値で見るもの。1回ごとの測定で不安に陥らないように、十分に説明してほしい」と今井氏は言う。薬局では、1週間ごとの平均値を薬歴に記載しておくといいだろう。

 家庭血圧の測定を継続させるためのサポートも必要だ。一丸氏は、降圧薬を服用中の患者には必ず、家庭血圧を測定しているか、手帳に記録しているかを確認する。手帳を持っている場合には見せてもらい、確認したら「一言、コメントするように心掛けている」と言う。そのやりとりを繰り返すことで、患者は薬局で見せることが習慣となり、家での測定の継続につながる。

 中には、自分で測った血圧値を基に、薬の服用を自己調節してしまうケースもある。北海道旭川市の中央薬局代表取締役の堀籠淳之氏は、例えば、「上の血圧が120mmHgぐらいだが、これは低めではないだろうか」などと言ってくる患者には注意が必要だという。「服薬をやめたくて、薬剤師に同意を求めてくる。気持ちは分かるが、せっかくの家庭血圧測定が治療の妨げにならないようにする必要がある」と堀籠氏。家庭血圧測定を服薬の自己調節の手段に使わないように、最初の段階で患者に十分話しておく必要がありそうだ。

 安田氏は、「医療全体が、セルフメディケーションを推奨する方向に進みつつある。医師が管理する診察室血圧よりも、患者自身が管理する家庭血圧が重視されるようになったのも、その一つの表れといえるのではないか」と語る。患者が、自分の血圧を正しく測定し、疾病管理に生かせるように、薬剤師のサポートが求められている。

薬局ではシンプルな機能の血圧計が人気

 薬局で扱われている血圧計は、どのようなものが多いのだろうか。佐藤氏が勤務する薬局では、オムロン自動血圧計 HEM7114(写真上)とテルモ血圧計ES-W500ZZ(写真中)を販売。「機器に弱い高齢者が多いので、操作が簡単で価格が手ごろなものを選んだ」と言う。堀籠氏の薬局で扱うのは、オムロン自動血圧計HEM7080IT(写真下)。やはり機能が少なく操作が簡単なものを選んでいる。それでも「測定以外の使い方を説明すると、分からなくなる患者さんが多く、付加機能については説明しない」と言う。

 最近は、血圧の基準をグラフで示すなど表示を工夫したもの、腕にフィットするようにカフに工夫を施したもの、携帯電話やパソコンに測定値を送ってグラフ化できるものなど、高機能なものが販売されている。しかし、「高機能なものを使いこなせる人は、自分で量販店で選ぶことが多い」と一丸氏。薬局に相談に来るのは、家で血圧を測るように医師に言われたが、どうすればいいのかが分からない人が多く、機能がシンプルで使いやすいものが喜ばれるという。そうした患者には、使い方の説明やアフターフォローも必要だ。「相談に応じることで、薬局で購入する価値を感じてもらえる」と言う。

 なお、薬局で販売するためには都道府県への届け出が必要となる。

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